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第2章 超人ヒムニヤ
慈愛の女神 ツィ(3)
しおりを挟む(『冥府鳴動』)
リッチの声が、頭に直接響いてくる。
その瞬間、古竜の大森林だったその場所がなくなり、七色のオーロラだけが揺れ動く、奇妙な世界に変化する。
グゴゴゴゴ……
地面が見えないのに地鳴りのような音がどの方向からというでもなく、小さく低く聞こえる。
「何……だ! どこだ……ここは……!?」
立っている感覚が無い。水中にいるようだ。
だが、体に何も触れていない。水も、空気ですらも。呼吸が出来ない訳ではないが、色だけが支配する世界……。
「マッツ! どこ!?」
アデリナの声だ。
俺の下から聞こえる。声がする方を見ると不安そうに辺りを見回すアデリナが見えた。
アデリナもここにいるんだ。まずは無事でよかった。
「アデリナ!」
「!! マッツ! どこなの?」
俺の方を向いているのだが、どうやら彼女から俺の事が見えないようだ。
「アデリナ! 俺が見えないのか……くそっ! 何だここは!」
「マッツ! 私もアデリナもこの妙な景色以外、何も見えません。どうやらここは私達が知っている世界とは違うようです。貴方も視えないですよね?」
今度はエルナの声だ。
エルナは俺の頭の遥か上にいる。……が、そもそもここには上とか下とか、そんな次元が存在しているかすら疑わしい。
エルナも俺が見えないのか。何故だ?
俺からは皆が見えるのに……。
貴方も……視えないですよね?
強調した。確かに。
そして、物凄く違和感のある言葉。
ピシュン!!
「グアッッ!!」
肩口を貫かれた!
ピンク色の閃光が走ったかと思った瞬間だった。
「マッツ!」
「どうしたの!? 大丈夫?」
射抜かれた肩口を押さえ、周りを見渡すがどこにも怪しいものはない。いや、怪しいと言えばこの世界自体がそうなのだが。
くそ! 一体、どこからの攻撃だ?
ピシュン! ピシュンッ!!
「うああっっ!!」
「マッツ!」
「マッツ……!」
太ももと脇腹をやられた。ダメだ、見えない。
攻撃方向が全てバラバラだ。
「クソったれめ……! リッチィィィ!!」
「『偉大なる盾』!!」
魔法のシールド……?
エルナか!
『対象が見えなくてもかける事』が出来るのか。
虹色のオーロラがずっとユラユラとしており、体は無重力にフラフラとしており、気分悪い事この上ない。俺の体の、穴の空いた箇所からは煙のようなものが噴き出している。
なんだ? ひょっとして、これは生身じゃないって事か?
そもそも何故、俺からだけ二人が見えるのか。
皆に見えないものが視える……
そうか! 『神視』か!!
そして……そこに気付くと、わかる。
俺の背後だ。
ヤツがいる。いるぞ。
殺人級の敵意も感知。
『対象が見えなくてもかける事が出来る』か……。
ここでは相手が見えなくてもいると認識できれば干渉することがができるって事だ。
そして……俺だけに備わる『神視』。
なるほどな。
剣の柄を頭上に、剣先を足先に向け、唇が微かに動く程の小さな声で詠唱を始める。
不死者め……。俺を穴だらけにしやがって……きっちり、成仏させてやる……!
そして―――
背筋が凍りつくほどの敵意感知、気配が視えた!
(『闇の七獄』)
瞬間、気配の方へ振り返る。
いた! リッチ!!
フードに覆われ、表情ははっきりとは見えないが、こいつの意表を突いたのが感覚でわかる。さっきと同じ紫のローブを纏い、同じ瘴気を放つ魔術師。心なしか、さっきのような骸骨ではなく、どちらかというと人間の姿ように見える。
ヤツの体から闇属性の7つのエネルギー波が放たれようとする瞬間!!
魔剣シュタークスを一閃!!
「魔竜剣技!!」
瞬時に現れる8つの光弾。
「この赤い眼からは逃げられねえぜ!」
(ウオ……ウォォォォ……!!)
「あの世まで吹き飛べ!! 『魔皇』!!!!」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!
7本の暗黒エネルギーを、8つの光弾がビーム砲となり、破壊。
驚愕の表情が光で露わになる。
残る1つの光弾は、かつて超高位の魔術師であったであろう、その亡霊を直撃し、そして、粉砕した。
―
ふと気がつくと元いた森に帰っていた。
俺の体に空いていた穴も無い。
夢?
いやいや。そんな訳はない。
あの世界に連れて行かれる前、ここで倒した髑髏の姿は仮の姿ってとこか。道理で手応えがなかった筈だ。
あの霊のような体はあの世界と現実の世界とを結ぶ媒体、通信手段か。
その通信手段が途絶えそうになった為、ヤツは俺達の魂的な何かをあの世界に引きずり込んだ。
リッチの実体は……あの世界にいた。
あの世界はヤツの世界。
『神視』と『敵意感知』を持つ俺だけがヤツを確実に捉える事が出来る。それをリッチに悟らせない為にエルナは言葉を選んだんだ。
「ふぅ……よかった。流石です。マッツ」
エルナは本当に凄い。
いつか、ビルマーク王が絶対に戦力になる、と言っていたのが実感としてわかる。俺一人で戦っていたら、そもそも戦闘序盤の、あの強烈な水の槍でとっくにやられていた筈だ。
「いや、礼を言うのは俺の方だ。君無しでは到底敵う相手ではなかったよ。ヒムニヤの言う通りだったな。アデリナもありがとう。ヤツの気配は消え去った。もう大丈夫だ」
エルナが少し首を傾げてニコリと微笑む。
「良かった! 皆、無事で……」
……みんな……?
!!
「他の皆は!? 急いで合流しよう!」
「了解!」
「ええ。急ぎましょう!」
そして―――
この後、俺達は、俺達が知る戦いとは全く次元の違うそれ、を目撃する事になる。
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