54 / 58
54話
しおりを挟む
来栖はずっと夢の中にいる気分だった。
朝はあれほど悩んでいたというのに、今日は本当のデートのような雰囲気に酔っていた。
待ち合わせこそ、一波乱あったが、それからは虎太郎が決めていたプラン通りに進んでいく。
事前にプランを考えてきていた事も可愛く、なんならずっと抱き締めて歩きたい気分だった。
待ち合わせの後は水族館へ行き、一緒にイルカショーを見た。
跳ね上がる水飛沫がキラキラと舞い上がっている様子さえも、自分を祝福してるんじゃないかと思うほどだった。
そんな事を考えているせいか、来栖はへらへらとずっと締まりのない顔をしていた。
深海魚のコーナーで薄暗い場所に行った時、すかさず手を握ると、虎太郎が振り払うことなく握り返してくれた事に、心臓が壊れるかと思うくらいドキドキした。
一日ゆっくりと水族館を楽しむと、これもまたプランの一環なのか、お洒落な隠れ家的なフレンチレストランに案内された。
「予約してたのか?」
名前を確認され席に案内されると、来栖が聞いてきた。
「はい、ここ美味しいって聞いたから‥」
今日は一日ずっと虎太郎の計画通りに進んでいる。
それが来栖には、堪らなく嬉しかった。
「ありがとうな‥」
礼を言ってニコリと微笑む来栖の顔を見ると、虎太郎もまた頬を赤らめ微笑む。
あまり馴染みのないメニューから、コースを選び飲み物もコースに合わせてシャンパンをお願いする。
グラスに注がれたシャンパンが届くと、お互いのグラスを触れ合わせ口に含んだ。
視線が絡むだけでも、胸がキュッとなり楽しい食事のひと時を味わう。
デザートが運ばれてくると、虎太郎が急にモジモジと躊躇いがちに口を開いた。
「‥来栖主任‥以前、僕が入院してた時、言ってくれた言葉‥‥あれは‥まだ、有効ですか‥‥?」
何を言うかと思えば、そんな事、当たり前じゃないか‥と言いたいところだが、あれからお互いの気持ちを打ち明ける事無く、過ごしていた日々を思い浮かべ来栖は反省する。
あの時、言った言葉に、何の変化もないし、むしろ気持ちはもっと大きなものになっていた。
「ああ、もちろん。俺は‥お前が好きだよ。これからも、ずっとな‥」
来栖はそう言うと、テーブルの上にある虎太郎の手に、そっと自分の手を重ね合わせた。
柔らかな手が、ビクッと反応するが、その手が逃げる事はなかった。
「僕も‥ずっと来栖主任の隣にいる事が心地よくて‥自分でいれる事が嬉しくて‥まだ、来栖主任が僕の事を好きでいてくれるなら、ずっと‥傍にいたいです‥‥来栖主任‥僕は貴方が大好きです‥」
真っ直ぐに見つめた虎太郎の瞳は、テーブルの上に置いてあるランプの光を映しキラキラと輝いていた。
来栖は重ねた虎太郎の手をそっと持ち上げると、白くどこか幼さも感じる手の甲に、そっと唇を合わせた。
「ずっと‥俺の傍にいてくれ‥虎太郎」
初めて下の名前で呼ばれ、フワリと笑う来栖の顔が、まるで王子様のようで、虎太郎の心臓は爆発しそうに脈打っていた。
「ちょっ‥ちょっと‥ヤバい‥」
そう呟き、思わず胸を押さえた虎太郎に、来栖が心配する。
「大丈夫か?体調が悪いのか?」
「い‥いえ‥来栖主任が‥あまりにも格好良くて‥」
思っても見ない言葉に、来栖は笑い出す。
「クスクスッ‥お前、調子いいな‥クスッ‥」
「ほっ‥本当です。ヤバいですよ‥その笑顔は反則です」
自分の言葉を信じてもらえず、虎太郎は唇を尖らせる。
「‥お前のその顔も‥ある意味反則だ‥」
そう言って、来栖は周りの目も気にせず、虎太郎の頬に優しく触れる。
「‥っ‥」
触れた指先が虎太郎の唇をサラッと通り、離れた指を来栖が赤い舌を出しペロリと舐めた。
「‥しゅ‥主任‥」
この人は、そんな行動や顔がどんなに官能的に見えるのか分かってないのか‥いや分かってやっているのか?
虎太郎は、再び激しく高鳴る胸を押さえ、視線を逸らし、正面では来栖がご機嫌なのか、ずっとクスクスと笑っていた。
デートの最終プランの食事を終えた二人は、店を出て歩き出した。
「今日は、楽しかった。ありがとう、虎太郎」
何度、名前で呼ばれても、気恥ずかしくなる。
「はい、僕も楽しかったです。今日は付き合ってくれて、ありがとうございました」
言葉にして、何だか他人行儀に感じた。
虎太郎は、大きく深呼吸すると、ずっと言いたかった言葉を口にした。
「来栖主任‥今日、主任の家に泊っても良いですか?」
もしかしたら、断られるかもしれない不安を自分の胸の奥に押し込み、口にした言葉だった。
昨日から、いや‥もっと前から考えていたし望んでいた事だった。
来栖が足を止めると、虎太郎の顔をジッと見つめてくる。
来栖もまた悩んでいた、本当にこのまま進んでいいのだろうかと。
「‥いいのか‥?」
決断を虎太郎にゆだねる様で、来栖は気が咎めてしまう。
「‥断らないで下さい‥お願いします」
自分のブルゾンの裾をギュッと握り締め、渇望するほど熱を帯びた瞳を向けられると、来栖はそのまま抱きしめたいと思う欲望を何とか抑え込んだ。
「‥分かった。家においで‥」
熱い眼差しを引き剥がし来栖は虎太郎の手を握ると、そのまま横を通ったタクシーを呼び止め乗り込んだ。
虎太郎は、来栖の手のぬくもりと、自分の胸の鼓動を感じ、熱い息を吐いた。
朝はあれほど悩んでいたというのに、今日は本当のデートのような雰囲気に酔っていた。
待ち合わせこそ、一波乱あったが、それからは虎太郎が決めていたプラン通りに進んでいく。
事前にプランを考えてきていた事も可愛く、なんならずっと抱き締めて歩きたい気分だった。
待ち合わせの後は水族館へ行き、一緒にイルカショーを見た。
跳ね上がる水飛沫がキラキラと舞い上がっている様子さえも、自分を祝福してるんじゃないかと思うほどだった。
そんな事を考えているせいか、来栖はへらへらとずっと締まりのない顔をしていた。
深海魚のコーナーで薄暗い場所に行った時、すかさず手を握ると、虎太郎が振り払うことなく握り返してくれた事に、心臓が壊れるかと思うくらいドキドキした。
一日ゆっくりと水族館を楽しむと、これもまたプランの一環なのか、お洒落な隠れ家的なフレンチレストランに案内された。
「予約してたのか?」
名前を確認され席に案内されると、来栖が聞いてきた。
「はい、ここ美味しいって聞いたから‥」
今日は一日ずっと虎太郎の計画通りに進んでいる。
それが来栖には、堪らなく嬉しかった。
「ありがとうな‥」
礼を言ってニコリと微笑む来栖の顔を見ると、虎太郎もまた頬を赤らめ微笑む。
あまり馴染みのないメニューから、コースを選び飲み物もコースに合わせてシャンパンをお願いする。
グラスに注がれたシャンパンが届くと、お互いのグラスを触れ合わせ口に含んだ。
視線が絡むだけでも、胸がキュッとなり楽しい食事のひと時を味わう。
デザートが運ばれてくると、虎太郎が急にモジモジと躊躇いがちに口を開いた。
「‥来栖主任‥以前、僕が入院してた時、言ってくれた言葉‥‥あれは‥まだ、有効ですか‥‥?」
何を言うかと思えば、そんな事、当たり前じゃないか‥と言いたいところだが、あれからお互いの気持ちを打ち明ける事無く、過ごしていた日々を思い浮かべ来栖は反省する。
あの時、言った言葉に、何の変化もないし、むしろ気持ちはもっと大きなものになっていた。
「ああ、もちろん。俺は‥お前が好きだよ。これからも、ずっとな‥」
来栖はそう言うと、テーブルの上にある虎太郎の手に、そっと自分の手を重ね合わせた。
柔らかな手が、ビクッと反応するが、その手が逃げる事はなかった。
「僕も‥ずっと来栖主任の隣にいる事が心地よくて‥自分でいれる事が嬉しくて‥まだ、来栖主任が僕の事を好きでいてくれるなら、ずっと‥傍にいたいです‥‥来栖主任‥僕は貴方が大好きです‥」
真っ直ぐに見つめた虎太郎の瞳は、テーブルの上に置いてあるランプの光を映しキラキラと輝いていた。
来栖は重ねた虎太郎の手をそっと持ち上げると、白くどこか幼さも感じる手の甲に、そっと唇を合わせた。
「ずっと‥俺の傍にいてくれ‥虎太郎」
初めて下の名前で呼ばれ、フワリと笑う来栖の顔が、まるで王子様のようで、虎太郎の心臓は爆発しそうに脈打っていた。
「ちょっ‥ちょっと‥ヤバい‥」
そう呟き、思わず胸を押さえた虎太郎に、来栖が心配する。
「大丈夫か?体調が悪いのか?」
「い‥いえ‥来栖主任が‥あまりにも格好良くて‥」
思っても見ない言葉に、来栖は笑い出す。
「クスクスッ‥お前、調子いいな‥クスッ‥」
「ほっ‥本当です。ヤバいですよ‥その笑顔は反則です」
自分の言葉を信じてもらえず、虎太郎は唇を尖らせる。
「‥お前のその顔も‥ある意味反則だ‥」
そう言って、来栖は周りの目も気にせず、虎太郎の頬に優しく触れる。
「‥っ‥」
触れた指先が虎太郎の唇をサラッと通り、離れた指を来栖が赤い舌を出しペロリと舐めた。
「‥しゅ‥主任‥」
この人は、そんな行動や顔がどんなに官能的に見えるのか分かってないのか‥いや分かってやっているのか?
虎太郎は、再び激しく高鳴る胸を押さえ、視線を逸らし、正面では来栖がご機嫌なのか、ずっとクスクスと笑っていた。
デートの最終プランの食事を終えた二人は、店を出て歩き出した。
「今日は、楽しかった。ありがとう、虎太郎」
何度、名前で呼ばれても、気恥ずかしくなる。
「はい、僕も楽しかったです。今日は付き合ってくれて、ありがとうございました」
言葉にして、何だか他人行儀に感じた。
虎太郎は、大きく深呼吸すると、ずっと言いたかった言葉を口にした。
「来栖主任‥今日、主任の家に泊っても良いですか?」
もしかしたら、断られるかもしれない不安を自分の胸の奥に押し込み、口にした言葉だった。
昨日から、いや‥もっと前から考えていたし望んでいた事だった。
来栖が足を止めると、虎太郎の顔をジッと見つめてくる。
来栖もまた悩んでいた、本当にこのまま進んでいいのだろうかと。
「‥いいのか‥?」
決断を虎太郎にゆだねる様で、来栖は気が咎めてしまう。
「‥断らないで下さい‥お願いします」
自分のブルゾンの裾をギュッと握り締め、渇望するほど熱を帯びた瞳を向けられると、来栖はそのまま抱きしめたいと思う欲望を何とか抑え込んだ。
「‥分かった。家においで‥」
熱い眼差しを引き剥がし来栖は虎太郎の手を握ると、そのまま横を通ったタクシーを呼び止め乗り込んだ。
虎太郎は、来栖の手のぬくもりと、自分の胸の鼓動を感じ、熱い息を吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
刺されて始まる恋もある
神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
染まらない花
煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。
その中で、四歳年上のあなたに恋をした。
戸籍上では兄だったとしても、
俺の中では赤の他人で、
好きになった人。
かわいくて、綺麗で、優しくて、
その辺にいる女より魅力的に映る。
どんなにライバルがいても、
あなたが他の色に染まることはない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる