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バイト先のラーメン屋の前に座り込んだ男を見て、藍はため息をついた。
来るだろうとは思っていたけれど、本当に来るなんて。
「ストーカー染みたことやめてくれる?」
「……変わらねぇな、お前」
開口一番でそれか。中学から外見が全く成長しないことが藍のコンプレックスだというのに、それを真っ先に突いてくるか。
「会いたくなかったんだけど」
「俺は会いたかった。だから会いに来た」
それの何が悪いとでも言いたげな京司に頭が痛くなってくる。先に突き放したのは誰だ。記憶が無かったから仕方ない?そんなの知るか。
「バイト先誰から聞いたの。まさか亮一?」
「アイツが教えてくれるわけねぇだろ。知り合いに片っ端から聞きまくった」
「うっわ気持ち悪っ!」
「うっせ。てかお前、着信拒否すんなよ。大体お前は昔っから人の話を聞こうともしないで、」
なんで俺が責められてるんだ?
「もうとっくに別れたよね?」
「だからそれはっ、」
「記憶が無かったにせよ、同意したのは京司。解放された、なんて捨て台詞残しといて…よくヨリ戻せるなんて思ったね?」
「おい、聞けよ!!俺だって別に忘れたくて忘れたわけじゃねぇ…ってか、亮一のやつ、どういう事だよ!!付き合ってるって、っ…お前本当にあいつのこと好きなのかよ?」
疑わしげな目を向けてくるのが鬱陶しくて、藍は深くため息をついた。
「好きだよ。また勝手に妄想話聞かされる前に言うけど、高校の時まではただの友達だった。けどお前に散々ボロックソ言われて、傷ついてた時にずっと隣いてくれたんだよ。分かる?恋人から、『俺の目の前から消えてくれ』って言われる気持ち」
未だに思い出してもジクジクと古傷が痛む。言ったところで、どうせ彼には分からない。
「…は………それで簡単に絆されたって訳かよ?」
「話聞いてなかったみたいだね。これ以上遅くなると亮一も心配するから帰っていい?」
足を踏み出した時、グッと腕を掴まれる。
「ははっ、俺のことさっさと見限って亮一とヤリまくってんの?」
その一言にブチっと血管が切れそうになったけれど、何とかグッと抑えた。だって殴ろうとしたところでこの男には敵わない。
身体を傷付けるより、冷静に、自分と同じように心を傷つけてやればいい。
永遠に耳の奥に残るような傷を。
「…うん。亮一、すっごく上手だし、俺たち相性良いからかな?毎日ラブラブだよ。だから京司の事なんか、今まで全然記憶にすら留めてなかったの。ごめんね?」
「ーー気持ち悪ぃ」
そう呟いて、京司はこちらに背中を向けて歩き出す。なんなんだ一体、と怒鳴りたい気持ちはあったが、藍はなんとか堪え、背中に向かって無言で中指を立てた。
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