男装の英雄は用済みだと棺桶に入れられた

翔千

文字の大きさ
7 / 18

ただいまとお帰りなさい

しおりを挟む
「お嬢様、頭を上げてくだせぇ」

シンと静まり返った静寂を破ったのは、トムゾワーズだった。
ゆっくり、頭を上げると、トムゾワーズは私の顔を見て豪快にニッカリと笑った。

「少なくとも、俺は、この屋敷を辞めた事に後悔なんて無い。小さな頃から俺の料理を美味そうに食べてくれるお嬢様がもうこの世に居なくなったと知った時に、俺はこのお屋敷になんの未練も無くなちまったんだ。自分でも潮時だなと思っていた所だったんでさぁ」
「わ、私も、弱気でいつも旦那様やジルベール様に嫌味を言われた時、お、お嬢様が間に入ってくれました。それに、一緒に薬草摘みにも付き合ってくれたり、私の方がお嬢様に助けてもらってばかりで、」

涙目のエドモンドが必死の様子で話してくれた。

「そうです!!私達もお嬢様のは、旦那様やジルベール様に嫌がらせやセクハラされていた時、助けてくれました!!」
「奥様に粗相をしてしまって、お仕置きで鞭を打たれた時も、お嬢様は治癒魔法で私達の傷を癒してくれました」
「旦那様達は俺達を人とは見ていなかったけど、お嬢様はいつも俺達を気遣ってくれたし、親切にしてくれました。
あと、旦那様内緒でこっそり小遣いもくれました!!」
「むしろ、旦那様達には仕事としてしか接していませんでしたし、忠誠心はお嬢様の方が上です」
「え?えぇぇ~」

使用人達のまさかに言葉に、驚きを隠せないレイン。

両親と弟が気分次第で使用人に辛く当たっていたのは幼い頃から知っていた。
酷い時には、無理難題を押し付け時には感情のまま鞭を打ち、着のみ着のまま使用人だった人を屋敷から追い出した事もあった。
直接的に自分が何かした訳では無いが、曲がりなりにも私もルヴァンヌ家の娘。
怒り任せの罵声や恨み言を言われても仕方ないと覚悟していた。
困惑しながら婆やとヨハンを見ると、婆やとヨハンは優しく微笑んでいた。

「お嬢様、私達はあくまでもこのお屋敷に雇われていた使用人。生かす辞めさせるのも、そのお屋敷のご主人様次第です。それに、旦那様達を恨めしく思うことはあれど、お嬢様に恨み言を言うのはお門違いで御座います」
「婆や・・・・」
「私達は解雇を言い渡された事よりも、今ここにレインお嬢様が生きていると言う事の事実に喜びを感じているのです」
「ヨハン・・・・」
「大分、言い遅れてしまいましたが、改めまして、」

ヨハンが姿勢を正し、私に頭を下げる。

「お帰りなさいませ。レインお嬢様」
「「「「「「「お帰りなさいませ。レインお嬢様」」」」」」」

トムゾワーズ、エドモンド、ミア、ジュリア、レヴィ、カイル、婆や、ヨハンの全員が一斉にレインに頭を下げる。

「・・・・・ッ、」

その光景に私の目の奥が熱くなった。溢れてくる涙が止める事が出来ない。
右手で涙を拭っても拭っても溢れてくる。

「ッ、た、だいま、ッ、ぅぅぅ、あり、がとう」

今は、喉が引き攣った泣き声で、私は皆にお礼を言う事しか出来なかった。

「お帰りなさい」と「ただいま」
ただこの言葉を言い合える事がこんなに幸せだと20年生きてきて初めて実感した。
『居ない者』とされた私にも帰る場所があったんだと、そう思えた。


「お嬢様、落ち着きましたか?」
「ううぅぅ、また泣いている所を見られてしまった」

再びソファに座り、恥ずかしそうに赤くなってしまった鼻頭にミアから受け取ったハンカチを当てるレイン。

「うふふ、レインお嬢様がこんなに泣いたのはいつ以来でしょうか?」
「少なくとも、10年以上はお目にかかった事は無かったですね」
「婆や、ヨハン。もういいから!!」

まるで孫を見るような暖かい目をする婆やとヨハンに気恥ずかしさが増す。

「ンン、みっともない所を見せて、すまない。所で、皆はコレからどうするの?」

気恥ずかしさに少しわざとらしく咳払いをし、気になっていた事を皆に聞いた。

「あーー、取り敢えず、ミアとジュリアとレヴィ、カイルは俺が一時引き受ける予定でした」

レインの問いに答えたのはトムゾワーズだった。

「俺の故郷で古い馴染みが飲食店を経営しているんで、そこで、こいつら雇えないか口利きをしようと思って。エドモンドは、確か、街に出て薬剤師の仕事を探す予定だったな?」
「は、はい。でも、正直、街に出ても仕事が見つかるかどうか不安で、田舎に帰った方がいいのかとも思っています」

トムゾワーズの問いに不安そうに答えるエドモンド。

「私は、仕事の関係者を頼って、他の屋敷で働けないか掛け合うつもりです」
「私も、針仕事や糸紡ぎの仕事を探す予定でした」

ヨハンも婆やも仕事を続けるようだった。
皆、仕事を探す事を考えている。
本来ならヨハンと婆やは隠居していても可笑しくない年齢なのに。

「念の為に聞くけど、退職金は?」
「・・・・・・・故郷までの交通費なら、お情けで頂きました」
「・・・・・・・本当に、私の両親がごめんなさい」

薄々気付いていたが、本当に満足な退職金を支払っていないなんて。

その時、ふと、ある人物がレインの頭の中に浮かぶ。

「・・・・・・ヨハン」
「はい、お嬢様」
「今日が別れの5日間の3日目で合っている?」
「はい」
「じゃあ、私の葬儀の事は周知の事実なの?」
「はい。ただ、親戚には手紙で簡略的にお知らせしただけで、葬儀にも家族葬にすると、誰もお呼びにはならなくて」
「・・・・・・・・・」

心配するような、憂いた顔をするヨハン。
だけど、私はそんなヨハンの顔を見て、ある考えを頭の中で巡らせていた。
手紙で知らせていると言う事は、『あの人』にもこの事は知らせが入っている筈。
正直、今の私が生きていると知らせるのも、信じてくれるかどうかも怪しい。
でも、このまま、皆に苦労をかけるのは、嫌だ。

「お嬢様?」
「ん?ああ、大丈夫だよ、ジュリア」

心配そうに、声をかけるジュリアに優しく笑いかける。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...