28 / 204
第1章 旅立ち
出立(1)
しおりを挟む俺は彼を知っている。
魔女のとんがり帽子を被り、青いローブを羽織っている。黒髪、黒目、見た目は15歳位か。身長はリディアとほぼ変わらない。160センチ強ほどか。
10年前、ノゥトラスでの修行中に会ったことがある。途轍もない魔力を持つ魔術師だ。
「やあ、久しぶりだねマッツ。僕の事覚えてるかな? かなり背が伸びたね!」
エッカルトを無視して、無邪気な笑顔で俺に話し掛ける。思わず抱きしめて頭を撫でたくなる。
「覚えているとも。久しぶりだな!10年経ってもお前は変わらないな」
「そりゃそうだよ。僕の成長期なんて200年ほど前に終わってるんだから」
「普通は老化が始まるんだぜ……」
そう。こいつは俺より遥かに歳上なんだ。寿命にしても見た目にしても、こいつは人智を超えている。
ふふっと愛らしく笑ったコンスタンティンは、王に向き直り、
「ところで……少し、お遊びが過ぎますよ? 王。こんな登場の仕方は僕の趣味ではありません」
「む? そうか? かっこよかったと思うがのう?」
どうやら、演出はディミトリアス王、のようだ。前もって仕込んでおいたんだな。やれやれ……
「超人達と僕を比較するのもやめて下さい。彼らは僕如きがどうこう出来るような存在ではありません。万が一、そんな噂が彼らの耳に入ったら、僕なんて一瞬でこの世から消されてしまいます」
そうか?
サイエンなんて、ただのスケベ親父だったがな。俺が言うのも何だけど。
残念そうな顔をする王をたしなめて、エッカルトに向き直るコンスタンティン。
「さてエッカルト。君に恨みはないが、義理により僕は彼らに手助けするよ」
エッカルトが何かを喚き散らし、逃げようと必死に立ち上がろうとするが、ヘンリックにあっさり取り押さえられる。
「そう暴れないでくれ。手荒なことはしたくないんだ。……もう『読心』も終わったしね」
「「「「「えっ??」」」」」
「何じゃ。もう終わったのか? もっと派手な術式や、詠唱はないのか?」
期待外れだったのか、明らかに落胆した表情のディミトリアス王。楽しむ事しか考えてないんだな……。
「終わりましたよ? 術式も詠唱も必要ありません」
つまらなそうな王を無視して、コンスタンティンは、エッカルトの頭の中を暴き出す。
「まず、彼の目的ですが、どうやらこの世界を破滅させたかったようですね。理由は……きっと彼の幼い頃の体験によるもの」
「幼い頃の体験?」
「はい。彼は今から百年程前に、ここから遥か遠く北西に位置するミラー大陸のカルマルという国で生まれました。エッカルトの記憶によるとその頃の治安は酷いものだったようです。野盗に襲われ彼の家族は皆殺しにされました。エッカルトは隠れていたところを賊の1人に見つかってしまい、散々に痛めつけられた上、賊のアジトに拉致された。そこから彼は10年間、奴隷として酷い扱いを受けていたようです」
「うえっ」
アデリナが嘔吐く。
「隣国のアスガルド王国から討伐隊が組まれ、野盗が捕まり彼は解放されたものの、しばらくショックで会話が出来ず、身体中に酷い怪我や火傷がある彼は、世間から呪い子として疎まれていった。そして彼もまた、世を呪っていった。それ以降はあまり関係ないので言いませんが、彼も苦労したようですね」
エッカルトがガクッとこうべを垂れた。
うーむ。
人それぞれ、人生それぞれだな。皆、色々事情があるものだ。
「さて、世界を破滅させる手段ですが、王への手紙に書いてあった通り、魔神ミラーの召喚をしようとしていたのは事実であるようです。そしてその為に集めようとしていたのが、『神の種』と呼ばれる神のアイテムです」
「『神の種』だって!?」
「おや!? マッツ、知っているのかい?」
「あ、ああ。実はエッカルトを地下牢に入れている間、サイエンが来て……」
今度はコンスタンティンの顔色がサッと変わる。同じように、王の間にいた衛兵達の内、数人が反応し、エッカルトもびっくりした顔で俺を見ている。知っている奴は知っているんだな。やっぱ、それなりに有名人なのか……。
「サイエン……ってまさか、あの《中立者》かい?」
「そうらしいな」
厳しい表情のコンスタンティンに頷き、俺はあったことをそのまま話す。
「……てな訳で、『タカ』にあった『神の種』はあいつにくれてやった」
「ふーむ。興味深い。超人サイエンが俗世の人間とそこまで関わった話など、聞いたこともない」
「いや……ただのすっとぼけたスケベ親父だったぜ?」
「私にもリディアにも、嫁に来いって言ってたわよ」
俺とリタの証言に、驚嘆するコンスタンティン。
「なんと、そのような事を……。超人サイエンというのは『この世の理に対して最も中立』と言われているんだ。つまり誰かに肩入れすることは無いという事だね。我々が逆立ちしても到達する事のできない領域の知識、魔力を持っていて、彼に対する全ての物理攻撃は無効化されると聞いている」
「えー? でも、俺、1発殴ってやったけど……手応えあったけどなあ」
「ええぇ???」
「いや、だってリディアに嫁に来いって言うから……」
コンスタンティンがハンカチで汗を拭いながら、俺に諭すように話す。
「よく無事だったねマッツ。超人と戦いになって生存する可能性なんて、ほぼゼロだよ」
そこまで言って、コンスタンティンはハッとした顔になり、話を続ける。
「すみません。話が逸れました。……ストラッフ島で『神の種』に対する文献を見つけた彼は3年かけて解読をしていました。その後の調査で彼は最も近い『神の種』が、ランディアの第3砦にある事を知り、ツヴァリアで事を画策したようです」
「なるほどのう」
ずっと黙って聞いていた王がウンウンと頷く。
「……残念だったのうエッカルト。あのサイエンが収集しているのであれば、貴様如きがいくら頑張っても集める事など叶うまい。いい加減、諦めたらどうだ?」
エッカルトはこうべを垂れたまま、動かない。それを見ていたコンスタンティンが、誰もが思いもしない事を言い出した。
「エッカルト。君の悪だくみは終わりだ。『神の種』の事は、綺麗さっぱり忘れたまえ。この国を狙うのは2回目のようだし、君を野放しには出来ない。と言って、ディミトリアス王も僕も、君を殺す事はしたくない。そこで、だ。どうだ? 僕と一緒に、世界を旅しないか?」
驚いて顔を上げるエッカルト。いや、その場にいた全員が驚いた。いや、1人、ディミトリアス王だけはニヤニヤとそのサマを見つめている。
「世界は広い。土地だけの広さを言っているのではない。歴史という深みがある。文化や人という彩りがある。僕と一緒に回る事で、新しい発見があるだろう。その上で、今後、どう生きていくかを決めるといい」
そして。
エッカルトが、大きく、うなだれた ーー
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる