4 / 204
第1章 旅立ち
リディア・ベルネット(3)
しおりを挟む「ひいぃぃぃぃ!!!」
恐怖で彼女の顔が歪む。
間に入った兵士達も次々になぎ倒される。
あっという間に彼女の目と鼻の先だ。
「おぅらぁあああああ!!」
それまで動かなかったホルガーが、ゴブリンロードにぶちかましをする。
ドゴゥォォ!
巨躯同士がぶつかり合う物凄い音がするが、ゴブリンロードが少しバランスを崩し、減速した程度か。
(化け物!!―――)
息を呑み、レベルの違う、このモンスターのあまりの強さに戦慄する。
ゴブリンロードは、盾代わりのゴブリンを持ったまま、左手でホルガーを薙ぎ払う。
「うぉああああああ!!」
ドスンッ!!
何体かのゴブリンの死体と共に、ホルガーは一瞬で10メートルほど吹き飛ばされてしまった。
ゆっくり首を回し、そして真っ直ぐにリディアに視線を向けるゴブリンロード。彼女には心なしか、その口の端が上がっているように見えた。
(今、ターゲットは私か……そりゃそうね。あんだけの魔法打ち込んだんだから)
「グルルルル……グッグッ……」
「笑ってんじゃぁぁないわよ!! ティレス・フォー・マリハッタ……」
いとも簡単に硬直しそうになる自分を声を出す事で奮い立たせ、再びロッドを構える。
だが、足元にあったゴブリンの、上半身だけになった死体を拾ったゴブリンロードは、更に口を歪め、猛烈な勢いでリディアに向けてそれを……投げた!
ブォォォォォォォンッッ!!
「え!?」
バチンッッ!!
「アゥッッ!!」
上体を右に傾けて直撃は避けたものの、ゴブリンの腕がリディアの頬から額の辺りに当たり、怖さと痛さで馬から転げ落ちてしまった。その間にも表情を変えずに近寄ってくる巨体。
「グ……グルル……グッグッグ……」
左手で頰の辺りをさすりながら涙を滲ませて、しかしゴブリンロードを睨み付けるリディア。
「フゥゥフゥゥ……笑うな!」
そう叫びはしたものの、さっき詠唱しかけていた魔法は掻き消えてしまった。落馬の際にロッドも手から離れてしまった。
「うぅぅぅ……クッソォォ」
リディアの目から涙が溢れてくる。
怖くて泣いているのではない。
この任務に志願して参加したことにも悔いは無い。戦闘任務だ。途中で命を落とすこともあるだろう。
しかし、身体が死を拒否する。
拒否するが『戦う力』では無く、涙という形でしか表現されない。
(くそっくそっ! 動け私!!)
その時、後ろから何かが走ってくる音がする。
ダダダダダダダダダダダッッ
(味方!)
咄嗟に振り返り、助けを求めようとした彼女の目に映ったのは……援軍ではなかった。
眼に映る数十の影。
それは無情にも、ウェアウルフの大群だった。
ゴブリンロードが咆哮した際に見張りから報告があった数十匹のウェアウルフが全速力で走ってくる。
「そりゃ……そうか」
彼女は自嘲気味に笑う。
(私が最後尾なんだから、後ろに味方なんかいるはずないじゃない)
あっという間に自分まで10メートルほどの距離まで接近している。
「あ……」
(これはヤバいやつだ)
「グゥオオオゥ!」
ドガッ!
叫びと音に向き直ると、もうゴブリンロードが彼女の前方、4、5メートルほど近くにまで来ているではないか。
……が、様子がおかしい。
何かを殴ったような格好をしたまま、立ち止まっている。
口元が引きつっており、怒りに震えている、ように見える。
怒りの理由は……ゴブリンロードの右足に剣が後ろから刺さっている。あれだ。
不意にリディアは思い当たる。
(……まさか! 今、何を……殴ったの?)
恐る恐るヤツの拳の先に視線を向ける。
その方向、数メートル先の木の幹に打ち付けられ、逆さの状態で口から血を吐いているヘルマンが、いた。
「ヘルマンさんッッ!!!!!!!」
(……嫌だ)
(……怖い)
(早く……)
頭の中が混乱する。
ヘルマンは最後まで諦めず、剣を足に刺し、ゴブリンロードの歩みの速度を少しでも落とそうとしたのだろう。
気がつけばもうゴブリンロードの手の届く所にリディアはいた。
時がゆっくりになる感じがする。
(ダメ……)
自分がゴブリンロードの巨体の影に入る。
笑いながらゆっくりと手を伸ばすゴブリンロード。
リディアは怯え、目を見開く。
思考が更に乱れる。
「諦めるな!」
ホルガーが今度はゴブリンロードの左手側から体当たりだ。止まっている所を横から体当たりされたため数歩ぐらつく。
「グゥオオオオオオオオッッッ」
怒りで反射的にホルガーを殴ろうとしたゴブリンロードの巨大な右手が。
綺麗に切断され、彼の足元に転がっていた。
「よくやったホルガー! 後は任せろ!!」
その声は、ゴブリンロードの更に後ろから聞こえた。
彼女がよく知っている声!
そして、待ち望んだ声だった!
なぜ、今、ここにいる? などとは思いもしない。むしろ、
(来たっ……! やっと!)
まるで来る事がわかっていたかのように。
そして声の主が来れば後は大丈夫、とばかりに全身から力が抜けていく。
ゴブリンロードは、何が起こったのかわからないといった感じで、切り落とされた自分の腕を見、そしてゆっくりと後ろを振り返る。
「やっと追いついたぜ! 青竜剣技!」
リディアからは、ゴブリンロードの巨体越しに無数の剣のイメージが空中に浮かぶのが見える。
「『飛』!!!!」
突如現れた男の声と同時に、無数に飛ぶ斬撃!!
しかし、それは何故か、1つもゴブリンロードに当たらず、リディアにも当たらず、風を切る音を残し、彼女の全身をミリ単位で避けて、後ろの方に飛んでいく。
どこを狙ったのか?
ウェアウルフだ。
リディアのすぐ後ろにまで迫っていたであろう、ウェアウルフの群れがバタバタと倒れる音と、呻きとも叫びとも聞こえる断末魔が耳に入ってきた。
ヘルマンとホルガーの2人はボロボロになりながらも笑い、後は任せたと言わんばかりに安心して目を閉じる。
「今度は逃がさねぇよ! ゴブリン野郎!!」
修羅の形相で跳ぶ剣士。そして……
「 火竜剣技!『断』!!」
ゴブリンロードの首から上が、ブチっと胴体と離れ、さらに切り口から全身に炎が燃え広がる。
「バカァ……遅いわよぅ……マッツ!」
苛烈を極める『修羅剣技』の修行に挑んだ数千人の中で頂点に立ち、『剣聖』の称号を持つ。
赤眼のマッツ・オーウェンだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる