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ハナツオモイの章

16.祈りのエネルギー

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未来からタイムスリップしたヘティスは、様々な経緯を経てヒーラーになることに決めた。
そのために、五行英雄の一人、深緑のヒーラーと言われるエスメラルダに師事した。



エスメラルダ 
「今日はセンタリングしてお祈りをします」
ヘティス
「せんたりんぐ?」
エスメラルダ 
「身体を真っ直ぐにして、身体の中心・エネルギーセンターにエネルギーを通していくのがセンタリングよ」

ヘティスはそのようなことができるのだろうか?と思った。

エスメラルダ 
「既にアナタは一回、身体の真ん中のスシュムナー管にエネルギーが通った痕跡があるわ。だから大丈夫、できるわ」

ヘティスは以前、妖精ポコーとの出会いで、一度、クンダリニーエネルギーが通っている。それを何度も通すことで、そのエネルギーセンターは強い力を発揮するようになる。ヘティスは、まだその兆しの最初の段階であった。

エスメラルダ 
「昨日みたいにアーサナからムドラー、そして瞑想状態に入って」
ヘティス
「はい」

ヘティスは跪座になり、胸の前で合掌し、目を閉じる。

エスメラルダ
「その胸のハートを中心として、上下にハートのエネルギーが伸びていくとイメージして」
ヘティス
(こうかな・・・)
エスメラルダ 
「そう、その調子よ。下はこのガイア(地球)の中心とつながるの。そして、上は広大な銀河につながる・・・」

ヘティスは、ハートで母なる地球の暖かさを感じ、広大な宇宙の銀河の雄大さを感じた。

エスメラルダ 
「そのエネルギーを宇宙全体に回向していくの」
「それでは、本日もお祈りをはじめていきます」



【楽曲・小さな光 -Mentalightness-】
https://youtu.be/6yZW0qMabO0



小さな光を 心に灯しましょう
やさしさの光を 心に灯して
悲しい日も 辛い日も 心を照らして
寂しい日も 苦しい日も あなたを包み込む
あなたに幸せを
誰かに幸せを
全てに幸せを

かすかな光で 心が煌めいている
慈しみの光で あなたが輝く
悪人も 罪人も 光の恩寵を
生きとし生ける全てに 光の恩寵を
あなたが幸せに
誰かが幸せに
全てが幸せに

祈りの言葉が終わった。
ヘティスは心が平穏になったのを感じた。
そして、講義が始まった。

エスメラルダ 
「この宇宙の根本物質を自性(じしょう)またはプラクリティと言います」
ヘティス
「ぷらくりてぃ?」
(プリクラなら知ってるけどw)
エスメラルダ 
「そう、全てはこのプラクリティから創造されます」
「星も、石も、水も、草木も、動物も、そして私やヘティス、アナタも」
ヘティス
(私たちの世界では原子とか?それより細かい素粒子とか)

宇宙は真空の揺らぎから始まったとされる。その真空の揺らぎのエネルギーが自性・プラクリティかもしれない。

エスメラルダ 
「healing(ヒーリング)のheal(ヒール)という言葉の語源は全体(whole)という意味です」
「この宇宙の物質の全体がプラクリティという母なるエネルギーからできているのです」
ヘティス
「・・・母なるエネルギー」
(私のお母さんは私が生まれてすぐに死んじゃっていないけど・・・)

ヘティスは写真でしか見たことのない母を思い出し、その母も自分も一つのところから生まれ出たということを考え、少し不思議な気持ちになった。

エスメラルダ
「全ての物質がこのエネルギーからできているため、このエネルギーをうまく調和させ、秩序正しくすれば、心や身体は整うのです」
ヘティス
「なるほど、だからヒーリングには全体って意味があるのね」
エスメラルダ 
「そう、その人の全体性を回復させる力を引き出すのがヒーリングよ」
「その人が宇宙から与えられた回復力を引き出すから、私たちヒーラーはサポート役、ってことも覚えておいてね」
「はい、わかりました」

ヘティスはMMORPGのヒーラー役をプレイした経験もあるので、その感覚は何となくわかった。派手なフィニッシャーとかではなく、支援系のキャラのやりがいもわかっていた。

エスメラルダ 
「そこで、昨日アナタが言っていた、悪人・罪人に対してもなぜ幸せを祈るのか?ってことなんだけどね」
ヘティス
(あ、そんなこと質問したわね)
エスメラルダ 
「どのような悪人・罪人も、全てはこの母なるプラクリティから生まれた子供なの。悪人・罪人も、私もアナタも、全て同じ一つのところから流出した尊い生命なのよ」
ヘティス
(全て同じ一つのところから流出した尊い生命・・・)
(じゃあ、私も蓮也も元々は一つのところから・・・)
エスメラルダ 
「その全ての人に幸せを祈る、これが慈しみ光、“慈悲”の心よ」
ヘティス
「・・・愛しみの光、慈悲の心」
エスメラルダ 
「この慈悲のエネルギーは平等愛のエネルギー」
ヘティス
「平等愛?」
エスメラルダ
「そうよ」
「アナタの大切な人を思い浮かべてみて」



ヘティス
(蓮也・・・じゃない・・・なんであんな奴が一番最初に浮かんでくるよ!
(そうじゃなくって、・・・パパよ)
エスメラルダ 
「あの人のことを今、考えたわね?」
ヘティス
「ち、違います!パパ、です。パパのことを考えました」 
エスメラルダ 
「うふふ」
「じゃ、パパにしましょう」
「例えば、あなたのお父さんが生命の関わる病気の場合、どんな気持ちになる?」
ヘティス
「とても心配になるし、パパが死んじゃったら私独りになっちゃうから寂しいわ」
エスメラルダ 
「じゃ、他人のお父さんが同じように病気になったのを知ったらどう思う?同じような気持ちになれる?」
ヘティス
「・・・それはちょっと無理かも」
エスメラルダ 
「アナタのお父さんも誰かのお父さんも、全てはプラクリティの一部なの。そう見ることでプラクリティにアクセスできるようになるのよ」
ヘティス
「頭ではわかりますが・・・」
エスメラルダ 
「そうね、だから私たちは心のレッスンが必要なの、平等に愛を送る心のレッスンよ」
「もちろん、日常に戻ったら、お父さんを世界で一番愛してあげればいいわ」
ヘティス
「はい」
(・・・パパ、元気にしてるかな)

朝の講義が終わり、そこから治療院の仕事が開始される。

エスメラルダ 
「この男性は肺の病ね」
「悲しみが強いと肺を病むと言います」
「孤独なエネルギーを感じるわ」

男性は、自分の身勝手な行動故に妻が子供を連れて出て行ってしばらく孤独であった。そのため、家で独り塞ぎ込み、酒をあおっていた、そうしたことを男は話し出した。

エスメラルダ 
「今日はヘティス、あなたがやってみて」
ヘティス
「えっ!私が?」
エスメラルダ 
「大丈夫、私がサポートするから」
ヘティス
「わ、わかりました・・・」

エスメラルダがヘティスに指示を出す。ヘティスは指示通りに、患者の胸に手を当てた。

エスメラルダ 
「まずリラックスして、センタリングしてみて」

ヘティスは地球と宇宙とつながるような感じになった。
ヘティスが変性意識状態になると、苦しそうにしていた患者は眠りだした。

ヘティス
「あれ、寝ちゃった」
エスメラルダ 
「エネルギーの感応よ。ヒーリングの扉が開いたと思っていいわ」
ヘティス
(そうなんだ・・・)
エスメラルダ 
「相手のエネルギーにつながった状態になっているの。そうすると、相手のエネルギー状態もわかりやすくなるわ。
「この閉まるような、冷たい、硬いエネルギーが孤独のエネルギーよ、わかる?」
ヘティス
「えーと・・・」
(確かに、言われてみると、そんな感じが・・・)
(この人がもし私のパパだったら、私はどう思うのだろう・・・。)

ヘティスは涙を流していた。

エスメラルダ 
「エンパシー(共感)が強すぎると、相手のエネルギーに引っ張られてしまうから気をつけて。自分の中心軸をしっかりと立ててセンタリングして」
ヘティス
「はい」
エスメラルダ 
「そして、慈しみの光のエネルギーを注ぐ」
ヘティス
(全ては母なるプラクリティから生まれ出た・・・)
エスメラルダ 
「ヘティス、よくできました」

ヘティスは一気にぐったりとしたが、何か自分の存在意義を確認したような達成感もあった。
そこへ受付役のエウリュノメーの案内で、一人の女性と二人の子供が入ってきた。出て行ったはずの妻と子供たちであった。意識を取り戻した男性は、妻と子供と抱き合い、もう一度家族としてやり直すことにした。

エスメラルダ 
「ヒーリングが進めば、全体性が回復し、シンクロニシティ(共時性)が起こる。ヒーリングが進めば、ニダーナ(因縁)が進み、その人の人生が動き出すのよ」
ヘティス
(ヒーリングは全体性が回復して人生が進み出す・・・ヒーリングってスゴい)

それからエスメラルダの臨床を見ながらヘティスは学習し、治療院の業務が終わった。

エスメラルダ 
「今日も、お疲れ様。質問はある?」
ヘティス
「先生は手を当てることもありますが、手を当てないこともありますよね?手を当てないのに、何で患者さんは元気になるんですか?」
エスメラルダ 
「まず、手を当てる場合は物質体にヒーリングしているの。そして非接触の場合はエーテル体以上の微細なエネルギーにアプローチしてる。これはまた別の日に説明するわ」
ヘティス
「へー」
エスメラルダ 
「非接触のヒーリングは二系統あるの。一つは手から出る物理次元のエネルギーによって。もう一つは、祈りのエネルギーよ。祈りのエネルギーは、心理次元のエネルギー。だから、この祈りの心理次元のエネルギーは、どれだけ離れていても伝わるの」
ヘティス
「え~、不思議!」
エスメラルダ 
「この祈りの心理次元のエネルギーを別名、遠隔ヒーリングと言います」
ヘティス
「えんかくひーりんぐ!」
エスメラルダ 
「更にこの心理次元のエネルギーは時空間を超えるから、過去にも未来にもエネルギーを送ることは可能だわ。ただし、未来は無限に分岐するから、対象のエネルギーを捉えるのが難しいのよね」
ヘティス
(過去にエネルギーを送る場合、過去が変わるのかしら?過去が変わったら、今が変わるのしら・・・。謎だらけだわ・・・。)
エスメラルダ 
「遠隔ヒーリングは、祈る対象をイメージして、祈りの言葉と想いを送ればいいわ。あなたのエネルギー体が働きだし、時空間を超えて、その人のエネルギー体であるサトルボディ(微細身)に働きかけるの」
ヘティス
(私が祈れば、蓮也もよくなるかな)
エスメラルダ 
「あの人のこと、今、考えたでしょ?」
ヘティス
「そ、そんなの知りません!」
エスメラルダ 
「ハートがピンクだったわ」
ヘティス
「もう、観ないでください!」
エスメラルダ 
「祈ってあげて。まだ、彼は瞑想の中にいるから。思ったよりも傷ついているかもしれない。祈りは基本どこでもできるけど、この祭壇だと祈りのエネルギーが強くなるわ。いつでも自由に使って」
ヘティス
「はい、ありがとうございます」

ヘティスは蓮也の力になりたいと思った。そして、時間の許す限り祈ろうと思った。

【解説】
慈悲:
慈悲とは、慈(マイトリー)と悲(カルナ)から成り立つ。
慈とは楽を与えること、悲とは苦を抜くこと。
慈悲とはば抜苦与楽のことである。


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