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第2章 超人ヒムニヤ
慈愛の女神 ツィ(6)
しおりを挟む(殺す―――)
即答し、カッッッと目を見開く老人。
刹那、ヒムニヤの右肩が爆発し、腕が千切れ飛んでいく。
死古竜が如何に攻撃しようと傷の一つもつけられなかったヒムニヤが、この老人の前では何の防御も持たない、ただの人と化す―――
だがヒムニヤの顔は涼しい表情のままだ。
「いたくご立腹のようですが……あの竜、あれほどまでの罰を受け続けなければならない程の罪とは……差し支えなければ教えていただけませんか?」
(……)
そこで老いた神はフゥ……と1つ、大きな溜息をついた。そしてすぐに怒りの形相になる。
かつては雄々しき竜だったはずのあの死古竜が犯した罪が、それほどまでに許せないものだったのか。
(ワシはマハリト。テン達が作ったあの世界が気に入り、よく遊びに行っていたのだ)
そう言うと、一体どこから出したのか、酒ビンを口に運び、グビッと一飲みする。
(中でも、あの大きな森で採れるある果物が好きでな。下界に降りてはちょくちょく食べていたのだ)
一体、何の話をしているんだ? とヒムニヤは思ったが、おくびにも出さない。
(ある日、いつものようにその果物を食べに、と下界に降りたら、その果物がなる林が焼け野原になっておった。調べてみると竜同士のくだらん小競り合いのせいだった、というのだ!)
「……それで?」
(それで? わからんのか? 何と頭の悪い……私の逆鱗に触れたその竜、1匹は殺し、もう1匹にあの呪いをかけたのだ)
「…………は??」
ヒムニヤは首をひねる。
話をそのまま素直に聞くと、林が焼かれて果物が食べられなかったから、と言っているように聞こえる。
その代償が、あの強大で痛ましい呪い……?
死ねなくなった竜は、永遠に彷徨い続けるしかないのだ。
バカな! 有り得ない……と思うものの、目の前の老いた神は大真面目で思い出し怒りをしている。
「まさか、そのような事で……あの呪いを?」
ドン!
今度はヒムニヤの左足が膝下から吹っ飛ぶ。
(そのような事だとッッ! 口を慎め、小娘が!)
「やれやれ……神と言っても、万年、億年を生きると駄々っ子と同じか。力を持っている分、子供よりタチが悪い」
ヒムニヤが溜息交じりにそう言うと、マハリトの額に癇筋が綺麗に浮かぶ。
(小娘ぇぇぇぇ!!)
マハリトがヒムニヤを指差す。そして指の先から魔力が凝縮した稲妻が走る。
ドォォォォォォォォォォォン!!
「ハァァァァァァァッッ!!」
ヒムニヤの前にバリアが張られ、稲妻が全て阻まれる。
(何だとッッ! 貴様ッッ!!)
ニヤッと口元をあげるヒムニヤ。
いつの間にやら、肩口、吹き飛んだ腕、膝下が修復されている。
(貴様ッッ! 森の妖精ごときがどうして……)
「不思議か……老いた神よ。力の行使ができるのは……私の力の根源がすぐそこまで来られているからだ」
(な……んだとッッ!)
そう言いながら、何かに気付いたかのようにハッと上を見上げるマハリト。
(ヒッ……)
そこには腕を組み、透き通るような白く長い髪の毛を靡かせ、薄い水色の衣1枚だけを羽織り、スラっと伸びた足で、空中に立っている女神がいた。
ヒムニヤに勝るとも劣らない美しい造形の顔に、憤怒の表情を浮かべている女性。彼女こそこの世の創世神の一神、慈愛の女神ツィだ。
『ジジイ……私のヒムニヤちゃんに……何してくれてん……だぁぁぁぁぁ!!!』
バリバリバリバリバリバリバリバリッッ!!
ツィの全身から稲妻が放たれ、マハリトに直撃する!
(グァァァ!!)
『聞いてたわよ……そんなくっだらない理由でよくも私達が作った世界にチョッカイかけてくれたわね……もう死ぬ?』
(いや、待ってくれ、ツィ、違うんだ……)
最早、先程までの殺気やオーラなどは微塵も感じられない。若い娘に怯える、ただのおじいちゃんの構図だ。
『何が違うってーのよ! 竜の事も許せないが、ヒムニヤちゃんにした事が一番許せないわ!!』
(わかった! ツィ、待て。わかった。やめろ、あの竜の呪いを解く)
ブチッ
ヒムニヤにはツィの頭から、確かにその音が聞こえた気がした。
『今、ヒムニヤちゃんにした事が許せないって言ったばかりでしょう……がぁぁぁぁぁ!!』
マハリトの眼前に瞬間移動したツィの前蹴りが、皺くちゃになって怯えている顔面をモロに捉える。
「ひぃぃぃぃゔわぁぁぁぁぁ!!」
ドッゴォォォォォォーン!!
マハリトは数キロメートル程、吹っ飛ばされる。
口から血を噴き出し、手を地面に着き、ヨタヨタと起き上がろうとする。
その彼の目の前、地面に見える四本の女性の脚。
恐る恐る、その脚を辿って視線を上げるマハリト。
そこにはツィとヒムニヤ、神界と現世の二大美女が腰に手を当て、マハリトを見下ろして仁王立ちしている。
(あわわわわわ!!)
『フン……』
怯えに怯える老神を前に、鼻からため息を一つ吐くツィ。
『これでも私の気は晴れないが……ごめんね、ヒムニヤちゃん』
「ふふふ。大丈夫ですよ、ツィ様。助かりました。私は何ともありません」
微笑でそう答えるヒムニヤにニコリと笑顔を向けた後、ツィは再び眉を上げ、マハリトに向き直る。
『おい、ジジイ! じゃあ、約束通り、竜の呪いを解いてやれ! そしてヒムニヤちゃんを無事、地上まで送り届けろ! 金輪際、私達の世界に関わるな!』
(えぇぇ……あの果物……食べたいのじゃ……)
『やっぱり……死にたいらしいわね』
片手でパキパキと指を鳴らし拳を目の前にチラつかせながら、殺意の篭ったツィのガンを飛ばされ、ガクッと項垂れるマハリト。
(じゃあ……ハイッ!)
「ん?」
ヒムニヤには、何がハイッなのか、わからない。
『ヒムニヤちゃん。あの竜の呪いは解かれたわ。安心しなさい』
「!! ありがとうございます、ツィ様!」
心の中で『ハイッ』で出来るんかい!と突っ込みながら、それでも満面の笑みを浮かべるヒムニヤ。
「ツィ様、お世話になりました。本当に助かりました」
そう言って頭を下げる。
『うん、皆、待ってるんでしょう? またね! 今度は私が行くわ!』
「はい、是非とも。お待ちしております。では……」
そして、マハリトの、(ハイッ)という声がもう一度聞こえたと同時に、ヒムニヤの意識が途絶えた。
―――
「……様!……ニヤ様!……ヒムニヤ様!!」
ふと、目を覚ます。
すぐにクラウスの腕に抱かれている事を認識するヒムニヤ。そしてあたりに死古竜の姿は見えず、瘴気も感じられない。
「ヒムニヤ様ァ! よかった! お目覚めですか!」
見ると、顔をグジャグジャになって大泣きしているクラウスが見え、その後ろに笑顔のマッツ達がズラッと居並ぶ。
(フフッ。パーティか……。久しぶりの感覚だな)
(死古竜よ、長きに渡ったお前の呪いは解かれた。安心して神界にのぼるが良い)
そして、スクッと立ち上がると、
「さっ、死古竜の脅威は去った。この先、我らを遮るものはあるまい。このまま森を抜けるぞ!」
ポカーンとするクラウス達を尻目に、ヒムニヤは歩き始めた。
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