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リスランダからの脱出

死闘

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「この世界に魔王軍はいるのか…ね。
最初に説明があっただろ。俺たちは魔王軍の侵攻を受けていてそれに対抗するためにお前たち勇者を呼んだって…話を聞いていなかったのか。」

「違う…俺も最初は魔王でも倒せば元の世界に帰れるだろうと考えていたが、旅をしている内に疑問が出来てきた。…魔王軍は一体どこにいるんだ?お前たちはなにと戦っている。俺が立ち寄った場所が偶々襲われていないだけだと言う可能性もあるだろう。だが、俺はこの世界に来て、一度たりとも魔王軍と名乗るものに出くわしていないぞ。侵攻されていると言うのならば何処にいるのか教えて貰おうか。
お望み通り、俺が倒しに行ってやるよ。それで満足だろ。」

「……魔王軍は半端なく強いんだよ。ある程度経験を積ませないと無理だ。
それに、お前は戦いたくなくて逃げてるんだろ。何の関係がある。」

「大有りだ。魔王がいないとしたら、俺はなにを待ってお前らから逃げ続ければいいんだ。
それに、もう一つの問いに答えて貰っていないぞ。
過去にも勇者を召喚していた事は知っている。
そいつらの内、一人でも元の世界に帰れた奴はいるのか?いるのだとしたら、どういう方法で帰った。」

「はあ…なるほどね。団長がお前を危険視していた訳だ。
確かにこいつはさっさと殺しておくに限るな。」

「それは肯定と捉えていいんだな。
…クソっ!考えていた中でも最悪の結果じゃねえかよ。俺は楽したかっただけなのに…」

「安心しろ。すぐに寧々島と一緒のところに送ってやるよ。そこなら、なにもせず自由に暮らせるぜ。寂しいなら少し待ってりゃすぐに仲間たちも来る。」

「馬鹿か、そんな理由で死ぬわけねえだろ。
お前の力はクロエに聞いて大体わかった。
ガントレットさえ気をつければ問題ない。」

音宮が前に出て、ギルの拳を捌き、後方ではクロエが魔術の準備をしている。

「おいおい!二対一は卑怯じゃねえの…男は黙ってタイマンだろ!なあ、音宮奏ぇ!」

ギルの叫び声と同時に、音宮は別の空間へと飛ばされる。

ーーこれは…奴の能力か

周囲には何もなくただ、殺風景な空間に覆われいる。
その中には音宮とギルの2人だけがいた。

「俺のスキル『死闘《デッドファイト》』は文字通り、どちらかが死ぬまで戦い続けなければいけない空間を作る能力だ。この空間では小細工なし、お前らの仙術とやらも使えないだろ。ぱっと見だが、あれは大気のエレルギーを集めている術だったからな。使えたとしてもお前の体内に残っている分だけだ。」

まあ、仙術に関しては問題ない。
そもそも、自分でも使えているかよくわかっていないし、その大気のエネルギーとやらを集める方法すらわからないのだ。
それよりも問題なのが、周囲に武器になるようなものが何もないというところだ。
飛び道具は使えないか。

「小細工なしとは言っているが、お前が腕に着けているそのガントレットは小細工にならないのか?魔導具なんだろ。不公平じゃないか。」

「馬鹿言うな。武器を使いこなすのも実力の内じゃねか。お前もスキルを使えるんだろ。お互い様だ。」

「ちなみに聞くが、お前が死ねばこの空間が消えるのか?それとも、お前の意識が消失したらこの空間が消えるのかどっちなんだ。」

「ああ、そんなもんどっちでも変わんねえだろうが。まあ、能力的には後者だ。だが、殺さずにここから出れると思うなよ。」

「お前さ、今立ってるのも結構きついだろ。
魔力で無理やり体を支えてるって感じか…
その気迫は認めるが、その魔力がなくなったらどうなるのか…見ものだな」

ギルの体から力が抜け、その場へと倒れ込んでしまう。

あいつは…俺の体になにをした

音宮を見上げると、彼はなにかを片手で空中投げたりしながら遊んでいた。

あれは…俺のベンガンザ!なぜあいつの元に

「てめえ…返し…やがれ」

「まだ意識あったのか、タフだねえ。
クロエはお前のこと過大評価し過ぎだったんだよ。こいつの能力はたしかに厄介なところもあるけど、使い手がこれじゃあな…
別に魔導具が強いだけならその魔導具を奪えば終わる話だ。」

音宮がベンガンザを装着しながら、ギルの元へと歩いて来る。

「ほら、返してやるよ。」

音宮の拳が振り降ろされたところで、ギルは意識を失った。

ーーーーーーー

ギルの叫び声と同時に2人を覆い隠すように魔力が球体に変化していった。

ーー分断される!助けないと!

クロエは音宮の手を掴もうとしたが、時すでに遅く、球体に阻まれてしまう。

しまった…完全に分断された。

2人がかりでなら倒せるかという相手なのに、分断されてしまっては勝ち目がない。
こうなっては仕方がない。
奴が出て来たところを狙い撃ちする。
これ以外の方法はない。
あの男は今、私の渾身の一撃から奪った魔力を持っている。
生半可な攻撃では無意味だ。
確実に仕留めなければ…

球体を取り囲むように、複数の魔法陣が展開される。火・水・土・風の4属性が各々の魔法陣から出現し、標的を定める。

此処から出てきた時が奴の最後だ…確実に息の根を止めてやる。奏の敵!

この時、クロエの頭には音宮が勝つと言った考えはまるでなかった。
別に音宮の事を弱いと思っている訳ではないし、なんなら彼の実力を買っているまであるのだが、いかんせん相手が悪い。
自分でも勝てそうにない相手に音宮が勝つとは思いもよらなかったのだ。

球体に亀裂が入る。

ーー来る!

くらえ!四大元素の雨エレメンタル・レイ
取り囲んでいた魔法陣から、4属性の魔術が雨のように降りかかる。

しかし、中から出てきたのはギルではなく、音宮だった。

「え…あっ!奏!避けて!」

「ーーマジかよ!」

クロエの声のお陰でギリギリ転移が間に合いなんとか避けきる事が出来た。

「クロエ、いきなりなにしやがる。」

「だってしょうがないじゃん。
奏が勝つだなんて思わなかったんだもん。
避けれたのにいちいち文句言わないでよ。
器小さいなあ。そんなんじゃモテないよ。」

「余計なお世話だ。化け猫風情が。
お前は負けそうだったからって俺までやられる訳がないだろ。頭の出来が違う。」

その後も2人はあーだこーだと言い争いを続け、結局決着はつかないまま、とりあえず今の状況をまとめる事にした。

「奏はこれからどうするの?
魔王がいないってわかった今、もう逃げる必要も無いんじゃない?」

「魔王がいないんだったら尚更王国になんて行く訳ないだろ。メリットがなにもない。
別に最悪のケースってだけで解決策を用意してない訳じゃないんだ。
プランをそっちに変更したらいい。」

「へえ、そのプランってどんなの?
もしかして、元の世界の帰る方法に見当がついてるとか?」

「いや、全く」

「へっ…じゃあ、プランって?」

「帰れる手段がわからないなら俺に出来るのは一つだけだ。…こっちの世界で暮らす。」
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