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19 刹那的な輝き
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流星群を見た日の朝方、僕は少し眠かったけれど早起きした。この日からお盆で、我が家にとっては兄の初盆なのだ。親戚が集まってお坊さんを呼んで法要があり、お墓参りや会食もあった。
お盆ということで、久しぶりに『桜ヶ丘珈琲』に行かない日が連日続いたけれど、彼女も初盆とのことで忙しいようだった。
彼女の場合は祖父と両親の初盆だ。彼女の祖母宅に親戚が集まると聞いていた。
お盆の間は食卓に母が兄の食事も用意していた。見えないけれど、きっと兄は帰ってきている。だから兄の好物ばかりが食卓に並ぶ。とはいえ、兄は家族が暗くなるのを嫌うので、家族の会話は明るく、また最近の出来事の報告といったものが多かった。
お盆が終わり、再び『桜ヶ丘珈琲』に通うようになると、彼女もやってきた。相変わらず、二人で並んで絵を描きながら会話する。
「サヤのとこのお盆はどうだった?」
「親戚がすっごく集まった。おばあちゃんちって、おじいちゃん死んでからおばあちゃんが一人暮らしなんだけど、――あ、今は私もいるけどね――家が広いからか普段静かなんだけど、久々に家が賑わったよ。みんな泊って行ったしね。――コウ君はどうだった?」
「兄ちゃんには会えなかったけど、たぶん帰って来てると思う。兄ちゃんの夢を見たし」
「へえ~、お兄さん、夢で会ってくれたんだね。良かったね」
「うん」
兄に話すことが多くて僕ばかりしゃべっていたような気がする。起きた時には、夢の内容の大半は忘れてしまっていたけれど、兄に会えて嬉しかった気持ちは残っていた。
彼女が僕のタブレットを覗き込む。
「お兄さん、嬉しそうだね」
そこには僕の話を笑顔で聞く兄の姿があった。
● ● ●
お盆が終わって三日後。
昼前から『桜ヶ丘珈琲』で絵を描いていた僕は、その日の夕方六時半になるとクーラーのある室内からバルコニーへ出た。お盆が過ぎ、夕方になると風が吹くバルコニーは少しだけ涼しくなってきた。
「もう花火始まった?」
今日はまだ『桜ヶ丘珈琲』に来ていなかった彼女が笑顔で声を掛けて来た。この日は湖で花火大会が行われる予定で、最初から彼女はこの日は花火だけ見に来ると言っていた。一階で買って来たのであろうアイスキャラメルラテを手に持っている。
「まだ。七時十五分からだから、もう少しある」
バルコニーでの定位置の席に二人で座る。
『桜ヶ丘珈琲』のバルコニーは花火大会の穴場だと知っている人は知っているので、すでに一階のバルコニーは人が集まりだしているのか、階下から声がする。
「俺も何か買ってくる」
「うん」
彼女を置いて一階でアイスティーを買うと、叔父が揚げたてポテトをおまけでくれた。さすが叔父。ありがたくいただいて、彼女の元に戻る。
彼女は持ってきたハンディーファンをテーブルにセットしているところだった。暑さが和らいだとはいえ、クーラーのある部屋よりはまだまだ暑い。
僕はテーブルに飲み物とポテトを置いた。
「叔父さんがポテト食べてって」
「わっ……! 嬉しい! ありがとう~! ポテト好き!」
二人でポテトを摘まむ。
「まだ若干空は明るいよね。花火見えるかな」
「すぐに暗くなるよ。毎年見えてるから大丈夫」
「どっちの方向に見えるの?」
「あっち」
僕は花火の方角を指した。
「湖の海面スレスレでやる仕掛け花火は下すぎて見えないけど、打ち上げる花火は見えるよ。一時間近くやるはず」
「お~、いいね~! こんなゆっくり花火が見られるなんて贅沢!」
「東京ではどうしてたの。花火見てた?」
「うちはマンションから見えなかったんだよね。音は聞こえるんだけど。花火大会の時は友達と見に行ったりしたけど、人の混雑がねぇ。電車とかも混むし、結構疲れるよ。汗だくになるし」
「想像はつく」
「今年は高みの見物ですね、殿」
「……そうですね、お代官様」
「そこは姫でしょ!? 『お主も悪よのう』とか言いたくなっちゃうじゃない」
そんな冗談を言っているうちに時間は過ぎ、夜空に大きい花が咲いた。彼女が「わぁ……」と言ったと同時に、いつの間にか客が増えたバルコニーのそこかしこで歓声が上がる。
黄、オレンジ、赤、緑、青などの花火が次々に空を彩る。
これを見ると、夏も後半なんだなとそんな気分になる。
「青色の花火が一番綺麗だな~」
「俺は赤色がいい」
「赤も綺麗だよね。……あっ、今の大きい~」
ひときわ大きい花火に感嘆の声を上げ、僕らはその後、無言で花火を堪能した。
綺麗な花火はなぜか僕を物悲しくさせる。それが刹那的な輝きだからだろうか。
「コウ君」
ボンッと花火の音に交じって彼女の声がした。
「ん?」
「今日は花火に誘ってくれてありがとう。こんな綺麗なものを見られて幸せだよ」
彼女に顔を向けると、彼女は笑みを向けた。どこか儚げで、それが不安になる。なぜか『最後に』こんな綺麗なものを――と言われたような気がした。
「……そういうこと言わないでくれる? 何かのフラグみたいじゃん」
「え? フラグ? ……ああ、違う違う、まだ死なないってば! もうすぐお祭りもあるでしょ! まだ死ねないよ! 楽しみにしてるんだからね~。ただお礼を言いたかっただけ!」
彼女は「コウ君の心配性~」と笑うけれど、僕の不安は消えなかった。
お盆ということで、久しぶりに『桜ヶ丘珈琲』に行かない日が連日続いたけれど、彼女も初盆とのことで忙しいようだった。
彼女の場合は祖父と両親の初盆だ。彼女の祖母宅に親戚が集まると聞いていた。
お盆の間は食卓に母が兄の食事も用意していた。見えないけれど、きっと兄は帰ってきている。だから兄の好物ばかりが食卓に並ぶ。とはいえ、兄は家族が暗くなるのを嫌うので、家族の会話は明るく、また最近の出来事の報告といったものが多かった。
お盆が終わり、再び『桜ヶ丘珈琲』に通うようになると、彼女もやってきた。相変わらず、二人で並んで絵を描きながら会話する。
「サヤのとこのお盆はどうだった?」
「親戚がすっごく集まった。おばあちゃんちって、おじいちゃん死んでからおばあちゃんが一人暮らしなんだけど、――あ、今は私もいるけどね――家が広いからか普段静かなんだけど、久々に家が賑わったよ。みんな泊って行ったしね。――コウ君はどうだった?」
「兄ちゃんには会えなかったけど、たぶん帰って来てると思う。兄ちゃんの夢を見たし」
「へえ~、お兄さん、夢で会ってくれたんだね。良かったね」
「うん」
兄に話すことが多くて僕ばかりしゃべっていたような気がする。起きた時には、夢の内容の大半は忘れてしまっていたけれど、兄に会えて嬉しかった気持ちは残っていた。
彼女が僕のタブレットを覗き込む。
「お兄さん、嬉しそうだね」
そこには僕の話を笑顔で聞く兄の姿があった。
● ● ●
お盆が終わって三日後。
昼前から『桜ヶ丘珈琲』で絵を描いていた僕は、その日の夕方六時半になるとクーラーのある室内からバルコニーへ出た。お盆が過ぎ、夕方になると風が吹くバルコニーは少しだけ涼しくなってきた。
「もう花火始まった?」
今日はまだ『桜ヶ丘珈琲』に来ていなかった彼女が笑顔で声を掛けて来た。この日は湖で花火大会が行われる予定で、最初から彼女はこの日は花火だけ見に来ると言っていた。一階で買って来たのであろうアイスキャラメルラテを手に持っている。
「まだ。七時十五分からだから、もう少しある」
バルコニーでの定位置の席に二人で座る。
『桜ヶ丘珈琲』のバルコニーは花火大会の穴場だと知っている人は知っているので、すでに一階のバルコニーは人が集まりだしているのか、階下から声がする。
「俺も何か買ってくる」
「うん」
彼女を置いて一階でアイスティーを買うと、叔父が揚げたてポテトをおまけでくれた。さすが叔父。ありがたくいただいて、彼女の元に戻る。
彼女は持ってきたハンディーファンをテーブルにセットしているところだった。暑さが和らいだとはいえ、クーラーのある部屋よりはまだまだ暑い。
僕はテーブルに飲み物とポテトを置いた。
「叔父さんがポテト食べてって」
「わっ……! 嬉しい! ありがとう~! ポテト好き!」
二人でポテトを摘まむ。
「まだ若干空は明るいよね。花火見えるかな」
「すぐに暗くなるよ。毎年見えてるから大丈夫」
「どっちの方向に見えるの?」
「あっち」
僕は花火の方角を指した。
「湖の海面スレスレでやる仕掛け花火は下すぎて見えないけど、打ち上げる花火は見えるよ。一時間近くやるはず」
「お~、いいね~! こんなゆっくり花火が見られるなんて贅沢!」
「東京ではどうしてたの。花火見てた?」
「うちはマンションから見えなかったんだよね。音は聞こえるんだけど。花火大会の時は友達と見に行ったりしたけど、人の混雑がねぇ。電車とかも混むし、結構疲れるよ。汗だくになるし」
「想像はつく」
「今年は高みの見物ですね、殿」
「……そうですね、お代官様」
「そこは姫でしょ!? 『お主も悪よのう』とか言いたくなっちゃうじゃない」
そんな冗談を言っているうちに時間は過ぎ、夜空に大きい花が咲いた。彼女が「わぁ……」と言ったと同時に、いつの間にか客が増えたバルコニーのそこかしこで歓声が上がる。
黄、オレンジ、赤、緑、青などの花火が次々に空を彩る。
これを見ると、夏も後半なんだなとそんな気分になる。
「青色の花火が一番綺麗だな~」
「俺は赤色がいい」
「赤も綺麗だよね。……あっ、今の大きい~」
ひときわ大きい花火に感嘆の声を上げ、僕らはその後、無言で花火を堪能した。
綺麗な花火はなぜか僕を物悲しくさせる。それが刹那的な輝きだからだろうか。
「コウ君」
ボンッと花火の音に交じって彼女の声がした。
「ん?」
「今日は花火に誘ってくれてありがとう。こんな綺麗なものを見られて幸せだよ」
彼女に顔を向けると、彼女は笑みを向けた。どこか儚げで、それが不安になる。なぜか『最後に』こんな綺麗なものを――と言われたような気がした。
「……そういうこと言わないでくれる? 何かのフラグみたいじゃん」
「え? フラグ? ……ああ、違う違う、まだ死なないってば! もうすぐお祭りもあるでしょ! まだ死ねないよ! 楽しみにしてるんだからね~。ただお礼を言いたかっただけ!」
彼女は「コウ君の心配性~」と笑うけれど、僕の不安は消えなかった。
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