その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~

みなと

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王妃の目論見と王太子の的外れ思考

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「ルーク、そこにお座りなさい」
「はい、母上」

 夕食後の、いつも通りの平和なやり取りができる……。ルークはそう信じていた。
 しかし。

「ルーク、何故オフィーリアとの婚約解消をしたのですか」
「え?」
「彼女以外、今代は誰がどうあがいても筆頭聖女などできない、それを理解していてもなお、お前は『愛』を取るとでもいうのですか?」
「はい?」

 普段とは全く異なっている母の剣幕に、さすがのルークもポカンとしてしまう。
 というか、きっとアルティナは王妃とうまくやれると思っていた、もとい思い込んでいたのだ。

「え、あの、母上、ちょっと待って」
「待つものですか! 今すぐ、オフィーリアを連れ戻すようにしなさい!」
「いやでも、俺はアルティナが」
「側妃にしてしまえばいいでしょう!?」
「嫌ですってば!」

 まるで幼い子供のような反論をする我が子に、王妃はあんぐりと口を開けてしまうことしかできない。
 この子、こんなにも短絡的な言葉しか出さないような子だったか!? と王妃が驚いている中、ルークは苛々とした様子で続けざまに言葉を吐き出していく。

「ずるいじゃないか! 父上と母上は普通に恋愛結婚をしているんだろう!?」
「はい!? あなた、今までの王太子教育で一体何を学んできたの!!」
「国を治めるための色んなことだよ!」

 いやそれ以外に色々あるだろうが、とツッコミを入れたくなった王妃だが、ルークの勢いは止まらなかった。

「俺だって、好きな人と結ばれたいんだ! だから、アルティナを選んだ! だってアルティナは神官長の秘蔵っ子だ、って彼女が言うから!!」
「はい? 秘蔵っ子……って、どういうこと?」
「言葉通りだよ! 分からない人だなぁ、お母さまは!!」

 駄目だこの子、と王妃が頭を抱えかかっているが、ふと、ルークの言っている『神官長の秘蔵っ子』という言葉が引っ掛かるような感じを覚えた。
 そもそも、秘蔵っ子というなら、もっと聖女としての力があるはずなのでは……とも思うし、今の時点で
 魔力ポーションをがぶ飲みしながら、ぜぇぜぇ言っていることがおかしい。
 聖女の力は魔力ではないし、魔力ポーションを飲めば確かに魔力は回復するが『神聖力』は回復しない。

 それに、王妃が国王と結婚する際に国が定める婚約をしたとはいえ、王妃は筆頭聖女ではないのだ。

 だから、所謂、普通の『国のための結婚』というだけで済んでしまったのだが、ルークはこの根本的なところを一切理解していないとでもいうのだろうか。
 まさかそんなはずはない、と王妃はさっと青褪めるが、ルークの様子を見るに、きっと理解していないらしい。

「……ルーク、一応聞きますが」
「何!」

 フンフンと鼻息荒く聞き返してくる我が子を見ながら、王妃は神妙な顔で問いかける。

「あなた、筆頭聖女が毎年毎年ほいほい生まれると思っていて?」
「え、違うの?」

 嫌な予想は、嫌な形で正解してしまった。
 本当に理解していなかったのか……と愕然としている王妃を見て、あれ、とルークは思った。何であんなに顔色を悪くしているんだろうか、と考えても、答えが出てくるわけではない。分からないことは、素直に何でも分からない、と口に出しなさい、と幼い頃から言われているまま、ルークは心底不思議そうに問いかける。

「あの、母上。筆頭聖女って毎年生まれないんですか?」
「そ……」
「そ?」
「そんなわけあるかーーーーーーーーーー!!」

 この質問には、さすがの王妃も激怒した。
 愛しい母にここまで怒鳴られるだなんて! とルークはあんぐりと口を開けてしまったものの、何が悪いとかは今のところ一切理解していない。

「え、っと」
「毎年生まれないからこそ、王家で保護する意味も込めてその時の王太子と婚約させて逃げられないように、がっちり確保しているのよ、このお馬鹿!」
「ひいい!」
「お前はそれを無駄にした、ということです! さっさと理解なさい!」
「無駄、ってそんな言い方!」

 ないだろう、と反論しようとしたが、王妃の目がマジだったのでルークはぎゅっと黙る。
 アルティナだって聖女なのだから、全く問題ないのでは、とも考えたが筆頭聖女と普通の聖女ではやるべき業務だって全く異なっている、というか内容の濃さが全く違う。

「あの……でも、アルティナだって聖女……」
「筆頭聖女になれるほどの神聖力の強さを持つ者は、何十年に一人単位かでしか現れません」

 あれ、とルークは思う。
 であれば、今回オフィーリアが聖女認定されて、尚且つ筆頭聖女としての役割をこなしているということは……と考えて、さっとルークの顔色が悪くなった。

「……っ」
「筆頭聖女になる資格を持ったものが生まれなかった時の対策として、魔力の充てん装置なんかや聖樹が枯れないように魔力……ああもう、正確に言えば『神聖力』の注ぎ込みなんかをしなくてはいけないの。神聖力を使い果たしたら、筆頭聖女の任からは解放されるけど、そうなったときには王太子妃としての役割が待っている」
「あ、ああ……っ」
「アルティナ嬢は、王太子妃教育が一切進んでいないようだけど」
「疲れているからですってば!」

 アルティナは『無駄なことはしません!』と宣言してしまったので、まともに筆頭聖女としての業務がこなせていない。
 むしろ、めちゃくちゃ滞っているのだが、結果としてそれがどんな被害をもたらすかまでは考えが至っていない。

 なお、離れたところのヴァルティス家では何がどうなったらまずいのか、について緊急で家族会議が開かれているが、王家の面々は知る由もない。

 そして、王妃がルークに内緒でオフィーリアに対しての追っ手を仕向けているが、これもリューリュのおかげでヴァルティス家の皆さまにばれている。
 こちらに関しても遠慮なくヴァルティス家の皆さまによって『対策』されてしまうことに、王妃やルークは一切気付いていなかったのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『とりあえず、王妃が放った追手なんだけど』
「やる?」

 ぐっと拳を握ったカトレアの真顔っぷりに、リューリュは甲高い悲鳴を上げてオフィーリアにがばりと抱き着いた。なお、オフィーリアも同じことを考えているのだが、知らぬはリューリュばかりである。

『目的は勿論オフィーリアの確保』
「でしょうね」
『王妃様って、筆頭聖女の役割が何たるかは……』
「知っているはずよ。あの人が王妃になれたのは、たまたま筆頭聖女になれるだけの人が居なくて、空席だったから。その間、神霊様がしっかりと結界の維持なんかをしてくれている。まぁ、それができるのは筆頭聖女があれこれ尽力しているからこそ、なんだけど」
『そうよねぇ、って王妃様は筆頭聖女じゃないの?』
「ええ、そう」

 うん、と頷くオフィーリアのところにリューリュは飛んで行って、そして問いかける。

『つまり、どゆこと?』
「要約すると、そんなにホイホイ馬鹿みたいに高くて質の良い神聖力を持った人なんか生まれません、ってお話」
『理解』

 うん、と頷いたリューリュは困ったように窓の外に視線をやる。

「リューリュ?」
『そろそろお出ましになるわ、王妃様からの追っ手』
「早いのね」

 へぇ、と感心しているオフィーリアのところに、母であるカトレアがやってきた。

「どうせ、王族しか使えない転移ゲートをめちゃくちゃ使いながら来たんでしょうね。規則は守れ、って言ってるのに……あの王妃め」

 ある意味の職権乱用ではないか、とオフィーリアやリューリュをはじめとした面々は大きな溜息を吐いた。
「ルーク殿下を王太子で居させるために、色々必死なんじゃないかしら」
『呑気なもんねぇ、オフィーリア』
「戻る気なんかないもの」
『そうなんでしょうけど、一応嫌味言っておいた』
「何ですって? ん?」

 むぎゅ、とリューリュの頬をつまんだオフィーリアは、授業で習ったことをぼんやりと思い出していた。




 本来であれば、筆頭聖女は一生をかけて国を護るために尽力します。
 ですが、緊急事態が万が一起こった場合……己が持っている神聖力を全て神霊にささげることで、その任から解き放たれることも可能です。



 神官長の言葉が、オフィーリアの中で回る。



 ですが、神霊様はとても傲慢で、我儘で……一途が故に、筆頭聖女となった人を、縛り付けるでしょう。
 その、ティアラを持って。



「(まぁ、私が着脱する分には問題なかった、と知っていたからアルティナさんに渡したんだけど、ある意味だまし討ちかもしれないけれど……責任はとってね、アルティナさん?)」
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