16 / 204
第1章 旅立ち
ツヴァリアの戦い(1)
しおりを挟む昼食を済ませる。
準備万端、いよいよ脱出だ。
脱出したら戦闘になる事はわかりきっている。既に攻撃と防御の効果向上魔法をかけてもらっている。
クソジジイめ。何企んでるのかしらねぇが、(モロモロの恨みも込めて)必ずぶっ潰してやる。
「リディア」
「うん」
深く頷き、詠唱に入る。リディアの全身にオーラが発生する。魔法発動時の独特な現象だ。
「『連弾』!」
ズドドドドドドド!
魔力によって作られた石飛礫が、眼前の格子状の細い丸太をあっさりぶち壊す。摩擦で焦げている丸太から出る煙を横目に、急ぎ通路に出る。
予め、外に出るための地図をテオからもらっている。それに沿って脱出だ。とは言っても、道筋は迷うようなものではなく、実にアッサリと外に出る事が出来た。
「ん―――、外! なんだか、すっごい久しぶり!」
リディアが両腕を上げて背伸びをする。外は所々に大きな木が生えており、ツヴァリアの建物と相まって昼間でも薄暗いのだが、ずっと暗い牢屋に閉じ込められていた為か、普段よりも陽の光を感じる。
「ふう。あっさり脱出出来たな」
俺達が監禁されていた建物を外から見ると、意外に小さな廃墟だった。住居に使えそうな建物をエッカルトが修復したのだろう。
「マッツ・オーウェン!」
苔だらけの通りの、少し離れた所からエッカルトが姿を現わし、嗄れた声を張り上げる。いきなり見つかってしまったが、想定の範囲内だ。むしろ、こちらも逃げるつもりなどない。
「何かね。ジジイ」
向き直り、踏ん反り返って腕組みをする。
対して、ニヤニヤと笑みを浮かべるエッカルト。
「ククク。それが答えか。マッツ・オーウェン」
「当たり前だ。お前の手下になんかなるはずないだろ」
「そうかそうか! 残念だよ、マッツ・オーウェン。では君の大切な後ろの彼女は私が貰い受けるとしようか」
「ふん!誰があなたのものになんかなるもんですか!!」
「なるのさ。貴様の意思などとは無関係にな」
瞬間的に血が沸騰する。
「エッカルトォォォォ!!」
こいつは、やっぱり、ここで、必ず、倒す!!!!
「エイリーン・カルレイリン……」
リディアも詠唱を始める。
俺の使う修羅剣技のスペルの中には剣がなくても発動するものがある。
「ネイ・マ・チリ……『光雅奏』!!!」
エッカルトに向かって手刀で空を裂く。
肩口から、腕の長さの光の刃が作られ、敵に向かって放たれる。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ
「クク……剣無しに頑張るではないか。『霊幕』!」
瞬時にエッカルトの前面に薄く波打つ、虹色の『幕』が現れる。
シュンッッッ!!!
音もなく、光の刃が『幕』に吸い込まれた。
「ちっ」
「メイヴン・ヴィジュア・リティス……」
リディアの目が光る。
「……トゥエン・ティアー!!」
「む!」
エッカルトが、空を見上げる。
その先、50メートルほど上空に、人程の大きさ程もある岩が、無数に形成されている……
すげえ! いつの間にこんな魔法を習得したんだ!!
「『岩嵐』!!!!」
ゴオオオオォォォォ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッ!!!!!
エッカルトがいる場所を中心にした、半径10メートルほどの範囲に、無数の岩が降り注ぐ!
凄い凄い! 範囲魔法じゃないか!
これはエッカルトの前面を覆うだけの『霊幕』では防ぎ切れない筈だ。
今だ! このまま、倒してやる。
「ツァー・ラ・ラ……」
今度は両の拳を並べたその先から、鋼鉄のブーメランを形成する。大きさは両腕を広げた大きさだ。破壊力は凄まじい。
「『翼翔』!!!」
詠唱が終わるや否や、見えないスピードでエッカルトに向かってブーメランが飛ぶ。
当たれば、終わりだ。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!
……
ドゥフッッッ!!!
……手応え有り、だ。
如何なエッカルトでも無事で済まないはず。
だが!
キーーーーーーーーーン!!
!!!!!!
敵意感知ッッッ!
「リディア!」
反射的にリディアの方に走り、もう少しで手が届く、いや、腕を掴んだ! と思ったその瞬間に、俺の体がリディアごと持ち上がり、そのまま大きく前へ、上へと吹き飛ばされてしまった。
何だ!?
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
ば……爆発か!?
「うぉ……うおああああああぁぁぁぁ!!」
そして、何十メートルかほど吹き飛ばされ、落下した。
ドォン!
「ゥガッッッ」
よくわからない……何が起こったんだ……
とにかく、衝撃だけが全身を襲う。
落ちる寸前に辛うじて体を入れ替えたが、どうだ? リディアは大丈夫か?
数秒遅れて、いや、実際にはもっと早かったのかもしれないが、激しい痛みが身体中を走る。
煙とモヤみたいなものでよく見えない。あ、いやこれは俺の血だ。目に入っている。
「リディア……大丈夫か! リディア!!」
必死で目をこすり、腕の中の彼女を観察する。
「……う」
「リディア!」
「ぅ……ぐ……イタタ……」
……大丈夫そうだ。
俺の胸の中で、弱々しいがピースサインを作っている。とはいえ、リディアも傷だらけだ。あちこちから血が流れでている。
「一体、何だってんだ……あいつ、あんな魔法使えたのか……?」
奴は、詠唱していたか? わからない……が、とにかく、俺達は爆破によるダメージと落下によるダメージをモロに受けてしまった。
バフ有りでこれだけの衝撃だ。そして、バフは一定以上のダメージを受けると掻き消えてしまう。
先ほどリディアがかけてくれた『大いなる盾』は、既に消えている。
今、もう一度同じ攻撃を食らうと……やばい。
リディアを必死で抱き寄せ、這いずって少しでも移動しながら、エッカルトの方を見る。
何か、いる。
何だ。アレは。
『岩嵐』と今の爆発の煙ではっきりとは見えないが、ヒトの形をした、何かがいる……
何だ、あのデカイのは……
「ククク…… ウワーッハッハ!! デカイ口を叩いておいて、1発でそのザマか。マッツ・オーウェン。良い気味じゃわ。クヒヒ……」
何なんだ、あの、エッカルトの前にいる奴は……
それは、モンスター、と呼ぶにはあまりにもヒトに近い形をしている。
そして、人間にしては、大き過ぎる。フルプレートで覆われた巨大な体躯が、見る者の視覚に頑丈さを訴えてくる。
「なんだあれ……ゴブリンロードの倍以上、あるな……」
「うっ……つつ……」
「大丈夫か!リディア!」
「……大丈夫……だけど……いっっったいわね! 何が……起こったの?」
「あれだ。エッカルトの前にいる、あの巨大な奴がやったんだ。さっきの強烈な敵意はアイツからだ」
巨人と呼ぶべきか、色んなモンスターがいたノゥトラスでも見たことが無い。
黒いフルプレートに覆われ、縦だけではなく横にもデカく、見た目はスマートではない。だがそれがなんとも言えないタフさ、無敵さを醸し出す。ハリボテでなければちょっとやそっとの攻撃は通りそうにない。
「クッフフ……どうだ、マッツ・オーウェン。これが、我の召喚によって降臨した魔神の力よ。今の爆発もほんの戯れの一撃」
「魔神……魔神だと!?」
「そうだ。お前でも聞いた事位はあるだろう? 魔界の7魔神の恐ろしさを。この魔神はその中でも最高のタフさと攻撃力を持つ、魔神アスラぞ!!」
嫌な笑みを浮かべ、誇らしげにそう叫ぶエッカルト。
「魔神アスラ……」
聞いたことがある……ぞ……
単純な殴る・蹴るの全ての動作に、超高威力の爆発を伴う。特殊な防御壁で覆われており、物理攻撃には極めて高い耐性を持つ。普通のモンスターは元より、竜を含めてですら、全ての生き物は等しくアスラには敵わない、と言われている伝説級の怪物だ。
「言っておくが、我が最終的に呼び出す魔神はこんなものでは無い。7魔神を配下に置き、この世のどのような生き物、『5超人』でさえ足元にも及ばぬ『神ミラー』の闇、魔神ミラーよ」
得意気に演説を続けるエッカルト。
神だの魔神など相手にしたくはない。
俺が倒したいのはあのジジイなのだ。
「アスラは戦うほどに強くなる魔神。貴様はアスラの肩慣らしのため、生かしてやったのだ。ほれ、剣聖の力を見せてみよ!」
クッソ野郎め……!!!
俺の目に、両手を天にかざし、勝ち誇った笑いを浮かべたエッカルトが映る。
「クックク。さあ、役目を果たし、死ぬがよい。マッツ・オーウェン」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる