神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

文字の大きさ
20 / 204
第1章 旅立ち

ツヴァリアの戦い(5)

しおりを挟む

 少しだけ休むつもりが、がっつり寝てしまったようだ。気が付けばもう辺りは夜だ。

 俺の横にはリディアとテオが寝ており、アデリナはその反対側で寝て……おらず、俺のすぐ近くで頬杖をついていた。どうやら、ずっと見つめられていたようだ。

「おはよう、おにーさん!」

 アデリナの無垢な笑顔がとても眩しい。

「う……おはよう」
「起きたか……?」

 火を焚いているハンスが俺に気付く。

「ああ、すまない。寝るつもりはなかったんだが……」
「気にするな。それだけ疲れていたんだろう」

 俺が寝てしまっていた間、ハンス、ヘンリック、クラウスの3人は、エッカルトの見張りをアデリナとリディアに任せ(とは言え、途中でリディアも寝てしまったそうだ)、エッカルトが召喚していたモンスターを全て始末していたそうだ。
 もっとも、ハンスだけは少し仮眠をとったそうだが。

「こんな所に根城を作っていたとはな……」

 付近で拾ってきたであろう小枝を、火にくべながらハンスがポツリと言う。

「……全くだ。もっと早く気付いていれば、被害ももっと少なかったんだが」
「どうしようもない事だ。そもそもラシカ村やツヴァリアの存在すら、我々は知らなかったんだからな。……あまり気にするな」
「ああ、そうだな」

 話しながら、ハンスの対面に座る。

 アデリナもくっついてきて、何故か俺の左手を抱いている。

 丁度、ヘンリックがこっちに歩いてきて、ハンスと俺の間に座った。テオが怖がるだろうと少し離れた場所でエッカルトを見張っているのだろうか。だとすると、今、見張りはクラウスか。

 そこで、あらためてハンスに聞く。

「ハンス、どうしてここにいるんだ? オーガはどうした? エッカルトが自信満々に1週間は釘付けだ、と言ってたぞ?」
「お前の疑問はさておき……」

 そこで、真っ直ぐ俺の目を見、問い詰めてくる。

「俺の事より、まずお前の話が先だ、マッツ。アジトがどうとかヘンリックから聞いたが、何故こんな所にいる? 何故エッカルトもここにいる? ヤツは何をしようとしていたんだ? 全て話せ」

 いや、俺の疑問を勝手にさて置くなよ……

 まあ、ハンスからしたら尤もだ。わからん事だらけだろう。

「あー……まあ、簡単に言うと……」

 そもそも前からモンスターの発生に違和感があった事辺りから話し出す。

 無論、『エロ隊長』のくだりは割愛させてもらった。

「ふむ。魔神ミラーか……そんなものまでヒトが召喚できるというのか……?」
「さっ。次はお前だ。ハンス。何でここにいるんだ?」
「何でもクソもない。その『釘付け』の意図が見え見えだったからだ」

 ハンスがニール村に着いた時、モンスター達は大して活発な活動をしていなかったそうだ。

 ところが、その後、次から次へとオーガが現れた。一団をやっつけても、また一団、次、次、とキリがなく、とは言え、一気に蹂躙する、という感じでもない。

 3箇所で同時にモンスターが発生した違和感はハンスも感じていたらしく、更に俺が今回の編成から外れたのも気になっていた。

 救援2日目も、同じように攻めてくるオーガを見て引き返す事にしたらしい。

「クリストフが一緒にいたし、何より『タカ』が危ないと思ったからな。結局、今朝早くに『タカ』に着いたのだが、今度は、お前達がいない」

 ハンス……お前って奴は……。
 今朝、『タカ』に着いただと?

 お前の方こそ、全然寝てないんじゃないのか?

 ハンスは仮眠で済ませたというのに、俺ってば、がっつり寝ちゃってゴメンね……。

「……ヘンリックに事情を聞くと、お前達を探しに来いと伝言があると言う。そしてお前達の代わりにいたのが……」
「私!」

 不意に横からアデリナが会話に加わる。

「……そうだ。3日前、お前とリディアがリェンカリの森で、彼女が危なかった所を助けてやったそうだな。その後、翌朝になってもお前達が森から出てこない事を知り、心配になって『タカ』まで来てくれたそうだ」

 眉を寄せ、心配そうな表情をしたアデリナがハンスの後に続いて説明してくれた。

「ラシカ村の自警団の見張り役の子達に聞いても、そんな人達は森から出てきてないって言うもんだから…… 念の為、砦まで行ったんだ。そしたら、砦にもいないからさ……すごく心配したんだ! ヘンリッ君に事情を話してハンスさんが帰ってくるまで私も『タカ』にいることにしたの」
「……その、『ヘンリッ君』ての、やめろと言っただろ」

 珍しくヘンリックが苦い顔で言う。

「……とにかく、お前達が危なそうだという事がわかり、クラウスとヘンリックを連れ、アデリナにガイドをしてもらいながら、一直線にここまで来た、という訳だ」
「おお……友よ! 心配かけてごめんね!」

 俺はおよよ、と泣き崩れる、マネをする。

「今回、たまたま助かったから良かったものの……これからも上手くいくとは限らないぞ、マッツ」

 厳しい、しかし優しさに溢れる有り難いお言葉だ。

「肝に命じておきますです……」
「やれやれ」

 ため息をついて、火に向き直るハンス。

 そして……キラッキラした瞳で、俺を見つめる隣の美少女。

「……あの……アデリナも、ほんとにありがとう。君がいなかったら、本当にダメだったかもしれない」
「良いんだ! おにーさん。おねーさんもテオも、皆、無事で良かったよ!!」

 更にギュッと腕に抱き付いてくる。

「う、うん。あの……少し、離れてくれると……嬉しいんだけど……」
「ん。イヤ」
「あ……そう……」

 ハンスが目の前で、珍しく、フフッと笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...