神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

文字の大きさ
59 / 204
第2章 超人ヒムニヤ

慈愛の女神 ツィ(2)

しおりを挟む

 不死の王『リッチ』。


 凄まじい瘴気、腐敗の匂いを撒き散らす。そして、その瘴気によって、また幽霊ゴースト死霊レイスなど下級の不死者アンデッドが大量に涌いてくる。

「これが……リッチ……!」

 見るだけで恐怖が湧く。

 髑髏の顔、体は薄ぼんやりとしてはっきりと見えず、紫のローブも下半分は透き通っている。手には大きな鎌を持つ。

 全身を包む瘴気と、魔力の渦が、生前、尋常では無い力を持った魔法使いであった事を示している。

「アデリナ! 幽霊ゴースト死霊レイスを頼む!」
「オッケー!!」

 同時に複数本の矢をつがえ、アデリナが戦闘態勢に入る。そして厳しい表情のままのエルナが俺に顔を向ける。

「マッツ、あのリッチは恐らく最上位に位置するリッチ。魔力が半端ではありません。気をつけて!」
「了解ッ!」

 わかってるさ。

 対峙するだけで、これほどのプレッシャーは、そうは無い。

(レイ・ティクル・マーマー・ソゥラ・エイス・エージェルス……)

 リッチが口を動かさずに、詠唱を始める。む……どこかで聞いたことのあるスペル……あれか!

「アデリナ! エルナ! 氷が飛んでくる! 逃げろ!!」

(『氷の槍エイスピィア』)

 キュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイィィィィィィン……

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!

 効果範囲内の木々が裂け、砕かれ、凍りつく。

 かつてエッカルトが放ち、テオを貫いた氷の魔法。だが威力と数が桁違いだ。

「術者によってこれだけ違うものになるのか……」

 思わず独り言を呟く。

(セン・ヤ・シリ・ライ・ヤ……)

 これ以上、唱えられてたまるか!

「浄化されて天に帰れ! 聖竜剣技サインドラフシェアーツ!『シューヴ』!!」

 剣技『突』の聖属性版だ。

 ズッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 リッチの体に穴が空く。
 だが……それだけだ。手応えも殆ど感じられない。

(レイ・ティクル・マーマー……)

 何事も無かったかのように詠唱を続けるリッチ。
 くそっ!!
 だが、そこにエルナの攻撃が加わる!

「燃やし尽くせ!『火妖精サラマンデル』!!」

 シュンシュンシュンシュンシュン……

 周囲に小さな火妖精が発現し、一斉にリッチに飛びかかる。
 身体に取り憑き、炎上効果をもたらす。

(グキェキェキェ……)

 む、効いたか?

 そうか、不死者アンデッドには、聖属性と並んで火の効果が高い。思ったほど聖竜剣技が効かないのは、対聖属性のバリアを纏っているのかもしれない。

(ツェイツェイ・ミィリーター・ニャ……)

 待て、まだ唱えるのか……。
 ゾクリ、と恐怖が走る。

(『水竜の息ワズドラフアーティム』)

 森の上に水竜が発現する。エッカルトが唱えたやつと同じ。思念体のような感じのやつだ。

 津波イメージが来る!

火竜剣技フラムドラフシェアーツ!『アネヴォム』!!」

 津波にポイントして相殺させる。爆破で相殺できるのはエッカルトの時に実証済み、だったはずだが……相殺、出来ない!

 あっさり『爆』が弾け、津波を食らってしまう。

 ドォォォゥゥゥゥゥゥゥゥゥシャァァァァァァ!!!

 十数メートル、後方へ吹き飛ばされる。

 お……おお……こりゃあ強烈だ……。


(『水神の極撃ワズガットパール』)

 なんだ、なんだ……。

 俺の目の前の空間に、まるで鏡のように、、が発生する……。本能的にヤバい、と感じる。

地竜剣技エアドラフシェアーツ!『岩砕フェルセヴェルグナ』!」
「ダメです、マッツ! 避けなさい!!」

 エルナの悲鳴が耳に入り、躊躇せず横の茂みに跳ぶ。


(『雷神の極撃シュラガットパール』)

 グググ……

 跳んだ先、頭上で小さな音がし、恐る恐る、見上げる。

 数メートル上方、いつの間にか、闇の中に、所々、稲光る小さな雷雲が出来ている。

 げ…………やめろ……。
 野郎! 何手も先を読んでやがった!

 パンッッッ!

 バッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 何かが弾けて迸るこの音は雷雲からではない。
 さっき空間に現れた、縦の水溜りだ。
 あれが弾け、空間から直径5、60センチほどの水流が横方向、さっきまで俺が居た場所へ、槍のように噴き出す。

 凄まじい水圧は『岩砕』をいともあっさり叩き潰し、百メートル以上の『水の槍』を形成する。

 どんな水圧で放水したら、あんな事になるんだ? 食らってたら、ひとたまりもなかった筈だ。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……


 間髪入れず、頭上の雷雲から落雷が来るッッッ!

「『瞬時魔法無効オゥゲン・ディ・マギィ』!!!」


 ピッシャアァァァッッッ!!!

 ドンドンドンドンドン!!

 落雷の嵐!


 だが、エルナのお陰で数秒は無敵だ。なら! 今はむしろチャンスか!

火竜剣技フラムドラフシェアーツ!!」

 狙いはヤツの首……。

 エルナによる聖属性追加ダメージプラス、火属性プラス、物理斬撃を最大の魔力と膂力で放つ!!!


「くらえぇぇぇああ!! 『ファルサーテ』!!!」

 ズッシャァァァァァァ!!!

 ドン! ズドドドドドドドドドドドドド!!!

 リッチの首を切断、切り離された頭部は追加の火と聖属性ダメージにより、破壊、煙と化す。


 なのに、何だ?

 まだ存在し、そして、動く。

 何なんだこいつは。



「『聖火豪弓ハイフラム・スタッレヴォーグン』!!」

 バッシュゥゥゥゥ!

 ズドドドドドドドドド!!

 槍ほどもある大きさの魔法の弓矢が集合し、大砲となり、リッチの残骸を粉々に砕く!!

『豪弓』の上位スペルであり、破壊力が段違いだ。


「マッツ! 油断禁物! まだ死んでいません!!」

 何だって……?
 いや……確かに、瘴気も気配も消えていない。

 ……ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴ……

 地の奥底から振動音が聞こえる。


 ……ゴゴ……

 ……

 そして不意に大音量で頭に鳴り響く声!!



(『冥府鳴動アンダーヴェルツ・クリンガン』)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...