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第1章 旅立ち
神の種と超人サイエン(1)
しおりを挟むその後、リディアが目を覚ますのを待って、ラシカ村まで帰った俺達は、そこで熱烈な歓迎を受けた。
やはりテオが無事に帰ってきたのが嬉しいのだろう。
テオは皆に揉みくちゃにされ、号泣の御両親に連れられて行った。よかったよかった。
そして俺達は久しぶりの風呂を御馳走になり、酒や魚を振舞われ、実に楽しく飲み食いさせてもらった。
歓待を受けている間、ハンスとヘンリックは村の女子達(子供含む)にモテモテだった。クラウスも悪くはないんだが、あの兄弟と並ぶとどうしても1枚おちる感があるのは否めない。
まあ、それは俺も同じなんだが。
特にハンスは村の長らしきおじさんに、やたら娘を勧められていた。娘の方も満更では無い様子だったが、にべもなく断るハンスがとてもカッコよかった。しかもその娘へのアフターフォローもバッチリ、抜け目なく行なっている。こんなの、男でも惚れてしまうぞ。
リディアには厳しく禁酒を言い渡し、そのまま疲れていた俺達は眠ってしまった。
眠りに入る直前、何やら、リディアとアデリナが外に出て行ったのが見えたが、次の日、名残惜しそうにしていたところを見ると、特に喧嘩していた訳でも無いようだ。
そして翌日。
アデリナ、テオとはその村で別れ、俺達は『タカ』へ帰る。
ー
「お帰り! マッツ! リディア!」
「ハンス! ヘンリック! 無事だったか!」
「声くらい、掛けてから行けよ! クラウス!」
そうして出迎えてくれたヤツらだが、縄で縛られたエッカルトを見ると、皆、一斉に息を飲む。
「お、おい、あれ……」
「おお。あいつは、エッカルト……?」
後ろ手に縛られ、ヘンリックのひと刺しとグリグリによって、もはや詠唱はできないはずだが、念の為、猿轡を噛まされているエッカルト。その顔を、まだまだ皆、忘れていないようだ。
「みんな、心配かけて済まない。こいつの事はまた改めて説明する。しばらくはまだモンスターが現れるかもしれないが、その内、以前のような平和なラシカになるだろう」
「……」
「……」
「おおーーー!!」
「おおおおおおーーー!!!」
「なんか知らんが、やったなマッツ。要するにそいつが元凶ってこったな」
「ま、そういう事だな」
「おおおーーー!!」
「とりあえず、帰って来た所だ。一旦、中に入れてくれ」
そして2階の会議室の端の椅子に、どかっと座る。
あー……疲れた。ここを出る時は、まさか魔神と戦うような目に遭うとは思いもしなかった。
「さて……ベノ。状況を教えてくれるか?」
ハンスが口を開く。
ベノを名指ししたという事は、ハンスがここを飛び出した時、隊長代理として任命してたんだろうな。俺より10ほど歳上で、非常に真面目な奴だ。
「はい。ニール村方面、クリストフからはまだ連絡はありません」
「ロールシャッハ村方面、ヘルマン隊長は先程、無事モンスターを制圧した、とのことで、現在帰還中です」
「また、メンザス村方面、リタに関しては、昨日の夜に同じ報せを受けております」
そうか。さすがはリタとヘルマンだ。
クリストフのとこにはオーガがわんさかいるんだから、大変だわな。ハンスもクリストフに押し付けた手前、気になっていたんだろう。すぐにヘンリック達に指示を出す。
「ヘンリック、行けるか?」
「おう!」
「デニスも頼む」
「はいよー」
「では、新たに20名を連れて、至急、頼む」
そんな感じでキビキビとハンスが段取ってくれるので俺は非常に楽だ。
「あ、一応、情報を入れておくが……、今、ニールはオーガの群れで溢れているから、気をつけるように」
ヘンリックは前もって聞いているため、承知の上だったが、気楽に『はいよー』と返事したデニスは少し可哀想だ。
「え~~~マジかよ……死ぬぞ、俺……」
背中を丸めて会議室を出て行く。オーガ達はエッカルトの制御から離れ、暴れ回っているかも知れない。さすがにちょっと気の毒になり、急遽だが俺も行く事にした。
「デニス! 後から俺も追いかける。取り敢えず、急いで行ってやってくれ」
ハンスは、また勝手に……とでも言いたそうな顔をしているが、オーガの群れなんて、普通の兵士にそうそう相手にできるものではない。
「……じゃあ、今回の説明に関しては皆が帰って来てからにしようか」
ハンスも諦めたようだ。
「ああ。その前に……」
そう言って腰を浮かす俺にハンスが即座に答える。
「エッカルトだな」
ー
この時、俺達は今使っている大会議室の横にいくつかある、小さな会議室の1つに奴をほったらかしにしていた。無論、見張りはつけておいたが。
あのジジイが魔術師である限り、詠唱出来なければ、独力でどうこう出来まい。
エッカルトを一時的に監禁している部屋に全員で入る。虚空を睨んでいたエッカルトだが、俺達に気付くと真っ先に俺を睨む。
が、一瞬で目を逸らし、また何処ともなく虚空を睨んでいる。
「……1つだけ聞こうかエッカルト。俺の質問に答える気はあるか?」
微動だにしない。
つまり、Noの意思表示。まあ、予想の範疇だ。
「オーケーオーケー。そうだろうとも。では力ずくで行くぞ」
エッカルトがぴくっと反応する、が、視線は合わせてこないままだ。
「よし。リディア、クラウス。頭の中、読むような魔法、無い?」
「……」
一瞬の静寂。
「「「え~~~」」」
そして、ハンス、リディア、クラウスがハモる。
「お、お前、ノープランか……」
ハンスが左手でこめかみを押さえ、頭痛のポーズを取る。
「少なくとも私は知らないわ」
「すみませんが、私も知りません……」
な、なんだと……
魔法使いなのに、読心ができないだと……
「やれやれ。お前……仮に『読心』するにしても、相手はエッカルトだぞ。2人でどうにかなるものか」
「え!? え!? ……そういうもんなの?」
その時、エッカルトと目が合う。しかも、一瞬で軽蔑、憐れみ、嘲笑の感情が含まれているとわかる笑みを浮かべている。
……よし、斬る。
剣を掴もうとする俺の手を止めながらハンスが言う。
「こいつから読心するならビルマーク王国のシモン最高位魔術師クラス、もしくは相当数の数の魔術師を集めてかからないと無理だ」
「なるほど、そういうもんなのね。……わかった。じゃあ、こいつは、王都に連れて行こう。自白はしないだろうし、拷問も俺の趣味じゃない。王に対応をお願いしよう」
「それがいいだろう。事の規模からして、俺達で収める範囲ではないだろうしな」
ハンスに頷き、見張りの2人に声を掛ける。
「オイゲン、ヨヒム、ジジイを連れて来てくれ。王都への旅支度が終わるまで、地下牢に閉じ込める」
「はっ」
「はっ」
『タカ』には、いや、ランディアには必要ないと思っていた地下牢を使う時が来るとは思わなかった。
国のルールで形式的に作っただけだったのだが……。
ディミトリアス王もなかなか考えているな。
地下牢に行くためには、2階から1階に降り、武器庫、厨房、詰所、倉庫を通り越して、地下への扉を開け、降っていく。
途中、厨房の前でエッカルトがピタリと止まり、猿轡越しにニタリと笑う。
「何だ、お前。何がおかしいんだ?」
問い掛けるとまた無表情になり、歩き出す。
ガシャァァーーン
そして地下牢に幽閉する。牢番にいくつか申し付けておく。
「飯は3食やってくれ。あ、俺とリディアは2食しか貰えなかったけどな! ……食う時だけ猿履は外してやれ。詠唱はできないはずだが、対応は必ず5人以上でやり、牢の外にも2人配置し、怪しい動きをしたらすぐに知らせろ」
ちらっとエッカルトを見て、反応を試す。
……無反応だ。
「あ、それと、触媒がないからできないはずだが、『洗脳』には気をつけろ。必ずこいつから死角になる位置にも見張りを置いておけ」
「承知しました」
「じゃあな、エッカルト! 近い内、また来るよ」
全ての問いかけに対して無反応で返すジジイ。全く薄気味の悪い奴だ。
……さて、エッカルトについては、これで良し。
急ぎ、2階へ引き返す。
その間にハンスとその後の調整を終わらせておく。
「ハンス。今のエッカルトの様子を見てわかったろう。王都行きは急いだ方がいい。編成は任せるが多すぎてもダメだ」
「……そうだな。わかった」
「じゃ、後は頼んだ。リタやヘルマンが帰ってきたら労ってやってくれ。俺はオーガの相手をして来る。デニスが半泣きだったからな」
『魔剣シュタークス』を携え、その日の内にニール村に急ぐ。
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