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第1章 旅立ち
出立(2)
しおりを挟む酒宴は朝方まで続き、あちこちで撃沈する奴が出ていた。
結局、リディアもあのまま大人しく寝てしまったらしく、ディミトリアス王もアデリナも寝てしまっている。ちなみに、アデリナは俺の太ももを枕にして可愛い寝息を立てている。
眠気や酔いを一切見せないコンスタンティンと、恐らくお顔まっかっかの俺は、2人で酒をチビチビ飲みながら、まだ話していた。
……で、だ。
『神の種』をちょちょっと取りに行って来いだって?
「そんな簡単なの?」
「困難を極めるだろうね。だから君に命令したんだろう」
「やれやれ……」
アデリナの綺麗な髪を指で弄びながら、クラウスの話、ディミトリアス王の話を思い出していた。
「魔神ミラー、ね……」
チビっと酒を飲む。
「マッツ。僕も全てを知っているわけではないが…… 1つ、知っている情報を伝えておこう。魔神ミラーの召喚は、僕達、常人には無理なんだ」
「ほう?」
「言っておくが、これは君達が魔神ミラーを召喚しようとする時の為に言っているわけではないよ?」
笑いながら、ジョークを飛ばす。
「アスラでもあれだけ苦労したんだ。しかも全く歯が立たなかった。魔神ミラーなんて……」
大きくかぶりを振る。コンスタンティンはフフッと笑い、
「つまりだ。召喚するには常人でない、特別な力を持った人物が必要だ。それが誰なのか、何者なのかは僕にはわからない。僕が言いたいのは、魔神ミラーの召喚を企む者がいたとして、『神の種』を揃えるだけではなく、そのある人物も必要だ、という事だ。君はその人物も探し出し、保護する必要がある」
「言ってる事はわかるが……想像もつかない話だな」
「ハハハ。そうだろうね。まあ、情報として知っておいてくれ。昨日、エッカルトにも言ったが、世界は広い。君の目と耳で見聞きして、判断して動くんだ。君なら出来るさ」
「やれやれ…… 軽く言ってくれるなよ…… そういや、お前もエッカルトと旅に出るんだよな。ジジイとふたり旅なんて、ゾッとするが」
そこでコンスタンティンは、心底楽しそうに笑った。
「マッツ。ジジイってのは、一体、どっちを指して言ってるんだい?」
「ん? ……ハハッ。そういや、お前の方があいつの倍以上、ジジイだったな」
「フフフ。そういうことさ」
最後の酒を2人で飲み干す。
「マッツ、僕は今日このまま、皆が寝ている間にエッカルトを連れて出発するよ。ディミトリアス王にはよろしく言っておいてくれ」
「そうなの? せっかちだな」
「お互い世界を旅する者同士だ。どこかで会う事があるかもしれないね。その時はよろしく」
「ああ。こちらこそ」
そう言って握手を交わす。白く、華奢な、女性のような綺麗な手をしている。「ジジイ」という単語とは対極にいる外見だ。
握っている手を離し、コンスタンティンは手を振りながら、牢に向かって歩き始める。
アデリナを起こさないように、静かに頭をベンチに置き、見送るために立ち上がる。
そこで大切な事を聞き忘れている事に気付いた。
「そうだ、コンスタンティン!」
「ん?」
立ち止まり、振り向くコンスタンティンに走り寄る。
「どうしたんだい?」
「大事な事を聞き忘れてたよ。次の『神の種』はどこにあるんだ? どこに向かえばいい? エッカルトが知ってたろう?」
「ああ……それか」
そう言って、視線を逸らすコンスタンティン。
「いや、実は黙っていようと思ってたんだ」
「どうして?」
「ここに近い、次の『神の種』は……暗黒大陸と呼ばれる場所にある」
「暗黒大陸?」
「ああ。エッカルトは所有者も知っていて、半ば諦めていたようだ。まあ、彼の立場だったとして僕でも諦めるよ」
「……? 誰なんだ?」
ふう、と一息ついて、諦めたように言った。
「5超人の1人、《戦闘狂》ヴォルドヴァルドだ」
ー
コンスタンティンがエッカルトを連れて、人知れずランディアを離れてから、はや8日が過ぎた。俺達は久しぶりの、人によっては初めての王都を思い思いに満喫し、そして『神の種』を集める為に、旅立つ事となった。
出発の日、朝から王城で閲兵式が執り行われた。
王城の守備隊7千人が勢揃いし、俺達の為にパレードが始まる。
「凄い!」
「壮観だわ……」
リディアとアデリナは、純粋にパレードを楽しんでいる様子だった。
結局、飲みの席の戯言ではなく、王が、『神の種』をどうするかは決めている、と言っていたのは本当だった。
俺達は全員で話し合い、ハンスを除く、ここにいるメンバー全員で出立することに決めた。
世界を回るとなれば、すぐには帰ってこれない。それだけ長い間、砦を空けるわけにはいかないが、ハンスが残ってくれるなら別だ。奴と離れるのは心細いが、連れて行く訳には行かない。
『わかった。お前がいない間、「タカ」については任せるがいい。俺の代わりにヘンリックを連れて行けば心強いだろう』
最終的にメンバーは、俺、リディア、ヘンリック、リタ、クラウス、アデリナ、となった。
「6人ですか…… 6人で、超人と戦う……」
クラウスがブツブツ言っている。言いたい事はわかっている。だが、超人が相手ともなれば、一般の兵士が千人いても敵うものでは無いらしい。なら、6人でも同じだ。
いや、むしろ少ない方が戦いやすいかも知れない。
いやいや、そもそも、戦わなくても済むかもしれない。戦って奪い取らなくてはならない、というルールもないだろうからな。
そこまで考えて、コンスタンティンが別れ際に言った言葉を思い出す。
『マッツ。真偽の程は知らないが……ヴォルドヴァルドは、こと戦闘において5超人最強と言われている。5超人で最強ということは、この世で敵うものなど、誰1人いない、という事だ。そして彼の通り名は《戦闘狂》。死ぬなよ、マッツ』
はあ……
何とか戦いは回避したいものだ。魔神アスラとの戦い、かすり傷一つ負わせることが出来なかったことを思い出す。
7千人の守備隊が2つに割れ、俺達の道を作る。
「マッツ・オーウェン」
「リディア・ベルネット」
「リタ・ケルル」
「クラウス・シャハト」
「ヘンリック・シュタール」
「そして、アデリナ・ズーハー」
ディミトリアス王が俺達の名前を読み上げていき、俺達は顔を上げる。
そこに居たのは、飲んだくれで女好きな王ではなく、凛としたオーラを放ち、ランディア王国全ての重責を1人で背負う、ランディア王の姿だった。
「マッツ・オーウェン並びに5人の勇士達よ。お前達に『神の種』収集を命ずる。楽な道では無いだろう。だが、お前達ならやり遂げると信じている。ランディア、いや、世界に光が満ちるも、闇に包まれるも、お前達次第だと思え」
「マッツ・オーウェン、『神の種』収集の任務を拝命致します。必ずや、ランディアに持ち帰って見せましょう」
ディミトリアス王は、大仰に頷き、両手を広げた。
「行ってこい、マッツ・オーウェン!」
そして、高らかに進軍のファンファーレが鳴り響き、俺達の旅立ちの幸運を祈ってくれている。
「頑張ってこいよーーーー!!」
「生きて帰って来いよーーー!!」
「リターー! 結婚してくれーーーー!!!!」
「マッツーー!! また酒飲もうぜーーー!!!」
「頑張れーーー!!』
「クラウスーー! またチェスの相手しろよーー!!」
「リディアちゃーーーん! 頑張れよーーー!!」
「リターーー! 結婚してくれーーーー!!!」
「マッツーー! うまくやれよーー!」
「帰って来いよーー!!」
「アデリナちゃーーーん! 付き合ってくれーー!」
ドサクサに紛れて、数人、見当違いな事をほざいている奴らがいるが……
声援の中、城門まで続く7千人で作られた道を、俺達は手を上げて、皆の応援に応え、進む。
何が待っているか知らねぇが……行ってみるか。
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