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第2章 超人ヒムニヤ
《神妖精》超人ヒムニヤ(6)
しおりを挟む「「「「「「「え!?」」」」」」」
「なんだ、その反応は。この超人ヒムニヤ様が付いて行ってやる、と言ってるんだ。もっと喜べ」
キョトンとした顔のヒムニヤが、細身だがスタイルの良い、くびれた腰に左手を当て、紅茶をすすりながらこともなげに言う。
「ええええええ~~~~~~!!!」
「何だ。何をそんなに驚いている?」
「いや、だって、超人って……そんななの?」
「お前達はヴォルドヴァルドから神の種を奪いたい。私はアルトゥールを含め、竜達を元の住処に戻してやりたい。お互いの利害が一致したであろう?」
いや、そうなのかも知れないが……。
そりゃ、テン系最高位魔術師のエルナに加えて、超人ヒムニヤまで加わったら最強だろ。心強過ぎる。
「ヴォルドヴァルドは竜が苦手だ。敵わない、という訳では無いのだが、どうも竜族が出す、ある音域が苦手のようでな。そこで奴は暗黒大陸に住み着いている竜達を、皇国の人間を使って追い出している。……私からしたら、お前が出て行けよって話なんだがな」
そこで、窓から外を見るヒムニヤ。
窓から入る光を浴び、完璧な美貌と相まって、もはや芸術だ。
「そもそもヴォルドヴァルドが暗黒大陸に住み着く前、かの大陸はノーズ大陸と言われ、とても平和で豊かな地域だった。皇国も何代にも渡り、善政を敷き、よく栄えていたのだ。それを彼奴が、竜を追い出すだけの為に後先考えずに洗脳した為、結果的に国を荒らしてしまった。そうして、いつしか人々に付けられた名前が『暗黒大陸』という訳だ」
「そんな事が……昔から暗黒大陸って呼ばれてた訳じゃ無いんですね……」
クラウスが話に合いの手を入れる。
「国を乗っ取るってのもスケールでかいわね。エッカルトは失敗したけど、さすがは超人ってとこね」
リタに1つ頷き、恐る恐る、あまり聞きたくない事を聞いてみる。
「ヴォルドヴァルドって強いんだよな?」
「まぁな。魔法無効、物理無効、加えて、物理無効を無効にするというデタラメな槍、『魔槍バンデッド』を使う。槍術は天下一品、六芒槍術の始祖でもある。本人は、超人最強を自負しているらしいがな」
ああ……やっぱり聞かなきゃなかった。全く勝てる気がしないな……。守りだけで言うとアスラ級か?
いや、でも攻撃の方も槍術の始祖なら相当の使い手、間違い無く強いだろう。
六芒槍術と聞いて、ヘンリックがピクリと反応する。こいつも槍使いだ。その名前くらいは聞いた事があるのだろう。
「はっはっは。へこみすぎだ、マッツ。少し希望をやろうか。かつて、一対一でヴォルドヴァルドに痛手を負わせた『人間』が2人いる」
「え? 人間?」
「そうだ、ただの人間だ。1人は『ペルセウスの弓』をもって、200メートル離れた所から鎧の継ぎ目を射抜いた狩人ロビン、もう1人は『赤い聖剣ベテルギウス』と『青い聖剣リゲル』をもって物理無効の鎧ごと、奴の腕をぶった切ったアスガルド王国の聖騎士オリオン」
驚いた。2人とも、教科書に載るほど有名な人物だ。『ただの』人間じゃねぇよ。
しかし2人とも、もう7、8百年前の人物だよな。
「超有名人だよね。でも、ヴォルドヴァルドと戦ったなんて書いてなかったなぁ……いや、なんかむしろ、味方……というか一緒に戦った、みたいに書いてあった気がする」
アデリナが小首を傾げる仕草をする。
「そりゃそうだ。ヴォルドヴァルドが彼らとの戦いを無かった事にしおったからな。ロビンもオリオンも、武功を自慢するような奴らではなかったから、それ以上は広まってはいない」
「どうしてヒムニヤは知ってるんだ?」
「横で見ていたからだ」
「「「「「「「おおおお!!」」」」」」」
何か歴史が感じられて……凄い。
そんな昔の話なんて、想像もつかないが、教科書のヒーローが実在して、俺達と同じ敵と戦っていたのか……。
ヒムニヤはそこで1つ、鼻をフンと鳴らし、悪い笑みを浮かべる。
「ま、私に言わせればヴォルドヴァルドなど穴だらけだ。魔法無効は彼奴の生まれ持った特性だからどうしようもないが、物理無効は後付けだ。奴の鎧を引き剥がせば良い。バンデッドにしても、元々お前達が物理無効でないから、ただの硬い槍に過ぎん。おまけに竜という弱点を持っている。竜ですら倒したお前なら、何とかなるさ。アルトゥールもそう思って、お前に託したんだ」
そこまで言って、そういえば、と思い出したように懐からメモを取り出す。
「アルトゥールからお前に言伝だ。『此度は私の負け、お前の旅の先で待っている、手を貸して欲しい』だそうだ。力を貸してやれ、マッツ。お前はもはや、『竜殺し』なんだぞ」
竜殺し!!
伝説の英雄クラス!!
やばいな。それ……ウヒヒ……。
……ま、殺しちゃいないけどな……。
「ヒムニヤさん、おにーさんはやるよ! だってニヤニヤしてるもの」
ニコニコしながらアデリナが口を挟む。
「ああ。いい顔してるぜ」
ヘンリックも続ける。
「でさ、ヒムニヤさん」
「ん?」
「肝心なところ聞きたいんだけど」
「肝心なところ?」
「マッツにーさんは、どうして10日間も目覚めなかったの?」
「10日間!?」
ヒムニヤが答える前に俺が声を上げてしまった。
10日間だって!?
そんなに寝てたのか、俺。
「そうだな。それも教えておこうか……」
少し険しい顔をするヒムニヤ。
「マッツは竜と戦った後、力尽きて気を失ってしまった。いや、力が弱った所を狙われ、失わされたのだ。そうしておいてマッツの精神を乗っ取りにかかった男がいる」
あいつか。
あの瞼のない、丸い目をした奴。
闇の波動を身に纏った奴。
「男の名はヘルドゥーソ。またの名を《滅導師》。五超人の一人でもある」
「へ、ヘルドゥーソ! 《滅導師》ってやっぱり……」
どこかで《滅導師》という言葉を聞いたのか、エルナが口に手を当てて唖然とした表情をする。
「この世界にとっては奴は明確に敵だ。何を企んでいるのかは知らんが、基本的に奴はこの世を破壊し尽くす術を求めている」
そこで、はぁ……と1つ、大きな溜息をつく。
「奴がマッツに接触し、何をしたかったのかは知らん。……が、奴の闇の波動に触れた人間は、通常、奴の傀儡となる」
「え!?」
リディアが大声をあげる。
「え!? え!? 俺、今、操られていたりするの?」
そこでようやく、ニコリと微笑むヒムニヤ。
「心配せんでいい。私も最初は危惧したが、お前には『精神干渉無効』という能力がある。加えて『神視』という特性を持っている以上、奴には手は出せん。それほど特異な、神に加護されし特性なのだ。だが体が弱った時には注意せよ」
リディアがホッと胸を撫で下ろしている。が、すぐに疑わしい眼差しで俺を見る。
「ふーん。マッツがねぇ……神様にねぇ……」
「ほんと。こんなに女にだらしない男がねぇ……」
リタがやけに手厳しい。そこでクラウスが沈鬱な表情を浮かべてボソリと呟いた。
「ひょっとして超人ヘルドゥーソの狙いって、私達と同じなんじゃあ……」
そうだ。実は俺も同じ事を思った。だが、声に出して言うと、現実に起こってしまいそうだから言わなかったのだ。
言っちゃったな……クラウス。
「ふむ。お前達の旅の目的は何なのだ?」
腕を組み、壁にもたれながらヒムニヤが聞いてくる。
「俺達の目的は、神の種を収集する事だ。魔神ミラーとやらの召喚を阻止するためにな」
「神の種か。なら……いや」
なにやら心当たりがありそうだ。
あまり聞きたくは無いが。
「ま、どっちにしても目的が同じであるなら、いずれ出会う事になるだろうな」
もう勘弁してくれ。
ヴォルドヴァルドだけでお腹いっぱいだ。
「クラウス、と言ったか? ヴォルドヴァルドを倒すまで、お前に我が術を叩きこんでやろう」
「えええ!!」
クラウスが仰天し、両手を後ろについた形でしりもちを付く。
「お前はツィ系の魔術師だな。素質もある。出来ない事もあろうが、頑張ればもっともっと強くなる」
「そんな……非常に光栄です。是非ともお願い致します!!」
「私がいる間は大丈夫だろうが……そうでない時にこのパーティをヘルドゥーソから守るのはお前の役目だ。クラウス」
恐れ入って深々と頭を下げるクラウス。
「よかったな! ほれ、いつか言った俺の言葉……本当になっただろ?」
「……本当だ。さすがです! 隊長!」
心底、感嘆した表情をするクラウス。
いや、別に凄くはないけどな。慰めるのに適当に言っただけだし……。
そのクラウスを羨ましそうに見つめるエルナ。
小さく、いいなぁ……と呟いている所が可愛い。
「さて、3日ほどしたら旅立とうか。私もここから出るのは久しぶりだからな。少しばかり準備もしたい。……といって、さほど荷物がある訳でもないが」
「ヒムニヤ様の荷物は、弟子の私がお持ちします!」
まだ何も教えてもらっていないのに、もうクラウスが弟子になってしまった。クラウスの勢いにヒムニヤが苦笑いしている。
「……ふふふ。わかった。では、頼もうか」
「お任せください!!」
こうして俺達のパーティに、最強のメンバーが加わった。
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