愛に抗うまで

白樫 猫

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57話

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虎太郎はゆっくりと目を開けた。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなったが、目の前で眠っている来栖の顔を見て、昨夜の事をすべて思い出し、ようやく結ばれた嬉しさが込み上げ、笑みが零れる。
来栖によって何度も絶頂を迎え意識を失いかけると、ようやく解放され動けなくなっている身体を綺麗にするため浴室へ運ばれ、そこでさらに2回ほど‥。
目の前にいる端正な顔立ちのこの男は、紛れもなく絶倫だ‥。
僅か1日で虎太郎は確信した。
ギュッと抱き締められ腕の中にいる虎太郎は目を瞑ると、初めて来栖のマンションに来た日の事を思い出す。
あの時も、こうやって腕の中で目が覚めた。

「ふふっ‥」

あの時の光景が蘇り、思わず笑い声が漏れる。

「なんだ?なに笑ってる?」

顔を上げると、来栖が虎太郎を見つめ微笑んでいた。

「‥ううん‥‥なんでもない‥」

そう答え、来栖の胸に頬ずりするように抱き付くと、来栖の抱き締めている腕にギュッと力がこもる。

「しゅ‥主任‥苦しいです‥」

頭ごと抱え込まれ、来栖の胸板で顔が潰される。

「昨日、言っただろ?もう忘れたのか?‥主任じゃないだろ?」

そう言えば、何度目かの絶頂を迎える時、名前で呼ぶように言われ、来栖の名を呼びながら達してしまった記憶が蘇ってくる。
虎太郎が黙っている事に、来栖は腕を緩めると虎太郎の顎を持ち上げ、自分の方を向けさせた。

「‥っ‥‥」

面と向かって、いきなり名前を呼ぶなんて、恥ずかしくて口が開かない虎太郎に、しびれを切らした来栖が口づけをしてくる。

「‥ぁっ‥‥んっ‥‥」

深く絡めとられる舌に油断していると、さらに来栖の手が伸び、虎太郎の身体を弄り出す。

「‥んんっ‥‥‥」

唇が塞がれ抗議の言葉も出ず、いつの間にか来栖に組み敷かれた虎太郎の中心が、再び芯を持ち始めた。

「‥ちょっ‥と‥まって‥‥」

唇が離された時、虎太郎が声を出すも、来栖は自分の指に唾液を付けると、そのまま昨夜何度も開かれた場所へ触れていく。

「‥‥んぁ‥‥ああ‥」

明け方まで来栖のモノが入っていたそこは、まだ柔らかくすぐに受け入れそうだ。

「‥虎太郎‥まだ柔らかい‥」

中を掻き回す指が、虎太郎の思考を止め、快楽しか追わなくさせていく。

「‥ああっ‥もう‥‥むり‥だから‥‥」

来栖は虎太郎の言葉を聞き遂げることなく、両足を持ち上げ大きく開くと、昨夜までの名残なのか虎太郎の蕾はヒクヒクと待ちわびている。
来栖は自分の昂ぶりを押し当てると、虎太郎が息を呑む間も与えず、一気に奥まで貫いた。

「‥あああっ‥‥んぁっ‥‥」

ズンと頭の奥まで貫けるような快楽が生まれ、最奥まで届いた来栖の雄が虎太郎の中をいっぱいにすると、虎太郎の内壁が喜び蠢きだす。


「‥っ‥‥すぐ、イキそう‥」

来栖の焦った顔が可愛くて、虎太郎はその頬を両手で掴み、何度も唇を重ねる。

「‥はっ‥遥人‥‥好き‥」

突然呼ばれた名前に、来栖の雄がグンと重量を増し、律動が激しくなった。

「ああっ‥ああっ‥んぁっ‥あああっ‥‥」

狂おしい程の絶頂の波が虎太郎に押し寄せ、瞼の裏に閃光が瞬き手足が痙攣を起こすように震える。
それに合わせる様に、来栖も大きく腰を打ち付け、虎太郎の中に吐精した。
呼吸を整える様に、お互いの唇を貪りあう。

「‥はぁ‥虎太郎‥お前‥‥反則だからな‥」

来栖の鋭い瞳で睨まれ、虎太郎は満面の笑みを浮かべた。

「ふふっ‥だって、可愛かったから‥」

思ってもいない言葉を言われ、来栖が戸惑う。

「なっ‥なんだって?」
「可愛いんだよ‥遥人が‥」

組敷いた自分よりも遥かに可愛らしい存在の男に、可愛いと言われ呆然としてしまう。

「お前の方が、可愛いに決まってる‥」
「クスクスッ‥なんの勝負?‥ありがとう。僕を好きでいてくれて‥本当に、ありがとう」

結ばれた喜びで目の奥が熱くなり涙が零れそうで、それを隠すように再び来栖と唇を重ねた。

「‥当たり前だ‥俺はしつこいからな‥簡単には諦めない。‥これからもな」

抱き寄せた来栖が虎太郎の耳元で囁き、虎太郎の涙が滲んでいる瞳にキスをした。




「もう!バカ!!」

虎太郎はベッドに横になりながら、隣に腰掛けている来栖に向かって吠えていた。

「‥ごめんって‥」

布団を首までしっかりと掛け、顔だけ出している虎太郎が、また可愛くて、謝りながらも微笑んでしまう来栖に、再び虎太郎の怒号が降り注ぐ。

「謝れば済む問題じゃないからな!!もう、しばらくエッチしない!」

なんて事を宣言するんだ!と言わんばかりに、来栖は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。

「なっ‥なんで?‥ほら、大丈夫。今日はゆっくり休めばいいし‥ねっ?」

どうしてこんな事態になってしまったのかというと、あれから動けない虎太郎を浴室で綺麗に洗っている最中に、欲情した来栖が再び押し倒し、その何度目かで、もう出るものが無くなり虎太郎は射精せずとも絶頂を迎え、最後には意識を飛ばした。
身体はとうに限界を過ぎて、首から下が全く動かせないと言うか、筋肉痛で動かすと腰に激痛が走り、あそこの穴もジンジンと熱を持っている。
不機嫌な虎太郎に不安を訴えられ、来栖が慌ててお尻の薬を買いに行き、先程塗ったところで、来栖の雄が再び元気になっている事に気が付いた虎太郎が、先程の罵声を放ったのだ。

「もう、あそこが元に戻らなかったら、どうするんだよ!」
「大丈夫、すぐよくなるよ‥今、薬塗ったから‥」

来栖は、痛みと不安で涙目になっている虎太郎の頬に優しく触れ、瞳にキスをする。

「‥ダメ!‥キスも禁止!!触るのも禁止!」

理不尽な禁止命令が出てしまう。
とにかく来栖が触れると身体が反応し、虎太郎もまたしたくなってしまうのだ。

「分かったよ‥じゃあ、俺はご飯でも作ってくるから‥何か食べたいものある?」

シュンと項垂れた来栖が、また可愛く思え虎太郎は慌てて首を横に振る。

「‥卵のおかゆが食べたい‥」
「分かった。ちょっと待ってろ」

そう言って来栖は寝室から出てキッチンへと向かって行った。
その背を見ながら、虎太郎は絆されない様に気を付けようと、心を強くした。

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