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ハナツオモイの章

7.ヒーラー・エスメラルダ

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蓮也が次に向かうのはヒーラーのいる寺院である。
このフラワリングビレッジには腕利きの老ヒーラーがいるとの話を聞いて蓮也は訪れている。蓮也の左腕は痺れており、ほとんど動かせない。特に、戦闘レベルで腕を用いることは不可能である。それを治療することが、当面の目的のようだ。



蓮也
「ここがエスメラルダというヒーラーがいる場所か」
プロキオン
「はい、そうです」
ヘティス
「素敵なお家~!緑の壁に緑の宝石が散りばめられてる~」
「緑って綺麗よね~。私、緑が大好き!」
「将来、好きな人とこんな素敵な緑のお家で暮らしたいわ~!」



そこへ年配の旅人と思われる人が声をかけてくる。

年配の旅人
「もしや、それは神獣・ユニコーンでは?私には持病がありまして、医者には不治の病と言われまして、こうして遥々ここまでやって来たのですが・・・どうか治していただきたく」

ユニコーンの角に触れると病や怪我が癒えるという言い伝えがあり、年配の旅人はそのことを言っているようであった。
この世界では、医者に治せないものはヒーラーが治す、となっている。しかし、それができるヒーラーの数は決して多くはない。
この年配の旅人も、ここの村のヒーラーの噂を聞きつけて来たのであろう。

蓮也
「近寄るな。このユニコーンは私以外の者が触れると、その角で攻撃する。怪我だけでは済まされないぞ」
年配の旅人
「それでしたら、そちらの緑の衣のヒーラー様に治療していただきたく」
ヘティス
「私?無理よ!そんなのできるわけないでしょ?さっきの宝石屋のおじさんも勘違いしてたけど、私は単に緑が好きで、緑の服を着てるの!」
年配の旅人
「そうでしたか・・・、予約が多いみたいで予約待ちをしておりまして。その間にも病が進行してしまうのではないかと不安になってしまい、ついこうやって順番を見に来てしまうのです・・・」
ヘティス
「そうなんだ・・・。ごめんね、おじさん、大事にしてね」

可哀想と思ったヘティスが旅人の身体に少し触れた。
ヘティスの手が幾分、暖かくなったように感じた。

年配の旅人
「おぉ、これは・・・」
「ありがとうございます、やはりヒーラー様でしたか!痛みが幾分消えました!また、明日来ます・・・!」
ヘティス
「あれ?もしかして効いちゃったの?」
「これって、いわゆる、プラセボ効果ってのね、きっと」
「・・・ヒーリングってプラセボ?」

そのようなやりとりをしていると、寺院の中から女性が現れた。プロキオンのギルドメンバーのヒーラー・スピカである。

スピカ
「お待ちしておりました。さあ、こちらへどうぞ」

中に入ると祈りのための祭壇と像があり、厳かな雰囲気であった。
机もいくつか並べてあり、教壇も兼ねているようだ。
部屋がいくつもあるようで、そこで個別に治療がされているようである。しかし、もう時間外なので患者はいない。

スピカ
「こちらの大広間では、平日昼間はヒーリングスクール、休日・祝日は祈りと瞑想や集団ヒーリング・遠隔ヒーリングを行う場です。個別ヒーリングは別室となります。エスメラルダ様にはお話をしてありますので、少々お待ちください」

しばらくすると別室から美しい年配の女性が出てきた。
グリーンのローブを纏い、髪の毛は白髪だが美しく纏められている。

スピカ
「あ、先生。こちらの蓮也様に助けていただきました」
エスメラルダ
「私がヒーラーのエスメラルダです。スピカがお世話になったことを御礼申し上げます」
蓮也
「たまたま遭遇し助成を頼まれたので、当然のことをしたまでだ」
エスメラルダ
「今夜は特別な日ですね。尋常ではないオーラを三つ感じます」
「・・・あなた方は何者ですか?」
ポコー
「ポーコッコッコッコッコ!」
「俺が見えるとは、見る目があるポコな!聞かれたら答えるしかないポコ!我こそは伝説の妖精・ポコー様だポコ!」

ポコーが自信満々に答え出す。



「そして、こっちにいるのはロータジア王国第二王子・蓮也だポコ!蓮也は封印の鎧でオーラを抑えているから、本来のオーラはこんなもんじゃないポコ!本気出したらみんな、びびるポコ!」
「そして、もう一つのオーラはポコ・・・」
「ポコ・・・」
「もうもう一つは誰だポコ?」
エスメラルダ
「そこにいる女の子ですよ」
ヘティス
「え?私?私はフツーよ、フツー。蓮也みたいに化物をぶった切ったりできないし、ポコーみたいに空を飛んだり、趣味の悪い変な踊りはしないし、フツーの女の子よ」
ポコー
「変な踊りとはなんだポコ!失礼ポコ!」
エスメラルダ
「まだ才能開花の途中で蕾の状態だけど、あなたは強いエネルギーを持っているわ」
ヘティス
「わ、私、蓮也みたいにモンスターをぶった切ったりしたくないから、そんなの開けなくていいわ!」
エスメラルダ
「才能の開花は人それぞれよ。戦うことだけが能力ではないの。まあ、いいわ。あなたも後で私のセッションを受けなさい」
「それと、ロータジア・・・」
「風の噂で聞いております」
蓮也
「・・・そうか」
「それはいいとして、私は腕が痺れて効かぬ。これを貴殿に治療してほしいのだ」
エスメラルダ
「わかりました、お引き受けしましょう」

エスメラルダは先に別室に入って行く。
後からスピカが蓮也を案内する。
蓮也はヒーリングルームに入る。
中には祭壇にあった像の小さなものと、治療で使用する宝石の棚やベッドが壁側にあり、中央にはリクライニングできる椅子があった。スピカに案内され、蓮也はその椅子にリラックスして座る。
窓の外には満月が出ており、その穏やかな月明かりを蓮也は見つめていた。

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