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しおりを挟む「ねぇねぇ、小野寺くんってあの三年の小野寺先輩の弟なの!?」
甲高い声で尋ねてきたクラスメイトの女子に「うん」と短く答えた。昨夜のことがまるで夢だったみたいなのに身体の怠さだけは朝になっても抜けず、昼になった今でもどこか頭は麻痺したようにぼうっとしていた。
「おいお前ら、小野寺朝から体調悪そうだしそっとしといてやれよ」
不意に声が聞こえて視線を上げれば、昨日親しくなった前の席の宇崎光輝が眉を寄せてこちらを振り返っていた。
「えっ、あ、ごめんねー。また先輩の話聞かせてね!」
勝手な約束を取り付けて去っていく女子に頭がガンガンと痛む。
「お前大丈夫?朝から死にそうな顔してるけど」
「…うん」
「今日うちに来るって言ってたの、今度でもいいぜ」
その言葉で昨日に放課後遊ぶ約束を取り付けていたのを思い出す。と同時に、昨夜の恐ろしいほど冷たい晴人の目を思い出して血の気が引いた。
「おい大丈夫か?保健室行った方が…」
「大丈夫、だから」
朝になれば恐ろしいくらいにいつも通りだった。
腰の痛みと下半身の違和感さえ除けば、いつも通りに服を着ていて身体は昨日あんなに涙や汗や体液がベタついていたのが嘘みたいに綺麗で、腫れているかもしれないと思った目は赤くなっている程度。
「おはよう真琴。早く起きないと朝食冷めちゃうぞ」
そう言って僕の身体を揺らして起こした兄はいつもと変わらない笑みを浮かべていて、昨夜のことが夢だったのかとすら思ったほどだ。
「ほら、おいで」
いつものように支えらながら立ち上がり、腰の鈍痛に思わず息を漏らした時だ。
「昨夜は随分と無茶をしたからなぁ。でも良かったよ、真琴がちゃんと良い子だから」
優しく紡がれた言葉に、甘ったるい声に、溶けてしまうほどの熱を孕んだその瞳に。
「良い子だから、母さんに言えるね?部屋なんて要らない、これからも俺と一緒に居るって」
ヒュッと喉から息が漏れて唇が震えた。怖い、なんて感じたことは一度も無かったのに。
「それとも真琴の手で壊す?」
幸せな家族だ。父親は大手の企業で役職に就き、母親は美しく綺麗だ。長男は継母だなんて誰も思わないほどに義母に懐き、義弟をいたく可愛がり、容姿端麗と文武両道を具現化したような人。
義父と結婚出来たことが人生で一番の幸せだと微笑む母親から、それを奪うなんて。
「なぁ真琴、分かるよな?」
気が付かなかった。こんな風になるまで、自分に助けを求められる人間は、もう一人として残っていなかったことに。
「…うん…」
小さく呟き固まったままの僕を彼は優しく撫でる。
「真琴は良い子だよ。大丈夫、俺の言う通りにして、俺から離れなければ今まで通りで居られるんだから」
誰よりもそばに居たその人がどれほど自分に執着していたのか、それを知るのはもっと後になってからだった。
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