旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千

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キャサリン・ミッチェル

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デリー伯爵夫人であるバーバラは尋常じゃないくらいに汗をかいている。
それは、部屋が暑い訳ではない。むしろ、体は背筋が凍りそうな程寒い。
その時、

「ぶふ、キャサリンって、しかも38歳って」

アレックスの耐えきれない笑いが部屋に響く。

「し、失礼だが、デリー夫人は確か今年で53歳の筈では、」
「15歳もサバをよむだなんて、いくらなんでも無理があるんじゃないかしら?」

同じく子を持つ母親としてデリー夫人に呆れるお母様。
気持ちはわかります。
確かにデリー夫人は年齢よりも若く見られる事が多かったし、それを魅せようと努力とお金に射止めは付けなかった。

(それこそ、元嫁である私の稼ぎを元夫と共に湯水にように使う程に・・・・)

「ここ半年、ライバル商会であるクロノス商会で見覚えのあるデザインの服が出回るようになりました。最初はさほど気に留めていませんでしたが、調査を進める内に、キャサリン・ミュチェルと言う人物がクロノス商会にデザインを売り込んでいる事が分かったのです。
ライド商会が企画し、商品化しようとしていた、ドレスのデザインを」

冷たい声で、ロザリアが数枚のドレスの絵が描かれたデザイン画を数枚と内容がまとめられた書類を机に広げた。
その広げられた絵の中に、ファーガスが旅行先で手に入れた、そして、偽物と言われ格安で質屋に入れたドレスの絵があった。

「ッ!?」
「バーバラ、お前・・・ッッ!!」

ファーガスは質に入れたドレスの絵がある事に驚き、デリー伯爵は妻を怒りの視線で睨んだ。

「大方、ファーガスさんの支援者であった、カルロス氏かルドバ氏を使って密かにデザイン画を拝借したのでしょうね」
「ッッ、つ、使わないアイデアを利用して何が悪いと言うの!?貴女達が使わないから私が有効活用してあげたのです!!」

周りの視線に耐え切れなくなったのか、開き直ったように顔を上げ、強気に叫ぶデリー夫人。
だが、ロザリアは口元は微笑み、だが淡々と冷ややかな目をデリー夫人に向けていた。

「使わなかったのでは無く、既にドレスは世に出ています。それに、デザイン画はライド商会で公認されていました。
ライド商会で手がけたドレスのデザインの著作権はライド商会のデザイナー、強いては我がライド商会のモノ。
それなのに、貴女は他キャサリン・ミュチェルの作品として他の商会に持ち込みました。これは盗作です。勝手に他へ持ち出され、売り込んだ報酬は全てご自身の懐に。
本当に物凄く、迷惑なんです。デリー夫人」
「め、迷惑!?貴女、仮にも義母である私に向かって、」
「関係ありませんわ」
「ヒッ!?」

ロザリアの遠慮のない言葉に、噛み付くように反論しようとする義母の言葉をロザリアの冷たい声が遮る。
ロザリアの笑った顔しか見た事がなかったデリー夫人は、ロザリアの冷たい視線と、淡々とした口調に、一瞬押し黙ってしまった。

「我がライド商会の手がけるドレスは、素材に着心地にこだわり、繊細な伝統と最先端のデザインを織り込み、手を加える事で親から子へ受け継ぐ事が出来る。
貴族の顧客はもちろん、貴族以外のお客様にもお買い求め頂いてもらえる。我がライド商会はそう言うドレスを手掛けているのです。
貴女が好んで着るような一度袖を通して終わりのドレスではないんです」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ぅぅぅぅ・・・・・・」

淡々と冷ややかなロザリアの言葉にデリー伯爵一家は冷や汗をかき、何も言い返せず、デリー夫人は悔しそうに下唇を噛んでいる。
夫人が付けていた口紅が口の端で汚した。
それでも、ロザリアの言葉は止まらない。

「他の商会に流れた事で、結果、高額でありながら素材は安物、不似合いな装飾を無駄に付け足されたライド商会で売っているデザインと同じ型のドレスが世に出てしまった。
おかげで、正規のデザインで世に出たライド商会のドレスと型が似ている事でライド商会に問い合わせが多く寄せられました。
『ライド商会の売っているドレスと同じ物が売っていた』
『値段が正規の二倍以上する』
『型は似ているが素材が明らかに粗悪品』
『すぐに破れてしまった』
『装飾が無駄に多く、重たい』
『品位が欠けている』
『ライド商会のドレスでないのか?』
と、
正直、息子さんの問題の収拾よりも、こちらの問題の方が大変厄介でしたわ」

はぁ、と深く溜め息を吐く。

「私がお父様からライド商会の経営の一部を任されているとは言え、お問い合わせされた方々にお答えして、誤解を解いて、お詫びを申し立ててる。お兄様と影に協力してもらいドレスの出所を調べ上げ、更にドレスのデザイン画の出所を調べる。本当に骨が折れましたわ」

隣の席で書類に目を通していた、お母様が、ふぅ、と溜め息を吐いた。

「これは立派な盗作、情報流出による大損害。この様子では他にも色々と余罪がありそうね」

その様子が、プライドが高い夫人の勘に触れたらしく、

「ッ、く、女の身で、商会の経営に携わっているなんて、生意気なのよ!!」

目尻を吊り上げ、こちらを睨んでくる。
なんだか、ヤケクソになったようにも見える。

「女であるからこそ、女性の目線で経営に携わり、多くの信頼を得る事が出来るのです」
「な、何よ!!偉そうに!!それに、私の息子のファーガスと結婚したなら、普通は夫を敬うものでしょが!!?」

余りにも口煩くなってきたのか、ルイスが、猿轡の布を手にもつが、ロザリアは視線でそれを制した。 

「・・・・私は結婚前に言った筈です。私の仕事を邪魔をする事は禁ずると。それは、元夫の実家とて同じ事です」

虎の威を借る狐。
遠い東の国にそう言う言葉があるが、その言葉が当てはまる。
そして、虎の威を自分のモノだと過信しすぎた狐が正に目の前にいる。

「そもそも、貴女の息子がライド商会で仕事に関われていたのはアークライド公爵家の娘である私と言う妻がいたからです。それをさも、自分の力でその地位に立つ事が出来たと豪語する貴女の息子さんに、どう敬えと?」
「、こんの!!小娘が!?」
「私達は確かに政略結婚でした。でも、ファーガスさんが伯爵、いえ、お義父様のようにお家の事を真剣に考えて自分の勤めを全う出来たのなら、私自身もファーガスさんに素直に歩み寄る事が出来たでしょう。事実、私は結婚当初は本気でファーガスさんを夫として支える覚悟でいました」
「ロ、ロザリア・・・・」

母の言葉に淡々と反論するロザリアが一瞬憂いた様に目伏せ、ファーガスがロザリアに言葉掛けようとした。
が、一瞬の憂いた表情からスンと真顔になり口元だけ笑みを浮かべ、

「ですが、結婚して5年の間に愛人を6人も作られて、私の仕事を邪魔をされ、更に私が仕事場としてお祖父様から頂いた屋敷を愛人さんと3人で追い出された時に、微かに残っていた微々たる情も消えてしまいました」
「だ、だからと言って屋敷を取り壊すなんて、」
「あの屋敷は、私の物です。それを貴方と愛人さんの手垢が付けられるくらいなら、いっそ壊してしまった方がマシです」
「・・・・・・・・」

いつもとは違うまるで人形のような笑みにファーガスはゾッと恐怖を感じ、何も言えなかった。

「まぁ、もっとも、ファーガスさんは数日前に公爵家の人間では無くなっているんですけどね」
「・・・・・・・は?」

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