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58話≪最終話≫
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12月に入り、街中がクリスマス一色になる頃、毎年、何故こんなに世間は浮かれているんだと思っていたが、今年はすっかり、その世間の一員になってしまった来栖は、クリスマスプレゼントを何にしようかと頭を悩ませていた。
仕事帰りに立ち寄った BAR SAM で、いつもの酒を飲みながら悩んでいると、それもいつものごとくイサムがニヤニヤと来栖を見つめていた。
「な~に?ハルちゃん、悩み事?」
真剣に悩んでいる様子が嬉しいのか、緩んだ顔が憎たらしい。
「なんだ?イサム‥ほっとけよ‥」
「あら、せっかく相談に乗ろうとしてるのに‥」
浮かない顔をしていると、すぐに寄って来て心配するのは、イサムの良いところなんだろうが、あの件以来、輪をかけて来栖の事を心配してくる。
事の真相は、当たり障りのない程度に報告しており、無事に解決したから大丈夫だと伝えてあったので、それ以上、詮索してくることもない。
この距離感が来栖には居心地が良かった。
「そろそろクリスマスね。ハルちゃんは、彼にプレゼントを用意したの?」
悩み事をあっさり見抜かれ、来栖は苦笑した。
「まだだ‥」
「そう、あれ?彼って若いのよね~?」
「ああ、23かな‥」
虎太郎の話をしていると、あの笑顔が思い浮かび、来栖の頬が緩む。
「あらあら‥溺愛しちゃってるのね‥クスッ‥」
イサムに頬をツンツンと突かれるまで、自分が笑みを浮べている事に気が付かなかった。
気恥ずかしさが込み上げ、スッと顔を戻すが、時すでに遅しだ。
「23歳かぁ~若いわね~何あげても喜ぶんだろうけど‥その子は、ハルちゃんにこんなに愛されちゃって、本当に幸せよ」
笑いながら立ち去っていくイサムの姿を見て、再び笑顔に戻る来栖は、自分でも分かるくらい幸せを実感していた。
「今日は、帰りが遅くなるから、先に寝ててね」
「ああ、だけど一応、帰る時は連絡してくれよ‥」
「分かった~」
クリスマスを翌週に控えた土曜日の午後、来栖のマンションに来ていた虎太郎が、そう言いながらマンションを出て行った。
今日は、大学の友人達と久しぶりに会う約束をしているらしい。
来栖としては、少し寂しい気もするが、あの時、世話になった聡も居ると聞いて、心配はしていなかった。
虎太郎はマンションを出ると、真っ直ぐに駅に向かい電車に乗って行く。
待ち合わせ場所は、表参道のレストラン。
聡が予約してくれたようだ。
最寄り駅で降りると、レストランへと徒歩で向かう。
みんなに会うのは10月に会った以来で、あの時の事を思い返すと、自分の愚かさに今でも心が痛くなる。
聡から大学時代のみんなの気持ちを聞いて、迷惑を掛けた事と、それ以上に心配を掛けてしまった事に申し訳ない気持ちと、そんなみんなの気持ちを知らずに、自分だけが不幸だと過ごしていた事が、恥ずかしかった。
聡が、あらかた経緯を話してくれているはずだから、みんなと会って、お礼を言いたかった。
モダンな建物の1階に目的のレストランがあり、お洒落な木製の扉を開けると、黒のベストにサロンエプロンを付けたウェイターが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ‥ご予約でしょうか?」
爽やかな笑顔で気持ちよく、つられて虎太郎も笑顔になる。
「はい、鶴木で予約が入っていると思うのですが‥」
虎太郎が聡の名を告げた瞬間、入り口のカウンターに控えていたマネージャーらしきスタッフがすぐに駆け寄ってくる。
「はい、承っております。ご案内いたしますね」
先に歩き出したスタッフに、虎太郎ものんびりついて行く。
「先に、皆様ご到着されております」
親切にそう教えてくれ、虎太郎が返事をすると、ニコリと笑顔を向ける。
案内されたのは、どうやら個室みたいで、アンティーク調の扉が付いており、スタッフがノックをしてから開く。
「お連れ様が、いらっしゃいました」
部屋の中に声を掛けると、虎太郎の方に振り返り恭しく手で部屋に入る様に促される。
ペコリとお辞儀をし、虎太郎は部屋へ足を踏み入れた。
「こたろ―――う!!」
部屋に入るや否や、みんなに一斉に抱き締められた。
「えっ?‥なに?‥なんだよ‥」
よく見ると、慎之介と健一そして蓮までが虎太郎にしがみ付き泣き出した。
どういう事か分からず、動揺している虎太郎の目に、部屋の真ん中にあるテーブルの脇で、にこやかに立っている聡の姿が映る。
グズグズと泣いている三人を、虎太郎はしばらく放っておくことにした‥が、ズピズピと鼻水を啜る音が聞こえ、ふと視線を落とすと、健一が自分の上着に鼻水を擦り付けていた。
「オイッ!!健一!お前、鼻水つけんなよ!!」
虎太郎がしがみ付く三人を力づくで押しのけると、ゲラゲラと笑いに変わっていく。
「‥ごっ‥‥ごめんごめん‥‥ハハハッ‥」
聡が笑いながらティッシュをくれたので、それでみんな鼻をかみ、虎太郎もブツブツ言いながら上着を拭いていく。
「みんな‥ありがとう。‥いろいろ、迷惑掛けてごめんな」
突然の虎太郎の言葉に、またそれぞれの目に涙が溢れてくる。
「虎太郎‥俺達の方こそ‥ごめん。もっと、早くにお前に伝えていれば‥」
慎之介が謝罪してくるが、虎太郎はそれを遮る様に話し出す。
「いや、そんな事ないよ。早く言われたとしても、その時の僕は、みんなの言葉を信じたか自信がない。あの時は、あいつを親友だと信じていたから‥だから、これで良かったんだと、思う事にする。いろいろ辛い事もあったけど、みんなにも本当に迷惑を掛けて申し訳なかったとしか言えないけど、僕は、ちゃんと前を向いて行こうと決めた。だから、今日はみんなに感謝の気持ちを伝えようと思って‥本当に、ありがとう」
話しているうちに、目の奥がグッと熱くなり、涙が零れそうになるが、虎太郎は泣かなかった。
自分達には、これからがあるから。
みんなが、それぞれに心の中で後悔の気持ちを持っているのなら、それを解放して欲しいと願っていた。
「虎太郎、俺達にしんみりは似合わないよな。じゃあ、始めようぜ!俺達の再出発に!」
聡が声を張り上げると、みな一斉に沸き立つ。
そこからは、もう涙を流す者も、項垂れる事もなく、ただ楽しく飲んで食べてと、楽しいひと時を一緒に過ごしていく。
出てきた料理も全て素晴らしく、お腹いっぱいになる。
一度トイレに立った時に、慎之介と鉢合わせになり、一緒に個室に向かって歩き出した時。
「慎之介‥いろいろ、ありがとう。聡から聞くまで、お前に迷惑を掛けてたって気が付かなくて‥悪かったな」
一番初めに自分の事を庇ってくれた友人に、感謝してもしきれない。
「いいさ、あの時は俺も若かったって事で‥クスクスッ‥」
笑いながらそう話す慎之介の胸に、虎太郎は拳を打ち付け前を歩き出す。
「‥痛いって‥お前、手加減しろよ‥」
「そうだな~慎之介は、もう年寄りだもんな~悪い悪い‥クスクスッ‥」
「お前なぁ~気持ちの問題だろ?」
ふざけている虎太郎に、慎之介がお返しとばかりに背中にコツンと拳をぶつけてくるが、あまりにも弱いパンチに虎太郎が振り返る。
すると慎之介が目を押さえて立ち止まっていた。
「ごめん‥そんなに痛かった?」
近づいて慎之介の顔を覗き込む。
「へ~んだ!騙された~お前のヘナチョコパンチなんて、痛くも痒くもないんだし」
二カッと笑った慎之介の顔が憎らしくて、もう一度殴ろうと構えたところで、慎之介の瞳が濡れている事に気が付いた。
「ふっ‥ふざけやがって‥お前のがヘナチョコだし!」
そう言って、虎太郎は歩き出した。
笑いながら後ろを付いてくる慎之介が、本当に笑顔になってくれればとそう願った。
「じゃあ、そろそろお開きにしま~す!」
聡の言葉に、はーいと素直に答える。
「また会おうな。虎太郎」
みんながそう言ってくれるのが嬉しかった。
酒も少し入り、ほろ酔いで気持ちが良くなり、みんなでゾロゾロと店を出る。
店の扉を出ると、並木道の両側がイルミネーションんで鮮やかに輝いていた。
「うわ~今年も綺麗だな~」
白く輝くイルミネーションは、行き交う人々の癒しになり、恋人達が集う場所。
ウットリと眺めていると、その脇に人影が見えた。
「あっー!来栖さん!」
聡が最初に気が付き、みんなが振り向くと、来栖がガードパイプに腰掛け、こちらを見て笑顔で手を上げた。
来栖は黒のロングコートに落ち着いた色のマフラーを撒き、光沢のある黒のシャツとダークグレーのスラックスという大人の雰囲気に、虎太郎の心臓がドクンと跳ね上がる。
そして、みんなでワイワイと照れてる来栖を囲む。
「‥ふふっ‥虎太郎を迎えに来たんですか?」
ニヤニヤとしながら言う聡に、来栖は優しく微笑み頷く。
いつの間にか駆け寄った虎太郎の腰に手を当てている事に、虎太郎自身も照れてしまう。
紹介しろよ‥とみんなにせがまれ、虎太郎は改めて紹介する。
「こ‥この人が、僕の恋人の来栖遥人さんです」
拍子抜けするように、あっさりと恋人だと紹介され、来栖はみんなに深々とお辞儀をしていた。
「あー来栖です。よろしくお願いします」
丁寧な挨拶に、みんながドッと笑い出す。
「こちらこそ、よろしくお願いしま~す!来栖さん!かっこ良いですね~」
みんな少し酔っているために、容赦なく会話が飛び交う。
「ダメだからな!遥人は僕の恋人だから!」
そう言って、しっかりと来栖の腕を掴んでくる虎太郎に、来栖は苦笑いしか浮かばない。
「はいはい、じゃあ、これで解散!みんな気を付けて帰れよー」
聡の言葉に、またな~と手を振り解散した。
「ごめん、家で待ってられなくて、迎えに来ちゃった‥」
二人きりになると、そう言って照れながら頬を掻く来栖が可愛くて、来栖のコートをグイっと引っ張ると、その頬にキスをした。
「ふふっ‥帰ろ?」
虎太郎がそう囁くと、微笑んだ来栖が虎太郎の手を握り締めた。
「せっかくだから、このイルミネーションを見ながら帰ろ?」
そう言って二人は手を繋ぎ、並んで歩き出した。
仕事帰りに立ち寄った BAR SAM で、いつもの酒を飲みながら悩んでいると、それもいつものごとくイサムがニヤニヤと来栖を見つめていた。
「な~に?ハルちゃん、悩み事?」
真剣に悩んでいる様子が嬉しいのか、緩んだ顔が憎たらしい。
「なんだ?イサム‥ほっとけよ‥」
「あら、せっかく相談に乗ろうとしてるのに‥」
浮かない顔をしていると、すぐに寄って来て心配するのは、イサムの良いところなんだろうが、あの件以来、輪をかけて来栖の事を心配してくる。
事の真相は、当たり障りのない程度に報告しており、無事に解決したから大丈夫だと伝えてあったので、それ以上、詮索してくることもない。
この距離感が来栖には居心地が良かった。
「そろそろクリスマスね。ハルちゃんは、彼にプレゼントを用意したの?」
悩み事をあっさり見抜かれ、来栖は苦笑した。
「まだだ‥」
「そう、あれ?彼って若いのよね~?」
「ああ、23かな‥」
虎太郎の話をしていると、あの笑顔が思い浮かび、来栖の頬が緩む。
「あらあら‥溺愛しちゃってるのね‥クスッ‥」
イサムに頬をツンツンと突かれるまで、自分が笑みを浮べている事に気が付かなかった。
気恥ずかしさが込み上げ、スッと顔を戻すが、時すでに遅しだ。
「23歳かぁ~若いわね~何あげても喜ぶんだろうけど‥その子は、ハルちゃんにこんなに愛されちゃって、本当に幸せよ」
笑いながら立ち去っていくイサムの姿を見て、再び笑顔に戻る来栖は、自分でも分かるくらい幸せを実感していた。
「今日は、帰りが遅くなるから、先に寝ててね」
「ああ、だけど一応、帰る時は連絡してくれよ‥」
「分かった~」
クリスマスを翌週に控えた土曜日の午後、来栖のマンションに来ていた虎太郎が、そう言いながらマンションを出て行った。
今日は、大学の友人達と久しぶりに会う約束をしているらしい。
来栖としては、少し寂しい気もするが、あの時、世話になった聡も居ると聞いて、心配はしていなかった。
虎太郎はマンションを出ると、真っ直ぐに駅に向かい電車に乗って行く。
待ち合わせ場所は、表参道のレストラン。
聡が予約してくれたようだ。
最寄り駅で降りると、レストランへと徒歩で向かう。
みんなに会うのは10月に会った以来で、あの時の事を思い返すと、自分の愚かさに今でも心が痛くなる。
聡から大学時代のみんなの気持ちを聞いて、迷惑を掛けた事と、それ以上に心配を掛けてしまった事に申し訳ない気持ちと、そんなみんなの気持ちを知らずに、自分だけが不幸だと過ごしていた事が、恥ずかしかった。
聡が、あらかた経緯を話してくれているはずだから、みんなと会って、お礼を言いたかった。
モダンな建物の1階に目的のレストランがあり、お洒落な木製の扉を開けると、黒のベストにサロンエプロンを付けたウェイターが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ‥ご予約でしょうか?」
爽やかな笑顔で気持ちよく、つられて虎太郎も笑顔になる。
「はい、鶴木で予約が入っていると思うのですが‥」
虎太郎が聡の名を告げた瞬間、入り口のカウンターに控えていたマネージャーらしきスタッフがすぐに駆け寄ってくる。
「はい、承っております。ご案内いたしますね」
先に歩き出したスタッフに、虎太郎ものんびりついて行く。
「先に、皆様ご到着されております」
親切にそう教えてくれ、虎太郎が返事をすると、ニコリと笑顔を向ける。
案内されたのは、どうやら個室みたいで、アンティーク調の扉が付いており、スタッフがノックをしてから開く。
「お連れ様が、いらっしゃいました」
部屋の中に声を掛けると、虎太郎の方に振り返り恭しく手で部屋に入る様に促される。
ペコリとお辞儀をし、虎太郎は部屋へ足を踏み入れた。
「こたろ―――う!!」
部屋に入るや否や、みんなに一斉に抱き締められた。
「えっ?‥なに?‥なんだよ‥」
よく見ると、慎之介と健一そして蓮までが虎太郎にしがみ付き泣き出した。
どういう事か分からず、動揺している虎太郎の目に、部屋の真ん中にあるテーブルの脇で、にこやかに立っている聡の姿が映る。
グズグズと泣いている三人を、虎太郎はしばらく放っておくことにした‥が、ズピズピと鼻水を啜る音が聞こえ、ふと視線を落とすと、健一が自分の上着に鼻水を擦り付けていた。
「オイッ!!健一!お前、鼻水つけんなよ!!」
虎太郎がしがみ付く三人を力づくで押しのけると、ゲラゲラと笑いに変わっていく。
「‥ごっ‥‥ごめんごめん‥‥ハハハッ‥」
聡が笑いながらティッシュをくれたので、それでみんな鼻をかみ、虎太郎もブツブツ言いながら上着を拭いていく。
「みんな‥ありがとう。‥いろいろ、迷惑掛けてごめんな」
突然の虎太郎の言葉に、またそれぞれの目に涙が溢れてくる。
「虎太郎‥俺達の方こそ‥ごめん。もっと、早くにお前に伝えていれば‥」
慎之介が謝罪してくるが、虎太郎はそれを遮る様に話し出す。
「いや、そんな事ないよ。早く言われたとしても、その時の僕は、みんなの言葉を信じたか自信がない。あの時は、あいつを親友だと信じていたから‥だから、これで良かったんだと、思う事にする。いろいろ辛い事もあったけど、みんなにも本当に迷惑を掛けて申し訳なかったとしか言えないけど、僕は、ちゃんと前を向いて行こうと決めた。だから、今日はみんなに感謝の気持ちを伝えようと思って‥本当に、ありがとう」
話しているうちに、目の奥がグッと熱くなり、涙が零れそうになるが、虎太郎は泣かなかった。
自分達には、これからがあるから。
みんなが、それぞれに心の中で後悔の気持ちを持っているのなら、それを解放して欲しいと願っていた。
「虎太郎、俺達にしんみりは似合わないよな。じゃあ、始めようぜ!俺達の再出発に!」
聡が声を張り上げると、みな一斉に沸き立つ。
そこからは、もう涙を流す者も、項垂れる事もなく、ただ楽しく飲んで食べてと、楽しいひと時を一緒に過ごしていく。
出てきた料理も全て素晴らしく、お腹いっぱいになる。
一度トイレに立った時に、慎之介と鉢合わせになり、一緒に個室に向かって歩き出した時。
「慎之介‥いろいろ、ありがとう。聡から聞くまで、お前に迷惑を掛けてたって気が付かなくて‥悪かったな」
一番初めに自分の事を庇ってくれた友人に、感謝してもしきれない。
「いいさ、あの時は俺も若かったって事で‥クスクスッ‥」
笑いながらそう話す慎之介の胸に、虎太郎は拳を打ち付け前を歩き出す。
「‥痛いって‥お前、手加減しろよ‥」
「そうだな~慎之介は、もう年寄りだもんな~悪い悪い‥クスクスッ‥」
「お前なぁ~気持ちの問題だろ?」
ふざけている虎太郎に、慎之介がお返しとばかりに背中にコツンと拳をぶつけてくるが、あまりにも弱いパンチに虎太郎が振り返る。
すると慎之介が目を押さえて立ち止まっていた。
「ごめん‥そんなに痛かった?」
近づいて慎之介の顔を覗き込む。
「へ~んだ!騙された~お前のヘナチョコパンチなんて、痛くも痒くもないんだし」
二カッと笑った慎之介の顔が憎らしくて、もう一度殴ろうと構えたところで、慎之介の瞳が濡れている事に気が付いた。
「ふっ‥ふざけやがって‥お前のがヘナチョコだし!」
そう言って、虎太郎は歩き出した。
笑いながら後ろを付いてくる慎之介が、本当に笑顔になってくれればとそう願った。
「じゃあ、そろそろお開きにしま~す!」
聡の言葉に、はーいと素直に答える。
「また会おうな。虎太郎」
みんながそう言ってくれるのが嬉しかった。
酒も少し入り、ほろ酔いで気持ちが良くなり、みんなでゾロゾロと店を出る。
店の扉を出ると、並木道の両側がイルミネーションんで鮮やかに輝いていた。
「うわ~今年も綺麗だな~」
白く輝くイルミネーションは、行き交う人々の癒しになり、恋人達が集う場所。
ウットリと眺めていると、その脇に人影が見えた。
「あっー!来栖さん!」
聡が最初に気が付き、みんなが振り向くと、来栖がガードパイプに腰掛け、こちらを見て笑顔で手を上げた。
来栖は黒のロングコートに落ち着いた色のマフラーを撒き、光沢のある黒のシャツとダークグレーのスラックスという大人の雰囲気に、虎太郎の心臓がドクンと跳ね上がる。
そして、みんなでワイワイと照れてる来栖を囲む。
「‥ふふっ‥虎太郎を迎えに来たんですか?」
ニヤニヤとしながら言う聡に、来栖は優しく微笑み頷く。
いつの間にか駆け寄った虎太郎の腰に手を当てている事に、虎太郎自身も照れてしまう。
紹介しろよ‥とみんなにせがまれ、虎太郎は改めて紹介する。
「こ‥この人が、僕の恋人の来栖遥人さんです」
拍子抜けするように、あっさりと恋人だと紹介され、来栖はみんなに深々とお辞儀をしていた。
「あー来栖です。よろしくお願いします」
丁寧な挨拶に、みんながドッと笑い出す。
「こちらこそ、よろしくお願いしま~す!来栖さん!かっこ良いですね~」
みんな少し酔っているために、容赦なく会話が飛び交う。
「ダメだからな!遥人は僕の恋人だから!」
そう言って、しっかりと来栖の腕を掴んでくる虎太郎に、来栖は苦笑いしか浮かばない。
「はいはい、じゃあ、これで解散!みんな気を付けて帰れよー」
聡の言葉に、またな~と手を振り解散した。
「ごめん、家で待ってられなくて、迎えに来ちゃった‥」
二人きりになると、そう言って照れながら頬を掻く来栖が可愛くて、来栖のコートをグイっと引っ張ると、その頬にキスをした。
「ふふっ‥帰ろ?」
虎太郎がそう囁くと、微笑んだ来栖が虎太郎の手を握り締めた。
「せっかくだから、このイルミネーションを見ながら帰ろ?」
そう言って二人は手を繋ぎ、並んで歩き出した。
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