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第2章 超人ヒムニヤ
慈愛の女神 ツィ(5)
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死古竜が吠える。
ギギギ……
バキバキバキッ
死古竜の肋骨が数本折れる。それはヒムニヤの攻撃のせいではない。死古竜の、文字通り、身を削る攻撃であった。
バシュバシュバシュ!!!
折れた骨が、猛スピードでヒムニヤに襲いかかる。一本が2、3メートルほどもある巨大な骨だ。
だが、これらもまた、ヒムニヤを突き破るかと思われた瞬間、空中でピタリと停止する。
ヒムニヤが弧を描くように腕を回すと、それらの骨はバラバラバラ……と粉微塵になって、消え去った。
今度はヒムニヤが、両手を体の後ろに引いた状態から、一気に前に押し出す。
「ハァァッ!!」
合わせた掌からまるで魔法のビームでも出そうな形だが、特に目に見えて何かが出たわけではない。
……にも関わらず……。
ズドォォォォォォォォォォォン!!
死古竜が大破した。
「うげぇ~~~」
「うわわわわわ!!」
マッツ達の所にも、細かく砕かれた骨が飛んでくる。だがそれらは彼らの数メートル先で、パチンッと何かに当たり、煙となって消え去った。
「ヒムニヤ様が私達にまで加護を付与してくれているようですね」
クラウスが腕で顔を防ぐ仕草を解きながら説明する。
「しかし、ツィ系魔法って癒し専門だと思ってたんだが……攻撃力、凄まじいな」
「凄いですね。きっとヒムニヤ様のオリジナルスペルも混じっているんだと思います」
「気になってたんだが、ヒムニヤはさっきから一度も呪文を詠唱していない……よな?」
マッツがまだ目の前で骨が消え去った辺りを見ながら、クラウスに問いかける。
「はい。まだはっきりと教えていただいていないので、私にも原理はわからないのですが……ただ、世に出ている魔法の行使に呪文を唱えるような『超人』はいない、とは仰っていました」
そういうものなのか……とマッツが恐々、頷く。が、エルナは意味がわからない、といった表情で固まっている。
「おい、見てみろ!」
ヘンリックが、死古竜の元居た場所を指差し、叫ぶ。
シュゥゥゥゥゥゥゥ……
先ほどの顎修復時と同じく、明らかに『闇』の属性とわかるオーラがそこに集まり、再び『死古竜』を形成しようとしている。
シュウゥゥゥゥ……
パキパキパキ……
「フン!!」
ヒムニヤが腕を薙ぎ払う。
ドォォォォォォォーーーン!!
修復中だった死古竜はまた、粉微塵にされてしまう。
「ヒムニヤ様!!」
クラウスの視線の先は……ヒムニヤだ。
今度はヒムニヤの周囲に闇のオーラが集まっている。その位置で復活しようとしているということか。
「私を取り込もうと……?」
(闇呪共)
何処からともなくこだまする恐ろしい声。ヒムニヤの顔色がサッと変わる。
「古代闇魔法……しまった。間に合わなかったか!」
ヒムニヤがそう呟いたのと同時に、死古竜が彼女と同じ場所で復活する。
「ヒムニヤ様ぁぁっっ!!!」
クラウスが絶叫する。
ヒムニヤは死古竜の、本来内臓があるべき部分に取り込まれてしまっている!
肋骨に守られているような形になり、目を閉じ、両手を胸の前でクロスさせ、体を折りたたんでいる。
「隊長!!」
クラウスが振り返り、マッツに突撃の判断を仰ぐ。
「ちょっと待って下さい、クラウス、マッツ」
エルナが口を挟む。
「恐らくですが、あの竜、いくら体を削ってもヒムニヤ様が力を使われた時と同じく、再生するだけで、我等ではどうしようもないでしょう」
「だけど!!」
「落ち着いて下さい、クラウス。恐らくあの『不死身さ』の原理は、我々が戦ったリッチと似たようなもの。今、見えているアレは、この世の現し身。本体、もしくはあの力の源が、どこか別次元にいると思われます」
「といって、このまま放っとけない!!」
飛び出そうとするクラウスの体をマッツが抑える。
「まあ、落ち着けよ、クラウス。エルナだけがわかる何かがあるんだろう。俺もアデリナもついさっき、彼女のおかげで救われた。俺はエルナを信じているぜ? お前もヒムニヤを信じたらどうだ?」
「ヒムニヤ様を信じる……」
そう呟いてマッツからヒムニヤの方へ視線を変える。
「見てみろよ。ヒムニヤはまだ、何一つやられてないじゃないか」
クラウスの肩をポンっと1つ叩くマッツ。
「想像ですが……今、ヒムニヤ様の意識は、リッチの時の我等と同じように別世界で戦っているのではないでしょうか。この世で死古竜の姿で戦っても勝ち目が薄いと判断した本体がヒムニヤ様をその世界に召喚した、と推測されます。死古竜の動きも止まっているでしょう」
このエルナの推測はズバリ的中していた。
ただ一点、彼等の想像を遥かに超えていたのは、ヒムニヤを召喚したのは死古竜の本体ではなく、死古竜に呪いをかけた古代神、そのものという事だった。
―――
(やれやれ……まさか、この様な事になってしまうとはな……長く生きていると、色々起こるものだ)
ヒムニヤはそう思いながら、この目の前の険しい景色を眺めていた。
彼女の知る限り、ここはいわゆる現世ではない。この様な過酷な景色は彼女達が住まう、あの素晴らしい世界では見た事がない。
剣山の如く鋭角にそびえ立つ山々、池は血と思わしき液体で満たされ、空、地面、見えるもの全てが真っ赤な世界。
(何とも……趣味の悪い)
ふと前を見ると、胡座をかいている老人が空中に漂っている。彼女の目の高さだ。
その老人は、じっとヒムニヤを見ている。
背の高さはマッツ達とさほど変わらない。頭髪は無い。体はがっしりしており、衣類越しにも筋肉隆々なのがわかる。修羅大陸の一部で着られている着物、というものに近い衣服を羽織っている。
ただ、その老人が纏っているオーラは、ヒムニヤをして死を覚悟しなければならない程のものであった。
「あなたが私を呼んだのですか?」
(左様)
「何故です?」
(埒があかんからだ。死古竜は不死身、お前も不死身、死古竜の魔力は無限、お前の魔力もあの森にいる間は無限。まあ、もうちょっと見ていても良かったのだが)
「あなたは、あの竜に呪いをかけた神ですね? 呪いを解いていただけませんか?」
(馬鹿なッッ!)
吐き捨てるようにそう言って、その老人は顔を歪めた。
(そんな事をする位なら、わざわざお前をここに呼ばんわ)
「私をどうしようと?」
そこで響く、低く殺意が篭った、声 ―――
(殺す―――)
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