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第2章 超人ヒムニヤ
剣聖 対 火竜(3)
しおりを挟むアデリナが後ろを振り返りもせず、俺の言う事を信じて飛び降りてくる。
ポフッ!!
「あんッ!」
真下の俺がうまくキャッチ。
メチャクチャ軽い。ポフッてなんだ。ポフッて。
……てな事を言っている場合では、全くない。
見ると、悪魔の眼が、木の上で10体ほど蠢いており、明らかに俺に敵意を向けている。
1体であれほど手こずった奴だ。それが10匹以上、そして空中にいる、となれば勝ち目が見い出せない。
「皆、逃げるぞ!」
瞬時にそう判断し、アデリナを地面に下ろしながら、退却を指示する。幸いこいつらの移動速度は遅い事が分かっている。俺が囮になれば逃げ出せるだろう。
「殿は俺がやる。エルナ、皆を安全な所まで連れて行ってくれ!!!」
「ばかな、マッツ! 大森林で離れ離れになったら……」
「行け!!!」
エルナの言いたい事はわかる。だが、そんな事を言っている場合ではない。全滅したら元も子もないんだ。
エルナが1、2秒、何かを詠唱し、俺にかけてくれたようだ。何かのバフだろうか。いずれにしろ、頼もしい。
皆、俺の方を見ながら、エルナを先頭に走っていく。そうだ。それでいい。後は彼らが逃げた先に、こいつらがいないことを祈るしかない。
そして、無論、俺もこんな所でくたばるつもりはない。
「火竜剣技!! 『一』!!!!」
今度は一人で戦わねばならない。だが、どうすればダメージが通るかはわかっている。そこで、さっきとは少し戦い方を変えてみる。
物理が効きにくいとは言え、まったく効かない訳ではない。従って、絶大な威力で横真一文字に切り裂く炎の斬撃を加え、その後、切断面を焼き尽くす、燃焼の追加継続ダメージを与える『一』を放ってみる。
前方にいる数匹が横に引き裂かれ、そこから炎をブスブスと噴き出している。だがやがてその炎も消え、切断箇所もググググっと塞がる。
ピシュンッ!
ピシュンッッ!!
「うわっつつ!」
四方八方から光線の反撃を食らう。
もちろん、光ってから躱すことなど到底不可能だ。こいつらは動きが鈍い。常に移動しながら、奴らの視線を浴びないようにする。
「火竜剣技!! 『突』!!!!」
攻撃真っ最中の悪魔の眼にカウンターを食らわす。スクリューの爆炎が中心の大きな眼を突き破り、後ろのもう1匹にまで届く。
が、今のやつもトドメを刺さなければ、いずれ復活するだろう。目ん玉を貫かれた位で死ぬようなモンスターではない。
しかし1匹のトドメを刺すことに、ものすごく大きなリスクが伴う。
悪魔の眼の群れからの攻撃を避け、同じ1匹に攻撃をし続けることは非常に難しい。
従って、ここは時間稼ぎに徹する。
「『突』!!」
「『突』!!!!」
「『突』ゥゥゥッッ!!!!!!」
そして、そろそろやばくなってきた……。
さすがのタフネスを誇る俺も、こうも動き続けだと体力が枯れてくる。
更に悪魔の眼が俺を囲むような位置に動き始めている。
包囲網を抜けるには、最低でも2、3体とは真正面から向き合わなくてはならない。その状況では、光線を避けることがかなり難しいだろう。
どんどん、後ろに追いやられてしまう。
ぐぬぬ……。腹立つ。
攻略法がわかっている今なら、1対1なら負ける気はしないのだが。
やばい、やばいぞ……。
エルナ達と全く違う方向に来ている。
……と、不意に体が落ちる ―――!!
ドッボ―――――ン!!
「ななな……ンンン……! ウガッッゴホゴホッ!!」
なんだなんだ!
水……川!!
川か!
川に落ちてしまった!
あっという間に激流にのって、悪魔の眼の群れから離れる。
逃げる時間は十分稼いだはずだ。そっちはもう大丈夫だろう。
しかし、この激流はまずい。
とにかく、まずは『シュタークス』だ。こんな所で失う訳にはいかない。もがきながら必死で鞘に戻す。
泳げない訳ではないが、泳ぎなど何の意味も無い。流れに身を任せ、なるべく体力を消耗しないように岸の方に流れ着こうと努力する。
数分は流されただろうか。
先の方で、嫌な音がする。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
……。
ノーノー!! お断りだ。嫌だ。
何か知らんが、行きたくない。
絶望的な何かが待っている気がする。
が、どんどん、音が大きくなり……。
また不意に体が ―――
「うっぶ!! お、ちるっっ??」
滝!!!!!
もちろん、落差は百竜の滝とは比べるべくもない。が、数秒落ちる感覚の後、激流と混じって一気に川底の辺りまで沈んでしまう。
深い深い。
なんだこれ、無茶苦茶深い。
そして、流れがきつい。泳いで抜け出そうとするが、まったくどうにもならない。しばらく、川底を流されたと思ったら、今度は水面に向かって押し上げられる。
もうすぐ水面、息継ぎを……と思った瞬間、また川底に引きずり込まれてしまう。
これが何度も繰り返される。
ぼ…ぼぅぇ、し……死ぬ……
意識が飛び始め、もうダメか、と思った時、水中で何者かと目があう。
「……お前、マッツ・オーウェンだな?」
子どもの声だ。なんでこんな所に? なんで、そんな普通に喋れるんだ?
(げぼげぼがぼぼぼ……)
「わかった。助けてやるよ!」
(がばごぼげべべ……)
「そんなのは後だ。お前、死ぬぞ? 黙ってろ」
(ごぼ……)
俺は首根っこを捕まれ、すごい勢いで水流から抜け出る。
何か知らんが、助かった。あっという間に水面に出て、息継ぎをする。とともに、大きく咽てしまう。
「ぶっっはぁぁ~~~~!! ぐぼっ……。ごほごほごほごほごほごっほ!!」
「うるっさいなぁ……」
泳ぎながら、子どもがだるそうに言う。
ごめんなさい。大人のくせに……。
そのまま岸へと泳ぐ。俺ではない。その子供が、だ。
俺の体重などものともせず、すいすいと泳いでいく。すごい力だ。
あっという間に岸につき、陸地に上がる。
助かった……。
しばらく咽て、呼吸を整えた後、改めてその子供を見る。
うーん。人間じゃなかった。
見た目は10歳位の人間の男の子なのだが。
服装も水色のヴェールを纏っていることを除けば、さほどおかしい恰好はしていない。普通のTシャツに短パンの子どもっぽい服装をしている。
……が、何しろ、体の色が全身、青いんだもの……。そして、瞳の色が黄金色をしている。竜のようだ。水の中では全然わからなかった。
「あ……ありがとう。死ぬとこだったよ」
「ん。いいさ。俺はあるお方の言う通りにやっただけだから。いや、むしろその方に会えて嬉しかったよ。溺れてくれて有難うな!! 夢で会ったあの方は本物だったってことだからな!」
何を感謝されているんだ。
「あるお方?」
「それは言うな、と言われたからな。教えないぞ?」
「お前、一体何者なんだ?」
「俺か? 俺は人間が『百竜の滝』と呼んでいる滝に住み着いている『霊』だ。お前らが言うところの『精霊』ってやつになるのかな? お化けじゃねぇぞ?」
精霊……。
まあ、神様が実在するんだから、精霊がいても不思議ではないが……。
精霊って、こんなフランクなの?
いや、でもそういえば、ツィ様もテン様も結構フランクだったな。
「いや~。お前らが1匹目の悪魔の眼を倒した時は、ちょっと疑っちまったよ。『悪魔の眼にやられて、マッツ・オーウェンという若者が落ちてくる、放っておくと死んでしまう。それを助けてやってほしい』って言われてたのに、一向に落ちてこねぇからさぁ……」
「え? 見てたの?」
「見てたよ」
「どこで?」
「川の中から」
「まじか。ずっと傍にいたのかよ。もっと早く助けろよ」
「別に危なくなかったからさ、まだいいかと思って」
…………。
「いや、死にかけの目に合う前に助けてくれよ。精霊にはわかんねーだろうが、めちゃくちゃ苦しかったんだぞ」
「そうかそうか。あの方の言う通りにできてよかったよ」
……………………。
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ジャボン!!
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この流れの中、上手にスイスイと上っていく。
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精霊なのに……。
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