神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第2章 超人ヒムニヤ

酒宴(ビルマーク『王都』)

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 翌日、ビルマーク城は、蜂の巣を突いた状態だった。

 結局、昨日、深夜に侵入した暗殺者は3人いたらしい。

 1人はバルバラを狙っており、部屋で騒いでいたリタとアデリナが呆気なく捕らえたとの事だった。さすがだな。

 もう1人はマルクス王子を狙ったルーペルト。こいつの狙いはヘンリックとクラウスが命を呈して阻止し、アデリナが動きを止め、リタが捕らえた。まあ、こいつは強敵だったからな。4人がかりでも恥ずかしくないだろう。正直、俺も戦いたくない奴だ。

 最後は、俺とリディアが戦ったケネトとかいう剣士。
 俺だけ逃がしてしまうとは情けない話だ。

 しかしケネトって奴は、結構、有名な剣士らしい。

 ここより海を渡ったもっと東の方では、知らない奴はいない位の奴なんだと。リナ諸島を足場として、暗殺や、悪徳商人の護衛などを生業とし、剣で並ぶものはいない、と言われている。
 何と言っても修羅剣技の使い手だからな。修羅剣技は派手だから、余計に噂になりやすいのかも知れない。そういえば、ルーペルトも俺の名前を知っている、とか言ってたな。

 捕らえた賊2人は、地下牢に入れられ、シモンによる『読心』により、おおよその計画が判明した。

 なんでもリナ諸島の大商人、ラッドヴィグにより画策された事であるらしい。
 ビルマークの王女を誘拐し、王子達を殺害する。国王が失意に暮れている間に内乱が起きるよう扇動し、国を乗っ取る。

 何故、商人がそんな事を? など、色んな突っ込み所があるものの、この2人から読み取れた計画はそこまでだった、との事だった。

 だが、シモンは言う。

「敵対している国、もしくは組織があることがわかり、やり方がわかれば防ぐ事は出来る。『読心』は証拠にならない為、これをもってラッドヴィグを糾弾する事はしないが、対策を講じる事は可能だ」と。

 そんなもんかねえ。
 国を守る魔法ってのも、すごいもんだな。

 シモンの指揮により、あちらこちらで守りの改善が実施されている。

 魔法によるバリアも大幅に見直されるようだ。これには、カイとクヌートの助言が役立ったらしい。忍び込んだ城にアドバイスするってのも、斬新な話だ。


 バルバラ王女の救出に続いて、ビルマークの最大の危機を救った事で、更に俺たちの株が上がってしまった。

『今晩、王国の救世主を讃える宴を開催する!!』

 テオドール国王が、高らかに宣言していた。


 ―

 夜。

 城の2階にある大広間で、盛大なパーティーが開かれる。パーティーと言っても、ここではあまりドレスやタキシードで着飾る人は少ない。

 皆、軽装でラフな格好をして、思い思いに飲み食いしていた。俺も、いつもの旅の姿から防具を外しただけのような軽装だし、リディアもローブを脱ぎ、薄いベージュのミニワンピース姿、という普段着で参加だ。


「マッツ殿! リディア殿! こっちこっち!」
「いや、こっちだ! ケネトとの戦いを詳しく!」
「クラウス殿! ヘンリック殿! あの巨漢を葬った武勇伝を是非!」
「リタ殿! 2人も捕らえた話を!!」
「アデリナ殿! リタ殿! バルバラ姫との入浴の話を……!!」


 あちこちから声が掛かっているが、テオドール王に手招きされ、リディアとクラウスを含めた4人で飲んでいる。

 少し離れて、リタ、アデリナ、ヘンリック、バルバラ、マルクスが楽しそうに飲んでいる。

 そういえば、結局あれだけの激しい戦闘の中、マルクス王子は最後までグースカいびきをかき、全く起きる気配がなかったらしい。
 どんだけ警戒心ないんだよ。いつか死ぬぞ。


「いや、いくら感謝してもしきれん。お前達全員の銅像でも作ろうか」
「ブッッ。絶対にやめて下さい」
「それだけの事をしたと思うぞ? 歴史書に記せるレベルだ」
「たまたまですよ。起きたら敵がいて、戦ったってだけですから」
「お前……名言のつもりか?」
「……」
「じょーーーだんだ! 冗談だよ。マッツ。それだけ、感謝しとるのだよ、お前達には」

 バッチバッチと背中を叩かれながら、大笑いするテオドール王に苦笑する。

 やれやれだ。感謝されるのはわかるが……。
 面倒くさい。

「時にクラウス。身を呈して敵の槍を奪い、ヘンリックの攻撃につなげた機転を聞いたぞ? 本人の口からもう少し詳しく教えてくれよ」

 矛先がクラウスに向く。回復したばかりで申し訳ないが、少しクラウスに犠牲になってもらうか……。

 リディアの袖を引っ張り、目で合図をして一緒にそれとなく抜け出す。

「ちょっと、外に出ないか?」
「うん!」

 人の合間を縫って広間を横切る。

 途中、ヘンリックにしなだれ掛かるバルバラを、お似合いだ、お似合いだ、と騒ぎ立てるマルクスが目に入る。

 巻き込まれないよう、後ろを通り過ぎようとするが、リタとバッチリ目が合ってしまう。リディアと俺を見て、パチっとウインクする。

 何か勘ぐってないか? ……まあ、いいけど。

 時々かかる呼び声に適当に返事しながら、ようやくバルコニーに出る。

「やれやれだ……。疲れるわ……」
「ふふ。ちょっとした英雄ね、マッツ」
「やめてくれよ。リディアもその1人だぜ?」
「うふふ」

 嫌に上機嫌だ。

 ……うむ。
 どうやら、お酒をお飲みになっているようだ。

 まあ……いい。
 リタやヘルマンがいなければ惨劇が起こる事も無いだろう。

 今は夏だがビルマーク城が少し高地にあるためか、外に出るとひんやりした夜風が非常に心地良い。
 中は、人混みでムワッとしていたからな。

 月が綺麗な明かりとなっており、ビルマーク城の2階から見えるのどかな景色も、気持ちを落ち着かせてくれる。

 そんな中、リディアに助けられながらも勝てなかった、昨日の闘いを思い出す。

「最近、勝てねえなぁ……」

 ポツリと呟く。

「世の中には強い奴ってのは、いっぱいいるんだな。コンスタンティンの言う通りだ」

 持ってきたグラスを一気に空ける。

「これからも、あんな奴らと戦う事になるのかな……」
「あら。あんたでも不安なの?」
「そりゃそうさ。正直、同じノゥトラスで修行した奴と戦うなんざ、思ってもいなかった。でも強えのはノゥトラス出身者だけじゃない。アスラも、ルーペルトも無茶苦茶強かったし、魔術師だってモンスターだって……」

 そこまで言って、何でこんな事言ってんだ? と思い直す。リーダーである自分が弱音を吐いてどうするんだ。

「ま、全部、やっつけるけどな!」
「ふふ」

 小さく笑いながら探るような目つきで見つめてくる。

「う。何だよ」
「今、弱音吐いてたわね」
「え? …… そ、そう?」
「うん。嬉しいわ」
「え?」
「マッツがそーゆーとこ、私に見せる事、ないもの」

 そう言ってリディアがフフッと笑う。

「……」
「……ねえ」
「ん……」
「もっとおねーさんに甘えても、いいよ?」
「!!!」


 バッキューーーン!!


「はぅぅっ! リディアおねーさん!!」

 思わず、ぎゅぅぅっと抱きしめ、リディアの頭に顔を埋めてしまう。

 例のリディアのいい匂いが鼻腔に広がってくる。
 何と満たされる事か……。

 ここがパワースポットといわれる場所だろうか。


 しかも。

 リディアもぎゅっと抱きしめ返してくれる。

 おお。
 おお……。
 おお…………?

 嫌がっては……いない。

 これは……ひょっとして?


 少し身体を引き離し、リディアの顔を見つめる。

 酒のせいか、俺を真っ直ぐに見つめる瞳が潤んでいる。

 リディアは飲むとすぐに赤くなる。今日は量が少ないのか、以前、『タカ』で騒動を起こした時ほど真っ赤っかにはなっていないが、それでも頰も、唇までもが紅潮し、それが却って彼女に艶かしさを与えている。ベージュのミニスカートと相まって、可愛さがとどまる所を知らない。

「リディア……あの……」
「…………うん」

 リディアが目を閉じ…………た!

 両手でリディアの肩を持つ。

 俺の手が震える。

 だめだ、俺! 震えるな。
 リディアに伝わっちまうだろ。
 だがリディアの体も少し震えている気がする。

 緊張しつつもゆっくり、顔を近付けていく。



 その時!

 ッッバアアァァァァァァァァァァァァン!!!

 豪快に大広間の扉が開かれる。


「こるぁぁあああ! 何してんだこおぉぉんなとぉこでぇぇええ!!」


「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「やぁぁぁぁぁ!!」

 ゼロコンマ数秒で、俺とリディアの間は数メートル離れる。『瞬間移動』という奴だ。


 いきなりの大声で焦りまくってしまったが……

 開かれた扉の方を見ると、デリカシーの欠片も無く、吠えながら出てきたのは酔っ払ったマルクスだ。

 ……野郎!
 昨日は最後までグースカ寝てた癖に!!


 そのマルクスの後ろで、リタが片目を瞑り、手を合わせて俺に謝るポーズをしている。

 止めようとしたが、止まらなかったってとこか。


 昨日、クラウス逹が苦労して救った命だが、今、この場で俺が絶ってやろうか!


「む、マッツ殿。顔、赤すぎないか?」

 ……

 そんな言葉が出るということは、さっきドアを開けた時、ちゃんと俺達を見て言ったのでは無いらしい。

 適当かよ。なんかメチャクチャ腹立つ……。


 ん? 赤い? 俺?

 リディアの間違いじゃないのか? 今でも、俯いていてもわかる位、真っ赤な顔をしている。


 ……え?

 ひょっとして俺もか?


「あー。いや、ちょっと飲み過ぎましたかね……。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……」

 最後の辺りは少し、いや、かなり怒気が混ざってしまった。
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