8 / 8
恋人の定義
しおりを挟むお腹いっぱい、と満足そうな顔をして床に寝転がった黒崎を横目で見ながら、俺は食器を洗う。
「何か手伝おうか?」
そうは言われたものの、コイツに任せると食器を何枚割られるか。
「気持ちだけで十分」
「あっそ」
意味が分かったのか、拗ねたような顔をするけれど仕方ない。手伝おうという気持ちがあるなら、まずはほんの少しでも手先を器用にしてくれればいい。
時計を見れば針はもう四時を指している。俺は今日はバイトが入っていないけれど、それはこの男も同じだろう。でなければこんな時間まで俺の家でゴロゴロしているはずがない。
仕方なく声をかける。
「夕飯なにが食べたい?」
冷蔵庫にはもう何もないし、買い出しに行かなければ。黒崎がいるなら少し凝ったものを作ってみてもいいかもしれない。
そう思って声をかけたというのに。
「…なんだよ、その顔は」
嬉しそうな、それでいて何か迷っているような、そんな顔。
「夕飯、食べて行っていいの?」
なんだそんなことか。
「悪かったら言ってない」
「あきらってツンデレだよね」
「よし、今すぐ帰れ」
冗談だってー、と、いつもの調子のいい声が聞こえてくる。
「で?何が食べたいんだよ」
「あきらの好きなものならなんでも」
出た、何でも。
「あのなぁ。何でもいいってのが一番困るんだよ」
「んー、じゃあ……パスタ、かな」
「パスタ?分かった。買い出しついて来いよ」
その言葉に反応したのか、黒崎がふひひと笑う。
「デートみたい」
「馬鹿か?」
恋人でもあるまいし。ていうか、恋人だとしても、だ。ちょっとそこのスーパーに買い物に行くだけでデートとは言わない。
「俺たちの関係って、セフレだよね」
「…お前がやり始めたんだろ」
いきなりその話を持ち出すか、お前は。…いやまぁ、最初は俺が悪かったけれど。それでもここまで関係を引き延ばしたのはお前だろう。
「何ていうの?友達以上、恋人未満?」
「…元から、幼馴染っていう時点で友達以上じゃねぇの」
我ながら照れ臭いことを言ってしまった。そんな後悔はもう遅く、黒崎はまたふひひと笑った。
「そっかそっか、そーですか」
そのニヤニヤ、やめろ。
「ていうか、恋人だろうが幼馴染だろうが友達だろうが、決まった境界線もなければ定義もないんだから曖昧なものだろ」
「…恋人の定義、かな?」
「はぁ?」
「一番曖昧なのは、恋人の定義だよ」
その言葉に何も言えなくなってしまった。
現に少し前まで俺はその状態だった。恭弥と本当に恋人のままで関係は続いているのか、それさえもあやふやだったのだ。
「…そうかもな」
何となく、今日は飲み明かそうと思った。浴びるほどに飲んで、全てを忘れたいと。
たまに、そんな風になる。それはきっと、恭弥を思い出した時だ。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
毎日更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる