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第2章 超人ヒムニヤ
慈愛の女神 ツィ(2)
しおりを挟む不死の王『リッチ』。
凄まじい瘴気、腐敗の匂いを撒き散らす。そして、その瘴気によって、また幽霊、死霊など下級の不死者が大量に涌いてくる。
「これが……リッチ……!」
見るだけで恐怖が湧く。
髑髏の顔、体は薄ぼんやりとしてはっきりと見えず、紫のローブも下半分は透き通っている。手には大きな鎌を持つ。
全身を包む瘴気と、魔力の渦が、生前、尋常では無い力を持った魔法使いであった事を示している。
「アデリナ! 幽霊と死霊を頼む!」
「オッケー!!」
同時に複数本の矢をつがえ、アデリナが戦闘態勢に入る。そして厳しい表情のままのエルナが俺に顔を向ける。
「マッツ、あのリッチは恐らく最上位に位置するリッチ。魔力が半端ではありません。気をつけて!」
「了解ッ!」
わかってるさ。
対峙するだけで、これほどのプレッシャーは、そうは無い。
(レイ・ティクル・マーマー・ソゥラ・エイス・エージェルス……)
リッチが口を動かさずに、詠唱を始める。む……どこかで聞いたことのあるスペル……あれか!
「アデリナ! エルナ! 氷が飛んでくる! 逃げろ!!」
(『氷の槍』)
キュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイィィィィィィン……
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
効果範囲内の木々が裂け、砕かれ、凍りつく。
かつてエッカルトが放ち、テオを貫いた氷の魔法。だが威力と数が桁違いだ。
「術者によってこれだけ違うものになるのか……」
思わず独り言を呟く。
(セン・ヤ・シリ・ライ・ヤ……)
これ以上、唱えられてたまるか!
「浄化されて天に帰れ! 聖竜剣技!『突』!!」
剣技『突』の聖属性版だ。
ズッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
リッチの体に穴が空く。
だが……それだけだ。手応えも殆ど感じられない。
(レイ・ティクル・マーマー……)
何事も無かったかのように詠唱を続けるリッチ。
くそっ!!
だが、そこにエルナの攻撃が加わる!
「燃やし尽くせ!『火妖精』!!」
シュンシュンシュンシュンシュン……
周囲に小さな火妖精が発現し、一斉にリッチに飛びかかる。
身体に取り憑き、炎上効果をもたらす。
(グキェキェキェ……)
む、効いたか?
そうか、不死者には、聖属性と並んで火の効果が高い。思ったほど聖竜剣技が効かないのは、対聖属性のバリアを纏っているのかもしれない。
(ツェイツェイ・ミィリーター・ニャ……)
待て、まだ唱えるのか……。
ゾクリ、と恐怖が走る。
(『水竜の息』)
森の上に水竜が発現する。エッカルトが唱えたやつと同じ。思念体のような感じのやつだ。
津波イメージが来る!
「火竜剣技!『爆』!!」
津波にポイントして相殺させる。爆破で相殺できるのはエッカルトの時に実証済み、だったはずだが……相殺、出来ない!
あっさり『爆』が弾け、津波を食らってしまう。
ドォォォゥゥゥゥゥゥゥゥゥシャァァァァァァ!!!
十数メートル、後方へ吹き飛ばされる。
お……おお……こりゃあ強烈だ……。
(『水神の極撃』)
なんだ、なんだ……。
俺の目の前の空間に、まるで鏡のように、縦の水たまり、が発生する……。本能的にヤバい、と感じる。
「地竜剣技!『岩砕』!」
「ダメです、マッツ! 避けなさい!!」
エルナの悲鳴が耳に入り、躊躇せず横の茂みに跳ぶ。
(『雷神の極撃』)
グググ……
跳んだ先、頭上で小さな音がし、恐る恐る、見上げる。
数メートル上方、いつの間にか、闇の中に、所々、稲光る小さな雷雲が出来ている。
げ…………やめろ……。
野郎! 何手も先を読んでやがった!
パンッッッ!
バッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!
何かが弾けて迸るこの音は雷雲からではない。
さっき空間に現れた、縦の水溜りだ。
あれが弾け、空間から直径5、60センチほどの水流が横方向、さっきまで俺が居た場所へ、槍のように噴き出す。
凄まじい水圧は『岩砕』をいともあっさり叩き潰し、百メートル以上の『水の槍』を形成する。
どんな水圧で放水したら、あんな事になるんだ? 食らってたら、ひとたまりもなかった筈だ。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……
間髪入れず、頭上の雷雲から落雷が来るッッッ!
「『瞬時魔法無効』!!!」
ピッシャアァァァッッッ!!!
ドンドンドンドンドン!!
落雷の嵐!
だが、エルナのお陰で数秒は無敵だ。なら! 今はむしろチャンスか!
「火竜剣技!!」
狙いはヤツの首……。
エルナによる聖属性追加ダメージプラス、火属性プラス、物理斬撃を最大の魔力と膂力で放つ!!!
「くらえぇぇぇああ!! 『一』!!!」
ズッシャァァァァァァ!!!
ドン! ズドドドドドドドドドドドドド!!!
リッチの首を切断、切り離された頭部は追加の火と聖属性ダメージにより、破壊、煙と化す。
なのに、何だ?
まだ存在し、そして、動く。
何なんだこいつは。
「『聖火豪弓』!!」
バッシュゥゥゥゥ!
ズドドドドドドドドド!!
槍ほどもある大きさの魔法の弓矢が集合し、大砲となり、リッチの残骸を粉々に砕く!!
『豪弓』の上位スペルであり、破壊力が段違いだ。
「マッツ! 油断禁物! まだ死んでいません!!」
何だって……?
いや……確かに、瘴気も気配も消えていない。
……ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴ……
地の奥底から振動音が聞こえる。
……ゴゴ……
……
そして不意に大音量で頭に鳴り響く声!!
(『冥府鳴動』)
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