「タコ野郎!」と学園のダンジョンの底に突き落とされた僕のスキルが覚醒し、《クラーケン》の力が使える様に ~突き落としてきた奴は許さない~

土偶の友

文字の大きさ
2 / 100
1章

2話 ウィリアム

しおりを挟む
 ウィリアムにスキルを使われた上で更に抱きつかれたまま僕は大穴の中に落ちる。
 このままだと無事には済まない、だからスキルを発動した。

「【タコ化】!」

 スキルを使って全身をタコのようにし、腕や足をちょっと黒めの触手にする。
 こうしたら、生身で落ちるよりはマシだ。
 それと同時に、触手を全方位に伸ばして壁をつかもうとする。
 少しでも落下のダメージを軽減出来れば、生き残れる可能性も高い。
 ウィリアムも……。

 ガリガリガリガリガリガリ!!!

「っく!」

 動かない腕、触手を何とか伸ばしたけれど、ただのタコの力では少し緩める位で精一杯だった。
 そして、僕たちは底に辿たどりついた。

 ビタン!!!

「……」
「……」

 僕もウィリアムも動けない。
 僕が下になるように落ちたけれど、本当にもう……どうしようもない位に全身が痛い。
 ただ、生きているのは幸運だった。
 ウィリアムの呼吸も聞こえる。

「ウィリアム……大丈夫……か?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「ウィリアム?」
「ごめんなさい……クトー。僕の……僕のせいでこんなことに……」

 ウィリアムは独り言をずっとぶつぶつと言っている。
 ただ、スキルは既に切っているのか体の自由は戻ってきた。

 僕はウィリアムを思い切り触手で叩く。

 パァン!

 いい音がして、ウィリアムの顔辺りに当たった気配がした。

「ウィリアム。何があったか教えてくれ。どうして僕にこんなことしたんだ」
「クトー……僕を……まだ僕の……言うことを聞いてくれるの?」
「ああ。君はこんなことをする奴じゃない。何か事情があったんでしょ?」
「く……う……」

 ウィリアムは優しい奴だ。
 誰が相手でも公平に接し、僕と違って友人も多い。
 平民だけれど、貴族連中からも一目置かれていた。

 そんな彼が、わざとこんなことをするはずがない。

「ウェーレが……人質に取られたって……」
「あのウェ―レが!?」

 ウェーレとはウィリアムの妹で、10歳と彼とは少し離れているが、いつもお兄ちゃんと近寄って仲良くしていた子だ。

「それで……この前……ウェーレがいなくなって……。それで……。ダンジョンに行く前に……やることを……説明されて、断ろうとしたら……ウェーレの髪の毛が……」
「そんな……」
「ウェーレを無事に返して欲しかったら、クトーと一緒にこのAランクダンジョン。《魔狼の谷底》に飛び込めって……。じゃないと……。他のおもちゃみたいにするぞって……」
「……」

 彼の説明にどこから聞けばいいのかわからない。

「Aランクダンジョン?」
「そう……ここは《初心の迷宮》なんだけれど、通行禁止の……さっき来た道を通ってくるとつながっているらしいんだ」
「そんな……戻り方は?」

 ウィリアムは首を振ったような仕草をする。
 暗くて良く見えないけれど、空気の振動で分かるのだ。
 タコになった時によく伝わってくる。

「知らない。片道のお前には必要ないだろう……って」
「それじゃあ。ここの出方も分からないのか!?」
「ごめんなさい……」
「いや、いい。だけれど、もう一つ聞いておきたい事がある」
「何?」
「奴のおもちゃになると、どうされるの?」

 ウィリアムは暫く沈黙した後、ゆっくりとさっきよりも震える声で話す。

「……詳しいことは知らない。けれど、少なくとも楽しい事じゃない。1年の時に、頭の良かった平民の女子何人かがいなくなっていたのは知っている?」
「ああ……確か……実家に帰るとか……いなくなったって……まさか」
「そう。全部グレーデンの仕業みたい……」
「そいつは……本気で戻らないといけないな……」

 奴は絶対に奴は許せない。
 俺の大事な大事なサナもそのおもちゃにするとほざいたのだ。
 絶対に殺す……とはいかないまでも、恐怖を体に刻んでやらなければならない。

 かと言って、ここはウィリアムのいう通りであれば、Aランクダンジョン。
 どうやって出られるのか……。

「何か攻略のヒントとか知らないか?」
「知らない。僕もこんな場所があるなんて知らなかったんだ」
「その……《初心の迷宮》の噂話とかでもいいから」

 何か知っていれば、多少は変わるかもしれない。
 もしかしたら、突破の糸口になるかもしれないのだから。

「学校の噂で……《初心の迷宮》の中には、秘密の部屋がある……とか?」
「それは僕でも知ってるけど……もうちょっと具体的にどこの方に出口がある……とかない?」
「ごめん……」
「ないなら仕方ない。何とかして帰ろう。ウェーレもサナも待っているはずだ」

 僕がそういった瞬間。その場の空気が変わったのを感じる。

「グルルルルルルルルルルルルルル」

 周囲では魔狼というのだろうか。
 狼のうなり声がこれでもかと聞こえて来る。
 ウィリアムと話している間に囲まれてしまったらしい。

 ここが低ランクのダンジョンであるなら、この狼達もフォレストウルフ等の低ランクに違いない。
 けれど、ここはAランクダンジョン。
 僕がタコになっても、ただ食われるだけな気がする。

「ウィリアム。何か逃げるいい手ってある?」
「ないよ……。というか、クトーは走って逃げられるの?」
「まぁ……今は全身タコになってるし、下半身だけ人間に戻せば多分いける」
「そう……じゃあ時間を稼ぐから、クトーは行って」
「何を言ってる。ウィリアムも一緒じゃないと」
「……明かりをつけるよ」

 パチ。

 道案内の為か、ウィリアムが持っていた明かりの魔道具をつける。

 僕の目に入って来たのは、周囲にいる全身から緑の液体を流す狼でも、優し気な目をしたウィリアムでもなく、潰れてしまった彼の下半身だった。

「逃げられないでしょ? ごめんね。助けてくれるって言っているのに」
「僕が……連れて逃げるから」
「ダメだよ。そんなことしたら、君まで食べられちゃうよ」
「ガウウウウウウ!!!」

 僕とウィリアムが話している所に、狼達が踊りかかってくる。
 全方位から隙間など全く無い。
 僕たちを絶対に逃がさないようにしている。

「時間を稼ぐから……! 【痺れ動きを止めよパラライズウェイブ】!!!」

 バリバリバリバリバリ!!!

 ウィリアムの体から黄色い光が見え、それが周囲の狼にぶつかっていく。
 すると、狼達は麻痺してそのままの姿勢で固まった。

「今の内に……早く!」
「ウィリアムも一緒だ!」

 僕は下半身を人間に戻し、彼を背負って狼の間を歩き出す。
 触手の方が力も強く、数も多い。
 普通のタコにしかなれないとは言え、普通のタコの力を僕のサイズで使う事が出来るのだ。
 普通の人間よりも圧倒的に強い。

「ダメだよ……。きっと直ぐに追いつかれる」
「ダメじゃない。俺が回復魔法を回復技術を習っているのは知っているだろ?」
「だけど……まだ初期の魔法だけでしょ? この状態は治せない。だから……諦めて」
「置いていけないよ! ウィリアムは……絶対に連れ帰る」
「クトー……分かった。そこまで言ってくれるなら……頑張る」
「ああ。そうしてくれると……」
「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

 僕たちの少し前で、さっきまでの集団とは違う。
 圧倒的な声が聞える。
 その何かがのしのしと僕たちの方に近付いてきた。

「ネクロ……ウルフ……」

 ウィリアムの声は僕の耳に届く。

「ネクロウルフ?」
「殺した者や死んだ狼を配下にするAランクの魔物だよ」

 Aランクの魔物は、現れれば村はほぼ確実に滅び、町等であっても滅ぶ可能性が高い。
 街であれば何とか耐えられるかもしれないけれど、それでも甚大な被害は確実と言われる程の存在。

「これが……Aランクダンジョン……」
「ガウウウウウウ!」
「ぐぅ!」
「ウィリアム!」

 僕が目の前にいるネクロウルフをどうしようかと思っていると、後ろからウィリアムのスキルの効果が切れた狼達が食いついてくる。

「ウィリアム! 【触手強化テンタクルフェイズ】!」

 僕は触手を強化して、狼達を追い払う。
 これを使うと、普通の触手よりも力が増し、耐久力も速度も上がる。
 但し、疲れやすくなるけれどそれは仕方ない。

「ああ、……ごめん……クトー。やっぱり、友人を裏切っておいて、生きて帰ろうなんて言うことがダメだったんだよね……」
「そんなことない! 『癒やせヒール』!」

 僕は回復魔法をウィリアムにかけるけれど、所詮初期魔法。
 ウィリアムに効くには弱過ぎる。

「ああ……ちょっとだけ楽になった……。ありがとう……クトー……。最期にお願いがあるんだ……」
「諦めるな! きっと何とかなる! 『癒やせヒール』『癒やせヒール』『癒やせヒール』!!!」

 僕は回復魔法を何度も放つ。
 ウィリアムを助けたい。
 彼はこんな所で死ぬべき人間じゃない。
 彼はもっと多くの人を幸せにする素晴らしい人間なんだ。
 だから、だから助かってくれ!

「ああ……ウェーレ……ごめんね……。もっとうまくやれてれば違った道もあったのかな……。クトー。最期のお願いだ。どうか……ウェーレを……助けてあげて……。サナちゃんも……おもちゃになんてさせないで……」
「ウィリアム! ウィリアム! おい! 起きろ! ウィリアム!」
「……」

 僕が幾ら揺すっても、彼は、彼は動くことはなかった。

 ウィリアムが……死んだ。誰のせい? 僕のせい? 彼のせい? グレーデンのせい? それとも、こいつら狼のせい?

「ガウウウウウウ!!!」
「……」

 狼たちがウィリアムに噛み付き、僕にも噛み付く。
 何度も何度も噛み付き、骨のないタコは簡単に引きちぎられていく。

 ふと頭の中にサナが浮かんだ。

『お兄ちゃん』

 サナもこんな目にあうんだろうか。
 グレーデンの好き勝手にさせていれば、サナも僕やウィリアムと同じようなこんな目に、生きたまま食われて行くのだろうか。

 目の前が真っ暗になった。
 そんな事はさせられない。
 真っ暗な中から何かが僕に向かって伸びてくる。

 真っ黒な何かから、8本の何かが僕に向かって伸びてくる。
 そして、僕はそれを受け入れた。
 意識はハッキリとしているけれど、体のコントロールは任せる。

「【タコ化:クラーケン】」

 僕の体が僕じゃなくなり、だけど何が起こっているかははっきりと理解できる。
 僕から真っ黒な……漆黒よりもなお暗い黒い触手が生まれ、周囲の狼を一瞬で千切り殺した。

 なぜクラーケンと分かったのかは分からない。
 ただ、頭の中にその言葉が浮かんだ。

 クラーケン。
 それは神話に謳われる伝説の魔獣の名前。
 海の奥底に潜み、敵対すれば神といえど無事には済まさないと言われるほどの魔獣。
 神殺しの魔獣クラーケンの力を、僕は振るっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...