男装の英雄は用済みだと棺桶に入れられた

翔千

文字の大きさ
3 / 18

一時帰宅

しおりを挟む
 シュン!!
 ドサ!!

「ッ、う!!」

 短い閃光と共に背中から落ちたレイン。
 だが、落ちた場所がベッドの上だった為、身体へのダメージは少なかった。
 レインはベッドに仰向けで寝た状態で周りを見渡した。
 高い位置になる小さな窓からオレンジ色の夕陽が差し込んでいる。
 見覚えのある部屋に身体の力が抜けた。
 
「・・・・・・・はぁ、成功した。っ、はぁあ」

 身体が痺れた状態で転移魔法を発動させたのは正直賭けだった。
 棺桶内の酸素と魔力が尽きる前に成功して良かった。
 少々埃っぽいが、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。

 しばらくベッドに仰向けで寝ていると身体の痺れがマシになってきた。
 転送魔法で飛んで来たこの場所は、ルヴァンヌ家の離れ、レインの部屋だ。
 ベッドから上半身を起こし改めて部屋を見渡す。
 一年半以上空けていたが、やっぱり自分の部屋は落ち着く。
 ベッドから降りて、近くにあった姿見鏡に自分の姿を写すと、そこには薄くメイクをして白いワンピースを着せられた自分が写っていた。

「なんか、似合わないな」

 ワンピースを着たのなんていつ以来だろう。
 化粧は生まれて初めてかもしれない。
 鏡に映る姿はまるで知らない人のように見えた。

 姿見鏡の他にも何やら棚や机など家具が無造作に置かれている。
 恐らく、私が討伐に行っている間、あの人達が物置にしたんだろう。
 見覚えのある家具や置物。多分また新しい物を新調したのかな。新しい物好きだったからな。あの人達。

 無造作に置かれ、薄く埃を被った家具や置物を見て、

「・・・・・・・・・・ふ、ははは」

 あまりにも虚しくて、逆に笑えて来た。
 この部屋を物置にしていたと言う事は、もう私はこの部屋に戻ってくる事は無い。そう言う事だったんだろう。
 レイン・ルヴァンヌはこのルヴァンヌ侯爵家では要らない人間と言う事か。

 最初から計画通りという事?
 あの時私に向けてくれた元家族のあの笑顔は、心からのモノでは無かったんだろうか?
 ・・・・・・私もジルベールと同じ男に産まれていれば少しは変わったんだろうか?

 そんな自問自答の考えを何度も繰り返した。

 本当は愛されたかった。一番じゃ無くていい。笑ってほしい。話を聞いてほしい。
 ジルベールと一緒に認めて欲しかった。

 私はいつから、家族の輪から外れてしまったんだろう?

 でも、こんな時に涙を流せない私は、私自身も無意識にあの家族から心が離れていたのかもしれない。

「・・・・・はぁ、考えても仕方ない。どれだけ時間が過ぎたのか分からないけど、さっき私を埋葬していたと言う事は、『別れの5日間』の3日目の筈」

『別れの5日間』
 それは、アレニア王国で行われる貴族の伝統葬儀。
 アレニア王国の貴族は親族内に不幸に見舞われた者が出た時、1日目に周りに故人の事を知らせて、2日目で貴族専用の教会に遺体を運ぶ。3日目で教会で葬儀を行い墓に埋葬する。親族は4日、5日の二日間教会に留まり、故人を偲ぶ。
 これが『別れの5日間』。

 世間体を常に気にしていた両親だったから、不本意でも娘の葬儀はきちんと行うはず。
 そうなると、あの人達がこの屋敷に帰ってくるのは早くても明後日という事になる。
 自分の身を憂い哀しむよりも、これからの生き方について頭を切り替えるレイン。

「レイン・ルヴァンヌはもうこの世にいない人間だとしたら、その方が今の私には都合がいい。とりあえず、身の整えてここを出よう。使用人達に見つからないように夜を待って、夜中に本邸で必要な物を調達しよう」

 両親と弟は無関心だったけど、使用人達にはよくしてもらった。
 だから、いきなり死者が目の前に現れたらパニックになりかねないから、なるべく会わないようにしよう。
 強硬手段は奥の手だな。

 とりあえず、これからいる物を頭の中で整理しておく。
 その時、コツ、と小さな音がレインの耳に届いた。

「ッ、」

 音はコツ、コツ、とこちらに向かってくる。
 使用人がこの離れに来たか?
 咄嗟に身を隠そうと動こうとしたが、

「っ、しまっ、!!」


 まだ体に痺れが残っていた為、体
 の反応が遅れてしまい、

 ガダダ!!

 床に置いてあった木彫りの置物を倒してしまった。

「誰か、部屋にいるのですか」
「ッ、」

 部屋の外から声がかけられた。
 そして、

「このお部屋はもう入ってはいけないと言った筈、」

 声と共にドアが開けられらてしまった。
 部屋に入って来たのは、レインのよく知った初老の女性だった。

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・え?」

 身を隠す暇がなく、その場に立ち尽くすレインとレインの姿を見て初老の女性は部屋に入ろうとした体勢で固まってしまった。

「お、お嬢様??」
「・・・・・・・・・婆や」

 両親の愛情をもらえなかった私に惜しみ無い愛情と厳しさを教えてくれた、ルヴァンヌ侯爵家メイド長にして、婆や、ソフィだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...