神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第2章 超人ヒムニヤ

《神妖精》超人ヒムニヤ(2)

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 時間は遡り、こちらはマッツ・オーウェンを欠いたパーティの一行。


 悪魔の眼イービル・アイの群れから逃げ出して、かなり立つ。
 彼らは安全を確認したエルナの指示の下、少し体を休めていた。

「マッツ……マッツ……大丈夫かしら……」

 リディアは気が気でないようだ。さっきからしきりに、小さく呟きながら手を揉む仕草を続けている。

「マッツおにーさん……」

 アデリナも同じように心配そうな顔で呟く。
 それと同時にエルナが不意に顔を強張らせた。

「……む!」
「師匠、どうしたんですか!?」
「にーさんに何かあった?」

 二人の同時の問いにエルナは表情を変えずに、

「いや、マッツは無事です。少なくとも今ほどまでは。あの悪魔の眼イービル・アイの群れを一人でよく防いだものの……どうやら追い込まれて川に落ちたようです」

 少し目線を落とす。

「何!?」

 ヘンリックが不意に立ち上がる。

「あのぅ……エルナさんは何故そんな事が分かるんでしょう?」

 クラウスも心配そうな顔をしているものの、見ているかのように説明するエルナが不思議だったようだ。

「私達が逃げる寸前、彼に『追跡トラサーラ』をかけておきました。彼の命がある限り、どこに行てもわかります」

 早口でエルナが説明する。

 なるほど……。つまり、ずっと場所が変わらず、不意に高速で動き出した、動いている場所は川筋、という所から推測したわけか、と、それ以上の説明をエルナに求めないよう、クラウスはそう納得した。

「あの川の流れはかなりきつい。追い掛けるぞ」

 ヘンリックが赤槍を握り立ち上がる所をエルナが制止する。

「ちょっと待って下さい。流れ着く場所の見当をつけておきましょう。我々とは速度が段違いです。そうですね……このまま流れていくとすれば……恐らく行き着く先は……」

 エルナがどこを見ているのか、周りの人間からはわからない。まるで彼女だけに見える地図の上で、移動するマッツの『印』を追っているかのような瞳の動きをしている。

「わかりました。こっちです。参りましょう」
「ああ。急いでくれ」

 そこから彼らは森の中とは思えないスピードで移動し始めた。
 物理耐性を上げ、多少枝に引っかかろうが、根に足を取られてコケようが、ダメージが無いようにし、更にクラウスが全員に常時回復をかけ、突き進む。

 道中、何度かモンスターに出くわす。が、可能な限り戦いを避け、不可避な敵や逃げる方が時間がかかる場合は、先制攻撃で瞬殺する。


 そうして、ようやく川沿いに出ようという時、川の向こう側、恐らくは彼らが目指すマッツ・オーウェンがいるであろう方向から轟音がとどろいた。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンンンンンンンン………………


「……!!」
「な、何ですか? 雷? いや、でも……」

 エルナが空を見て首を傾げる。

「いや、これは……あいつだ」
「そうよ、マッツだわ!」

 ヘンリックとリディアの表情が明るくなる。

「でも、彼がこれほどの攻撃を繰り出さないといけない相手……」

 リタの表情が曇る。

「まさかマッツにーさん……」
ドラゴン……でしょうね」

 エルナ以外は何となく状況を理解したようだ。

「急ぎましょう!」

 川岸にでる。この辺りは流れがかなり緩やかになってはいるものの、川幅が広く簡単には渡れない。

「待って。橋を作るよ!」

 アデリナがリュックからロープを取り出し、矢に結び付け、対岸の木に撃ち込む。

 ヒュルルルルゥゥ~~~

 ………………

 ドシュッ!

「おお。凄い腕ですね」

 ロープの重さがある為、矢の弾道はブレるが、それをものともせず、狙った木にヒットさせるアデリナに、エルナは感嘆の声を上げる。

 近場の太い木にロープを括り付け、皆で渡る。


 その最中、彼らの目に入ったのは、すぐ近くの森の中から飛び立つ真っ赤なドラゴンだった。

 昨日、彼らが百竜の滝で見た黒い竜よりはひと回り小さいが、火竜といえば、その攻撃力においてドラゴンの中でも最強と言われている。

 皆、ロープを渡りながら、マッツの身を案じる。

 だが、

「大丈夫です。マッツは生きています。皆さん、頑張って!」

『追跡』をかけているため、マッツの『印』が見えているエルナの声に、皆、胸をなで下ろす。いや、両手はロープを掴んでいるのだが。

 今、最も先に着かなくてはならないヒーラー、クラウスを先頭にし、エルナは最後尾にいる。


 そして、エルナは遅れていた。

(く……体力勝負は……苦手……だわ!)


「頑張って下さい! 師匠!」

 はるか前方からリディアが大声を張り上げる。


(う……応援しないで、リディア。恥ずかしい……じゃない!)


 ようやく先頭のクラウスが向こう岸に着き、数秒後、ヘンリック、リタも降り立つ。


「マッツ!」

 岸に上がった三人は、すぐに倒れているマッツを発見する。気を失い、体中に酷い怪我、傷や骨折を負ってはいるものの、とにかく生きていることはわかった。しかも驚くべき事にそれらは治癒し始めている。いくらマッツが無類のタフネスと知っていても、さすがにこれは異常、驚くべき事だ、とクラウスは唸る。そして、即座にヒールを詠唱し始める。

「え~~~と、あなた方は……?」

 不意に現れた人間達に、そこにいたオイフェミアが戸惑う。

 更にアデリナが到着し、少し遅れてリディアも来る。

「マッツにーさん!! 何故にパンツ姿!!」
「マッツ! マッツ!!」
「安心して? リディア、アデリナ。今、回復持続もかけました。しばらくすれば意識も戻るでしょう」

 クラウスの言葉がリディアを落ち着かせる。

「……フゥ……うん。ありがと、クラウス」

 そう言ったリディアは、改めて辺りを見回す。

 先程の轟音の結果なのだろう、おそらく森であったこの付近一帯が吹き飛ばされ、木々は燃えカスとなって原型をとどめていない。

 しかもその範囲は、以前リディアが放ったテン系魔法『爆発』の比ではない。あの数倍のスケールの爆発がここで起こったのであろう。

「一体、ここで何が……」
「あなたの師匠を待った方がいいんじゃない?」

 リタがエルナを気にかける。

「はっ! 師匠! 大丈夫かしら!」

 皆、川岸に戻り、エルナの様子を見に行く。


「はぁはぁ……」

 そのエルナ、川岸までの距離残り3分の1程を残して止まっていた。体力の限界だろうか? 彼らの位置まで息遣いが聞こえるようだった。


「クラウス!」

 リディアが叫ぶ。

「ツィ・ラ・ニーヤ・シーラ・ソーラ!『癒しヒーリング』!!」

 ヒーリングがエルナにかかる。
 そして、川岸から一斉に応援が始まる。

「もうちょっとよ!」
「師匠!! あとちょっとです! 頑張って下さい!」
「いけるいける! もうすぐだよ!!」

(いや……やめて……死にたい……。このまま、落ちようかしら……)

 エルナは生まれて初めて、そう思った。

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