男装の英雄は用済みだと棺桶に入れられた

翔千

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心機一転

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翌朝、ジュネード伯爵家の応接間には今日ルガノに旅立つメンバーが集まっていたが、

「お嬢様達、遅いですね」

まだ応接間に来ていない主人であるレインを含め女性陣にカイルが呟く。
応接間には、カイルをはじめ、レヴィ、トムズワーズ、エドモンド、ヨハン。そして、ジュネード伯爵レオール卿。そして、ジャスパー氏、伯爵子息のヒューズとバーナードが揃っていた。

「女性は準備に時間がかかると言うからな」
「でも、お嬢様も準備に時間をかけられる、ほど、ご自身に余裕が出来たんですね」

レヴィはしみじみとそう言って。

レヴィの言葉にトムズワーズとエドモンドそしてヨハンもウンウンと共感する様に頷く。

主人であるレインお嬢様は侯爵令嬢として生まれたのに、両親の理不尽な方針で幼少期から男として育てられ、平民の生活と変わらない生活を余儀なくされていた。

両親が弟のジルベールを猫可愛がりをしているのを横目に、剣術と魔法の鍛錬、そして自分の食べる食糧の為の畑仕事、馬の世話に明け暮れ、屋敷の馬小屋の隣の小さな古屋のような離れで1人で暮らす日々を過ごしていた。

短く切られた髪は伸ばす事を禁じられ、ドレスもアクセサリーも一切与えられず、他の貴族の令嬢達との交流も禁止され、友達も作る事が出来ず、毎日汗と泥に汚れていたレイン。
だが、使用人達は、雇い主であるルヴァンヌ侯爵に必要最低限の世話だけを命じられるだけで、ただ見ている事しか出来なかった。
そんな毎日を過ごしていたレインは身の回りの世話は自分でやる事が当たり前になっていた。

「お、お嬢様、随分と、明るくなりました。本当に・・・・」

エドモンドがふと、過去と今のレインを記憶の中で思い浮かべて、感傷深く呟いた。

ジュネード伯爵家に滞在し始めた頃、「自分はもう令嬢では無い」とレインお嬢様は使用人達に身の回りの世話されるのを断り、逃げ、自ら泥仕事を進んでこなすレインお嬢様を、元ルヴァンヌ侯爵家の使用人、伯爵夫人のアミリア様、ジュネード伯爵家の使用人達が総出で阻止しようとしたものだ。

ドレスを着せようとしても動き易い服装を好み、「何かしないと申し訳無い」と言い、野良仕事を進んでこなす。
それだけではなく、戦場での生活リズムが抜け切れず、1日の食事をパン一つで済ませ、ベッドで寝ず、床に座り眠りの浅い睡眠をしていた。
そのせいで、お嬢様の身体は随分と痩せていた。

そんなお嬢様の生活習慣をこの一ヶ月で元ルヴァンヌ侯爵家使用人達とジュネード伯爵家使用人総出で全面的に改善させた。

更に、レインお嬢様を着飾りたいメイド達とアミリア様によるレインお嬢様淑女化同盟が結成され、野良仕事をしようとするお嬢様の手から農具をやんわり取り上げ、無理強いをしない範囲でメイド総出で無頓着だったスキンケアを勧め、アミリア様やレオール伯爵卿がお嬢様にドレスやアクセサリーの贈り物をしていた。

食が細いお嬢様の食事をこまめに気にかけ、ジュネード伯爵家内でアミリア様主催のお茶会を開き、お喋りとお茶、軽食を楽しみ、時にお嬢様の義父となったジャスパー様とレオール伯爵卿に子息であるヒューズ様とバーナード様と共に剣術と魔法の稽古や講義を受け、疲れれば、子息達と共にお昼寝。夜も規則正しく、ぐっすりとベッドで眠る。

すると、戦場から帰って来た頃の痩せ細ったお嬢様の身体はこの一カ月の規則正しい生活のおかげで無事に標準体型の健康的な身体になり、表情も随分と明るくなり、以前のルヴァンヌ侯爵家にいた頃のお嬢様とは主治医の自分から見ても見違えるほど変わった。

「本当に、本当に良かったです・・・・」

時々憂いた表情を見せる事はあるが、明るく笑い、ミアやジュリア、ご子息であるヒューズ様とバーナード様に囲まれているレインお嬢様を見ていると、思わず涙腺が緩くなってしまう。

と、その時、

コンコンコン

「失礼します、旦那様。レイン様のご準備が整いました」

扉の向こうでジュネード伯爵家のメイドの声が聞こえた。

「ああ、入りなさい」
「失礼します」

ガチャリと、応接間の扉が開くと、夫人であるアミリア様が入室。続いて、メイド達が応接間に入って来た。

「アミリア」
「アナタ。お待たせしてごめんなさい」
「いいや、大丈夫だよ。レインはまだかい?」

夫にそう聞かれて、妻であるアミリアはにっこりと笑みを浮かべる。

「??どうしたんだ?」
「うふふ、ちょっとね」
「????」

嬉しそうな笑みを浮かべる妻にレオール伯爵卿は首を傾げる。

「レイン、早く入っておいで」

アミリアがまだ応接間に入って来ないレインに声をかける。

「は、はい・・・・」

入り口の近くでレインの声が聞こえ、婆やであるソフィとミア、ジュリアと共に応接間の入り口に立つレイン。

「え、」
「あ!!」
「え、え?」
「ほほほ」
「おほぉー!」
「わわわ!!」

男陣が驚きの声を上げる。

応接間に入って来たレインはシンプルなベージュ色のドレスを着ており、昨日まで短かった髪が、亜麻色のリボンを編み込まれ長めの三つ編みの鮮やかな赤髪がレインの右肩に垂らされている。
淡いベージュ色のドレスに鮮やかなレインの赤い髪がよく映えている。

「お、お嬢様、その髪・・・」
「昨日、アミリア様にお願いして、魔法薬で髪を伸ばしてみたんだ。似合う、かな?」

レヴィが目を見開いて、レインに問いかけると、レインは恥ずかしそうに笑った。
すると、

ドン!!

「姉様、似合う!!綺麗!!」
「姉様、可愛い!!」
「わ、」

真っ先にドンとレインに飛び付いてレインの腰に抱きつくヒューズとバーナード。

「ああ、とっても似合うよレイン」
「うむ、見違えましたな」
「あ、ありがとうございます・・・」

叔父上と義父にも褒められて、恥ずかしそうに笑う。

「ええ、とってもお似合いでございます。お嬢様」
「ああ、また一段と美人になりやしたね!!なぁ?エドモンド」
「は、はい、とってもお美しいです」
「ヨハン、トムズワーズ、エドモンド・・・ありがとう」

レインの表情はどこか安心したようにホッと息を吐く。

因みに、若輩者のカイルとレヴィは髪を伸ばしたレインの姿を見て顔を赤らめて惚けいた。

「昨日、レインに髪を伸ばしたいってお願いされて、魔法薬で一晩がかりで髪を伸ばしたら、綺麗に伸びてね。そしたら、ヘアーアレンジのしがいがあってね、ついつい、みんなと盛り上がっちゃって、漸くこの髪型で落ち着いたの」

嬉しそうに話すアミリア。
よく見ると、今のレインの髪型は亜麻色の髪の三つ編みを右肩に垂らしているアミリアの髪型と同じだった。

「実は、ずっと憧れていたんだ・・・。アミリア様のような綺麗な長い髪に。今日から新しい生活が始まるなら、思い切って心機一転したいと思って・・・・」
「ッッッ!!」
「ッッッ!!」
「わわわわ?」

レインの言葉にジュネード伯爵一家は無言でレインを抱きしめる。

「お嬢様、前の短い髪もお似合いでしたけど、やっぱり長い髪もとってもお似合いです」
「はい!!」

アミリアと一緒にレインのヘアーアレンジに加わっていたミアとジュリアは興奮冷めやらないと言うふうにジュネード伯爵家のメイド達と頷きあう。

「レイン!やっぱり、私たちの娘として此処でみんなと一緒に暮らしましょう?」
「アミリア様・・・・」
「アミリア、我儘を言ってはレインに迷惑をかけることになる」
「アナタ、言いたい事は十分承知していますけど、レインの頭をあまり撫ですぎないでくれます?折角の髪が乱れてしまいます」
「あ、ああ・・・。済まない」
「あ、あははは・・・・」

叔父上夫婦のやりとりに思わず苦笑してしまったレインだった。
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