その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~

みなと

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おちゃめなおばさま

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「ドッキリ大成功」
「……びっくりしたよぉ……」

 友人たちを無事に見送り、ギリギリまでクローチェがリューリュを手放さないものだから『早く離しなさいよぉぉぉ!』と暴れ散らかしたので、仕方なく抱擁という名のホールドを解除し、三人揃って馬車に乗って帰っていったのを見送った途端、オフィーリアの手の中にひらりと舞い降りた手紙、というかメモ。

「ん? 何かしらこの紙」
『嫌がらせ?』
「まさか、そんなわけないでしょ? えいっ」

 めっ、とリューリュにデコピンをして、『いったぁ!』という叫びを聞きつつオフィーリアが家の中に戻ろうと回れ右をした、視線の先。

「はぁい、オフィーリアお元気?」
「あ、エルザおばさま! はい、元気です! こんに……ち……は?」
『やーだ久しぶり! はぁいエルザ、お元気?』
「相変わらずリューリュは愛らしいわねぇ、うんうん、仲良きことは美しきかな!」
『……ヤダちょっと、アンタの会いたかったエルザがこうして来てくれてるんだから、感動の抱擁とか』

 しなさいよ、とリューリュが続けようとした矢先、

「えぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
『~~~』
「あらまぁ、お元気」

 ほほほ、とエルザはのんびり笑っているが、オフィーリアの叫び声を聞いてしまったリューリュはキーン、とした耳鳴りのようなものに襲われている。
 長いうさぎ耳をぺたん、と折りたたんで『うぉぉぉ』と謎の呻き声を上げているリューリュを気にせず、オフィーリアはエルザを見て口をあんぐりと開けている。令嬢らしからぬ、と言われてしまえばそれまでなのだが、驚いたんだから仕方ない。

「お、おおお、おばさま!?」
「ええそうよ、あなたのエルザさんよー!」
「え、あ、いやあの、えっと、ご、ご機嫌麗しゅう、です?」
「今姪っ子が盛大に混乱しているのが大変面白いわ」

 なお、このエルザ。めちゃくちゃ人当たりも良いが、そこそこなイタズラ好きでもある。
 ちなみに転移ゲートのことを教えていなかったのは、うっかりカトレアとジェイドが伝え忘れていたというだけの話だが、オフィーリアからすれば驚くことしか出来ないし、エルザはエルザでドッキリ大成功! と喜んでいる。

「あぁそうだ、オフィーリア」
「……はい」

 少しだけしょんぼりしているオフィーリアの頭にぽん、と手を置いて、エルザは優しく微笑む。

「言い忘れていたわね、おかえりなさい。よく頑張ったわね」
「おばさま……」

 父にも、母にも、友人達にも言われたが、エルザにも言ってもらえるとは思っていなかった。
 じわ、と涙が滲み、我慢しようとしてもぼろぼろと溢れてくるために、必死で拭うが今は止まってくれそうな気配はない。

「あらあら、オフィーリア、落ち着いて?」
『エルザぁ、驚かしすぎよぉ』
「……っ、だ、って……皆、優しく、て」
「大切な子に対して優しくするのは当たり前、でしょう? リューリュ、とりあえず少しオフィーリアを宥めてから屋敷にはいるから、ジェイドやカトレアに伝言お願いできる?」
『はぁーい』

 ひょい、と小さな手を上げて先にリューリュは屋敷へと飛んでいく。
 エルザがやって来たから、お茶の用意よろしくお願い、という伝言をしてくれるに違いない。

「……オフィーリア」
「…………はい」

 ぐず、と鼻をすすったオフィーリアは、どうにか涙を拭ってエルザと真っ直ぐ向き合った。

「簡潔に教えてくれる?」
「はい」
「あなた、筆頭聖女を解任されたのよね」
「……はい」
「あのティアラを頭に乗せた命知らずは?」
「アルティナ嬢です」
「…………あぁ、ヴァルディス家のことを一方的にやたらライバル視してる家の…………」

 それです、と頷くオフィーリアを見て、少しげんなりとした様子でエルザは大きく息を吐いた。

「そもそも、オフィーリアは何十年かぶりに選定された筆頭聖女だったというのに……」
「ルーク殿下は知っているはずなんですが……」
「大体何でそんなことに……」
「えーと」

 どう伝えたものか、とオフィーリアは悩んだが、ぐっと決意して真っ直ぐエルザを見て、口を開いた。

「ルーク殿下が、アルティナ嬢にとっても、めちゃくちゃ惚れ込んだので婚約者を変更したいからと、今回の騒動になりました」
「は?」

 何言ってんだ、とエルザの顔に大きく書いてあるが、気持ちは痛いほどオフィーリアには分かる。
 だがしかし、オフィーリア的には婚約破棄ありがとう、もうこのまま私を放っておいてほしい、という気持ちしかないので何とも言い難い顔で立っていた。

「惚れ込んで……国を傾けようとしてるの?」
「えーと、まぁ、はい」
「殿下は筆頭聖女の仕事を一体なんだと……!」
「それについてはアルティナ嬢にも問題がありまして」
「えぇ……?」

 友人たちが教えてもくれたが、そもそもアルティナは聖女ではない。
 聖女が使えるべき神聖力を持っていないにも等しい状態で、家の財力フル活用して神殿に潜り込んだだけの人だ。

「……聖女としての適性がないのに、家の財力をフル活用して神殿に潜り込んできた猛者なので……」

 困ったようにオフィーリアが呟けば、エルザはオフィーリアの背中をぽんぽん、と叩いて邸宅に向かうよう促した。

「あそこの家にも困ったものだけれど……それを自信満々に、鼻高々にしている娘も娘、親も親。結果として国のマイナスになるようなことしかしていない、と」

 はぁ、と溜め息を吐くエルザだが、今更どうしようもない。
 アルティナはオフィーリアに勝ちたいから、無理やりオフィーリアから筆頭聖女の座を奪った。
 奪った結果、色んなところで影響が出てきてしまっている。

 一ヶ月も経過していないのに、結界の強度は弱くなっている、聖樹への魔力供給も滞りが見られる、魔力充填装置への供給もできていない、基本的な業務である民の治療や魔獣狩りへの同行も出来ていないから、怪我をした騎士たちの治療も満足にできていない。

 アルティナが『私ならできる』と言い切ってしまったから、今更助けてくれだなんて言えなくなっているのだろうが、オフィーリアには関係ない。

 ティアラに居る神霊も、『こいつが死ねばオフィーリアが帰ってくる』くらいにしか思っていないから、多少の助力はするものの基本的に放置している。

 歩きながら、オフィーリアはぽつりと呟いた。

「せめて、神霊様がアルティナ嬢に対してもう少し協力的なら……」
「無理でしょうね」
「ですよねぇ……」

 はぁ、と二人で溜め息を吐く。
 エルザはたまに帰ってくるオフィーリアから色々な愚痴を聞いているから、色々なことを知っている。
 そもそも、オフィーリアは聖女になりたくなかったわけではないものの、何の因果か強大な神聖力を持っていたから、かつ、筆頭聖女になりうるほどの能力を兼ね備えてしまっていたのでティアラの神霊にもとんでもなく気に入られてしまったため、結果として神殿からは手放してもらえるわけもなかった。

「まぁ、交代劇をやらかしちゃったからもうアルティナ嬢に逃げ場はないんでしょうけど」
『エルザぁ、王家がこっちに追っ手放っちゃったわよ』
「え」

 リューリュの言葉に、オフィーリアは歩きながら遠い目をし、家のドアノブに手をかけてガチャリと開く。

「王家から追っ手、ってどういうことなの!?」
『言葉通りよぉ。あの王妃、オフィーリアのこと諦めてなんか無いんだもん』
「まったく面倒……な……」
「リューリュ、大きな声出すとこうなるのよ」
『あ』

 ドアを開いた先にいるのは、もちろんながらオフィーリアの両親、そしてオフィーリアお付きのメイド、更には執事長やらメイド長まで。
 ヴァルディス家、使用人皆様勢揃いという状況で、リューリュの声が聞こえてしまったので皆硬直してしまっていた。

「王家から……」
「追っ手……」
「あのクソ王家……!」

 カトレア、ジェイドが呟き、エルマがわなわなと震えている。

『ごめぇん』

 てへ、と可愛らしく舌を出しているリューリュの耳をわし、と掴んでオフィーリアは低く呟いた。

「タイミングって、大事よね」
『うん』
「何か言うことない?」
『…………ゴメン?』
「そうね」

 オフィーリア、リューリュはこれ以上口を開かなかった。直後、カトレアとジェイドが色々な意味で爆発をしてしまったのだが、どうにか執事長、メイド長が必死におさえていたものの、エルマが殺意まみれでどこかに行こうとしたのをオフィーリアが止める、というカオスな状況になってしまったのだった。
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