神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

文字の大きさ
48 / 204
第2章 超人ヒムニヤ

剣聖 対 火竜(4)

しおりを挟む

 やれやれだ。

 もうちょっとで死ぬとこだったぜ……。

 でも、何とか助かったみたいだな。仲間も無事なようだし、とりあえずは少し休むか。


 まずは、服を乾かそう。

 木は豊富にあるので火を起こし、焚き火をする。一旦、服を脱ぎ、木を組み立てて物干し竿を作り、そこに吊るす。風がいい感じにそよいでいる為、すぐに乾くだろう。

 服を乾かしている間、ほぼ全裸になってしまうが、今の間に改めて付近をよく観察してみる。

 この辺りの川は幅が広く、いつの間にやら流れがかなり緩やかになっていた。木々は相変わらず濃い。濃いが、川の上には木がないために、他の場所よりもかなり明るい。
 しかし、森の神性はより強くなっているように感じる。こんな神聖な場所でパンツ一丁ですみません……。


 チチチチチチ……
 キュウキュウ……
 ホロホロホロ……

 鳥か獣かわからないが、色んな生き物の鳴き声が聞こえてくる。
 のどかだ……。

 チチチチチチ……
 キュウキュウ……

 チチチチチチ……
 バシュッバシュッ!!
 ホロホロホロ……

 キュウキュウ……

 ドォォォォォォォーーーン!!

 バサバサバサ……

 …………。

 いやー。
 派手な音を出す生き物がいるもんだな。


「レィブリィ! ブレスが来るぞ!! 逃げろ!!」

 グァアアアアアアアアアアアアア!!!

 おお。
 人の声によく似ているな。

 ゴォォォォォォォォォォォォォ!!


 うおお。
 まるで、何者かがブレスを吐いているような音がする。



 …… うあっっっっっつ!!!!
 アチチチチチ!

 熱気がここまでくる。

「勘弁してくれ。ヤな予感しかしねぇ」

 1人でブツブツ言いながら、渋々シュタークスを手に持つ。

 うぅ。嫌だぁぁ。


「矢を放て!! ビャーテ! 右からだ!!」

 戦ってるよな……やっぱり……。
 んで、相手って……。

 ギュォォォォーーーー
 ガァァァァァァァァァァァーーーー

 木々の隙間から、巨大な体が見える。

 いや、見えない見えない。木が邪魔で全く見えない。俺の目には真っ赤な体に黄色の眼球、塔ほどの太さがある足に青年らしき誰かが捕まっている所や、口から炎がヨダレのように漏れている所などは全く見えない。

 ヒィィィィィーーーー!!!

 やっぱし!!


 ドラゴン!!


「オイフェミア! 狙われている! 川へ逃げろ!!」

 シュゥゥゥゥゥゥゥゥーー……

 うぉぉぉ。吸ってる吸ってる!

 ゴォォォォォォォォォォォォォォーー!!!

 吐いたぁ~~~!
 火炎ブレス!!

 俺の目の前一面が炎で一杯になる。そしてその炎の手前で、まさに今、オイフェミアと呼ばれたであろう女性が俺の方に猛突進してくる。

 ええい! くそっ!!!

地竜剣技エアドラフシェアーツ!!」

 行きがかりだ。助けてやるか!

「『岩砕フェルセヴェルグナ』!!!」

 迫り来る炎の息フレイムブレスと、駆け込んで来た女性との間に『岩砕』を発現させる。

 熱風に煽られて女性が吹き飛ばされ、俺の胸の中に飛び込んで来た。ドラゴンと敵対する事は避けたいが、女性を放り出すわけにはいかない。しっかりと胸で受け、抱き止めてやる。

「大丈夫かい?」
「ひっ? 誰?」
「そんなのは後だ。やれやれ……」

『岩砕』が砕け散り、ブレスを吸収する。

 まだ幼さの残る女性を地に立たせ、ふと見上げると、上空でホバリングしているドラゴンが目に映る。

 ……あれ……待て待て。

 目が合っている……………………。

 ドラゴンと目がバッチリ、合っている。

 勘弁してくれーーーー。


 グルルルル……。

 うう……。唸るんじゃない。怖いじゃないか……。

「今だ、射てーーーーー!!!」

 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!

 森の中から巨体に向けて、多くの矢が放たれる。だがドラゴンは全く意に介さず、じっと俺の顔を見続けている。

 あ~。あの矢じゃなぁ。
 アデリナ位の威力がないと無理だろうなぁ……。

 不意に、頭に声が鳴り響く。

(マッツ・オーウェンだな……)

 うぉっと……。
 頭に直接話し掛ける、この恐ろしい声は……。

(グェグェグェ。そうだ。貴様の目の前にいるこの私だ)

 目の前……。

「まさか! オイフェミアが!!」
「え?」

(違うわ! そんなで『グェグェ』とか笑ってたら怖いだろうが!)

 グルルルル……。

 意外に軽快に突っ込んで来るな。


 しかしマズったぞ。ドラゴンに話し掛けられてしまった。
 オイフェミアは、顔にハテナマークをたくさん浮かばせて、俺を見つめて固まっている。

「どうした!? ドラゴンの動きが止まったぞ!」
「今の内だ、退却するぞ!」

 いや、俺も退却したい……。
 てか、あんたら、仲間がドラゴンに捕まってるんじゃないのか。

(待っていたぞ、マッツ・オーウェン。さあ、貴様の力、見極めさせて貰おうか)

 ヒィィィィィーーーー

 何という最悪の展開。

(私達を助ける者なのか、破滅に導く者なのか、確かめさせてもらう)

 お断りします。

「俺はここに来て、たまたま珍しいモノを見ただけなんだ!」

(何を言っとるんだ、お前は……)

 ドラゴンの口から炎が一際漏れる。

 ……と思った瞬間、先ほど、騒いでいた奴らがいた辺りを炎の息フレイムブレスが焼き尽くす。

「なにしやがる!」

(お前がやらないというならそれで良い。見込み違いだったという事だ。ならば視界にいる者を焼き尽くす! 私にとっては地上に生きる者共の命など塵に等しい)

 くそう! やっぱりこうなってしまうのか。

 ―――
「そんな事言って…… 結局、戦うんでしょ?」
「やめたまえ、リタ。嫌な予感がする」
「うふふ」
 ―――

 リタの言霊、ハンパないな。
 仕方ない。腹をくくれ!

「ようし! わかった。相手になってやるぜ。その代わり、今、足で掴んでいる人を離せ」
「……」

 いきなり独り言を言い出した俺にびっくりしてか、オイフェミアがギョッとした感じで更に俺を見つめる。心無しか、モジモジしているようだがあまり気にしない。

(グェグェ。そうか、やる気になったか。ならばこうしよう。私からこの人質を救い出せばお前の勝ち、それ以外は私の勝ち)

「ふん、いいだろう」

 その言い方だと、命までは取られなさそうだ。こっちは思いっきりやってやる。
 ドラゴンとの交渉を終え、胸の中の可愛らしい女の子に顔を向ける。

「オイフェミアさんとやら。ここからは俺とこの火竜とのタイマンだ。急いでここから離れなさい」
「え? あ、はい。でも、あれ……竜に捕まっているのは私の子なんです! 私だけ逃げる訳にはいきません!」
「え? あんな大きな子供がいるの?」

 見た目、15、6歳に見えるのだが……。エルナといい、コンスタンティンといい、アンチエイジングが凄すぎないか。

「いいよ。助けておいてやる」

 どっちみち、そうしないと俺の負けなんだからな。
 あれ? 負けたらどうなるんだろうか。

(グェグェ。死ぬんだよ。お前の仲間共々な)

 ブチッ

「俺の仲間に手ェ出すんじゃあねえよ! お前は今から俺がぶっ飛ばしてやる!!」

 何やら、竜の口の端が少し上がった気がする。
 笑ってやがるのか?

「さあ、俺が必ず助けてやる。早く逃げろ」
「う……ありがとうございます! あの、お名前は……」
「マッツ・オーウェン!」

 言い捨てて、魔剣を片手に俺はドラゴンに向かって突進する。

 この幼いお母さんは、きっと俺のカッコいい背中を見て、しびれているだろう。


 この時、パンツ一丁だったことを思い出したのは、それからかなり経ってからだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

処理中です...