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ハナツオモイの章

6.宝石

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蓮也・ヘティス一行はようやくフラワリングビレッジにたどり着いた。
ちょうど日が暮れて、街には灯籠に明かりが灯されており、満開の桜を照らしていた。



村の周囲には結界石があり、それを解いて入る。そのために通行関税を支払う。プロキオンたちはこの村のクエストを終えたということで、関税は免除される。

ヘティス
「何、此処~!お花が一杯で綺麗~!」
蓮也
「私は用事がある。先にいくぞ。プロキオン、まずは、宝石商を案内してくれ。その後は、この村にエスメラルダというヒーラーがいると聞くが、そのヒーラーの治療を受けにいく」
プロキオン
「了解です!」
スピカ
「蓮也様、エスメラルダ様は私のヒーリングの先生ですの。けど、診療時間外かもしれません。受診できるように私が先生に頼んで参りますわ。プロキオン、蓮也様を後で連れていらっしゃって」
プロキオン
「わかった。アルカスとミラクは先に警備のクエストに行ってくれ」
アルカス
「了解だぜ!」
蓮也
「お前たち、まだ働くのか?」
ミラク
「そうなの~。ギルドの運営費を稼がないと、なの。夜勤なんてお肌に悪いわ~」
スピカ
「私も、蓮也様たちがいらっしゃって、ヒーリングの助手が終わりましたらクエストにいきますわ」
ヘティス
「みんな、働いてばっかで、大変ね~」

という感じでプロキオンの案内で蓮也は歩き出した。

ヘティス
「あ、蓮也、ちょっと待ってよ~。私も一緒に行く~」
ポコー
「おい、お前、蓮也のことを気安く呼ぶなポコ」



ヘティス
「何よ、アンタ」
ポコー
「さては、お前、蓮也に気があるなポコ?」
ヘティス
「うるさいわねー、妖怪のクセして!」
ポコー
「また妖怪って言ったポコ!侮辱ポコ!屈辱ポコ!」

一行はまず村の宝石商に足を運んだ。
古めかしい小さな宝石商の中に入ると、様々な宝石やアクセサリーが並んでいる。

ヘティス
「わあ、綺麗~。お花も綺麗だったけど、宝石も綺麗だわ~」

棚に並んでいるアクセサリーに手を伸ばそうとした、その瞬間。

「バチ!!」

ヘティス
「イタっ!!」

店主バオシー
「お若いヒーラーさん、棚には結界が張ってあるので、もし手に取られる場合は言っておくれ」
ヘティス
「ヒーラー?私、魔法なんて使えないわよ?」
店主バオシー
「おや、おや、この村ではヒーラーは緑の衣を身に纏うので、てっきりヒーラーさんかと思いましたわい」
ヘティス
(そういえば蓮也もヒーラーからヒーリングを受けるって言ってたっけ)
「ねぇ、おじさん、ヒーリングってどんなことやるの?」
店主バオシー
「ヒーリングは、体内のヒーリングエネルギーを手から放射して他者を癒すという方法ですよ」
ヘティス
「へぇー、そんなことできるんだ」

蓮也は店の奥に行き、自分の持っている宝石を取り出した。

蓮也
「この二つの宝石はいくらになる?」
店主バオシー
「一つは15000ロータス、ん~もう一つは、これは珍しいものですね。75000ロータスでどうでしょう?」
蓮也
「わかった、それでいい。引き取ってくれ」
店主バオシー
「はい、まいど。で、どちらのギルドで?ギルド証明証をお出しください」
蓮也
「そんなものはない」
店主バオシー
「この村ではギルド証明証がないと宝石売買はできないのです」
プロキオン
「あ、私が持っております。ギルド名・グラデュアルのマスター・プロキオンです。私のも換金してください」
店主バオシー
「はい、確かに。お若いのにギルマスとは、大変ですねぇ。それでは税金がかかりますので、差引額を計算しますね」

蓮也とプロキオンは宝石を換金した。

蓮也
「店主、この村の税金はこんなに高いのか?」
店主バオシー
「はい、そうなんです。昔は自由に商売をやらせてもらっていたのですが、アルトドール王朝の統治下になってからというもの、かなり税金が取られまして」
蓮也
「アルトドールか・・・」
プロキオン
「そうなんです。ギルドの結成や維持にも資金がかなり必要で、ギルド証明証がないとこうした高価な金品の売買はできなくなっているのです。だから、私たちはクエストを受けてなんとかギルド運営費を稼いでいるのです」
蓮也
「なるほど」

ヘティスは結界に触れて痛い思いをしたが、宝石を見続けている。

ヘティス
「この指輪、綺麗~!」
「蓮也、この指輪ほしいの。買ってよ!」
蓮也
「指輪は神聖力や魔力を補強するアイテムだ」
「しかし、魔法が使えない者にとっては意味がない」
「よって、意味がない物を買う必要はない」
ヘティス
「何、その三段論法みたいな変なトーク」
「私はカワイイ」
「カワイイ子が綺麗なものを身に着けると、もっと可愛くなる」
「よって、私に指輪を買うことは意味があるの!」
蓮也
「言っている意味がわからない」
ヘティス
「も~、何よ!私が怪物を引き寄せたんでしょ?その報酬をまだもらってないわ!だから、この指輪が報酬よ!わかった?」
蓮也
「まあ、いいだろう」
ヘティス
「あ~、こっちのカンザシもカワイイ!これも欲しい」
蓮也
「一つにしろ。報酬の範囲を超えている」
ヘティス
「次も働いてあげるからツケよ!」
蓮也
「仕方ない、その代わり働いてもらう」
店主バオシー
「確か・・・この二つの商品は数日前に村に訪れた旅のヒーラーさんか魔道士さんがわからないんだけど、その方から買い取ったものです。中古になりますが、よろしいでしょうか?」
ヘティス
「うん、かわいいからいいわ!」
店主バオシー
「まいど、それでは結界を解きますので、お引き渡しします」

店主は結界石の位置を変えて結界を解く。そして、装飾品をヘティスに受け渡す。
ヘティスは早速、指輪をはめようとする。

ヘティス
「あ、全然サイズとか考えてなかった。どの指にはまるのかな」

指輪がぴったりと入るのは薬指だった。カンザシもつけてみた。その自身の姿を店の中の鏡で見てヘティスはご満悦の様子だ。
その時、ヘティスは不思議な感覚に包まれた。



ヘティス
(何?この指から胸に向かって暖かく柔らかい何かが流れる感覚は・・・。けど、気のせいかな?)

ヘティス
「ねぇ、蓮也、この指輪、薬指にピッタリと入るから婚約指輪みたいね。男の人から指輪をプレゼントしてもらうのははじめて!」
蓮也
「プレゼントではない、それは報酬だ。そしてもう一つの装飾品はツケだ」
ヘティス
「・・・・・」
「ねえ、見て、見て。どう?カワイイでしょ?」
蓮也
「そうだな、もう行くぞ」
ヘティス
「ちょっと!全然、見てないでしょ!」
ポコー
「ポーッコッコッコ!蓮也はヘティスには興味ないポコよ」
ヘティス
「うるさーい!この妖怪!」
ポコー
「妖怪じゃないポコ!妖精ポコ!一度ならず二度までもポコ!なんたる侮辱ポコ!」

蓮也・ヘティス一行は宝石商を後し、ヒーラー・エスメラルダのもとへと向かうこととなった。


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