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第1章 旅立ち
神の種と超人サイエン(3)
しおりを挟む「『神の種』? 何だそりゃ?」
「ほっほっほ。お主はなかなか見所がある。『神の種』など、知らぬ方が良い。それにお主の質問の番は終わりじゃ。儂がそう決めた」
ピシャリと言い放つ。
爺さんの割に何とも言えない迫力がある。
「勝手に決めてんじゃねえよ爺さん」
「よいよい。……で、そろそろ吐け。「も」とは一体、どういう事じゃ。まさか、神に会ったことがあるというのか?」
「……ある」
「ほほー! ほほー!! 何と…… 儂も会うた事は無いというのに…… 一体、どの神と会うたのじゃ」
俺は小さい頃の記憶を思い出す。
「1人は夢の中だったからほんとに会ったのかどうかはわからん。ただ、見たことの無い、どう表現したらいいかわかんねえ位、綺麗なお姉さんだったよ。その人……いや、神さまから教えてもらった場所に行って、テン様に会った」
「何と! 何と!!」
サイエンと名乗った爺さんが大袈裟に驚き、少し後ろに蹌踉めく。
ちなみに、この話は特に秘密にしていた訳でもなく、守備隊の奴らはみんな知っている。
「お主、2人も会うたと言うのか! おお何と羨ましい……。 お主、その1人目の綺麗なお姉ちゃんはツィ様じゃ。何と何と……」
言いながら、急に俺の事をジロジロ観察しだす。爺さんに見つめられるのも何だか気色悪い。
「ほぉう。お主、『神視』の特性だけではないのぅ……。先天的な特性が2つ、後天的についた能力が2つ……む……」
急にハッとした顔になる。
「お主……。いや、これは参った……」
「どうした?」
「うぅむむ。今までこんな能力を持った奴はおらなんだぞ……。『敵意感知』と『精神干渉無効』とな……」
更に興味深げに俺を覗き込むジジイ。
「近い近い!」
「んん~むむ。何と面白い奴じゃ。長いこと生きておるが、このような人間初めて見たぞ……」
何と。そんな能力がある気はしていたが、本当に備わっていたとは。
あの時、テン様は俺の頼みを断った。
そのような能力を神が人間に付与する事は出来ない、と。そんなものに頼らず、精進するように、と。
何だよ~。ちゃんと願い、叶えてくれてたのかよ~。
何かおかしいと思ったんだよなぁ~~~
小さい頃から敵意の感知は外れた事がなかったし、明らかにおかしいと思ったのは、5年前、初めてエッカルトと戦った時、ヤツの精神支配が全く効かなかった時だ。
それを知っていて、奴は今回、俺に精神支配をかけて来なかった。
「お主、その能力、どうやって身につけたのじゃ?」
「……多分だけど、子供の時にテン様に願いを叶えてもらったんだろな。俺にはダメだ、と言ってたけどな」
「ふぅむ。興味深い。人間界に干渉なさるとは……うむうむ。いや、なるほど……そうか」
何か1人で納得している。
「マッツ。恐らくだが、テン様はこういうことが広まると困る故、お主にはダメだ、と言ったんじゃなかろうか。何と慈悲深いことか」
なるほど。それは、確かにそうかもしれないな。てか、さらっと俺の名前、言いやがったな。
「うむうむ。お主にならよいじゃろう。儂の本当の目的を教えてやろう。儂は『神の種』を集め、神テンに会い、神界にご一緒させていただくのだ」
「さっきも言ってたが、その『神の種』ってのは何なんだ?」
「……はるか昔、3人の神、テン、ツィ、ミラーは、この世界をお作りになられた。その時、いつか自分達と会う事が出来るほど人間が成長した時の為に『呼び鈴』をこの世に残されたのじゃ。それが『神の種』」
……言ってる事はわかるが……話が壮大すぎる。
見ろ、みんな、ポカーンとしているじゃないか。
「ほんとの話なの? それ」
「真も真。大真じゃ。もっとも、『神の種』にはもう1つ、悪い用途がある……ま、これは最初に言ったように知らん方がええ」
うぅむ。何というか……
結局、知ろうが知るまいが、俺達にはどうでもいい話だった気がするぞ。
「とにかくそういう事じゃ。儂の砦行きを承知せぇ。悪い奴に取られる前に儂が有効に使ってやろうというのじゃ」
「うーん……まあ、いいけど。但し、俺達と一緒に行こう。お前みたいな姿を消せる不審者を1人でなんて行かせられないからな」
「何とまあ、ひどい言われようじゃの。よいよい。たまには俗世の人間と触れ合うのもよかろ」
「言っとくが、仲間にも記憶操作とかやめろよ? 覚えてるのが俺1人とか寂しいからな」
「ほっほっほ。せんせん。見た所、性根の悪そうな奴は見当たらんしの」
そうして、俺達はひょんなことから、『超人』と言われるサイエンと一緒に『タカ』まで一緒に帰ることとなった。
この爺さんがどれだけ有名人なのかは知らないが、『タカ』への帰途は、人間から超人様への質問タイムで非常に賑やかなものだった。
何食べてるのか? どんな能力を持っているのか? 普段は何してるのか? 他の超人と会った事はあるのか? どんな魔法が使えるのか? などなど、興味は尽きないようだった。
全てに答えてくれたわけではないが(とりわけ、他の超人については一切を語らなかった)、サイエンも会話を楽しんでいるようでもあった。
特にリタには御執心のようで、しきりに『儂の嫁にならんか』とプロポーズしていた。『定職についてないお爺さんじゃねぇ……』とやんわりフラれ、皆で笑い合う。なかなか楽しいひと時だった。
そうこうしている内に、『タカ』まで戻ってきた。
エッカルトの話もしたが、そんな小物はいくらでもおる、いちいち知らん、との事だった。
巡視が終わり、全員解散のはずだが、そうはならない。皆、サイエンに興味深々なのだ。
「さて、では探させていただくかの」
そう言って1人で奥の方に行こうとする。
「いや、どれが『神の種』なのか、大体わかってるぜ?」
「何? そんな筈は……。『神の種』は、それが視界に入っても、それこそ路傍の石のように意識の外に追い出される。普通の人間にあれを見つけることは……」
そこまで言って、楽しそうに笑う。
「ほほ。そういえばお主、普通の人間ではなかったのう。よいよい。では、案内せい」
「いや、普通の人間だよ……」
……まあ、間違いないだろ。あんな不自然なもの、ここにあるのがおかしい。
今のサイエンの説明で、コック達が誰も気付かなかったのも納得だ。
俺達はぞろぞろと厨房の前に移動する。
「おお! まさにまさに。これじゃ。見つけたぞ!」
サイエンは、あの極彩色のバケツを手に取り、子供のように喜んでいる。
「……言っとくが、それ見つけたのは俺じゃなく、リディアだからな」
「なに? このねーちゃんだと?」
サイエンは、急に真面目な顔になり、リディアに振り向くと、近づき、穴が空くほど顔を凝視する。
「ひっ…… 何なの……よ?」
「うぅむ…… 先ほどまで気付かなんだ…… なんたる事。この娘……」
「リディアが、どうかしたのか?」
ちょっと心配になってきた……
何か俺のような特性持ちだってんなら、いいんだが。
「この娘……超可愛いのじゃ! どうじゃ、儂の嫁に……」
ズガン!
取り敢えず、1発、殴っといた。
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