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第1章 旅立ち
神の種と超人サイエン(2)
しおりを挟むオーガの群れを殲滅し、俺がクリストフやヘンリック達と一緒に『タカ』に帰って来たのはそれから5日後だった。
想像通り、既にエッカルトの制御を離れていたオーガ共は、どこからともなく現れては人を襲い、5、6匹倒すとゴブリンやオークを囮にして逃げる、という始末に負えないものだった。
俺達がエッカルトを倒してから2日間、クリストフが必死で堪えてくれていたらしい。
デニスと共に、少しバカンスをあげようと思う。
砦に帰り、念の為、エッカルトの様子を確認する。瞑想していたようだが、まあ、好きに過ごせばいいさ。俺は『遠視』で覗いたりはしないぜ? ……ジジイの1日を覗いてても面白くなさそうだがな。
モンスター発生とエッカルトについて『事の顛末説明』が終わり、ハンスから王都へ説明の手紙も出したとの事だし、同じくハンスの仕切りによる王都へのエッカルト護送の準備も終わり、ようやくひと段落、明日朝出発だ。
「ハンス! 巡視に行くぞ!」
「お前、今朝、帰って来たばかりじゃないのか?」
「そうだけど、ちょっと寝たし、また明日からここを空けるからな。行っとこうぜ」
「……タフだなお前は。わかった」
1時間後ーー
ハンス、ヘンリック、ヴィンセンツ、リタ、クラウス、そして俺の6人と『タカ』の兵士10人でまわろうかと思っていたのだが、明日で『シシ』に帰るヘルマンとリディアも来る、と言うので一緒に行くことにした。
『タカ』から、伸びている北向き、『シシ』方面の道を進む。
今日は天気も良く、モンスターもおらず、田舎のここには悪人もおらず、巡視と言っても遠足のようなものだ。もっとも、俺が任務中に、そんな態度を出すわけにもいかないが。
さて、そろそろ戻ろうか、というタイミングで、何の気なしにふと、空を見上げた。
……?
空を凄いスピードでこちらに向かって進んでくる何かがいる。
『飛んでいる』わけでもなく、『走っている』わけでもない。
ただ、立っている。
それが猛スピードで『シシ』の方向から『タカ』側に移動している。
「おい、あれ、何だ?」
「あれって?」
答えたのはヴィンセンツ。
「あれだよ、あれ。空をえらい速さでこっちに向かってくる奴。あれ? ひょっとして……人間か?」
皆、俺の指差す方向を見る。
「……?」
「……」
「どれどれ?」
「何? ひょっとして誰も見えないの?」
「……」
誰にも見えていない。
あ~。あれだな。
俺にしか見えないってやつ……?
フッ……こんな事は初めてじゃないさ!
「……働きすぎなんじゃないですか?」
「うーむ。その若さで…… 惜しい奴を……」
好き勝手な事言いやがって……!
立ったまま移動している奴を目線で追い続けると、あっという間に俺達の頭上を通過しようとする。
しかし、その直前、明らかに俺と目が合った。
少し行き過ぎてから、そいつは慣性を全く無視した動きでピタッ!と止まった。
明らかに人間だ。
下からなので見えにくいがどうやら老人のように見える。
そいつは、ゆっくりと振り返り、俺を見る。つまり、俺は今、その老人と見つめ合っている……最近、ジジイ関係が多いな。
「……?」
自分自身を指差しながら、俺に無言で聞いてくる。
「そうだよ。お前だよ。俺には見えてるぞ。そのまま進むな、ちょっと降りて来い。怪し過ぎだ」
リタがリディアに近寄り、コソコソ話しかける。
「……リディア、マッツと何かあったの?」
リタが本気で心配そうな顔をしている。
「え? いや、何も無かったけど……」
「……そう……何も無かったのね……」
「え? え?」
何故か、リタに頭を撫でられ、困惑気味のリディア。だが、そんなのは放っておく。
俺には確かに見えているんだからな!
その老人は、同じ姿勢のまま、音もなく、すーーーっと俺の前まで移動してきた。
『これはたまげた。まさかこんな田舎で「神視」持ちと出会うとはの!』
『神視』。
昔、生前の親父にも言われたな。
俺には『神さま』が見えるって。
「……お前、いや、爺さんも神さまなの?」
『……何!? 「も」! お主、今、「も」と言ったか??』
「てか、まだ、みんなには見えてないの?」
『当たり前じゃ。ワシの姿が見えるものなど、そうはおるものか。そんな事より、今の話を詳しくせい。「も」とはどういう事じゃ!!」
ヒソヒソ……
ヒソヒソ……
カワイソウニマッツ……
仲間達の冷ややかな視線に改めて気付く。
「皆にも見えるよう、姿を現せ。でないと、話してやらん」
『お安い御用じゃ。……どうせ、記憶は消えるんじゃからな』
記憶が消える?
最後に記憶操作するって事か?
……そうはいかんぜ。
そして、その老人は、皆の前で実体化する。心なしか、俺にも輪郭がはっきり見えるようになった、気がする。
頭髪は無いが、立派な白髭を蓄え、灰色の衣を纏っている。右手に茶碗、左手に酒壺、首から一粒一粒がデカイ数珠をかけている、という一目見て分かる、アブないスタイルだ。
「うわぁ!」
「ひえ!!」
「……何と……」
思い思いに驚いている我が巡視パーティを一瞥し、老人に向き直る。
「さあさあ、お主の言う通り、姿を現してやったぞ。さあ言え、すぐ言え。「も」とはどういう意味ぞ」
俺は腕を組み、少しもったいぶる。
「……いや、ていうか、今、尋問されんのはあんただぜ、謎のじいさんよ」
分かり易く、しかめっ面をするご老人。
「そんな顔をしてもダメだ! ……そらそうだろ。普通は空飛ばんし。姿消えんし。そんな摩訶不思議な術を使って『タカ』方面に行かせる訳ないだろ。俺達は『タカ』の守備隊だぜ?」
「やれやれ…… 全く面倒な奴に捕まってもうたわい」
「ご老人、お名前と住所。あと、職業は?」
とりあえず、悪い奴ではなさそうだが、かと言って、普通の人間ではない。
どう見ても不審者だ。
「……ふぅ。これも何かの因果かのう……よし。答えてやろう」
大きくため息をついてから、しかし、その後、思ってもみない事を言った。
「名前はサイエン。住所は不定じゃ。職業は……何じゃろ? 世の人々からは『超人』と呼ばれておるが」
「は? 超人?」
訝しがる俺の後ろで、ドスンと音がする。振り返ると、何と珍しい。ハンスが口を開けたまま、尻餅をついて、ジジイを凝視している。
「……ハンス?」
「サ……サイエンだと!? あの《中立者》サイエンだと!?」
「いかにも」
「大丈夫か?ハンス」
これだけ取り乱したハンスは珍しい。何、このジジイ、有名人なの?
「お前、知らないのか?」
「この爺さん? ……知らん」
見ると、ハンスだけではなく、リタ、ヘルマン、それにクラウスまでも信じられないといった表情をしている。
リディアとヴィンは……俺の仲間のようだ。
「ほっほっほ。まあ、知るでも知らぬでも良い。他に聞く事はないのか?」
む? いかにも怪しいくせに…… 何だ、この偉そうな態度は。
「どこに何をしに行くつもりだ?」
「おっと。ほほーん……さて、それはどう答えたものか」
「正直に答えたらいいんだよ。爺さん」
すると、この爺さんは心底楽しそうに笑う。掴み所の無い奴だ。
「ほっほ。やれやれ。ではこれが最後ぞ? 儂が向かうのはお主の住まう所、ランディア第3砦。目的は……『神の種』を拾いに来た、と言っておこうか」
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