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ハナツオモイの章

10.伝説の蒼き魔術師

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ヒーリングの寺院を後にした蓮也・ヘティス一行はプロキオンの案内で、村の繁華街にあるレストランバーに入る。
そこでは、冒険者たちが食事をし、語り合い、酒を酌み交わしている。
建物は古い木造で、雰囲気はしっとりとしていて落ち着きがあり心地が良い。多くの旅人を受け入れてきた趣がある。

ヘティス
「素敵な音楽ね~、なんか懐かしい雰囲気がするわ~」



店内では美しい音楽が奏でられている。その音楽を聴いて旅の疲れを癒しているものもいる。

【楽曲『ドリームジャーニー・人は誰でも夢の旅人』】
https://youtu.be/VWYK_JOfg-4

店に入るとプロキオンが店員と何かを話している。
そして、プロキオンがこちらに戻って来る。
プロキオン
「師匠、ご一緒したいのですが、私も警備のクエストがありますので、これにて失礼させていただきます。宿はこの村は一つしかなく、このレストランバーの隣になります。明日でも明後日でもいいので、剣技を教えていただけると嬉しいです!よろしくお願いします!」
蓮也
「明日は再びヒーリングに行く。まずは、私の腕が使い物にならねば片手剣しか教えられない。だから、その後、気が向いたら教えてやる」
プロキオン
「ありがとうございます!師匠!」
「ヘティスさんも、ありがとうございました!」
ヘティス
「あ、うん。こちらこそ、案内ありがとうね、プロキオンくん」

プロキオンは走ってクエストに向かう。
蓮也たちはレストランバーの中に入る。店員に案内され、丸いテーブルに、蓮也・ヘティス・ヘパイトス・ブーバ・キキが座る。

ヘティス
「あれ?ポコーはどのいったの?」
蓮也
「ポコーは夜はあまり活動的ではない。今頃花の中で寝ているだろう」
ヘティス
「ふーん、変なの~」
ブーバ
「腹減ったわん!」
キキ
「お腹すいたにゃん!」
ヘティス
「アンタたち、さっき何か変なゲテモノを食べてたでしょ?もうお腹すいたの~?」
「てゆーか、お腹すいたのはこっちのセリフよ~!もう、ペコペコなんだから!モリモリ食べるわよ~!」
蓮也
「金に限度がある。量は程々にしろ。それに食い過ぎは健康に悪い。何事も腹八分目だ。いいか。経済と健康、この維持が戦いには重要だ」
ヘティス
「なんか蓮也って合理的過ぎて面白くなーい。それに私、戦いなんかしないもん。で、食事ってのは、単に栄養を補給するためだけじゃないのよ。楽しい会話をしながら、食事の美味しさを味わって、それが人間としての幸せなのよ~!」
蓮也
「毎日、食い過ぎて、それで病気になり、金がなくなり、それが幸せというのか」
ヘティス
「も~、今からせっかく食事を楽しもうってのに、何か興醒めよね~」
「ねぇ、ヘパ」
「今の蓮也と私の会話を聴いてどう思う?」
ヘパイトス
「お金持ちはエンゲル係数が低いとされています。そして、腹八分目とすることで生活習慣病を防ぎ、医療費が削減され、健康に働くことができます。また、少食はアンチエイジングにもなりますので、美容面でもプラスです。ですから、蓮也さんの言われることは、とても理に叶っていると言えます」
ヘティス
「何よ!ヘパまで!どうせあんたには人間の気持ちなんかわかんないわよ!人間の幸せは人間が決めるの!」
「蓮也の頭の中はAIみたいね、ちっとも面白くないわ!」
ヘパイトス
「ヘティス、ロボットを差別してはいけませんよ」
ヘティス
「もー、うるさい!」
「それにパパはお金の価値観が強すぎるわ。パパの価値観が基礎プログラムに設定されてるから、ヘパからはサイテーな答えしか出てこないのよ!」
ブーバ
「まあまあ、ヘティスわん、抑えて抑えて」
「とりあえず、注文しようわん」
キキ
「お腹すいてると怒りっぽくなるにゃん」
「とりあえず、注文しようにゃん」
ヘティス
「・・・まあ、そうね」

と言うことで、ウエイターを呼ぶ。

ウエイター
「いらっしゃいませ」
ヘティス
「何かオススメのコースとかないの?この人は食べないから、人間二人と動物二匹のコースをお願い」
ウエイター
「お話はプロキオン様に伺っております。こちらで特別メニューを用意しております。お代の方はプロキオン様からいただいておりますので」
ヘティス
「やーん、プロキオンくん、ありがとう~!とても、いい人ね~!」
「蓮也~、あんた、ちゃんと彼にしっかり剣術教えてあげるのよ~!サービスしてあげるのよ~!」
蓮也
「どのようなことがあろうと、誰であっても、教授する内容は同じだ。教授料ももちろん取る」
ヘティス
「こういう接待を受けた時は、少しはサービスするものよ~」
蓮也
「そのようなことは剣術の教授と関係はない。そして、私は誰であろうと平等に対応する。特別扱いはしない」
ヘティス
「もう、あなたと話していると何か疲れるわ!食事、食事よ!」

そうこうしていると、次々に料理が出てくる。そして、メインディッシュが出てきた。
ヘティスは蓮也の食べる姿を見て、やはり、左腕の具合がよくないのだなと思った。

ブーバ
「この肉、うまいわん」
キキ
「この肉、うまいにゃん」
ヘティス
「ホント!美味しいわね!このお肉!そしてソースの香りがとてもいいわ~!」
蓮也
「この肉はドラゴンの肉だ。メニューにドラゴンステーキの竜肝ソースと書いてある。気をきかせて、なかなか上等な肉を用意してくれたようだな。プロキオンに感謝することだ」
ヘティス
「えええええええええ!」
「きょ・・・恐竜のお肉・・・」
「どうしよう・・・」
「食べちゃった・・・」
「なんか具合が悪くなってきた・・・」
「も、もういいわ・・・」
蓮也
「さっき腹一杯食べると言っていたではないか?」
「それに残すのは勿体ないだろ?」
「彼の好意でもあるし、さあ、残さず食え」
ヘティス
「気分悪いわ・・・。あんたたち・・・私の分も全部食べていいから」
ブーバ
「ドラゴンステーキ、美味いわん」
キキ
「竜肝ソース、素敵にゃん」

と、言うことで食後に飲み物が出された。

ヘティス
「とりあえず、飲み物でお口直しよ・・・」
「一応、何が入っているか、今度はウエイターさんに聴いたから安心よ」
「レインボーフラワリングティー、七色のお花のフレーバーティーね」
「いい香り~、癒される~。見た目も色とりどりで綺麗~。写真とってSNSに上げたくなるわ!」
「ところで蓮也、手は治ったの?」
蓮也
「いや、まだ治らないが、少しだけマシになった気がする。まあ、まだ戦闘ではまだ使い物にならんし、日常でもあまり動かすことはできない。明日、また来いと言われているので、行くつもりだ」
ヘティス
「あ、そうなんだ。よかったね。それと、もう一つ聞きたいんだけど」
蓮也
「なんだ?」
ヘティス
「蒼き魔術師って知ってる?」
蓮也
「蒼き魔術師・・・聞いたことがある。あらゆる魔術を使いこなし、軍略優れた伝説の魔術師だ。しかし、その出自・経歴は謎のベールに包まれている。我が祖父・円也王にも仕えたと言う伝説の五行英雄だ。暗黒戦争以降、その姿を消したとされるが」
「ところで、ヘティス、なぜ蒼き魔術師を知っている」



ヘティスはエスメラルダとのいきさつを話した。

ヘティス
「個人情報かもしれないから、エスメラルダさんには内緒ね」
「でね、蒼き魔術師を探し出したいの!」
「そしてね、彼女の想いを解き放ちたいの!」
「何十年越しかのハナツオモイ、素敵でしょ~?」
蓮也
「ハナツオモイ・・・か」
「エスメラルダは我が祖父のことも知っているようであるし、こちらに蒼き魔術師が加われば、私としても心強い。まあ、現在も生存していたら、の話だが。しかし、それなりの高齢だろうが、魔法型なら今も十分戦える」
ヘティス
「蓮也~、あなた戦うことばかり考えているけどさ~、何のために戦っているの?」
蓮也
「ヘティスは何のために生きているのだ?」
ヘティス
「ん~、前にも誰かにそんな質問されたことがあったっけ~?」
「私は、未来の世界にいた時は、ゲームして楽しんだり、動画観たり、VR楽しんだり、友達と遊んだり、ショッピング行ってお洒落したり、カフェしたり、・・・数えきれないくらい、たくさんあるわ!」
「けど、それって自分の価値観に素直になり、自然に振舞うことだと思うの。そうやって生きていくのが私の人生のコンセプトかな」
蓮也
「私にはヘティスの言っていることの半分も理解できないが、たくさんあることはいいことだな。素直に、自然にというのも悪くないと思う」
ヘティス
「でしょ?たまには褒めてくれるのね。てゆーか、私が聴いているのよ?やっぱり戦うのが楽しいの?そのために戦うの?ちょっとわかんないわ、その感覚」
蓮也
「何のために戦うか・・・か。以前にも同じ質問をされたことがあったな」
(最強の傭兵・スサノオ・・・、今も彼はどこかで戦いに明け暮れているだろうか?)
ヘティス
「へー、そうなんだ」
蓮也
「答えとしては、理想の世界を創造するため、だ」
ヘティス
「理想の世界を創造する・・・」
(なんか意外な答え・・・思っていたほどの戦闘マニアではないのかも)

ヘティスは蓮也が単に無目的に戦っているのではなく、そこに何らかの目的や哲学がある、と感じたのであった。

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