113 / 129
6章
閑話(1章と2章の間) 冬の日の暖炉と水の玉
しおりを挟む
本日書籍が発売されました。
それを記念して、本編には関係ない昔の一幕になります。
のんびりと読んでいただけると幸いです。
後書籍も買ってくださると喜びます(ダイマ)。
********************
これはマスラン先生が僕の先生になって数か月ほど経った時の事。
深い雪が降っている時のバルトラン領での話だ。
窓の外では深々と雪が降っていて、いつも開けている窓は閉められていた。
僕は窓の外、雪が積もった庭を見ながら呟く。
「寒いね……」
「ええ……正直、ここまで冷えるとは思っていませんでした……」
僕はいつもの様にベッドに寝ていて、その近くで母さんがイスに座って本を読んでくれていた。
最近は立ったりして体を鍛えるようにしていたけれど、それでも、まだまだ体は思い通りにはいかない。
「でも、母さんはここに居て大丈夫なの? 暖炉のある部屋にいった方が……」
「何を言うんですか。私はとても元気ですよ。このくらいの寒さであれば、なんとかなります」
「……」
母さんはそう言っているけれど、手が少しかじかんでいる。
僕に何かできないか。
そう考えた時に、部屋が急に開け放たれた。
「お兄ちゃーん! 遊ぼ!」
「リーナ?」
そう叫んで部屋に飛び込んで来たのは、僕の妹であるリーナだった。
彼女は外に出ていたのか、顔を真っ赤にしている。
「リーナ!? 一体どこに行っていたの!?」
「ええ! なんでお母さんがいるの?」
「別に居てもいいでしょう? それよりも、何しに来たの?」
「お外は寒すぎるから、お兄ちゃんに遊んでもらおうと思って」
「ロベルトは?」
「今はお勉強中なんだって。だから、リーナは暇なんだ。遊んで!」
「ダメです。エミリオだってまだ体調が戻っていないんですから……」
母さんはそう言ってくれるけれど、リーナはとても悲しそうな表情を浮かべている。
なら、僕が出来ることは……。
「ねぇ。2人とも。僕の……散歩に付き合ってくれない?」
「さんぽ……?」
「うん。散歩」
首を傾げるリーナに、教えるように言う。
でも、母さん的にはダメだったらしい。
「エミリオ。ダメです。まだ体調が良くなっていないでしょう?」
「でも、こうやっているだけだとそれはそれで体力が無くなっちゃうから、暖炉のある部屋まで……行きたいなって。それなら屋敷から出ないし、少しくらい……ダメ?」
僕は伺うようにして母さんに訪ねる。
すると、母さんは仕方ないという様に息を吐く。
「もう……仕方ありません。では客間に行きましょう」
「うん! 良かった。リーナ。一緒に客間で何かして遊ぼう」
「分かった!」
僕はそう言って、自分自身に魔法をかける。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ『体力増強』」
体が緑色に輝き、全身に力が漲ってくる。
もう大分慣れてきたものだとちょっと自信がつく。
「よいしょっと……寒い!」
僕はベッドから出ると、体を突き刺すような冷気に撫でられる。
そのせいで、僕は思わずベッドの中に戻ってしまった。
「暖かい……」
「ちょっとお兄ちゃん! リーナも入る!」
「あ、リーナ!」
「とう!」
リーナはそう言って僕のベッドの中に潜り込んで来る。
そして、その拍子に彼女の冷たい手が僕の足に触れた。
「寒いよ! リーナ!」
「お兄ちゃんばっかり暖かいのずるい! リーナも暖かくなる!」
「分かった! 分かったから出て!」
「出るまでここにいるー!」
「リーナ! いいから出なさい!」
僕が出るよりも先に、リーナは母さんにひっぱりあげられた。
「えー! だってリーナも!」
「いいから、ちょっと待っていなさい。エミリオ。出られる?」
「……うん。出られるよ」
僕はちょっとだけ……悲しい気持ちになって、ベッドから出る。
さっきは急な温度で驚いてしまったけれど、今回は分かっていたので我慢できた。
「寒い……うん。でも行ける!」
「良かった。それじゃあ行きましょう?」
「うん」
「リーナはこのままがいい」
リーナは母さんの腕の中でうずくまるようにしている。
母さんはそんなリーナを見て、苦笑した。
「もう……仕方ないわね。エミリオ。ちゃんと歩ける?」
「うん。大丈夫だよ!」
僕達は部屋から出て、暖炉のある客間を目指す。
廊下は寒いけれど、暖かい暖炉が楽しみでなんとか耐えた。
「あ、そう言えば、客間でいいの?」
「ええ。この雪ですし、来客もないでしょうから」
「なるほど」
僕は母さんと一緒に客間に向かい、そこで火をおこす。
「暖かい……」
「そうねぇ……」
「とろける……」
僕達3人は暖炉の前で固まって動かない。
暖炉の前にある2人掛けのソファに3人で並んで座るのだ。
広い室内だけれど、僕達が使っているのはほんの少しだけ。
灯りもこの暖炉以外はつけていない。
でも、この灯りを3人で見つめるだけでも、僕は嬉しかった。
一緒に何かをやっている。
僕も……リーナも同じように……普通に……生活ができている。
そんな小さなことが、僕にとってはとっても嬉しかった。
僕に何か起きないように守られているのではない。
僕も……リーナと同じように……。
そんな事を考えていると、リーナが口を開く。
「ねぇ、お兄ちゃん。水飲みたい」
「水?」
「うん。水出して!」
「い、いいけど……飲めるのかな?」
僕は不安に思って母さんを見ると、ちょっと考えた後に口を開いた。
「魔法で作った水は飲めるわ。以前もコップに入れたでしょう? あれは飲める。でも、形を維持させる事ができるのか……。正直、それをやるならコップを取りにいった方がいいわ」
「コップを……」
「ええ、食堂にいけばおいてあるから、それを取りに行くしかないでしょうね」
「……」
「……」
母さんの言葉を聞いて、僕もリーナもじっと黙ってしまう。
さっきまでは寒い廊下を歩いて来た。
でも、今僕達の目の前には暖かな暖炉の火。
この暖かさを味わったのに、目の前から動くなんてことは正直したくない。
僕達の様子を察知したのか、母さんが言う。
「いいわ。私が行く。エミリオ。リーナ。少し待っていなさい」
「そんな、こんな寒い中行くなんて……」
「大丈夫よ。私がその程度でやられると思うの?」
「そんなことはないけど……」
でも、こんな寒い中を行かせる訳には……そうだ。
「母さん。ちょっと……やってみてもいい?」
「何を?」
「ちょっと魔法を使ってみたいんだ」
「いいけど……大丈夫なの?」
「うん、きっと大丈夫だと思う」
「分かったわ。それならお願い」
「任せて」
僕はリーナの口をチラリと見てから、魔法を発動させる。
「素敵な玉、水の玉、空に浮かび我が意に従え『水玉生成操作』」
「ふわぁ……ちっちゃい……」
僕は、リーナの一口大の大きさの水の玉を作る。
「リーナ。口を開けて」
「うん!」
リーナは大きな口を開けていつでも準備は万端だ。
僕はそんなリーナの口の中に1つずつ送り込んでいく。
「うん! 美味しい!」
「ほんとう? 良かった」
「もっと頂戴! 外で動いて来てのどかわいてたんだ!」
「いいよ」
僕は彼女の口の中に水を放り込み続ける。
「美味しいね! これ!」
「ほんとう? そうなら良かった」
「うん! これならいくらでも食べられる!」
「食べるものではないけど……まだいる?」
僕は一応予備で作っておいた10個ほどの水の玉を浮かべながらリーナに聞いてみた。
すると、彼女はその水の玉をじっと目でおって、ある提案をしてくる。
「ねぇお兄ちゃん」
「なに?」
「この水の玉で追いかけっこしよ!」
「ええ!? これで!?」
「うん!きっと楽しいよ! だからほら! 早く逃げて!」
「え、う、うん……」
僕はリーナに言われるままに広い室内に水の玉を送る。
すると、リーナはすぐに暖炉の前から飛び出し、水の玉を追いかけだす。
「待てー!」
リーナは大声で叫びながら必死に水の玉を追いかけ始める。
「捕まえた!」
パク
彼女はそう言って水の玉を一口で飲み込む。
「そうやって捕まえるんだ……」
「全部捕まえるからね!」
リーナはそう言って必死に部屋の中を走り回っている。
そんな彼女を見て、母さんが苦笑いをしながら言う。
「リーナ。あんまり走ると転んで危ないですよ」
「大丈夫! リーナ強いから!」
「もう……」
「また捕まえた!」
僕は彼女がそうしているのをのんびりと見て、全部捕まえるまで見ていた。
リーナは部屋中を見回して、もう水の玉がない事を確認すると僕のところに戻ってくる。
「お兄ちゃん! 今度はもっと速くして!」
「それだとリーナが捕まえられないかもしれないよ?」
「大丈夫! リーナならできるから!」
「わかったよ。素敵な玉、水の玉、空に浮かび我が意に従え『水玉生成操作』」
僕は新たに水の玉を作り出して、それを部屋の中に飛ばす。
リーナはそんな水の玉を目を輝かせながら追いかけまわし、疲れ果てて眠るまで続けた。
「それではエミリオ、私は仕事が少し残っているので戻りますね」
「うん。リーナは僕が見ているよ」
「ええ、頼みました」
リーナは今、僕と一緒に暖炉の前のソファに座っている。
ただし、彼女は眠っていて、僕の肩に頭を乗せていた。
母さんはそんな僕とリーナを見た後に微笑むと、静かに部屋から出て行く。
僕はじっと暖炉の火を見つめた。
ゆらゆらと揺らめくこの火は、体を暖めるだけではなく、心まで暖かくするような気がする。
そんな事を思いながらじっとしていると、リーナが寝言を呟く。
「お兄ちゃん……もっと……一緒に遊ぼう……ね」
「リーナ……うん。僕は……ちゃんと僕を治すから。その時は……いっぱい遊ぼうね」
「うん……」
寝言だとは分かっているけれど、僕はそう答えずにはいられなかった。
******
「いけない。エミリオとリーナを放置しすぎました。サシャ。2人はどこにいますか?」
「恐らく客間かと」
「では急ぎましょう」
「あ、静かにいかれるのがいいかと思います」
「静かに……?」
「はい。中を覗けば分かると思います」
アンナとサシャはそれからゆっくりと扉を開き、部屋の中を覗く。
すると、暖炉の前のソファに、エミリオとリーナが気持ちよさそうに、眠っていた。
お互いに体を支え合っている姿は微笑ましい。
「しばらくこのままにしておきますか?」
「……いえ、ちゃんとベッドに連れて帰りましょう。この姿は……とても貴重ですが、きっと……これからも見られるでしょうから……」
「……そうですね」
それから、2人はそれぞれに抱えられて部屋に戻った。
それを記念して、本編には関係ない昔の一幕になります。
のんびりと読んでいただけると幸いです。
後書籍も買ってくださると喜びます(ダイマ)。
********************
これはマスラン先生が僕の先生になって数か月ほど経った時の事。
深い雪が降っている時のバルトラン領での話だ。
窓の外では深々と雪が降っていて、いつも開けている窓は閉められていた。
僕は窓の外、雪が積もった庭を見ながら呟く。
「寒いね……」
「ええ……正直、ここまで冷えるとは思っていませんでした……」
僕はいつもの様にベッドに寝ていて、その近くで母さんがイスに座って本を読んでくれていた。
最近は立ったりして体を鍛えるようにしていたけれど、それでも、まだまだ体は思い通りにはいかない。
「でも、母さんはここに居て大丈夫なの? 暖炉のある部屋にいった方が……」
「何を言うんですか。私はとても元気ですよ。このくらいの寒さであれば、なんとかなります」
「……」
母さんはそう言っているけれど、手が少しかじかんでいる。
僕に何かできないか。
そう考えた時に、部屋が急に開け放たれた。
「お兄ちゃーん! 遊ぼ!」
「リーナ?」
そう叫んで部屋に飛び込んで来たのは、僕の妹であるリーナだった。
彼女は外に出ていたのか、顔を真っ赤にしている。
「リーナ!? 一体どこに行っていたの!?」
「ええ! なんでお母さんがいるの?」
「別に居てもいいでしょう? それよりも、何しに来たの?」
「お外は寒すぎるから、お兄ちゃんに遊んでもらおうと思って」
「ロベルトは?」
「今はお勉強中なんだって。だから、リーナは暇なんだ。遊んで!」
「ダメです。エミリオだってまだ体調が戻っていないんですから……」
母さんはそう言ってくれるけれど、リーナはとても悲しそうな表情を浮かべている。
なら、僕が出来ることは……。
「ねぇ。2人とも。僕の……散歩に付き合ってくれない?」
「さんぽ……?」
「うん。散歩」
首を傾げるリーナに、教えるように言う。
でも、母さん的にはダメだったらしい。
「エミリオ。ダメです。まだ体調が良くなっていないでしょう?」
「でも、こうやっているだけだとそれはそれで体力が無くなっちゃうから、暖炉のある部屋まで……行きたいなって。それなら屋敷から出ないし、少しくらい……ダメ?」
僕は伺うようにして母さんに訪ねる。
すると、母さんは仕方ないという様に息を吐く。
「もう……仕方ありません。では客間に行きましょう」
「うん! 良かった。リーナ。一緒に客間で何かして遊ぼう」
「分かった!」
僕はそう言って、自分自身に魔法をかける。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ『体力増強』」
体が緑色に輝き、全身に力が漲ってくる。
もう大分慣れてきたものだとちょっと自信がつく。
「よいしょっと……寒い!」
僕はベッドから出ると、体を突き刺すような冷気に撫でられる。
そのせいで、僕は思わずベッドの中に戻ってしまった。
「暖かい……」
「ちょっとお兄ちゃん! リーナも入る!」
「あ、リーナ!」
「とう!」
リーナはそう言って僕のベッドの中に潜り込んで来る。
そして、その拍子に彼女の冷たい手が僕の足に触れた。
「寒いよ! リーナ!」
「お兄ちゃんばっかり暖かいのずるい! リーナも暖かくなる!」
「分かった! 分かったから出て!」
「出るまでここにいるー!」
「リーナ! いいから出なさい!」
僕が出るよりも先に、リーナは母さんにひっぱりあげられた。
「えー! だってリーナも!」
「いいから、ちょっと待っていなさい。エミリオ。出られる?」
「……うん。出られるよ」
僕はちょっとだけ……悲しい気持ちになって、ベッドから出る。
さっきは急な温度で驚いてしまったけれど、今回は分かっていたので我慢できた。
「寒い……うん。でも行ける!」
「良かった。それじゃあ行きましょう?」
「うん」
「リーナはこのままがいい」
リーナは母さんの腕の中でうずくまるようにしている。
母さんはそんなリーナを見て、苦笑した。
「もう……仕方ないわね。エミリオ。ちゃんと歩ける?」
「うん。大丈夫だよ!」
僕達は部屋から出て、暖炉のある客間を目指す。
廊下は寒いけれど、暖かい暖炉が楽しみでなんとか耐えた。
「あ、そう言えば、客間でいいの?」
「ええ。この雪ですし、来客もないでしょうから」
「なるほど」
僕は母さんと一緒に客間に向かい、そこで火をおこす。
「暖かい……」
「そうねぇ……」
「とろける……」
僕達3人は暖炉の前で固まって動かない。
暖炉の前にある2人掛けのソファに3人で並んで座るのだ。
広い室内だけれど、僕達が使っているのはほんの少しだけ。
灯りもこの暖炉以外はつけていない。
でも、この灯りを3人で見つめるだけでも、僕は嬉しかった。
一緒に何かをやっている。
僕も……リーナも同じように……普通に……生活ができている。
そんな小さなことが、僕にとってはとっても嬉しかった。
僕に何か起きないように守られているのではない。
僕も……リーナと同じように……。
そんな事を考えていると、リーナが口を開く。
「ねぇ、お兄ちゃん。水飲みたい」
「水?」
「うん。水出して!」
「い、いいけど……飲めるのかな?」
僕は不安に思って母さんを見ると、ちょっと考えた後に口を開いた。
「魔法で作った水は飲めるわ。以前もコップに入れたでしょう? あれは飲める。でも、形を維持させる事ができるのか……。正直、それをやるならコップを取りにいった方がいいわ」
「コップを……」
「ええ、食堂にいけばおいてあるから、それを取りに行くしかないでしょうね」
「……」
「……」
母さんの言葉を聞いて、僕もリーナもじっと黙ってしまう。
さっきまでは寒い廊下を歩いて来た。
でも、今僕達の目の前には暖かな暖炉の火。
この暖かさを味わったのに、目の前から動くなんてことは正直したくない。
僕達の様子を察知したのか、母さんが言う。
「いいわ。私が行く。エミリオ。リーナ。少し待っていなさい」
「そんな、こんな寒い中行くなんて……」
「大丈夫よ。私がその程度でやられると思うの?」
「そんなことはないけど……」
でも、こんな寒い中を行かせる訳には……そうだ。
「母さん。ちょっと……やってみてもいい?」
「何を?」
「ちょっと魔法を使ってみたいんだ」
「いいけど……大丈夫なの?」
「うん、きっと大丈夫だと思う」
「分かったわ。それならお願い」
「任せて」
僕はリーナの口をチラリと見てから、魔法を発動させる。
「素敵な玉、水の玉、空に浮かび我が意に従え『水玉生成操作』」
「ふわぁ……ちっちゃい……」
僕は、リーナの一口大の大きさの水の玉を作る。
「リーナ。口を開けて」
「うん!」
リーナは大きな口を開けていつでも準備は万端だ。
僕はそんなリーナの口の中に1つずつ送り込んでいく。
「うん! 美味しい!」
「ほんとう? 良かった」
「もっと頂戴! 外で動いて来てのどかわいてたんだ!」
「いいよ」
僕は彼女の口の中に水を放り込み続ける。
「美味しいね! これ!」
「ほんとう? そうなら良かった」
「うん! これならいくらでも食べられる!」
「食べるものではないけど……まだいる?」
僕は一応予備で作っておいた10個ほどの水の玉を浮かべながらリーナに聞いてみた。
すると、彼女はその水の玉をじっと目でおって、ある提案をしてくる。
「ねぇお兄ちゃん」
「なに?」
「この水の玉で追いかけっこしよ!」
「ええ!? これで!?」
「うん!きっと楽しいよ! だからほら! 早く逃げて!」
「え、う、うん……」
僕はリーナに言われるままに広い室内に水の玉を送る。
すると、リーナはすぐに暖炉の前から飛び出し、水の玉を追いかけだす。
「待てー!」
リーナは大声で叫びながら必死に水の玉を追いかけ始める。
「捕まえた!」
パク
彼女はそう言って水の玉を一口で飲み込む。
「そうやって捕まえるんだ……」
「全部捕まえるからね!」
リーナはそう言って必死に部屋の中を走り回っている。
そんな彼女を見て、母さんが苦笑いをしながら言う。
「リーナ。あんまり走ると転んで危ないですよ」
「大丈夫! リーナ強いから!」
「もう……」
「また捕まえた!」
僕は彼女がそうしているのをのんびりと見て、全部捕まえるまで見ていた。
リーナは部屋中を見回して、もう水の玉がない事を確認すると僕のところに戻ってくる。
「お兄ちゃん! 今度はもっと速くして!」
「それだとリーナが捕まえられないかもしれないよ?」
「大丈夫! リーナならできるから!」
「わかったよ。素敵な玉、水の玉、空に浮かび我が意に従え『水玉生成操作』」
僕は新たに水の玉を作り出して、それを部屋の中に飛ばす。
リーナはそんな水の玉を目を輝かせながら追いかけまわし、疲れ果てて眠るまで続けた。
「それではエミリオ、私は仕事が少し残っているので戻りますね」
「うん。リーナは僕が見ているよ」
「ええ、頼みました」
リーナは今、僕と一緒に暖炉の前のソファに座っている。
ただし、彼女は眠っていて、僕の肩に頭を乗せていた。
母さんはそんな僕とリーナを見た後に微笑むと、静かに部屋から出て行く。
僕はじっと暖炉の火を見つめた。
ゆらゆらと揺らめくこの火は、体を暖めるだけではなく、心まで暖かくするような気がする。
そんな事を思いながらじっとしていると、リーナが寝言を呟く。
「お兄ちゃん……もっと……一緒に遊ぼう……ね」
「リーナ……うん。僕は……ちゃんと僕を治すから。その時は……いっぱい遊ぼうね」
「うん……」
寝言だとは分かっているけれど、僕はそう答えずにはいられなかった。
******
「いけない。エミリオとリーナを放置しすぎました。サシャ。2人はどこにいますか?」
「恐らく客間かと」
「では急ぎましょう」
「あ、静かにいかれるのがいいかと思います」
「静かに……?」
「はい。中を覗けば分かると思います」
アンナとサシャはそれからゆっくりと扉を開き、部屋の中を覗く。
すると、暖炉の前のソファに、エミリオとリーナが気持ちよさそうに、眠っていた。
お互いに体を支え合っている姿は微笑ましい。
「しばらくこのままにしておきますか?」
「……いえ、ちゃんとベッドに連れて帰りましょう。この姿は……とても貴重ですが、きっと……これからも見られるでしょうから……」
「……そうですね」
それから、2人はそれぞれに抱えられて部屋に戻った。
11
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。