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神器の章

蓮也1世誕生

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トントン

ドアを叩く音がする。



ローズ
「ヘティスさん、朝でございますw」
ヘティス
「ロズたん、おは~w」
ローズ
「私たち、今日で最後のお仕事なんです。短い間でしたが、ありがとうございました」
ヘティス
「えっ?そうなの?」
「てか、“私たち”ってどういうこと?」
ローズ
「この度、メイド隊が解散されることとなりまして」
「けど後宮ではなく王宮の普通のお手伝いをする形になるだけなのですけど」
ヘティス
「あ、そうなんだ」



ヘティスは、寝起きで頭があまり働いていない。
昨日は色々なことがあり、ヘティスは疲れきっていたが、幾分、心身ともに回復した感じがした。そして食事の間へと案内される。その日も煌びやかで色とりどりのオーラを放つ食事が用意されていたが、桃也の姿はなかった。そして、朝食を済ませてヘティスは自室へと戻る。

しばらく休憩していると、窓を叩く音がする。桃也の側近の一人である李統風である。



ヘティス
(あ、またモローさんの前世の人ね。いつ窓から来るかわかんないから、これじゃ、部屋の中であまり変なカッコウとかできないわ・・・)

一応、統風も気を遣って、部屋の中は見ずに、まず窓だけを叩き、相手の合図を待つ、というプライバシーに配慮した独自のマナーを持っている。
とりあえず、ヘティスは窓を開けて統風を入れる。

統風
「ヘティス殿、ありがとうございます」
ヘティス
「どうしたの?」
統風
「陛下は人が変わったように政務に復帰されております」
ヘティス
「ああ、それでさっきは朝食に来なかったのね」
統風
「桃源郷の間の美女隊もメイド隊も解散ということで、朝から急に王宮に様々な変化が起こっております」
「滞っていた政務も色々と動き出しまして」
ヘティス
「あら、そうなの」
統風
「ちなみに、どのような魔法を使われたのでしょうか?後学のためにもお聞かせ願えればと」
ヘティス
「魔法ねぇ・・・。ん~」
「一言で言うと・・・」
「・・・オモイを放つことかしら?」

統風はイマイチ理解できないような顔をしたが、再びお礼を言って窓から去って行った。
その後、ヘティスは桃也の自室へと呼び出された。

ヘティス
(ここはあの人の部屋なのよね・・・。昨日はあんなことされたから、今度は大丈夫かしら・・・)

恐る恐るドアを開き入って行く。
ヘティスは、また昨日のように桃也に抱きつかれ、押し倒されるのではないかと心配している。
桃也は、机にたまっている様々な書類に目を通している最中であったが、作業の手を止め、ヘティスをソファに座らせ、桃也も対面して、反対側のソファに座った。

桃也
「余は長い間、眠りについていた」
ヘティス
「私も昨日は疲れててすっごく眠ったわ。あんなに寝たの久しぶりよ。てか、そうなったのもアナタのせいだし・・・」
桃也
「ヘティスよ、余を、その眠りから覚ましてくれて感謝する」
ヘティス
(あら、どうしちゃったの、この人)
桃也
「聖盾は宝物庫にある。今日中に手配する」
「持ち運びやすいように、聖盾は空魔法で一時的に軽くしておいてやる」
「それを持って過去の世界へ行き、余の子孫に渡すことを正式に許可する」
ヘティス
「えっ!?ほんとに???」
(てゆーか、子孫じゃなくって、アナタの来世なのよw)
桃也
「皇帝に二言はない」
「その代わりに・・・」
ヘティス
(また、何かトンデモナイこと言い出すんじゃないでしょうね・・・?)
桃也
「余にアドバイスをしてほしい」
ヘティス
「アドバイス?私が?」
桃也
「余は今までの行いに恥じ、行動を改めようと思う」
「そこで、それを忘れぬように、これを期に改名しようと思うのだ」
「それをヘティス、其方にしてほしい」
ヘティス
「えっ、私がアナタの名前を変えるの?」
桃也
「そうだ」

ヘティスは一瞬考えようとしたが、考える間もないことに気づく。

ヘティス
「アナタのその素敵なピンクの髪の毛は、池に咲く美しい蓮のようよ」
「だから“蓮也”って名乗るといいわ」
桃也
「“蓮也”・・・か」
ヘティス
「蓮は、泥の中でも泥に染まらず、美しい花を咲かせるわ。アナタは国を治めるという大変なことをしていくわけだから、これからも大変なことがあるかもしれない。けど、それに染まってはダメよ。蓮のように、染まらずに美しく咲き続けて欲しいわ」
「これが私からの願いよ」
桃也
「よい名だ」
「本日より余は“此花蓮也”と名乗ることとするぞ」
ヘティス
(こんな風につながっちゃうのね。それにしても私が蓮也の名付け親になっちゃうなんて、変な気分・・・)

ここに超新星皇帝・此花蓮也1世が誕生するのであった。
その表情やオーラは以前と比べ引き締まり、より純粋で神々しくなっているようにヘティスは感じた。



蓮也1世
「それともう一つ」
ヘティス
「何?」
蓮也1世
「余が再び寂しさを感じぬよう、其方から何かを貰いたい。それと聖盾は交換でどうであろう」
ヘティス
(あげれるものってないわよ~、スマートグラスもスマートチョーカーも必要だし・・・。ヘパを連れてきて何か作ってもらえばよかったなぁ・・・)
(あ・・・、そうだ)

ヘティスは胸のフィビュラを外し蓮也1世に渡した。

ヘティス
「これを私だと思って大切にして。そして、アナタの子孫を守るための力を込めて、その子孫たちに渡していくの」
蓮也1世
「わかった、その通りにしよう」

こうして、この王家の証である聖なるフィビュラが歴史に織り込まれることとなるのである。

ヘティス
「じゃ、私からも提案ね」
蓮也1世
「なんだ」
ヘティス
「昨日、話したメイドのローズってコいたでしょ。アナタを兵士から守ろうとしたコよ」
蓮也1世
「そのローズがどうした?」
ヘティス
「ローズをアナタの側(そば)に、メイドとして置いてあげて」
蓮也1世
「今の余には、もうメイドは要らぬ」
ヘティス
「ああいう風にアナタを守ってくれたのはあの子だけよ。だから置いてあげて」
蓮也1世
「余に敵う者などこの世におらぬ故、余を守る者は一切不要である」
ヘティス
(やっぱこの人面倒な人ね・・・)
「アナタは私に意見を求めているんでしょ?だったらとりあえず、その通りにしてみて。ローズをアナタの側に置いてお世話をさせると、きっといいことがあるわw」
蓮也1世
「ふむ、其方は不思議な能力を持っているから、其方の言う通りにしよう」
ヘティス
(いやいや、アンタたちみたいにバケモノみたいな能力持ってないからw)
(けど、とりあえずよかったわw)

話し合いは以上で終了し、ヘティスは約束通り、蓮也1世から聖盾イージスを貰い受け、帰ることとした。

蓮也1世
「余、直々に見送ってやる。ヘティス、心より感謝する。其方のことを余は、この世を去る時まで忘れぬであろう」
ヘティス
「元気でね、蓮也。帰ってアナタの子孫に言ってあげる。超新星皇帝・此花蓮也は名君だったって。だから、精一杯、お仕事するのよ」

そして、統風にもヘティスは別れの挨拶をする。
蓮也1世の後ろには、世話係としてローズが控えている。

ヘティス
「ロズたん、ありがとう。蓮也をよろしく」
ローズ
「ヘティスさん、ありがとうございました。精一杯、陛下のお世話させていただきます」

ヘティスはタイムマシンに乗り込むと、マシンを起動させ、一瞬で光の彼方へと消えて行った。そして、蓮也1世たちは、その空をしばらく見上げ、名残惜しそうにするのであった。

晩年になっても蓮也1世はヘティスのことを忘れていなかった。そして、次のようなことを書き残している。



「光の彼方から緑の瞳の少女がやってきて、我らを救うであろう」
「その者を我が子孫は守るように」

と。これは聖盾を持って未来を救いにいくことと、自分たちを救ったことの両方を端的に書いたものであった。
これを歴史家の間では、予言として解釈されていたが、実際の出来事を織り交ぜた歴史の織り込みであることは、もちろん誰も知らない。

ヘティスはタイムマシンの時空間移動の中で、蓮也1世とローズの並んだ姿を思い出していた。

ヘティス
「結構、あの二人、お似合いかもw」
「あ、そうだ。ロズたんって歴史に載っているのかしら」

ローズは、蓮也の世話係となるが、やがて二人は結ばれることとなる。そして、ローズは蓮也1世の良き伴侶として彼を生涯に渡って支え続け、晩年は蓮也1世の最後を看取るのであった。その人生をローズは、幸せであったと言っていた、とされている。

ヘティス
「そっか、よかったね、桃也・蓮也1世・・・、寂しくなくて。ロズたん、幸せになれてよかったね・・・」

ヘティスのグリーンの瞳には、嬉し涙でいっぱいに溢れていた。



このメアリー・ローズとは、ヘティスは意外な場所で再び出会うことになるのであるが、その予想できないような再会は、また別の話である。

再びヘティスは蓮也のいる時代に帰ってきた。辺りは真っ暗で夜になっていた。時間は、ほぼ1日が過ぎようとしていた。
タイムマシンは過去が大きく変化する場合、戻る時空座標にズレが大きく生じるようである。今回は、予想以上のズレではないので、ある程度、織り込み済みの内容であった可能性が高い。しかし、この織り込まれた歴史を辿ることが、今後、重要な意味を持ってくるのである。

ヘティス
「あー、なんでこんな変な時間になってるのよ。これじゃ、宿舎に帰っても蓮也も寝てるだろうし鍵かかってるわよね・・・。とりあえず、ダメ元で宿に行って、ダメなら狭いけどタイムマシンの中で寝るしかないわね・・・」

ガチャ

ヘティス
「あれ、空いてるし・・・」
蓮也
「・・・ヘティスか」



メタボ柴犬のブーハと痩せ型三毛猫のキキが、嬉しそうにヘティスに駆け寄る。ヘティスは二匹を抱きしめる。ヘパイトスも反応して“ヘティス、おかえり”の定形文的な挨拶をして、再びスリープモードとなる。

ヘティス
「聖盾は貰ってきたわ、タイムマシンの中にあるの」
蓮也
「そうか」
ヘティス
「“そうか”、じゃなくって“ありがとう”って言うのよ、そういう時は」
蓮也
「で、蓮也1世はどんな人物だったのだ?」
ヘティス
「とても素晴らしい名君だったわ」
「それよりも、こんな時間まで何してんのよ?もう寝てるのかと思ったけど」
蓮也
「ああ、ちょっと、調べ物があってな・・・」
ヘティス
「あ、そう」

ブーハとキキがヘティスに言う。

ブーハ
「蓮也わんは調べ物してたんじゃなくって、さっきからずっと、立ったり座ったり歩き回ったりして、ソワソワしてたわん」
キキ
「蓮也にゃんは、ずっとソワソワしてるから、ブーハもキキもうるさくて寝れてないにゃん」
ヘティス
「あら、そう・・・」
「・・・ソワソワね」
「・・・そうなのね」

蓮也
「おい、ヘティス、何を話している」
ヘティス
「こっちのことよ」
「うふふw」

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