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ハナツオモイの章

13.ココロの夜明け

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蓮也は夢の中で声を聴いた。

夢の中の声
(あなたの近くの人を守ってください・・・)
蓮也
(誰だ、あなたは?)
夢の中の声
(その人を守り続けてください・・・)
蓮也
(なぜ、そのように問いかける?)
夢の中の声
(そして、一つの道を進んでいってください・・・)
蓮也
(どのような意味なのだ?)

【楽曲・ハナツオモイ】
https://youtu.be/DoIbhlgDFx4

蓮也は夢から覚めて、現実の世界へと降り立った。
腕には柔らかく温かい感触がする。

蓮也
(桃の香り・・・)

ヘティスの小さな身体からの寝息を感じる。
ヘティスを起こさないように、静かに起き上がり、そっと毛布をかける。
そして、自分の身体の変化にも気づいた。

蓮也
(昨日よりも手が動く・・・まだ、少し麻痺は残っているが)

外はまだ暗いが、蓮也は顔を洗い、着替えて剣を取り、外へ出る。
剣の型の稽古をすることが日課であった。誰もいないところで、ひっそりと、行った。

蓮也の戦い方は、右手は剣で物理攻撃し、左手は魔法攻撃する。手が麻痺していても魔法は使えるのであるが、その魔法を命中させる場合、手が麻痺していると精度が落ちる。インテグリストやウィザードナイトの戦い方は、魔法攻撃を仕掛け相手を怯ませて、そこから物理攻撃を行うというパターンとなる。

蓮也は木の枝目掛けて軽く風魔法を放った。

蓮也
「疾風波!」

三回程、放ったが、二回は外れ、一回は命中し、木の枝は切断されて、その場に落ちた。
蓮也
(やはり、まだ完全ではないか・・・)

陽が登り始め、その光をセンサーで感じ、ヘパイトスが起動する。

ヘパイトス
「ヘティス、朝!」
「ヘティス、朝!」

ヘティスが眠そうな表情を目を覚ます。

ヘティス
「ん~、まだ眠いわ~」
(そういえば、昨日・・・)

ヘティスは昨日のことを思い出した。



(やだ・・・、またドキドキしてきちゃった)
(大丈夫よね?私。何事もなかったわよね・・・?)

胸に手を当てると、まだハートのチャクラがほのかなピンクを帯びているような感じがした。

ヘティス
(それとエウリディーチェって誰・・・)

複雑な想いを胸に感じながら部屋を見ると、蓮也の姿がない。

ヘティス
(あれ、蓮也はどこにいっちゃったんだろう?)
(・・・まあ、いいわ。あんな嘘つき!)
(・・・手、動かせるじゃない!)
(麻痺しているって言ってたのに・・・)
(あんなに強く抱きしめるなんて・・・)

朝、まだ眠く、不機嫌なのか、ヘティスは少しムッとした表情をしつつも、いつもとは違う胸の鼓動を感じていた。しかし、その時、自分も、抵抗できたし、声も出せたはずだし、それをしなかったのはなぜか、という問いかけもした。

ヘティス
(まあ、いいわ!今回だけは!次は絶対、別々の部屋よ!)

と、思いつつ、身体は少し高揚していた。

ヘティス
(・・・昨日、あんなことがあったから、身体の感覚が何か変だわ。ちょっとシャワーを浴びてくる)

ヘティスはシャワーを浴び、パジャマから普段着へと着替えた。
シャワーは風の魔導石によって水が引き上げられ、火の魔導石によって温められるのであるが、もうヘティスは普通のシャワーとして使っていた。
シャワールームから出て来ると、蓮也が部屋に戻っており、椅子に座っている。そして、食事の準備がルームサービスによって運ばれてきていた。



蓮也
「人数分、頼んでおいてやった」
ヘティス
「ありがとう・・・」



火の魔導石の上にパンとミルクを乗せると、それらが温められる。
本来なら興味を示すヘティスであるが、昨日のことを意識してか、この時は反応がなかった。
ヘティスはベッドに座り、パンを口にする。
ブーバとキキにも食事を与える。

ヘティス
(昨日、あんなことがあって、なんか気まずいわ・・・)
(けど、私が何かしたわけじゃないし、むしろ私は被害者なんだから、何で私が気をつかう必要があるのよ・・・)

そう考えていたが、何か気まずいと思ってヘティスが口を開いた。

ヘティス
「・・・あのさ」
蓮也
「なんだ」
ヘティス
「手、動くじゃない・・・」

蓮也は右手でパンを掴み終えた後、無意識に左手でコップを持っていた。

蓮也
「・・・そうだな」
ヘティス
「よかったわね・・・」
蓮也
「昨日のヒーリングが効いたのかもしれない」
ヘティス
「・・・そう」
蓮也
「まだ、完全に治ってはいないが」
ヘティス
「今日もいくの?」
蓮也
「ああ、来いって言われているからな」

その後はまた沈黙が続く。
そこまで聞くつもりもなかったのだが、ヘティスは口に出した。

ヘティス
「あと・・・、エウリディーチェって誰?」
(私、何聞いているの・・・!)
蓮也
「お前には関係のないことだ」

少し蓮也の表情と声のトーンが変わった。

蓮也
「第一、俺とお前は何も関係がない。そんなことを聞かれる筋合いもない」

それを聴いたヘティスはムッとした。

ヘティス
「じゃあ、なんで・・・」

と言ったきり、口を噤んだ。
その後は、「私を抱きしめたの?」と言いたかったのだろう。
それも多分、眠っていて意識がないから、と言われると思ったからだ。
そして、それは自分を抱きしめたものではない、ということであった。そうわかっていても、動いてしまった感情は止められない。
ヘティスはこぼれ落ちそうな涙を堪えて洗面所に向かった。
そして、洗面所で声を押し殺し、しばらくの間泣いていた。

泣いた後は、自分の今すべきことを思い出し、少し気持ちが落ち着いた。
そして、再び、ヒーラー・エスメラルダのところへ行くことにした。
入り口には、美しい女性が待っていた。

エウリュノメー
「お待ちしていました、蓮也様とヘティス様ですね」
ヘティス
「あれ、今日はスピカちゃんいないの?」
エウリュノメー
「はい、スピカ様はクエストに出かけていらっしゃいます」
ヘティス
「お姉さん、お花が一杯ついてて、とても綺麗ね~。名前は何ていうの?」
エウリュノメー
「はい、エウリュノメーと言います」

女性の年齢は20代後半くらいに見える。髪はブラウンで自然なソバージュがかかっており、花飾りをつけている。

蓮也
「おい、ヘティス。そいつはゴーレムだ。人間ではない」
ヘティス
「え、ゴーレム?」
蓮也
「オーラでわかる」
「ゴーレムとは泥人形に魔法をかけたものだ」

ゴーレムと人間の見分け方は目である。ゴーレムは目が大きく、黒い瞳の比率が大きい。蓮也はオーラで見分けるが、普通は目の大きさでわかる。
そこへ、フワフワと何かが飛んでくる。

ポコー
「そーいうポコ」
「けど、ゴーレムを作るには魔法レベルが相当高くないとできんポコよ」
ヘティス
「あれ、ポコー、来てたのね」



ポコー
「当たり前ポコ。お前が蓮也に変なちょっかいを出さないか監視する必要があるポコ!」
ヘティス
「あのね~、そんなことするわけないでしょ!」

するとヘパイトスがヘティスの影に隠れる。

ヘティス
「ヘパ、どうしたの?何か怖いの?」
ヘパイトス@汎用性AIロボット
「・・・いいえ」
ヘティス
「変なコね、急に~。まあいいわ」
エウリュノメー
「蓮也様は一番奥の瞑想ルームにお入りください。そこでエスメラルダ様がお待ちです」
「ヘティス様はヒーリングルームに入って、しばらくお待ちください」

蓮也が瞑想ルームに入るとエスメラルダが瞑想状態で待っていた。
部屋には、像があり、肖像画が飾ってある。

エスメラルダ
「お待ちしておりました」
蓮也
「今日はヒーリングではないのか?」
エスメラルダ
「私のできるヒーリングは昨日終了しています。後は瞑想による自己ヒーリングとなります。よろしいでしょうか」
蓮也
「ああ、はじめてくれ」


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