神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第2章 超人ヒムニヤ

剣聖 対 火竜(1)

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 そのまま数時間、川沿いを下り、いつしか勾配も緩くなってきた。エルナが言うには、森を抜ける正規ルートにおおよそ戻った、との事だ。ただ、世界一の滝から生ずるこの川の水流はまだまだ激しく、飲み込まれると果てしなく流されそうだ。

「ねぇマッツ!さっきの魔法アネヴォムライト、どうだった??」

 道中、リディアは興奮冷めやらず、といった感じで俺は何度も『爆発』の感想を求められる。

「うん。凄かったよ! これからはリディアに沢山頼ることになるなあ」
「え~。そんなに頼られても困るなあ。あくまでサポートの魔法系統だからね? ……でも、時々なら、さっきみたいにやってあげてもいいよ?」
「そうだね。そん時は頼むよ」
「え~。しょうがないなあ」

 そんなやりとりを延々と続ける。

 ま、機嫌が悪いより、良い方がいいに決まっている。特に誰が注意することも無く、俺達は進む。


 そして――― 突然、敵意を感知する。

 キ――――――――――――ンッッ!

 ツヴァリアの時と同じく、今、ここで急に湧いた敵意だ。

「皆、気を付けろ! 敵がいる! かなり近いぞ!」

 あたりは木々が深まっており、視認できる位置に敵はいない。

 だが、近い。

 俺にはわかる。

「レイ・アム・スゥワム……『探査エンフォーソン』!!」

 何か危険を感じ取ったのか、リディアにやらせず、エルナ自身がスペルを詠唱する。しかも早い。高速詠唱だ。発動までに2秒とかかっていない。

 そして……いた。俺達にも見えた。

 前方、木々の間、透けてはいるが『探査』の効果によって、ハッキリと赤い輪郭が見える。

 なんだ? あの形は……。

「見た事無い形だな」

 2メートル強の球の形をしている。その球の上部から、手?足?のようなものがニョキニョキと生えているようなシルエットをしている。

 瞬間、エルナが青ざめる。

「マッツ! あれは危険です!! あれは、悪魔の眼イービル・アイ!! この森にあんなものがいるなんて!!」

 悪魔の眼イービル・アイ……?

 聞いた事がないな。
 だが、エルナがあれだけ言うのだから、相当やばい奴なんだろう。姿が見えないなら無闇に逃げるのもやばい。いつ襲われるかわかったもんじゃない。

「エレメレ・ハル……『特殊攻撃耐性向上スペツァトレ・ヴァベッサ』!!!」
「ティミリィヤ……『精神攻撃耐性向上ガイストレ・ヴァベッサ』!!!」
「ワシュヴァル・ソナ……『毒耐性向上ギフトレ・ヴァベッサ』!!!」

 パーティにエルナのバフが次々にかかる。しかも、各詠唱にはそれぞれ、2、3秒程度しかかかっていない。全く聞き取れない。しかも平行詠唱だ。

 改めてエルナが超高レベルの術師である事を認識する。

「よし、行くぜ!!」
「皆さん、悪魔の眼イービル・アイの大きな眼から出る光の範囲内では一切の魔法は効きません! 気を付けて!」
「物理は効くんだな?」
「効きます……が、常時、全身を覆うシールドのせいで貫くのは容易ではありません。それと、精神攻撃や石化などの特殊攻撃を持っている為、迂闊に近付くのは危険です!」
「りょーかい! バフが切れないよう、頼むぜ!」
「わかりました。リディア! あなたもお願いします」
「ハイッ!」

 大丈夫だ。どんな危険な奴が相手でも、あれだけのバフを一瞬で唱えるテン系統魔術師がいて負ける事など、有り得ない。

「アデリナ! 狙撃、頼む!!」
「オッケー!!」

 アデリナは矢が味方に当たらないよう、一瞬で近くの手頃な木に登る。魔法無効、物理耐性強な敵はアデリナの強烈な一矢が効く。

「行くぞ!!」

 ヘンリック、リタと前衛組は分かれて突進する。

 リタが走りながら数発、矢を放つ。

 ドスッドスッ!
 ドスッドスッドスッ!!

 全て命中。だが、エルナの言う『シールド』に阻まれているのか、悪魔の眼イービル・アイは微動だにしない。

 悪魔の眼イービル・アイに更に接近、距離にして凡そ10メートル程か。

 少しずつ、全身と各パーツが見えてくる。
 どうやら距離が近付くと、視認できる部分も増えるようだ。

 球に見えたのは、巨大な『眼』だった。

 その眼を包むためだけの胴体があり、ニョキニョキと頭から生えていたのは、触覚のようなものらしく、先端に小さな眼があるシロモノだった。

 そして……何故か知らんが、宙に浮いている。
 魔法生物か?

 その眼から、うっすら光が放射されているのが見える。
 あれがエルナの言っていた魔法無効の光だな。
 あの光の範囲内は、修羅剣技の効果も、ゼロではないだろうが、あまり望めないだろう。

「小さな眼にも気を付けて! 精神攻撃、毒攻撃が来ます!!!」

 後方からのエルナの助言を耳にしながら跳ぶ!

「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 動きが遅い、というか、ふわふわ浮いているだけで、移動する気配が無い。こんなものを切るのは容易い。

 バッシュゥゥゥゥゥ!!

 ビルマークでお借りした飾りの剣ではない。『魔剣シュタークス』の一撃。

 ドゥフッッッ!!!
 ズザザザザザッッッ!!

 ほぼ同時にヘンリックの赤槍の突き、リタの双剣の連撃が決まる。

 全て、中心の大きな眼を狙った攻撃。


『シールド』に弾かれたわけではない。

 悪魔の眼イービル・アイの眼は切れており、そして貫かれている。

 だが、手応えがない。それらの傷は、砂場を切ってもすぐに元に戻るように、ススス……と消えて行った。

 相変わらずフワフワと浮くこの奇妙な敵は、何のダメージも受けていない。

「気持ち悪いわね……」

 一旦、リタが距離を取る。

「どいてッッッ!」

 アデリナの叫び。
 瞬時に俺とヘンリックは左右に飛び退く。

 ドォォォゥゥゥッッッッッッ!!

 体に不釣り合いな巨大な弓から放たれた一撃は、こいつの胴体の中心、気持ち悪く蠢く瞳を貫通……せず、10センチ程刺さり、そしてポロリと悪魔の眼イービル・アイの前に落ちた。

「え~~~……。何アレ??」

 アデリナの困惑が聞こえる。が、すぐに木から木へ移動しているようだ。

 やがて、悪魔の眼イービル・アイも俺達に向かって動き出す。

 フワフワと宙を漂いながら前進し、同時に頭部の小さな眼が俺達に向き、光を照射する。

 シュンッ!!シュン!シュン!!

 間一髪避ける。光を避けたのでは無い。
 予め、視線から外れたのだ。

 俺がいた所に丸く小さな穴が空く。
 この攻撃はやばい。早すぎる。いつまでも避け切れるものではない。

 ヘンリック、リタも上手く距離を取り、何とか初弾はみな、躱せたようだ。

「みんな、もう少し下がれ!」

 聞いていた通り、ダメージは通らない。範囲は狭いが当たるとかなりヤバそうな光線を放つ。
 どうするか……。

 その時、さっきとは違う小さな眼が、光る。

 しまった!

 浴びた!

 ……!?

 ダメージは……無い。


「ダメです! 精神攻撃耐性を上回っている!」

 エルナの悲鳴が聞こえる。
 精神への攻撃か。俺に効かない訳だ。

 だが、ふと横を見ると、ヘンリックとリタが武器を落とし、ボーッと突っ立っている。

「リタ! しっかりしろ! ヘンリック!!」

 さっきのヤバい光線を放つ眼が、リタとヘンリックを追いかける。

 ク……ヤバい!!!
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