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名残と面影
しおりを挟むその日は午後からは何の講義もなく、久々に誰か誘って昼食でも行こうと思っていた。が、声をかけた人間はバイトだったり先約があったりと忙しく、仕方なく黒崎に連絡をした。
「まさかあきらの方から誘ってくることがあるなんてなぁ。明日は槍でも降る?」
「物理的にあり得ない。気に入らないならとっとと帰れ」
「そんなこと言ってないってー。ほらお前、俺を誘ってくることなんか一度もなかったろ?」
「…そうだったっけ」
確かにそうかもしれない。思えばいつも誘われてばかりだ。基本的に誘わなくても相手から言ってくることが多かったあきらにとって、わざわざ自分から声をかけるということがなかったのだろう。
「…例外がいたっけな」
こんなことでもまた、彼の面影に出会う。
こちらから連絡しなければ途絶えてしまうような、儚い関係。それに必死ですがり付いていた、俺。
「なんか言ったか?」
「別に、何でも」
そういえば、と思う。恭弥と出逢ったのは黒崎経由だったのではないか。確か人数合わせの合コンで。
「そういえばさ、行ってみたい店あったんだよな」
「どこ?」
適当に定食屋でいいかと考えていたけれど、要は腹の足しになればなんでもいい。
「パンケーキの店!」
ーーそれは飯ではない。
「昼メシって言ったはずだけど」
「甘いもの嫌いだっけ」
「嫌いじゃねぇけど。昼メシにはならない」
大体、パンケーキといったらあれか。なんかカラフルで身体に悪そうな、甘いだけの。
「家で作ったら店で食べるよりもよっぽど美味いし健康的だし、財布にも優しいな」
だから自分で作れ、と言おうとしてハッとなる。
「…俺、料理できないし」
そうだ。コイツは昔から手先が何というか…不器用だ。手先だけの問題でもない気がするが。
「……作ってやろうか?」
ふと考えれば、冷蔵庫の中の卵が今日までだったような気がする。甘いものが異様に好きだった恭弥の名残で、パンケーキミックスも残っていたはずだ。
黒崎とこういう関係になってから黒崎の分まで飯を作るようになったので、冷蔵庫の中に材料はいくらでもある。
「いいの!?」
キラッキラの目でこちらを見上げる黒崎をほんの少しだけ可愛いと思いながら、昼食は俺の家で二人で食べることにして、俺の家へと向かった。
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