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黒牙の盗賊団

気楽な一人旅

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「団長。ギルに任せて良かったんですか?
それに追うのであればビビアンの方を狙うべきでは。音宮奏よりも彼女の方が遥かに危険です。」

「ナタリーの言い分も理解できるがこれは国王の命令だ。変更は出来んよ。」

「ということは、寧々島は捨て駒ですか?
彼の能力はそれなりに使えますよ。
使い潰してから捨ててしまえば良いのに…
それこそ、ビビアンの居場所くらい特定させてからでも遅くないのでは?
彼女は数年に渡って行方をくらませています。
彼女の居場所の特定こそが最優先だと思えます。」

「その言い分には一理あるが、恐らく無理だろうな。」

「副団長。帰っていらしたのですか?」

「ああ、ついさっきな。
実際、ビビアンに会ってみたがあれは別格だ。来たばかりの勇者のスキル程度で見つけられるとは考え難い。なにかしらの対策を練っているだろうし、下手したら罠を仕掛けられているかも知れない。狙うなら確実に仕留められる音宮奏からだろう。」

「音宮だって必ず仕留められるとは限らないではないですか?現にフェルトと団長は取り逃がしているのですよ。」

「それは2人とも専用魔導具を持って行かなかったからだ。それさえあれば、2人が負けることはなかっただろう。音宮奏は少し頭が回るが所詮その程度だ。そういうやつの相手には馬鹿がちょうどいい。だからギルを行かせたのだろう?」

「まあ、それもあるが音宮のスキルはギルと相性が最悪だからな。ギルならば魔導具なしでも余裕で倒せるだろう。」

「ああ…たしかに、ギルのスキルは転移系の能力とは相性が悪すぎますからね。」

「そういう事だ。さて、みんな仕事に戻ってくれ。ビビアンをどうするかは国王と話し合い、後日連絡をする。」

◇◇◇◇◇◇◇

音宮は今日も一人、旅を続けている。
安藤と別行動をとるようになってから1週間は過ぎた。道中、何度か村に立ち寄ってはスキルを使い金や武器、食料などを奪い宿には止まらず洞窟などで寝泊まりするスタイルとなっていた。

一人だとこんなに楽だったんだな。
安藤がいたから今までは窃盗は極力行わないようにしていたが、いなくなってしまえばこれほど楽な稼ぎ方はない。
元来、俺は自分以外の人間にさほど興味がないんだ。日本ならまだしも、こちらの世界で盗みを働こうが俺の心は1ミリたりとも痛まない。ここ数日で装備も一新出来た。
身動きは取れる服装がいいので甲冑などではなく、軽い布地の服がメインに選んだ。
そこそこ丈夫な布で出来ていて、伸縮性も抜群だ。身を隠すためのマントも着用するようにしている。これには身を隠す以外にも目隠しや捕縛などにも使える為、それなりに重宝しているのだ。このまま、どこかの山奥で平穏に暮らすのもありだな

そんなことを考えていたらまた村に到着した。

変だな…こんな場所に村はない筈だ。
それに作りが荒いのか、不格好な家だらけ。
厄介ごとの匂いしかしない…
引き返したいが、戻ったところで他に道がある訳でもないし。仕方ない…進むか。

集落らしきものに入るとそこはまるでゴミ屋敷のようだった。至るところに酒樽や食事のあとが見受けられることから人がいた痕跡はある。

騒いでいるところを魔物に襲われたのか…それにしては血の跡がない。

警戒しながらも集落を進んでいくと、なにか声が聞こえてきた。女性の声だ。
声がする方向を見るとそこにはサーカスのテントのようなものが置かれていた。

あ~これ気付いちゃったわ。
たぶんここ盗賊団とかのアジトだ。
酒や料理は宴会の後で盗賊なんてやる馬鹿どもが片づけをするわけもないからそのまんま。家が変なのは今にもなくなりそうな廃墟をたまたま見つけて、自分たちで最低限住める形を保っているだけだからだ。
ちゃんと設計していたらこうはならない。
そして最後にあのテントだが、あれは恐らく売り物だ。売り物といっても人や魔物といったこの国では禁止されている類だろう。
たしかに、この道はあの国へ行くために必ず通る必要がある。この場で待ち伏せして奪い、自分たちが代わりに売りに行くという作戦は見事と言わざるを得ないだろう。
ただ、馬鹿であることには変わりない。
なんせ、アジトに見張りを残さず出ていっているのだ。大事な商品が捕られでもしたらどうするつもりなのか。

この女性の声は恐らく助けを求めているのだろう。怖いだろう。見知らぬ人間に売られ、物の様に扱われるのは。

俺は女性の声を無視することにする。

当然だ。この女性を助けることで背負う俺のリスクが大きすぎる。まず、食事の負担だ。
捕まっている人間が食料など持っている訳がない。必然的に俺の食料も求めてくるだろう。こっちだって余裕がある訳ではないのだ。次に盗賊団に狙われる事。
頭が悪いやつらは基本的にねちっこい。
変なところにプライドを持っているから面倒なのだ。面子などという意味のわからない言葉に浸ることで生きている動物だ。
こういう生き物とは関わらない方がいいに決まっている。最後に女性の身元をどうするのかだ。売り物になるような人間に家族がいるパターンを俺はあまり知らない。
仮にいたとしても誰かに捕まっていたりしてそれを助ける羽目になるのだ。何かの手違いでそうなっていて、家族が実在していたとしてもそこに送り届けるのは助けた人の役目みたいになってしまう。そんなのはごめんだ。
以上の点から俺が彼女を助けるメリットは一切ないので見捨てる。百害あって一利なし。
犬や猫だって飼う時は必ず責任を持たなければいけない。人間もそうだ。助けるならちゃんと最後まで責任を持てるやつしか助けてはいけない。助けられた相手が一瞬でも期待してしまえば、無理だった時にまた絶望を味わう羽目になってしまうから。俺に出来ることは誰かに助けて貰えるよう祈ることだけだ。

「おい!おまえ、俺たちのアジトでなにやってやがる。」

まったく…ついてないな
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