神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第2章 超人ヒムニヤ

《神妖精》超人ヒムニヤ(3)

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 更に少しだけ時間は戻る。

 クラウス達が上陸するほんの少し前、マッツの魔竜剣技が炸裂し、ドラゴン、マッツ、オロフ、共々地上に投げ出された直後―――


 グゥルルルル……

 脇腹に大きな穴が空いた火竜は地上に降り立っていた。

(何という奴だ……私が恐怖を覚えるとは。人間の身で私の体を貫きおった)

(しかもこの男、最後の最後で私に情けをかけた)

(想像以上だ。手を貸すに足る…………いや。手を貸してもらうのは我等か)

(だがこのままではまずい。この気は《滅導師》か。何をする気か知らぬが、対抗できるのは彼女しかいない)

 傷だらけの火竜は流れる血を気にもせず、目の前のパンツ一丁で寝転がっている男、マッツ・オーウェンを見下ろしていた。


 そしてその光景を離れた木の上から見ていた女性がいる。

 危ない所をマッツに救われた娘、オイフェミアだ。


 そもそも彼女達は、村から少し離れた場所で狩りをしていた所を、突然現れた火竜に襲われたのだった。

 今までドラゴンに襲われる事など一度もなかった為、一緒に狩りをしていた村の連中は混乱し、全く効きそうにない攻撃を繰り返すばかり。

 オイフェミアが息子の手を取り、村に帰ろうとした、まさにその時、突然火竜が自分達を目掛けて急降下、その大きな足で息子が掴まれてしまった。あ……と思う間も無く、上空に連れ去られた息子、オロフ。

 それを見てこの狩りのリーダーが、オイフェミアも狙われていると判断し、川に逃げろと指示を出した。

 その判断理由はともかく、川に逃げたのは彼女にとって、結果的に正解だった。


 そこには1人の男がいた。

 手に剣を持っていた事から剣士なのだろうとわかる。この森で時々見かける茶色の頭髪を見ると、ここテン大陸出身の人間である事がわかる。

 しかし、何故かその男は ――― パンツ一枚しか身につけていなかった。


 火竜のブレスの熱風で吹き飛ばされた彼女。その前にいきなり現れたほぼ裸の男の腕に抱かれてしまう。しかし、何故か不思議と嫌な気にはならず、時々、妙な独り言を呟くこの男を頬を染めて見上げていた。

 その男に言われるがまま走り出したのだが、やはり息子オロフの事が気になり、村に帰る事は出来なかった。

 いきなりほぼ裸の状態で登場した見ず知らずの男に我が子をたくせるわけもなく、かと言って、自身で戦う事も出来ず、なす術なく、遠巻きに戦いを見守っていたのだ。


 彼女は森の妖精エルフである。

 マッツは彼女を15、6歳位に見ていたが、彼女の実年齢は300歳。


 そうして戦いを見守っていた彼女だったが、当初、人間が竜に敵うなど思ってもおらず、付近に潜んでいた。隙を見て、何とかオロフを自分で取り返そうとしていたのだ。

 ところが、パンツの剣士が想定外の強さを持っている事がわかる。

 この戦いの規模だとこの辺りも危ない、と本能的に感じた彼女は、さらに遠くに離れ、そして剣士の最後の攻撃、今まで見たこともない巨大な爆発を伴ったビーム砲により、先ほど隠れていた場所も含めて、森の一部分が消し飛ぶ所を目撃する。


「ああ、オロフ……パンツの剣士……大丈夫かしら……。火竜が覗き込んでいるけど、食べられたりしないかしら」

(人など食わぬ)

「ヒッ!!」

(そこの森の妖精エルフの娘、私の元に来い。子供を返してやろう)

 火竜の視線が明らかに彼女に向いている事に気付く。

(竜が言葉を話すというのは本当だったのね……)

 妖精族である彼らは、人間よりも歴史が長く、その分、知識も豊富だ。昔から竜が目撃されていたこの森に住む彼らは、当然竜の事も多少は知っていた。
 だからこそ、自分達が襲われるなど、思いもしなかったのだが。

 オイフェミアは言われるまま、素直に火竜の元に向かい、そこで我が子オロフ、パンツの剣士共に(気は失っているようだが)無事である事を確認する。

(娘。この者を、お前達がヤコブと呼ぶ老婆のもとまで運べ)

「は……賢人ヤコブ様ですね? 分かりました」

(この者が目覚めたら、此度は私の負け、お前の旅の先で待っている、手を貸して欲しい、と伝えてくれ)

「はい……。こたびは……お前の……。はい。大丈夫です。メモしておきました」

(お前の息子も仲間も死んでおらんはずだ。私のブレスは木を掠めただけだ。みな、連れて帰るが良い。もう我等がお前達を襲う事もないだろう。さらばだ)

 オイフェミアの頭に直接語りかけていた火竜は、翼を広げ、体液を撒き散らしながら、上空へと羽ばたいて行った。

「あ、はい、どうも……お疲れ様でした」

 どこか抜けているのか、天然なのか、オイフェミアは自分達を襲った竜に労いの言葉をかけ、さて、自分一人でどうしたものか、と途方に暮れていた。
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