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第2章 超人ヒムニヤ
アデリナのターン(2)
しおりを挟む「そんな事言うんなら、這ってでも付いて行くから」
は……何言ってんだ?
さっさとヒムニヤやクラウスと合流した方が楽になるのに……。
滅多にない怪我をして弱気になってるのか。
「マッツ……」
「わかったわかった。側にいるから安心してじっとしてろ」
「うん!」
全く、こんなアデリナは珍しい。いや、初めてだ。いつも元気一杯、ケタケタ笑っている笑顔しか浮かばない。
俺もアデリナの隣で横になり、手櫛でボサボサになった髪の毛を直してやる。少し恥ずかしそうに微笑むアデリナ。
ふと、その反対の手が熱くなる。……見るとアデリナが俺の手を握っている。
ギュッと握り返してやる。
「大丈夫だ、アデリナ」
「うん……」
目を瞑り、少し苦しそうにしている表情を見ていると、普段が普段なだけに痛々しい。
俺と2人になったタイミングでこんな事になるとは……アデリナもついていないな。クラウスやヒムニヤがいれば一瞬で治してもらえてたのに。
そして―――
それから数時間、冷やし、撫でて、話をし、を繰り返す。
谷底は、かなり冷えてきた。寒い位だ。百竜の滝の夜に近い。火をくべたいとこだが、こんな狭い洞窟だと少し危ない。もう少し大きな洞窟を探せばよかったかな。
それにしても……あいつら、遅いな。
遅すぎだ。
もう完全に夜、だ。
いい加減、谷底に降りてきて探してくれていても良さそうなもんだが。
ひょっとして、向こうは向こうで、マッツ遅いな、とか言って待ってたりして……。いやいやそんな事は無いはずだ。
「マッツにーさん…………」
「どうした?」
「あのね……実はね……」
「うん」
続く言葉を待つが、不意にフルフルと首を小さくふり、
「マッツにーさん……ギュッてして……」
「へ!?」
薄目を開け、二へへと笑うアデリナ。
「大丈夫か? アデリナ……」
「早く……」
「……わかった」
そっとアデリナを抱いてやる。小さくて子供みたいだ。いや、年齢的にはまだ子供なんだが。
「ねぇ……もっと。もっとギュッてして?」
「え? あ、ああ……」
足が動かないよう、配慮しながら、少し力を込めてやる。あまり力を入れると折れそうに思う程、腕の中のアデリナは頼りない。
「ねぇ、マッツにーさん。私ね」
「うん」
「実は今日、誕生日なんだ」
腕枕に頭を乗せ、俺を真っ直ぐに見つめ、可愛く微笑みながら、アデリナが予想外の事を言った。
俺の思考が止まる―――
何だ、この突拍子も無いカミングアウトは。
え?
誕生日?
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
谷底に俺の声がこだまする。
「うるさい、うるさいよ、おにーさん……」
「ご……ごめ……え? 誕生日?」
「そうだよ。ついてないね」
「えぇ……」
なんて言ったらいいんだ?
誕生日、おめでとう?
いや、めでたいのか? 今。
これは難問だ。なんて言ったらいいんだ。
「でもね……マッツにーさんと2人きりになれたから……ついてるのかな」
「…………」
「ねぇ、私、何歳になった、でしょう?」
「…………じゅう……はち」
「せいかーい!」
「9月8日が私の誕生日だよ。覚えておいてね?」
「……ああ……うん」
アデリナが18……こんな幼い見た目なのに……なんと成人してしまった。
まあ、そりゃいつかは成人するか。
見た目は幼いコンスタンティンも200歳だからな。いやいや、誰と比べてるんだ俺は。不意を突かれすぎて思考が乱れる事、甚だしい。
こういう時は、思った事を素直に言おう!
「アデリナ……」
「うん」
「誕生日おめでとう!」
「ふふ! ありがとう!」
にっこり、会心の笑みを見せてくれる。
「誕生日なのに、こんな事になって可哀想なアデリナちゃんの願い事、聞いてくれないかな~?」
「何だ? いくらでも、きいてやるぜ?」
「今日からさ、『マッツ』って呼んでいい?」
うんうん。『にーさん』を取るって事か。
「ああ、もちろんだとも。お前も立派な仲間だ。そう呼んでくれ」
「もうひとつ」
「うん」
「誕生日のお祝いに……キスしてよ」
……
ド――――――――――――ンッッッ
フリーズ……
アデリナもそれ以上、何も言わない。
驚くほど整った顔でじっと俺の目を見ている。
いや、正直、自分で言うのも何だが、俺は貞操観念は低い。自慢できるこっちゃないが……。
ついこの前も、邪魔(リ◯ィア)が入らなければ、間違いなくヒムニヤとキスしていた。
まあ、あれは自分が死んでいる前提だったんだが。
だが何となく、アデリナには手を出しちゃダメな気がするんだ……。
何故だろうか。こう、うまく表現できないが、大切にしてあげないといけないというか、何というか……。
見た目が幼過ぎて俺が恋愛対象に見ていないのだろうか……?
それもある、かもしれない。
でも、年齢的には、この目の前の可愛い女の子は立派な大人の女性なのだ……今日からだが。
「アデリナ……」
「マッツ、私の事、嫌い?」
ブンブン!!
嫌いな訳が無い。
一体、アデリナのどこを取って嫌いになると言うんだ。
「あはは。ごめんごめん。マッツが私の事、嫌いな訳、ないよね? じゃあ、聞き方変えるね? 私の事、『好き』じゃない?」
ググッと返事に詰まる。
う~ん。きっとこれだな。俺がキスしちゃいけないと思う理由は。
もう、エルナもヒムニヤも、俺同様、貞操観念の低いリタとでさえ、俺はしないだろう。
きっと、恋愛の『好き』じゃないからだ。仲間として大事に思ってしまったら、もう手が出せないんだ。
おそらく、今、俺が手を出すのはただ1人……。
仲間であり、俺が『好き』の気持ちを持っている1人だけだ。
……まあ、未だに手を出せないでいるが。
「まだ、出来ないなぁ」
「まだ?」
「うん。アデリナの言った『好き』が、今、俺に無い以上、出来ないよ。でも、俺も適当だからなあ~~~。明日には変わってるかもな」
「……………………ふふ」
「リタにも、リディアとアデリナには手を出していいって言われてるからな。明日、襲ったらごめんよ?」
何とか理性を保とうと必死に頑張る俺と、切なそうな表情を浮かべるアデリナの顔との距離は頭一つ分も離れていない。
「マッツ」
「うん」
痛みからか何なのかわからないが、目に涙をウルウルためながら、しかし、アデリナが魔竜剣技並の一撃を放つ。
「………………大好き」
ぐっっっっっっは!!
今、なんか、すげぇ撃ち抜かれた気がする。
何だ? 何を撃ち抜かれたんだ?
えええ。
気持ちって、こんな一瞬で変わるものなの?
何だかとてもショックだ。
待て待て。昨日まで子供だったんだぜ?
いくら、成人したといっても、昨日、今日で、そんな何かが変わるなんてこたぁ…………。
しかも今さっき、出来ないって言ったばっかりだからな。2、3発、撃ち抜かれた位で……ここは男の我慢のしどころよ。
だが、そんな痩せ我慢など、アデリナの前では何の役にも立たないものだった。
「いいんだ。リディアの事、好きだってわかってた訳だし」
そう言って、一瞬目を伏せる。
「え? え?」
そして俺の胸から首、口……と視線を少しずつあげてくる。
「でもなあ……誕生日なのになぁ……成人の日なのになぁ……」
そうして、どこで覚えたのか、顔を少し斜めにし、流し目で俺を見つめる。
う……うぐ……
「こんなに…………」
ふ……ふあ……
「近いのに……なぁ……」
ドォォォォォォォォォン!!
あ、ごめん。無理っす。耐えられないっす。
アデリナをグイッと引き寄せる。
小さく微笑みながら、目を閉じて俺を待つアデリナ。とても可愛い。
ムリムリムリムリ!
いただきます!
「アデリ……」
「そこまでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
はぅわっっ!! この声はっっ!!
リディア!!
びっくりしてはね起きる。
入り口を見ると……あわわわわ……
先頭にリディア、その後ろにリタとヒムニヤ、一番奥にエルナ。
女子達が……勢揃い……している……。
サ―――ッと血の気が引いていくのがわかる。
「残念……。アデリナ、タイムリミットだわ」
リタが俯いて首を振り、心底、残念そうに言う。
リディアは肩でハァハァと大きく息をし、目を釣り上がらせている。
ヒムニヤは何やらニヤニヤしており、エルナは手で顔を隠しつつも、指と指の隙間から覗いていた。
え?
また?
リディア、ヒムニヤに続き、アデリナまで……。
3回目のチャンスも空振り?
そんなぁぁぁぁ……。
「とっくに日付変わってるわよ! アデリナ! お誕生日プレゼントは終わりっっ!」
リディアがまくしたてる。
え? 誕生日プレゼント?
ふとアデリナを見ると、物凄く残念そうにしていた。
「あ~~~あ……終わっちゃったか~。もうちょっとだったのになぁ……」
「相変わらずマッツがグズグズしてるからね。可哀想なアデリナ」
リタが容赦なく罵声を浴びせてくる。
「ほんとだよ! すぐにしてくれたらよかったのに! 折角、事前に傾向と対策をたてて、私からグイグイ行ったのにぃ!!」
腕の中のアデリナが、口を尖らせる。
ちょっと何が起こっているのかわからないんだが。
「てゆーか、いつまで抱き合ってるのよ! 起きなさい! 2人とも!」
リディアの顔が怖い。
一旦、アデリナと離れるが、
「……はっ! いや、ダメだ。アデリナの足は……」
「マッツ。痛み止めだ。これを患部に貼ってやれ。アデリナ、この薬を飲め」
ポーションと湿布を取り出してヒムニヤが言う。
なんだよ、超人とか言って結構、俗人的だな。
言う通りにすると、アデリナはかなり楽になったようだ。
「……で、誕生日プレゼントって何なんだ?」
「お察しお察し! さ、上がるわよ!」
言いながら先導するリタに続いて、俺達はロープを登り(俺はアデリナを背負って)、元いた場所まで戻ったのだった。
何だかよくわからないが……
俺は心に誓う。
次のキスチャンスは……絶対、逃さない、と―――
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