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第1章 旅立ち
ランディア王都へ(1)
しおりを挟む「お前、超人殴るとか……」
「えー……いや、だってさ……」
呆れ顔のハンスだが、俺を責めている訳ではないようだ。
「私の時は助けてくれなかったのに、リディアの時だけ助けるなんて、ひどいわマッツ。差別差別」
「え……あ、いや、リタだったらあんなの日常茶飯事だろ? 巡視の時も上手くあしらってたじゃないか」
「ひどいわ……マッツ」
えぇぇ? なんか悪いこと言ったか俺? 尋常じゃなくむくれるリタ。むしろ褒めてるつもりなんだが。いつもなら、ここでリディアも一緒に参戦してくるのだが、今日は何故かおとなしい。
「まったく……超人様のおかげでえらい迷惑だぜ」
さて、その超人、《中立者》サイエンだが、例の趣味の悪いバケツを手に入れ、先程、喜んで帰っていった。その代わりということで何やら怪しい笛を置いていったのだが、その効果がイマイチ分かりにくいものだった。
ーーー
『……なんだって?』
『何と。…… 耳の悪い奴じゃ。もう一度言うぞ? その笛は「サイエンの笛」じゃ。名付け親はわし』
『…… いや、そこはいい』
『そうかそうか。この笛を吹くと、どこにいても儂を呼べるかもしれないのだ。どうだ、凄かろう!』
『…… 聞き間違いかな? 呼べる「かもしれない」と聞こえたんだが』
『いいや。聞き間違いではない。むしろ、そこがこの笛の凄いところじゃ。必ず儂が来るのではない。来れたら来るのじゃ。こうする事で、極度に儂に依存する事もなく、自分達で何とかしなくては、と自立が促せるじゃろう』
超人って皆、こんな感じなの?
何考えてんのか、さっぱりわからんねえ。
俺の中で疑問符が並ぶ。
『代償も求めず、儂に『神の種』をくれたお礼じゃ。若いモンとの会話も楽しかったしの』
『そうか。……まあ、有り難く受け取っておくよ』
『では、素晴らしき人間達よ、さらばじゃ。近しき未来、お主らとはまた、必ず会うじゃろう。その時まで達者でな!』
ーーー
そうしてサイエンは、姿を消し(俺には見えていたのだが)、また猛スピードで空へ飛んで行ったのだった。
帰り際、サイエンは、直接俺の頭の中にメッセージを残して行った。
(マッツ・オーウェン、あの娘、リディアといったか? 『神の種』を見つける事は普通の人間には出来ん。せいぜい悪い奴に利用されんよう、守ってやることじゃ)
爺さんに言われなくとも、大事にするさ、とは思ったものの、返信する方法が無い。
(あ、いらんのなら儂が嫁にもろうてやるからな)
俺は即座にサイエンの笛を吹いた。
~~~
結局、その日、サイエンは来なかった。
まあ、それは置いておいて、翌朝、俺達はエッカルトを引き連れて、王都へと出発した。
俺とリディアが先頭で轡を並べる。俺達の少し後ろにハンスがおり、更にその後ろにヘルマンがいる。『タカ』の兵士とヘルマン小隊で、代わる代わる荷車を牽いてもらい、そこにエッカルトを乗せた。荷車のすぐ後ろをリタとクラウスで固め、ヘンリックが最後尾で殿を務める。
まずは4日間かけて『シシ』に移動、そこでヘルマン、リディアと別れ、更に5日間かけて王都に移動する予定だ。
「結局、超人て何なんだろうな」
道すがら、何とは無しにリディアに話しかける。が、返事が無い。
「……リディア?」
「え? あ、うん。何だろね」
さっきから、周りを見渡し、キョロキョロと落ち着きが無い。
「……どうしたの?」
「え? 何でもないわ」
何でも無いってことは無いと思うが……
結局、リディアはずっと挙動不審のまま、4日間が過ぎ、特に何も起きず、4日目の夜、『シシ』に到着した。
「うーん。久しぶりだなぁ~~」
2年ぶりの『シシ』だ。あれからどこも変わっていないように見える。ヘルマンが案内をするように前に立つ。
「マルコには連絡を入れてある。今日はゆっくりしていってくれ」
マルコは俺が『シシ』にいた時から砦を任されていた人物だ。もう結構な歳、60近い筈だ。
そこかしこに懐かしい顔が見えるが、1日、宿泊させてもらうため、まずはマルコと話をしようか。
……と思っていると、2階から筋骨隆々な初老の戦士が、声を上げながら降りてきた。
「マッツ!」
「マルコ隊長!」
再会を喜び、ハグをした俺と隊長は、ヘルマンに促され、そのまま1階奥の食堂に移動した。
マルコと話しながら、俺とハンス、リタ、ヘンリック、クラウスの『タカ』組は、長テーブルの1つに座る。リディアはいつの間にやら、いない。
「久しぶりだなぁ。たまには顔見せんかい」
「もうちょっと落ち着いたら来ようと思ってたんですよ」
「そういやーモンスターの件は大変だったなあ? ヘルマンとリディアは役に立ったのか?」
「助かりまくりですよ。特にリディアがいなかったら、未だに解決してませんよ」
それを聞くと、マルコは満足気に頷く。
「そうかそうか、それは良かった。本人は言わねえが……あいつはお前の側にいるのがいいよ。お前は気が休まらねえかも知れねえが」
そこまで言うと何がおかしいのか、ガハハハと豪快に笑う。
話の途中、酒が運ばれて来たのだが、エッカルト護送中の身、24時間気を抜くわけにはいかない、とハンスに説教され、泣く泣く下げてもらう。
「ハッハッハ! ハンスも相変わらず、頭の固え事だ。まあ、お前ら、お似合いだよ」
そんな話をしている時、不意に入口の方がさわがしくなる。
「む? どうした? 何かあったのか?」
マルコが少し腰を浮かす。
ん? リディア?
リディアが、正門に向かって飛び出して行った。
「どうしたんだ?」
マルコと俺達『タカ』メンバーは、揃って正門の方に様子を見に行った。すると、門番とリディアが何やら話をしている。
近くの兵士に事情を聞く。
「いや、よくわからねーが、何でも子供が門を開けろ、と外で喚いてるらしいぞ」
「は?」
思わずマルコと顔を見合わせる。何のこっちゃ?
「いや、だとして、もし本当に子供なら、こんな時間に外に出てるのはよくないんじゃねえの?」
「マッツの言う通りだ。おい!」
マルコが門番に話をしに行く。
同じように、俺はリディアに話しかける。
「子供だって?」
「あ! マッツ…… う、うん。そうみたい」
「……で、リディアは何してたの?」
「え? あ、いや何てゆーか、開けてあげなきゃ、と思って……」
「?」
どうもソワソワしている気がする。目が泳いでいる。怪しい……。
「リディ……」
話しかけようとした時、同時に正門が、ギギギギ、と開く。
そこにはいたのは、小さい体に不釣り合いな大きな弓を持った女の子。
「アデリナ!」
「リディアおねーさん!」
あれ?
ひょっとして、リディア、知ってた?
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