神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第2章 超人ヒムニヤ

エルナ・グナイスト(3)

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 グゥォォォォォォ……

「あれは、相当でかいな」

 思わず呟いてしまう。
 木々の隙間から見えるだけだが……本当にデカい!

 下手すりゃ、俺達の砦、『タカ』位のデカさがあるんじゃないのか。

 闇に紛れる黒い皮膚は、オーガやトロルの比ではなく、無駄に分厚そうだ。耳元まで裂けた口と、捕まったら逃げられる気がしない足の爪。

 ぶるぶる!!

 無い無い。
 あんなのと闘うとか、絶対に無い。

「これは珍しいものを見ただけ。これは珍しいものを見ただけ。これは珍しいものを……」

 ぶつぶつ唱える俺。

 敵意は向いてきてはいないようだが、ここは、シモン師匠の言う通りにすべきだ。

「「プッ」」

 リタとエルナが目を合わせ、笑い合う。
 いやいや、笑い事ではない。

「マジですか……あれがドラゴン……あれは無理です。あっち行け……あっち行け……行ってください」

 クラウスも唱え出した。君は正しい。
 リディアも少し震えながら、エルナにくっついている。

「大丈夫でしょうか、師匠……」
「リディア、大丈夫です。ドラゴンはここには来ません」
「そうなんです……ね。わかりました。師匠がそう仰られるなら!」


 そして―――



 バッサバッサバッサバッサ……

 そのまま、通り過ぎてしまった……。


「プハァ~~~」

 無意識に息を止めてしまっていた。
 何というド迫力か。

 あんな圧倒的な生物がこの世にいる事が、この目で見てもなお、信じられない。

「すごいな……。あれがドラゴン……」

 ドラゴンが去っていった空を見つめ、ヘンリックが呟いている。


「ここは『百竜の滝』。昔はここに百匹のドラゴンがたむろしていた、と聞きます」

 いや、どんだけ危険な場所なんだよ。
 人類立ち入り禁止だろ、それ。

「アスラより強そうだったよ!」

 いや、アスラより強い存在など、そうそういてもらっては困るのだが……。

 アデリナは遠くから見かけた程度かも知れないが、俺は身をもってあの異常な強さを知っているからな。今まで色んな奴と戦ってきた中でも、間違いなくアレは飛び抜けて別格だ。

「さすがに、それは無いんじゃないか……」

 そうであって欲しい、という願いをこめて、独り言のようにボソッと言ってみる。言ってからハッと我に返る。

「いやいや、どっちにしたって、ドラゴンは、闘う対象じゃないんだから関係ないさ。皆、珍しいものを見れてラッキーだった、位に思っておくんだぞ!」

 シモンが言った言葉を繰り返し言うと、エルナが口元に手をあてて、フフッと上品に笑う。

「リディア、貴女の隊長さんは……面白い方ですね」
「はい。すごく頼りになる時もあれば、今みたいな時も……。おおよそ、比率は1対9位ですね」
「おい! 比率、逆じゃないのか」
「うふふ」


 そうして―――、世界最大の滝を見た後に、世界最強の生物を見てしまった俺は、今日の事は一生忘れないだろうと思いながら、眠りについた。


 思いはおそらく皆、同じだろう。

 ちなみにリディアとエルナは、この日も遅くまで勉強をしていたようだった。寝不足にならないか、心配だな。まあ、リディアは若いから大丈夫か。

 エルナは……大丈夫かな……。


 翌朝、もう一度滝を拝んでから、滝壺から濁流のように流れる川伝いに山を下る。

 川沿いには空を覆う木々も少なく、そこそこ視界が開ける。


「エルナはいつ、シモンと会ったんだ?」

 少しエルナと話がしたくなり、話しかけてみた。

「私が学校を卒業した直後なので……12の時ですね。両親が魔法兵団員だったので、同じように魔法兵団に入るよう、勧められたもので」
「へえ。ご両親も兵士なんだな」
「ええ。今はもう退役しておりますが。ただ、両親が入団した時には、既にシモン様は宮廷魔術師の位にいて、第一線だったと聞いています」

 50の女性の親が入った時から、宮廷魔術師……。まさか、エッカルトと同期、とかじゃないだろうな。年齢、かなり近いんじゃないか。

 そんな事を考えていた時、100メートルほど先で蠢くモンスター達を見つける。


 盾と剣を持った大型の二足歩行のモンスターだ。
 10匹以上はいる。よく見ると、鎧のような防具もつけており、顔はトカゲのようなフォルムをしていた。

「リザードマンですね。目撃される場合は、こういった水辺であることが多いようです」

 エルナが冷静に説明してくれる。

「まだ、こちらに気付いていないようだな」

 さて、どうしようか。

 モンスターとはいえ、ここは大森林、近くに民家があるわけでもなく、あそこでウロチョロしている分には誰にも迷惑はかからない。

 見逃してもいいんだが……と、躊躇していると、こちらを見つけてしまったようだ。そのまま川を渡ってりゃいいものを。

 キィィィィン!!

 早速、敵意センサーのランプが点灯する。

「来るぞ」
「お待ち下さい。マッツ」
「ん?」

 エルナが飛び出そうとする俺の腕を掴み、制止する。

「なんだ?」
「あれは、リディアに任せましょう」
「「え?」」

 俺とリディアが綺麗にハモる。
 驚いているリディアに、エルナは優しく問いかける。

「リディア、『爆発』の効果は?」
「『爆発』……の効果は、ターゲットの周囲、半径10メートルの球体の範囲内を爆破します。ターゲットが移動したら移動後の範囲が適用されます。爆発飛散物は球の範囲から出ません。雨や雪、風など気象には影響を受けません」
「詠唱時の注意点は?」
「『爆発』に関しては、特に爆発するのイメージを、詠唱の最後まで持つ事、威力、破壊力のイメージをしっかりコントロールする事」
「使用時の注意点は?」
「高速で移動するような敵には使わない事、爆発範囲に踏み込まない事、地盤が緩い場所やダンジョンなどの狭い場所で使わない事、です」
「よろしい。スペルは覚えていますね?」
「は……はい!」
「では……」

 こちらに向かってくるリザードマンの群れを、上に少し反った綺麗な人差し指で差しながら、

「実技です。やって見せなさい」

 ビシィッッッ!

 効果音をつけるとすれば、こんな感じか?

 クールな顔付きと相まって、メチャクチャ決まっている。

「……! ハイッ!!」

 両目を閉じて集中し始める。
 1、2秒で、全身から薄い金色のオーラが揺らめき出す。

 頑張れ、リディア!


「メイヴン・パズ・ス・ヴルシュタ・スカラ・バルモル・アネヴォム・トゥエン・ティアー!!」

 そこでカッと目を見開く。


「『爆発アネヴォムライト』!!!」


 でかいシャボン玉のような透明な膜が、半球状にリザードマンの群れの周囲を大きく包んだ、と思った次の瞬間 ―――


 ドドドドドドドド!!!

 ッッドォォォォォォォォーーーーーン!!!!

 ドドドドドンドンドンッッドンドンッッ!


 凄まじい爆音と共に、魔法のドームの中で爆発が連続して発生する。

 異様な光景だ。爆発の及ぶ範囲が綺麗に半球の形になっている。煙も同様だ。
 内部で、何度も何度も壮絶な爆発を繰り返し、飛び散った土砂や木々などが爆炎に巻かれ、中にあるものを破壊し尽くす。

「……!」
「すげぇ……」
「うぉぉぉ……」

 俺達は初めて見るレベルの凄まじい魔法に立ちすくんでいた。

 リディア自身もあまりの威力に息を呑んでいる。


 おいおい。術者がそれで、大丈夫か。


 ――― そして、爆発が終わる。

 時間にして、僅かに7、8秒位の出来事だ。


 爆発が終わり、跡が見える。巨大なクレーターができており、木々も綺麗に丸く刈り取られたようになっている。

 真空の球が全てを綺麗に飲み込んでいったかのようだ。

「……」
「リザードマンどころか、地形ごとなくなっていますね……」
「これは……すごい」

 皆、驚愕だが、先程からリディアも声も無く、驚く側に混じっているのが何とも可愛い。

「満点です、リディア。さすが努力家ですね」

 こちらも可愛くニッコリ微笑むエルナ。

「あ……ありがとうございます!!!」

 リディアの顔が、パァーーーッと明るくなり、大きく頭を下げる。

「あのー。テン系魔法って、サポート中心なんだよね?」

 あまりの威力に、少し疑ってしまう。

「ん? そうですよ。ただ、今のように多少の攻撃呪文もあります。でないと一人旅だと死ぬしかないですからね。とは言え、同等レベルのミラー系術師と1対1でやり合ったら勝ち目は薄いでしょう」
「はあ、なるほど……。今のは、テン系の最大攻撃呪文かい?」
「ウフフ。いえいえ。このようなフィールド上では、そこそこ役にはたちますが、何といっても使う時と場所、相手を選ぶ、扱いにくい呪文です。威力や利便性において、もっと高度な呪文がありますが、それはまた、おいおいですね」

 サラッと凄い事を仰られる。

「はぁ~~~。すごい……」

 当のリディアが感嘆の声を上げる。
 そして、毎日の勉強の効果を目の当たりにして、更にエルナに心酔したようだ。

「師匠! これからもよろしくお願いしますッッ!」
「フフ。頑張りましょうね、リディア」
「いいなあ……リディア。私も師匠が欲しいなぁ」

 クラウスが心底、羨ましそうに呟く。

「旅は長い。これから誰と知り合って、どうなるかなんてわからないんだ。お前が望んでいれば、きっとツィ系統のお師匠さんになってくれる人もいるはずだ」

 そんな適当な事を言って慰める。

「そうだといいですけど。……まあ、そうですよね。何があるかわかりませんしね」
「きっとエルナに負けない位、美人さんだぜ?」

 この時は、それが近い将来、現実のものになるとは、俺もクラウスも思ってもいなかった……。
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