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第1章 旅立ち
酒宴(ランディア『王都』)
しおりを挟むその夜、俺達の労をねぎらう宴が開かれた。
城での宴会は大食堂ではなく、いつも野外で行われる。昼間も通った大きな庭だ。
念の為、エッカルトは牢に入れられている。
コンスタンティンの、彼はまだ改心したわけではなく、ついこの間まで憎み合っていた相手と仲良く飲む事ができる人間でもないだろう、との意見にエッカルトが頷き、自ら牢に入っていったのだ。
「しかし、不思議な方だな、コンスタンティン殿は。妄執の塊かと思われたエッカルトと旅をするとは」
ハンスはコンスタンティンにかなり興味を持ったらしく、事あるごとに彼の話をする。
「でもさ、ちょっとだけ可哀想だよね、あのじーさん」
アデリナが果実酒を飲み、身体を擦り寄せてきながら言う。もう俺もあまり突っ込まない。
「まあ、そうだな。でも辛い過去の1つや2つ、皆、持ってるからな。それでも頑張って前向きに生きてる奴もいる。……てか、お前何飲んでんだ。まだ未成年なんじゃ……フグッ」
「固い事言わないの! マッツにーさん!」
口を押さえられ、フゴフゴ言ってしまう。それを見てケタケタ笑うアデリナ。
長い金髪と青い目、そして幼い見た目のせいで、黙っていればお人形さんみたいなんだが。
そこでハタと気付く。
リディアは!?
近くにいない。
まさか、飲んで……いた。
ディミトリアス王に気に入られたらしい。王の横にいる。さすがに王に手酌されては断れなかったのだろう。後は彼女の暗黒面が出ない事を祈るばかりだ。宴会で王暗殺とか笑い話にもならん。
「マッツ隊長。私達、これからどうするんですか?」
俺のグラスにヴァーボ酒を注ぎ、ローブを脱いで長袖のシャツにダボダボのズボンとなったクラウスが真面目な顔で聞いてくる。
「どうするって……『タカ』に帰るんだろ?」
「神の種はどうするんです?」
「いや、どうも出来ないだろ。あんなもの」
「私は……サイエン様が悪い人とは思わないのですが、あの老人が言わなかった、もう1つの用途が魔神ミラーの召喚、つまりはこの世界の破壊であるとわかった以上、私達の手で集めておくべきだと思うのです」
「え~~~マジで言ってんのか、クラウス」
「大マジですよ」
さすがは慈愛の女神ツィさまの系統を学んでいるクラウスだ。背は俺より少し低く、リタと同じくらい。体格も男にしては少々華奢ではあるものの、正義感が強い。ヒーラーは天職だな。
相変わらず俺にくっついたままのアデリナがトロンとした目をしながら、
「う~ん。クラウス君も頭が固いなあ…… でも、素敵だなあ、そういうの。『タカ』に入団して最初の任務がそんなのだったらカッコいいなあ~」
やれやれ……。
まあ、クラウスが言うことも一理あるが、そんな話は俺の一存でどうこうできる話ではない。
「マッツ! ちょっとこっちゃ来い!」
酔っ払い王がお呼びだ。
「ちょっと行ってくるわ……」
「私も行く!」
アデリナがくっついてくる。まあ、ディミトリアス王も、若い女の子は大好きだ。問題ないだろう。
「おや、マッツ~。彼女連れかぁ、この野郎。王の前でふてぇ奴だ~」
ヴァーボ酒の空き瓶が山と積まれている。
「違いますよ…… 結構、飲んでますね」
「アホゥ。こんなのは飲んだ内に入らん。それに俺1人で飲んだんじゃあねえぞ。このベッピンちゃんと飲んどるんじゃ。よう飲むぞ~この子は」
ギクリ。
リディアが机に突っ伏している。
寝てる……のか……?
「そ、そうですか……。去年、成人したばかりですので、あまり無理はさせないで下さいね……」
「ほーう。若い若いと思ってたが、そんなに若いのか! この美貌は王都でもなかなかおらん。……のうマッツ。ものは相談じゃが……」
「お断りします」
「……アハハ!」
先を読んで即座に断った俺を見て、王の隣にいたコンスタンティンが笑う。笑顔も可愛い奴だ。この容姿で、ランディア全国民の中で最年長だ。
「なんじゃつれないのう、王に向かって。ひょっとしてお前、その子とこの娘、2人ともいってんじゃあないだろうな?」
めんどくせえ……。
何でこんな話になってんだよ……。
「2人とも大切な仲間なので」
「ワッハッハ! 何言うとるんじゃい。女好きのお前が、大人な事を言うようになったもんだな?」
「え? マッツにーさんって、やっぱり女好きなんですか!」
アデリナが目をキラキラさせて口を挟む。物怖じしない子だな。
「おい、やっぱりって何なんだ」
だがそんな俺を無視してディミトリアス王が続ける。
「おお。こいつは入隊したての頃からよく女の子に手ェ出しとったぞ」
「え? いや、そんな事は……」
「あったわい。城のメイド、給仕、酒場のウェイトレス、冒険者の姉ちゃん、両手でも足りんだろ」
「アデリナ、聞くんじゃない」
「マッツにーさん、モテるんですね!」
「うむ。こいつは昔から、ようモテたんだ。まあ、確かに見てくれは悪くないし、やる事に筋も通ってていい男なのは認める。だが女癖は悪いぞ? お嬢ちゃんも気をつけろ?」
「コホン。アデリナ……」
「私は大丈夫! マッツにーさんが大事にしてくれるなら、何人目でもいーよ!」
おいおい……さらっと、すごい事言ったな、今……。それ、子供の言う事じゃないだろ……。
でも、そうか、何人目でもいいのか……。
それは嬉しいな……。
……
イヤイヤ、いかんいかん。何考えてんだ俺。
今日の今日まで、恐ろしい罰を受けてただろ!
「今だ! コンスタンティンさん、マッツにーさんが何考えてるか『読心』して!!」
なーーーーーっんだって!!
罠か!!!
「フフフ。いや、残念だけど、彼は読めないんだ。『読心』することは出来ない。彼は『精神干渉無効』の能力を持っているからね」
ほっ……
テン様、ありがとう!
「えー。ざんね~ん」
「まあでも、大体何考えているかはわかるけどね……」
そう言って、笑いながら綺麗な瞳で俺をチラッと見る。
ブルブル……。
もう勘弁してくれ。
「まあまあ、コンスタンティン。飲めよ!」
取り敢えず、酒を注いどこう……底無しっぽいが。こいつはいくら飲んでも顔色1つ、変わっていない。だが、そのコンスタンティンが不意に真面目な顔付きをして王に向き直る。
「時にディミトリアス王。少し真面目な話をしても?」
「……なんじゃ、改まって」
「神の種。どうされるのです? 無論、ランディアだけの問題ではありませんが」
「ああ。そんな話か。それはもう決めている」
ありゃ? そうなの?
「マッツ、お前、ちょっと行って、ちょちょっと集めて来い」
「はい?」
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