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ハナツオモイの章

17.抵抗から解放へ

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蓮也は自身の治療のため、瞑想状態の中で五行英雄の一人、白き祝由師・オオタネコと出会う。



オオタネコ
「にゃん、にゃん、にゃん、にゃん、ねこにゃん、にゃん!」
「ネコに治せないものはないにゃん」
蓮也
「それは頼もしいな」
オオタネコ
「だから遊んでほしいにゃん」
蓮也
「それはいい」
オオタネコ
「遊んでくれにゃいにゃら荒療法になるにゃん」
蓮也
「構わん」
オオタネコ
「楽に治す方法より荒療法を選ぶとは、蓮也にゃんは変わってるにゃん」
蓮也
「さあ、はやくやってくれ」
オオタネコ
「そう焦るなにゃん」

オオタネコは杖をかざし、杖から光が放たれる。その光で蓮也のエネルギー体であるサトルボディを照らしスキャニングする。

オオタネコ
「それにしても、トンデモないエネルギー体をしてるにゃん」
「けど、各エネルギーがバラバラにゃん」
蓮也
「それはエスメラルダにも言われた」
オオタネコ
「腕の呪いは邪神王クラスにゃんか、そして蓮也にゃんの煩悩性のエネルギーと共鳴したものにゃ」
「アンドレアにゃんは面倒なのをよこしたにゃ」
蓮也
「治るのか?」
オオタネコ
「できないこともにゃいけど、治すには苦しみが伴うにゃん」
「それでもいいのかにゃん」
蓮也
「ああ」
オオタネコ
「しゃーにゃいにゃん」
「やるにゃん」

オオタネコは符(御札)を懐から取り出し、指先からの光で符に光の文字を書いていく。書かれている文字は不明だが、遠い神代から伝わる文字らしい。そして不思議な言葉で祝(祈り)を捧げる。
更に、そのお札を杖の先端に取り付け、杖から出る神聖エネルギーを蓮也のハートエネルギー、アナハタチャクラに向ける。

オオタネコ
「神聖エネルギー、エーテル体照射にゃーん」
「さっき蓮也にゃんの記憶を見させてもらったけど、これは直近の出来事がかなり関係してるにゃん」
蓮也
「全てを失ったからな」
オオタネコ
「そうじゃないにゃん」
蓮也
「なんだと?」
オオタネコ
「蓮也にゃんの言っているのは意識上の話にゃん」
「確かにそれも辛かったと思うにゃん」
「しかし、無意識には別の反応があるにゃ」
蓮也
「ほぉ」
オオタネコ
「その無意識の状態を伝えるにゃ」
「覚悟はいいかにゃ?」
蓮也
「もちろんだ」

オオタネコは別の符を懐から取り出し、指から光を発し、文字を書いていく。文字も別の文字のようだ。
そして、そのお札を杖の先端に取り付けると、更に神聖エネルギーは強くなる。

オオタネコ
「神聖エネルギー、アストラル体照射にゃーん!」
蓮也
「うっ・・・」
オオタネコ
「苦しかったらやめるにゃん」
蓮也
「続けてくれ・・・」
オオタネコ
「わかったにゃん」

オオタネコが発する巨大な神聖エネルギーが蓮也の煩悩性エネルギーと鬩(せめ)ぎ合う。蓮也の表情が苦痛で歪む。

オオタネコ
「神聖エネルギー、メンタル体照射にゃーん!」
蓮也
「ぐぅ・・・!」
オオタネコ
「ここから更に行う場合、自我が崩壊するかもしれんにゃ」
蓮也
「いいから、続けろ・・・」
オオタネコ
「わかったにゃん」

しばらく神聖エネルギーの照射が続いた。その後、オオタネコが蓮也に問いかける。

オオタネコ
「蓮也にゃんにはお兄にゃんがいたにゃん」
蓮也
「ああ、死んだが」
オオタネコ
「そのお兄にゃんのことをどう思っているにゃ?」
蓮也
「そんなことを聞いてどうする」
オオタネコ
「いいから答えるにゃ。これも治療の一環にゃ」
蓮也
「ふむ・・・兄上には多くのことを教わった。兄は人格者でもあり、俺は彼のことを尊敬している」
オオタネコ
「それは意識上のことにゃ。蓮也にゃんの無意識はそうは言ってないにゃ」
蓮也
「ならば、何と言っている?」
オオタネコ
「兄が死んで嬉しいと言っているにゃ」
蓮也
「なんだと?」

蓮也の苦痛の表情に驚きの表情が加わる。

オオタネコ
「蓮也にゃんにはエウリディーチェにゃんという恋人がいたにゃん」
蓮也
「ああ、既にその人も、この世にはいない」
オオタネコ
「彼女が死んだことについて、どう思うにゃ?」
蓮也
「もちろん、愛する人が死ねば悲しいのが当然であろう」
オオタネコ
「無意識はそうじゃにゃいにゃ。蓮也にゃんは彼女が死んでよかったと思っているにゃ」
蓮也
「おのれ、いい加減なことを言うと叩き切るぞ!」

蓮也の表情に怒りが加わる。

オオタネコ
「まあ、待つにゃ。理由を聞くにゃ」

握り締めた剣を下ろし、感情を抑え、蓮也は聞くことにした。

オオタネコ
「お兄にゃんと彼女は結婚することになっていたけど、悪魔・邪神によって二人とも亡くなってしまったにゃん」
蓮也
「・・・」
オオタネコ
「お兄にゃんが殺されることで、彼女をお兄にゃんに取られなくてよかったと思ったにゃん。だから蓮也にゃんはお兄にゃんが死んでよかったと無意識で思ったにゃん」
蓮也
「何・・・」
オオタネコ
「邪神がお兄にゃんを殺そうとしたマインドと、蓮也にゃんのマインドが深い層では同じだから、それが感応して呪いエネルギーとなって手が麻痺してるにゃん」

蓮也は、はたしてそのようなことがあるのだろうか、と思った。

オオタネコ
「そして、彼女が死ぬことで、永遠に彼女を自分のものにしたと思っているにゃ」
「それが蓮也にゃんのハートを閉ざす煩悩性エネルギーの根本となっているにゃ」
「だから、彼女が死んだことで、蓮也にゃんはなんらかの快感を得ているにゃ」
「ついでに言うと、この結婚を決めた父親にも恨みを持っており、その父親が死んでざまーみろと思ってるにゃーん」

蓮也は身体を震わせた。

蓮也
「嘘をつけ!もし、俺のメンタルが関係しているなら、それは彼女を守れなかったという俺の不甲斐なさにあるのだ!断じて、兄や彼女の死を喜んでなどおらぬ!父に関しては色々と思うところはあるが、国政を維持するためのことと割り切っている!」
オオタネコ
「抵抗エネルギー確認にゃ」
「抵抗がはじまれば治療ははじまるにゃ」
蓮也
「いい加減なことを言うな!」

蓮也はオオタネコに対して強く反発するも、今度は剣を握らず、ただ身体を震わせるのみであった。
「抵抗」とは、意識が無意識を認めたくない時に起こる現象であり、その現象が確認されると治療が開始される。その抵抗をエネルギーレベルでオオタネコは確認した。

オオタネコ
「もう一つ、見せるものがあるにゃ」

オオタネコは蓮也のハートエネルギーを照らし出す。すると、緑色の小さな光が感じられる。

蓮也
「これは何だ?」
オオタネコ
「蓮也にゃんのことを大切に思ってくれる人のエネルギーにゃ」
「これを見るにゃ」

オオタネコは杖から光を放ち、空間の一点を照らすと、光のスクリーンが現れた。そこに祈りを捧げる女性が映し出されていた。ヘティスである。



オオタネコ
「このコは健気に毎日、蓮也にゃんに祈りを捧げているにゃ」
蓮也
「ヘティス・・・」
「まあ、俺がサトゥルヌスを倒さないとアイツの世界が救われないからな」
オオタネコ
「にゃんでそうにゃるかにゃ~」

その時、蓮也の心にヘティスを抱きしめた時の記憶が蘇ってきた。



そして、気付いたら、蓮也の腕の呪いは解けていた。

蓮也
「手の痺れが取れた・・・」
オオタネコ
「まだまだにゃ。これは末那識のアストラル体の呪いが解除されただけにゃ」
「これより下の阿頼耶識のメンタル体の呪いが解けないとダメにゃ」
蓮也
「ふむ・・・」
オオタネコ
「まあ、ネコの役目はここまでにゃ」
「後はここで瞑想して自己ヒーリングするにゃ」
蓮也
「ここは既に瞑想の世界のはずだ」
オオタネコ
「瞑想の中で更に瞑想するにゃ。ここの世界は蓮也にゃんの末那識(まなしき)にゃ。更に瞑想すると阿頼耶識(あらやしき)にいくにゃ」
「全ては入れ子構造、ふらくたるにゃ!」
蓮也
「阿頼耶識・・・人間の心の最も深い層と言われている」
「面白い、やってみるとするか」

蓮也は更なる瞑想の深淵なる世界へと入っていくのであった。



【解説】
・祝由師とは「巫術(ふじゅつ)」の使い手で、「巫医」である。符(お札)と祝(祈り)を用いて治療を行う、これを「祝由」と言う。本作品では、HP回復系ヒーラーではなく、状態変化の回復やプロテクションなどの支援系ベルーフとして描いている。
・末那識は唯識の第七意識であり、本作品では自我や感情の層として描いている。その更に深層に存在するのが第八意識である阿頼耶識である。
・アストラル体(星気体)は本作品では、自我・感情面に関係する設定である。更に深層にあるメンタル体と対立関係や矛盾が生じることで心身に問題が起こること設定した。
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