神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜

南祥太郎

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第3章 英雄

二人の領主(1)

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 満室のため、俺達が借りた部屋は大部屋一室だった。だが俺達はあまり気にしない。むしろ人数分の広いフカフカのベッドがあり、昨日の酒場での成功も手伝って、皆、例外無く熟睡した。
 正直、居心地良すぎて困る位だ。旅立つのが嫌になる。

 更に、この宿には食堂があって、簡単な朝食を頂けるとの事だ。朝練を終えた俺達は、喜んで食堂に向かう。

 テーブルの上にパンや肉、魚料理がズラッと並んでおり、近くには皿が山と積んである。バイキングと言うのよ、とエルナが教えてくれる。俺達には珍しいもので、結局、エルナに取り方やマナーなどを教わる事になる。


「いっただっきまーす!」

 ガツガツガツガツ……

 皆、無言で食い始める。
 無くなったら取りに行く。食う。
 何ていいシステムなんだ。帰ったらランディアに広めよう。

 時間が流れるにつれ、皿の山が築かれていくが、食堂にも人が配置されていて、ヒョイヒョイと片付けていってくれる。

 もう食えん、というところで朝食終了。

「食った。めっちゃ食った。美味かった! やばいな、ここ。しばらく移動せずに留まろうか」

 冗談でそんな事を言ったのだが、

「本当ね! 一週間位ならいいんじゃない?」
「食べるものも私達には珍しいです。是非是非!」

 リディアとクラウスの意見だ。

「まあ、ここまで来たらさほど急ぐ旅でもありませんし……マッツがそれで良いと言うなら」
「むしろ、厨房に入れて欲しい! 作り方見たい! ちょっとの間だけ、ここでバイトしてもいい?」

 エルナとアデリナの意見だ。

「私も何日でもいれるわね」
「俺も何日でもいれるぜ」
「好きにしろ」

 ヘンリック、リタ、そしてヒムニヤの意見だ。


「うぉい! 誰も止めてくれないのかよ! リーダーが間違えてたら、みんなで訂正してくれよ!!」
「え? 間違った事言ってたの?」
「わかりにくいですね……」

 ぐぬぬ……。

 なんて奴らだ。
 もはや旅の目的とか忘れてんじゃないのか。


「オーウェン様! マッツ・オーウェン様、こちらにおられますか?」


 不意に食堂の入り口から、大声で俺を呼ぶ声が聞こえる。見ると、昨日とは違う、また別の従業員さんだ。

「何かしたの?」
「はて。心当たりないけどな」

 言いながら席を立ち、その従業員さんに、俺だけど、と告げる。

「よかった。オーウェン様をお探しの方がおられます」

 昨日のヴォルドヴァルドの使い、シャムが頭に浮かぶ。何だろう、何か言い忘れたことでも?
 ヒムニヤを呼んだ方がいいだろうか。

「一応聞くけど、誰?」
「驚いてはいけませんよ? なんと、バルジャミン領主ゴビン様からの使者の方々です!」

 嬉しそうに報告してくれる従業員さん。
 待てよ……領主ってことは……

「マッツ様は異国の方なので知らないかもしれませんが、領主と言うのは、かつての王の直系の血筋に当たる方です。その方から使者が来るなんて、凄い事ですよ!?」

 だよね。

 そして用件はきっと竜退治のことだろうな。しかし、俺がここにいる事を知られるのが早すぎる気もする。

「じゃあ、顔見せも兼ねて今回は全員で行こうか。従業員さん、案内してもらえるかな」
「承知致しました。こちらです」

 また1階のフロント奥の個室に通される。昨日の部屋の1つ横、会議室のような大きい部屋だ。

 案内してくれた従業員さんが、丁寧にノックをする。

 コンコン

「失礼します。マッツ・オーウェン様と御一行様をお連れ致しました」
「お通し下さい」

 ガチャ……


 部屋の中では2人の中年の男性が椅子から立ち上がる所だった。

 2人とも体格の良い、見るからに武人の身なりをしている。片方は顎髭を蓄え、渋い感じのオジさん、もう片方は綺麗に髭を剃り、目の細いオジさんだ。

 平和なこの街には似つかわしくない、白銀のチェインメイルを着込んでおり、鎧のスカートになっている部分からダボダボの厚手の生地のズボンが覗き、革製のブーツを履いている。
 何故、こんな戦闘態勢のいでたちを? と疑問が湧く。

「初めまして。朝からバタバタとすみません。領主ゴビンより命ぜられて参りました。私、マジュムル・グプタと申します。こちらは、エイゼル・バット」

 渋い方のオジさんがマジュムル、目の細い方がエイゼルというらしい。

 この2人……。
 感覚的にだが、見覚えがある。いや、気配を見知っている、とでも言おうか。

 どこかで会っただろうか……?

「どうも。ランディア王国守備隊長のマッツ・オーウェンです。こちらは私の旅の仲間。左からリタ、クラウス、マリ、ヘンリック、リディア、アデリナ、そしてエルナです」
「お会いできて光栄です。剣聖シェルド・ハイ、マッツ・オーウェン殿」

 汗を拭きながらエイゼルと紹介された細い目の男が言う。この涼しい季節に……まあ、そんな格好してここまで来たんならそうなるよな。

 どうぞ、と掌で椅子に座るよう促される。

「はい、では」

 テーブルを挟んで横にズラッと並ぶ。

「では、早速ですが……」

 マジュムルは懐から手紙を取り出し、俺に渡す。

「そこにも書いてありますが……我らが主人、バルジャミン領主ゴビンがマッツ・オーウェン殿に非常に興味を持たれております」
「その前に……」

 不意にヒムニヤが話を遮る。

「1つ、はっきりしておこうか」

 マジュムルとエイゼルがポカンとして、『マリ』を見つめる。

「は……何でしょう?」


「今、『初めまして』と言ったが……お前達と私達は、既に一度会っているな?」

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