男装の英雄は用済みだと棺桶に入れられた

翔千

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行ってきます

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ジュネード一家に揉みくちゃにされているレインを微笑ましく見ている使用人達。
だが、義父であるジャスパーがコホンと小さく咳払いをする。

「旦那様、奥様。気持ちは分かりますが、先方の方の予定もあります。そろそろ・・・・」
「ああ、そうだったな」
「ううう、名残惜しいけど、仕方ないわよね・・・・」

ジュネード伯爵と夫人は名残惜しそうにレインから離れ、レインの腰に抱きついている息子のヒューズとバーナードは上目遣いでレインを見上げる。

「姉様、本当に行っちゃうの」
「すぐ会える?ルガノに行ってもすぐ会える?」
「えっと、それは・・・・」

泣きそうな顔をするバーナードにレインは言葉に困る。

今日、自分は隣国に亡命する。
亡命すれば、この暖かい家族に会うことなんて簡単ではない。
今生の別れ、とまではいか無いもしれ無いだろうけど、少なくとも数年は会う事は難しいだろうな・・・。

「ああ、すぐに会えるぞ」
「え!?」

ジュネード伯爵が息子達に微笑みながらレインの代わりに答えると、レインがその言葉に驚き、思わず声を上げる。

「え、お、叔父上、それは一体どう言う意味で?」
「ん?そのままの意味だが?」

私の質問に叔父上は小さく笑っていた。

「この屋敷とルガノの別荘を転移魔法装置で繋いだから、いつでも会えるよ」
「は!?」
「最初の数日はルガノの生活に慣れる為に忙しいだろうけど、ルガノでの生活が落ち着いたら転移魔法装置でルガノへ会いに行けるわ」

叔父上に続けてアミリア様が笑顔で答える。

「私達は、ルガノへ新生活を送る身内の家にプレゼントとして転移魔法装置を設置しただけよ?確かに色々と手続きはいるけど、手軽に他国の所有物件に行く事が出来るって最近貴族との間で流行っているのよ?」

あっけらかんとしながら言うアミリア様に私は、焦ってしまう。

「で、でもアミリア様、それはあまりにも危険ではないですか?万が一にも私達の関係がバレてしまえば、きっと、あの人達が黙っていないのでは?」

レインの脳裏に、毒で苦しみ床に倒れもがいていた自分を笑いながら見下ろす両親と双子の弟だった人達が鮮明に浮かんでいた。

もし、万が一の可能性で亡き者にした私の存在が知られれば、きっと、あの人達はどんな手を使うか分からない。
それに、弟のジルベールはアリニア王族との婿入りが決まっていて、王家の後ろ盾を得ている。
下手を打てば、王家の権力を振り翳して叔父上達にどんな事をするか分からない。

自分が傷付くのは、もう慣れている。

だけど、この優しい人達に、あの家族の魔の手が伸びるのが恐い。
万が一にも、起こってしまうかもしれない。望んでもいない、最悪な顛末。
そんな事を考えるてしまうと、レインは無意識に顔色を曇らせる。

「・・・・・・・」

そんな、レインの考えを察したジュネード伯爵はレインの頭を優しく撫でる。

「大丈夫だよ。レイン」
「、ですか、叔父上・・・・」
「私達が、何も対策をしていない訳では無い。ちゃんと、然るべき対策も根回しも完了している。それに、いざ、あの愚兄が何か私達の脅威になろうとなったら、お前がいるルガノの屋敷へと家族全員で避難しに来るさ」

叔父上はそう言いながら私に優しく微笑んでくれた。

「叔父上・・・・」
「そんな顔をしないでくれ。間違っても家族やお前達を危険に晒す事は絶対にしない。約束だ」
「僕も約束する!!」
「僕も!!」
「あら、みんなズルイわ。私も約束させて」

アミリア様がそう笑いながら再び私達はぎゅうぎゅうに抱き合った。

「行っておいで。レイン」

優しい目で私の頭を撫でる叔父上。

「、はい」

不思議だ。
不安で不安で堪らなくて心が揺れていてのに、叔父上に優しく頭を撫でられて、みんなで抱き合うと不思議と不安な心が落ち着いて行く。

不安や後悔はある。
今でも、自分が埋葬され、公爵家の自分の部屋に転移魔法で帰ってきて、婆やに見つかったあの時、真っ先に公爵家の屋敷を出て行けば、婆ややヨハン、使用人のみんなを巻き込まずに済んだかもしれない。
叔父上達にも迷惑や手間をかけずに済んだかもしれない。
でも、私がそう思う度に、必ず誰かが側に居てくれた。

そして、私は気づいてしまった。

不安と後悔で自己嫌悪になって、1人苦しんでいる時に誰かが側に居てくれるだけでいい。
無理に話を聞いてもらわなくてもいい。お節介を焼いてくれて、笑いあって、他愛の無い話をして、美味しいお茶を飲んで、優しく触れられるだけで、こんなにも心が軽くなっていく。

誰かが味方であるという事がこんなにも心強く、私に小さな勇気をくれる。

それが、とっても幸せだという事に。

私はしっかりと前を向き、正面に居る叔父上の顔を見る。

「向こうに着いたら、すぐに連絡をします」
「ああ、待っているよ」
「はい」

レインはしっかり返事をし頷いた。

「でわ、転移魔法の術式を発動します」

レインがジュネード伯爵一家の抱擁から解放されたのを見て、ジャスパーは転移魔法の術式、魔法陣を発動させる。

「お嬢様」
「うん」

婆やに呼ばれて、私は振り向くとみんな魔法陣の中で私を待っていた。
円状に描かれた魔法陣が淡く光りを放つ。

その時、

「レイン」
「え、」
「ーーーー、ーーーー、ーーー。ーーー」

ジュネード伯爵がレインの耳元で何かを告げた。

「出来るな?」
「・・・・・、はい!!」

私は、叔父上に告げられたある事に、力強く返事をする。
そして、私は、淡い光り輝く魔法陣の中に足を踏み入れる。

魔王討伐に旅立つ朝。弟、ジルベールの身代わりに戦場へ赴いた私。
婆やや仲が良かった使用人達は戦場へ向かう私に無事帰る事を願う言葉をかけてくれた。
だけど、元両親と弟は誰も私を見送りに屋敷から出て来ず、娘の私へ言葉をかけることも無かった。
私は、固く閉ざされた公爵家の扉を振り向く事も出来なかった。

でも、

「気をつけてね。レイン」
「姉様!!行ってらっしゃい!!」
「行ってらっしゃい、姉様」

アミリア様とヒューズ様とバーナード様。そして、ジュネード伯爵家の使用人達が笑顔で魔法陣の中に居る私達に手を振って見送る。

「・・・・・行ってらっしゃい」

叔父上、レオール叔父様も優しく見送ってくれた。

「い・・・、行ってきます!!!」

私は大きな声で初めて家族に『行ってきます』を笑顔で言った。

そして、私達は、魔法陣の光に包まれた。
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