神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

文字の大きさ
57 / 204
第2章 超人ヒムニヤ

アデリナのターン(2)

しおりを挟む

「そんな事言うんなら、這ってでも付いて行くから」

 は……何言ってんだ?

 さっさとヒムニヤやクラウスと合流した方が楽になるのに……。

 滅多にない怪我をして弱気になってるのか。


「マッツ……」
「わかったわかった。側にいるから安心してじっとしてろ」
「うん!」

 全く、こんなアデリナは珍しい。いや、初めてだ。いつも元気一杯、ケタケタ笑っている笑顔しか浮かばない。

 俺もアデリナの隣で横になり、手櫛でボサボサになった髪の毛を直してやる。少し恥ずかしそうに微笑むアデリナ。

 ふと、その反対の手が熱くなる。……見るとアデリナが俺の手を握っている。
 ギュッと握り返してやる。

「大丈夫だ、アデリナ」
「うん……」

 目を瞑り、少し苦しそうにしている表情を見ていると、普段が普段なだけに痛々しい。

 俺と2人になったタイミングでこんな事になるとは……アデリナもついていないな。クラウスやヒムニヤがいれば一瞬で治してもらえてたのに。


 そして―――

 それから数時間、冷やし、撫でて、話をし、を繰り返す。

 谷底は、かなり冷えてきた。寒い位だ。百竜の滝の夜に近い。火をくべたいとこだが、こんな狭い洞窟だと少し危ない。もう少し大きな洞窟を探せばよかったかな。


 それにしても……あいつら、遅いな。

 遅すぎだ。

 もう完全に夜、だ。
 いい加減、谷底に降りてきて探してくれていても良さそうなもんだが。

 ひょっとして、向こうは向こうで、マッツ遅いな、とか言って待ってたりして……。いやいやそんな事は無いはずだ。


「マッツにーさん…………」
「どうした?」
「あのね……実はね……」
「うん」

 続く言葉を待つが、不意にフルフルと首を小さくふり、

「マッツにーさん……ギュッてして……」
「へ!?」

 薄目を開け、二へへと笑うアデリナ。

「大丈夫か? アデリナ……」
「早く……」
「……わかった」

 そっとアデリナを抱いてやる。小さくて子供みたいだ。いや、年齢的にはまだ子供なんだが。

「ねぇ……もっと。もっとギュッてして?」
「え? あ、ああ……」

 足が動かないよう、配慮しながら、少し力を込めてやる。あまり力を入れると折れそうに思う程、腕の中のアデリナは頼りない。

「ねぇ、マッツにーさん。私ね」
「うん」
「実は今日、誕生日なんだ」

 腕枕に頭を乗せ、俺を真っ直ぐに見つめ、可愛く微笑みながら、アデリナが予想外の事を言った。


 俺の思考が止まる―――


 何だ、この突拍子も無いカミングアウトは。

 え?

 誕生日?


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 谷底に俺の声がこだまする。

「うるさい、うるさいよ、おにーさん……」
「ご……ごめ……え? 誕生日?」
「そうだよ。ついてないね」
「えぇ……」

 なんて言ったらいいんだ?
 誕生日、おめでとう?
 いや、めでたいのか? 今。

 これは難問だ。なんて言ったらいいんだ。

「でもね……マッツにーさんと2人きりになれたから……ついてるのかな」
「…………」
「ねぇ、私、何歳になった、でしょう?」
「…………じゅう……はち」
「せいかーい!」
「9月8日が私の誕生日だよ。覚えておいてね?」
「……ああ……うん」

 アデリナが18……こんな幼い見た目なのに……なんと成人してしまった。

 まあ、そりゃいつかは成人するか。

 見た目は幼いコンスタンティンも200歳だからな。いやいや、誰と比べてるんだ俺は。不意を突かれすぎて思考が乱れる事、甚だしい。

 こういう時は、思った事を素直に言おう!

「アデリナ……」
「うん」
「誕生日おめでとう!」
「ふふ! ありがとう!」

 にっこり、会心の笑みを見せてくれる。

「誕生日なのに、こんな事になって可哀想なアデリナちゃんの願い事、聞いてくれないかな~?」
「何だ? いくらでも、きいてやるぜ?」
「今日からさ、『マッツ』って呼んでいい?」

 うんうん。『にーさん』を取るって事か。

「ああ、もちろんだとも。お前も立派な仲間だ。そう呼んでくれ」
「もうひとつ」
「うん」
「誕生日のお祝いに……キスしてよ」

 ……


 ド――――――――――――ンッッッ


 フリーズ……


 アデリナもそれ以上、何も言わない。
 驚くほど整った顔でじっと俺の目を見ている。


 いや、正直、自分で言うのも何だが、俺は貞操観念は低い。自慢できるこっちゃないが……。

 ついこの前も、邪魔(リ◯ィア)が入らなければ、間違いなくヒムニヤとキスしていた。
 まあ、あれは自分が死んでいる前提だったんだが。

 だが何となく、アデリナには手を出しちゃダメな気がするんだ……。


 何故だろうか。こう、うまく表現できないが、大切にしてあげないといけないというか、何というか……。

 見た目が幼過ぎて俺が恋愛対象に見ていないのだろうか……?

 それもある、かもしれない。

 でも、年齢的には、この目の前の可愛い女の子は立派な大人の女性なのだ……今日からだが。

「アデリナ……」
「マッツ、私の事、嫌い?」

 ブンブン!!

 嫌いな訳が無い。
 一体、アデリナのどこを取って嫌いになると言うんだ。

「あはは。ごめんごめん。マッツが私の事、嫌いな訳、ないよね? じゃあ、聞き方変えるね? 私の事、『好き』じゃない?」

 ググッと返事に詰まる。
 う~ん。きっとこれだな。俺がキスしちゃいけないと思う理由は。

 もう、エルナもヒムニヤも、俺同様、貞操観念の低いリタとでさえ、俺はしないだろう。

 きっと、恋愛の『好き』じゃないからだ。仲間として大事に思ってしまったら、もう手が出せないんだ。

 おそらく、今、俺が手を出すのはただ1人……。
 仲間であり、俺が『好き』の気持ちを持っている1人だけだ。

 ……まあ、未だに手を出せないでいるが。


「まだ、出来ないなぁ」
「まだ?」
「うん。アデリナの言った『好き』が、今、俺に無い以上、出来ないよ。でも、俺も適当だからなあ~~~。明日には変わってるかもな」
「……………………ふふ」
「リタにも、リディアとアデリナには手を出していいって言われてるからな。明日、襲ったらごめんよ?」

 何とか理性を保とうと必死に頑張る俺と、切なそうな表情を浮かべるアデリナの顔との距離は頭一つ分も離れていない。

「マッツ」
「うん」

 痛みからか何なのかわからないが、目に涙をウルウルためながら、しかし、アデリナが魔竜剣技並の一撃を放つ。


「………………大好き」


 ぐっっっっっっは!!

 今、なんか、すげぇ撃ち抜かれた気がする。


 何だ? 何を撃ち抜かれたんだ?


 えええ。

 気持ちって、こんな一瞬で変わるものなの?
 何だかとてもショックだ。

 待て待て。昨日まで子供だったんだぜ?
 いくら、成人したといっても、昨日、今日で、そんな何かが変わるなんてこたぁ…………。

 しかも今さっき、出来ないって言ったばっかりだからな。2、3発、撃ち抜かれた位で……ここは男の我慢のしどころよ。


 だが、そんな痩せ我慢など、アデリナの前では何の役にも立たないものだった。

「いいんだ。リディアの事、好きだってわかってた訳だし」

 そう言って、一瞬目を伏せる。

「え? え?」

 そして俺の胸から首、口……と視線を少しずつあげてくる。


「でもなあ……誕生日なのになぁ……成人の日なのになぁ……」

 そうして、どこで覚えたのか、顔を少し斜めにし、流し目で俺を見つめる。


 う……うぐ……


「こんなに…………」

 ふ……ふあ……


「近いのに……なぁ……」


 ドォォォォォォォォォン!!


 あ、ごめん。無理っす。耐えられないっす。

 アデリナをグイッと引き寄せる。
 小さく微笑みながら、目を閉じて俺を待つアデリナ。とても可愛い。

 ムリムリムリムリ!

 いただきます!

「アデリ……」


「そこまでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 はぅわっっ!! この声はっっ!!

 リディア!!
 びっくりしてはね起きる。

 入り口を見ると……あわわわわ……

 先頭にリディア、その後ろにリタとヒムニヤ、一番奥にエルナ。

 女子達が……勢揃い……している……。
 サ―――ッと血の気が引いていくのがわかる。

「残念……。アデリナ、タイムリミットだわ」

 リタが俯いて首を振り、心底、残念そうに言う。
 リディアは肩でハァハァと大きく息をし、目を釣り上がらせている。
 ヒムニヤは何やらニヤニヤしており、エルナは手で顔を隠しつつも、指と指の隙間から覗いていた。


 え?


 また?


 リディア、ヒムニヤに続き、アデリナまで……。
 3回目のチャンスも空振り?


 そんなぁぁぁぁ……。


「とっくに日付変わってるわよ! アデリナ! お誕生日プレゼントは終わりっっ!」

 リディアがまくしたてる。

 え? 誕生日プレゼント?


 ふとアデリナを見ると、物凄く残念そうにしていた。

「あ~~~あ……終わっちゃったか~。もうちょっとだったのになぁ……」
「相変わらずマッツがグズグズしてるからね。可哀想なアデリナ」

 リタが容赦なく罵声を浴びせてくる。

「ほんとだよ! すぐにしてくれたらよかったのに! 折角、事前に傾向と対策をたてて、私からグイグイ行ったのにぃ!!」

 腕の中のアデリナが、口を尖らせる。
 ちょっと何が起こっているのかわからないんだが。

「てゆーか、いつまで抱き合ってるのよ! 起きなさい! 2人とも!」

 リディアの顔が怖い。

 一旦、アデリナと離れるが、

「……はっ! いや、ダメだ。アデリナの足は……」
「マッツ。痛み止めだ。これを患部に貼ってやれ。アデリナ、この薬を飲め」

 ポーションと湿布を取り出してヒムニヤが言う。
 なんだよ、超人とか言って結構、俗人的だな。

 言う通りにすると、アデリナはかなり楽になったようだ。

「……で、誕生日プレゼントって何なんだ?」
「お察しお察し! さ、上がるわよ!」

 言いながら先導するリタに続いて、俺達はロープを登り(俺はアデリナを背負って)、元いた場所まで戻ったのだった。


 何だかよくわからないが……

 俺は心に誓う。



 次のキスチャンスは……絶対、逃さない、と―――


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...